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 次の日、放課後。



 カフェに行く前に訓練場に向かう。

 一番所在を確認するのが楽なのは、彼だ。

 もしかしたら、1人に接触したら他も自由になるシステムかも知れないし。


 相変わらずご令嬢がいらっしゃるし、ちょっと黄色い声が飛んでいることから、本人を確認する前から、あぁ、今日も居るな……と思った。


 剣を振るシルヴァンの姿を確認して、すぐに訓練場を後にする。



 個別じゃなきゃ、ダメだったか、ヒロインじゃなきゃダメなのか。

 でも、どっちにしろこんな中、何をしたって目立つ。



 シルヴァンの場合は“何もしない”が正解なんだけど。


 こんなに観客のいる中、シルヴァンから(```````)見える位置で(``````)、魔法の練習をしてそのまま帰るって、十分目立つ。



 くるくると考えながらカフェに着く。

 そう言えば時間までは言わなかったなぁと、反省する。



 昨日、彼と話したところからカフェを見る。


 ユリシリルはいない。


 その代わりに、カフェの前に昨日の子が居る。


 あら、早い。

 訓練場に行った分、待たせてしまったな。きっと。



 慌ててカフェに向かえば、気付いたその子が嬉しそうに声をかけてくる。


「昨日の!」


 うん、可愛い。

 めっちゃ可愛い。

 将来が有望すぎる。

 むしろ、なんで攻略キャラじゃないんだろうってくらい顔が良い。

 まぁ、この学園美形が多いんだけどね。


「昨日はありがとうございました!」


 何でか深々と頭を下げられる。さすがに下級生とは言え相手の家格も分からないのにそんなこと、されればあ焦る。いや、相手が例え貴族じゃなくても困る。


「いえ、あのっ、頭を上げてください!困りますっ」

「ふふっ。大丈夫ですよ。僕は所詮、田舎の男爵家の子ですから。しかも四男ともなれば、身分はあって無いようなものです」


 頭を上げて微笑みながら説明するが、だからそういうことじゃないと慌てる。人に頭を下げさせる趣味は無いし、される覚えもないのだ。むしろ、こちらが『ありがとう』と頭を下げるべきなのに。


「いえ、そういうことではなく!困りますので……!それに、お礼を言うのはこちらです。変なお願いを聞いてくださり、心より感謝致します」


 慌てて膝を軽く折り、淑女の礼をとる。

 出来れば家名を名乗りたくなかったが、先に聞かされてしまえば意味もない。


「名乗りもせず、失礼致しました。ウェン伯爵家の次女、ミアと申します。気にせずミアと呼んで構いません」

「!伯爵家の方だったのですね。こちらこそ、名乗らず失礼致しました。ザビニ男爵家の四男、エリオネルと申します。どうぞエリオネルとお呼びください」


 伯爵家と聞いて、エリオネル君がガチガチに緊張し始める。これでは美味しくケーキも食べられない。申し訳ない。


「あの、うちは一応、伯爵家ですがそこまで立派な家では無いので気にしないでくださいな。それに、ここは“学園”。ある程度の“平等”が保証されておりますので、どうぞ楽にしてください」


「いえ!そう言うわけには!……あの、私なんかが……えと、すみません」


 にこりと学生同士対等にいきましょうと伝えても、エリオネルは慌てて首を振る。昨日は随分、迂闊な子だなぁと思ったけれど、しっかりしているみたいだ。

 “平等”に、惑わされない辺りきちんと学園の話を聞かされているみたいだ。

 けれども、その“平等”も罠と言うだけでは無い。

 “平等”に甘え身分をあまりにも(`````)弁えず行動すれば罰が下ると言うだけで、完全に序列を持って行動しろというわけではないのだ。

 きちんとした付き合いのできる者は、身分に惑わされず交流しても構わないのだ。“平等”の名のもとに。

 何とも都合の良い話だが。

 そう言うものなのだ。


 だから、この学園も十分に社交の場だ。

 その“平等”を利用し、高位貴族や商人の子どもたちと縁を得たいと狙うものも少なくないのだ。もちろん、高位貴族の方も普段は交流のない人と会うことで、優秀な者を探すことも出来る。


 だからこそ、さらに男爵家の子であるエリオネル君が緊張するのも分かる。伯爵家のご令嬢に失礼をしたとあっては、マイナスにしかならないからだ。

 何とも可哀想なことをした。

 でも、うちに大した権力も野心も無いことは確かなのだ。どこの場所の男爵家だって、よっぽどのことをされなければ潰せるわけも無い。



「とりあえず、中入りましょう!こんなところで話していては目立ってしまいます。昨日は本当に助かりましたので、当然のお礼です。気にせず受け取ってくださいな!」


 にこり、有無を言わさず一気に言うと、がっちりとエリオネル君の手を掴み、カフェに引きずっていく。

 ワガママなご令嬢に巻き込まれたとでも思ってもらえればいい。



 *****



「あの、本当に……。そんなに気を張っていたら美味しいものも美味しくないでしょう??お願いしたのはこちらですし、ケーキは美味しく食べてほしいです」


 蛇に睨まれたカエルのごとく小さくなりながら、メニューに目を向けるエリオネル君。

 昨日の無邪気さはどこに行った。

 君ならそのまま楽しそうに飲み食い出来ると思ったよ。

 そんなんでユリシリルと大丈夫だったのか心配になる。


「……昨日は何も考えずに約束してしまいましたが……その、私なんかとこのような場所で……その、大丈夫なのですか??」


 恐る恐る、キョロキョロと周りを見ながらエリオネル君は尋ねる。

 あぁ、未婚のご令嬢云々言うやつね?

 確かにみだりにくっついたり人目を憚らずって言うのは外聞が悪いけど、学園のカフェでお茶したくらいで責められることはない。

 もちろん婚約者や恋人が居れば論外だし、深窓のご令嬢は避けるけど。後は美人や可愛い子なんかは、噂になりやすいけど。

 私みたいな地味な女は特段、噂にもならない。みんな、そこまでヒマじゃない。もっと面白い噂をするのに忙しいのだ。


「婚約者もいないし、恋人ももちろんいない。気になるお相手も存在しないし、私は噂をされるような人間ではないので、その辺は安心してくださいな」

「……はぁ」


「必要以上に畏まるのも、失礼にあたります。あまりにも緊張感にかける場合はお咎めもあるけど、本人が気にするなって言ってる場合はその通りにするのも礼儀だったりするわよ」


 どうにか普通にして貰えないかと、ちょっと偉そうだなと思いながら言えば、エリオネル君は私を見て目をぱちくりさせる。

 何それ可愛い。


「……それ、昨日ユリシリル様にも言われました」


 言われたんかい!

 じゃぁ、実践しようよ。

 こっちの肩が凝るわよ。


「さすがトラヴィス様ですわね。でしたら、その通りにした方が“得”だと思うわ」


「ですが、それはユリシリル様の方だから許されることでは無いかと思うのです」


 田舎男爵と言っていたから、その辺自信がないのだろうな。親兄弟からくれぐれもと注意も心配もされてきたのだろう。


「確かに、その人柄によって許される許されないありますが、エリオネル様は大丈夫だと思いますわ。軽薄さも無いですし、品が無いわけでもないですから。身構えず、リラックスしていいと言われたら、ある程度肩の荷を下ろした方がお互いに『良い関係』を築けると思います」


「品が無いわけではない……」


 ぽつり私が言った言葉を呟くエリオネル君。

 そんな変なことを言った覚えはない。

 たぶん、礼儀とか作法とかに自信が無いんだろけど、下品なわけではないし、何よりその可愛さで十分に許される。

 まだ一年生だし、無邪気だと高変換されるだろう。


「ええ。慣れてはいないでしょうが、“きちんとしよう”と言う気持ちが伝わるので気になりません。学園にいる間にきちんと学べばそれなりに身に付くと思います。この学園、素敵な見本がたくさんいらっしゃいますからね」


「あの、ありがとうございます……」


 キラキラした笑顔でそう言われてしまえば、何だろう。とても照れる。



「いえ、私は自分が美味しくケーキを食べたかっただけですので!」


 なんて、照れ隠しにもならない、意味の分からない返しをしてしまう。


「さぁ!約束通りお好きに頼んでくださいな!個数に制限なんてケチなことはしませんよ!!ここのお菓子はどれも絶品です!」



「はい!では遠慮なく頼ませて貰います!!」



 満面の笑みが眩しい。


 浄化されそうな程澄んだキラキラの笑顔で言われれば奢りがいもあるものだ。

 これを期に、彼が伸び伸びと学園生活を送れればいいと思う。


 そう、“平等”とは名ばかりではあるけれど、自由でもあるのだ。下位のものは跪いて過ごせなんてことはない。過ぎたことをしでかさなければ、学園を快適に過ごすと言うことは守られる。

 楽しく暮らす権利は全員に存在するのだ!



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