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カフェの前をうろうろする可愛い子が居る。
うん。
ちょっと緊張してて、恥ずかしそうな感じがそれっぽくてとても良い。
彼に頼んで良かった。
……だけど、私はユリシリルをひっかけることしか考えてなくて、他のことを考えてなかったことに、今さら気付いた。
そう、彼は可愛い。
つまりは、顔が良かった。
美少年と言うに相応しい見た目だ。
あんなに可愛い男の子が困っている。
そんなの誰もほっとくわけが無い。
ユリシリルより先に、見知らぬ女子が話しかけてしまうかも知れないと、気が気でない。
あぁー、そんな悲愴感出さないで!
心配になるから!
ガツガツした女子に狙われるのもそうだけど!何かそれ以外も心配になるから!
……何て子に実験を頼んでしまったのかしらと、ヒヤヒヤしていると、オブジェと化していたユリシリルが動き出した。
おお、私は信じていたよ。
貴方は紳士だって。
そして、計算もとても上手だって。
ユリシリルは、一瞬悩んだ素振りを見せたが、彼に話しかける。
ユリシリルのことを知っていたのか知らなかったのか、少し驚いたようにユリシリルを見上げ、何か答える彼。
それに対したぶん、『……じゃぁ、僕と入る?』なんて言いながら首を傾げ、カフェを指すユリシリル。
ここで選択肢が入るんだよね。
《喜ぶ》《狼狽えながら頷く》《困ったように微笑む》みたいな感じだったかな。
喜ぶが正解だったはず。
だから、そう言う指示を出したのだけど。
彼は、一瞬悩んだようだけれど、指示通り喜んでそれを受けた。
先程のようなキラキラした笑みが浮かぶ。
と、ユリシリルが頷いて、彼の頭に手を乗せた。撫でるような優しい動きの後に、彼をカフェに案内する。
なんだかとても和やかな空気が流れている、気がする。
何か、分かる。
ちょっとしか話さなかったけど、心配になるというか毒気を抜かれるというか、わしゃわしゃしたくなると言うか、そういうタイプだった。
それにしても、良いシーンを見ました。
イケメンが美少年の頭を撫でる。
なんとほんわかする可愛いシーンか!
イケメンが美少女に頭ポンポンするのも素敵なシーンではあるけれど、ヒロインがなぜか動かないので仕方ない!
仕方ないのだ!
でも、なんか罪悪感がすごいから、次は美少女にする。いや、結局、罪悪感はすごそうだ。
うーん。
シーンの再現は完璧だった。
完璧以上だった。
ヒロイン相手じゃ頭撫でるなんてハードル高いし。
これでダメなら“ヒロイン”じゃなきゃダメだと言うことだろう。
そうなれば、どうにかヒロインと攻略対象キャラが接触するように暗躍する必要がある。
こんな恐ろしい強制力があるのに放っておけるわけがない。
どうにか関わらずに解決したい。
結果は明日以降、様子を見ないと。
と思いながら、アルバートが居るだろう第三講義室前に向かう。
アルバートに関しては、校舎内の散策中に、タックルまがいに転ぶことがキッカケになる。
その場所がどこかは分からなかったので、ナタリーには感謝だ。
そう、このアルバートの行方が一番掴みにくく、一番関わりたくないので放課後にフラフラとしたくなかったのだ。
第三講義室前が見える角からこっそりと覗き込む。
本当に居た。
なんでこんなところにと、思わずにはいられない。放課後は基本的にデートじゃないのか、お前。
うーん。
この場合も誰かがタックルまがいに豪快に転べば良いんじゃないだろうか。
その後の選択肢は何だったかな。
《素直に謝る》《黙る》か。
で、『こんな可愛い子が、俺と知り合いたくてたまらなかったのかな?』みたいな、もうちょっと甘かったかな、子猫ちゃん?そんなような台詞に……《否定する》《拒否する》《顔を赤らめる》《困って黙る》みたいな選択肢があって……。
うーん、正解は分からないんだよなー。
どれをしてもタックルしたことが衝撃的で、つきまとわれることになるんだよね。この中でも好感度の高い選択肢はあるはずだけど……うーん。
たぶん、《顔を赤らめる》は違うな。よくされる反応だろうし。となると、《拒否する》?《否定する》も、まぁ普通だし。《困って黙る》も、あまり無さそうだけど、顔を赤らめること無く無反応的に黙れる子を用意出来る気がしない。
てゆうか、アルバートにタックルできる勇者を用意出来ない。
誰か生贄を用意して、物理的に転ばせるしかない。
女子だとその後を考えると何とも言えないな。ユリシリルより罪悪感が湧くな。
……と。
お誂え向きに人が。
あれは、フェリック?!
アルバートの友人で、色々絡んでくるやつ!類は友を呼ぶで、アルバートと似た感じで軽薄で女好きのオーラが漂っている……名前のあるモブ!
彼もわりと人気だから隠しキャラでもアリだったとは思う。
でも、現実世界だとアルバートよりも関わりたくないんだよなー。
アルバートが普通に軽薄な女好きって感じなら、フェリックは何か含みのある軽薄さと言うか。騙される感がすごいと言うか。
……。
とりあえず、タックルすればいいかな?
“女の子”であることが必要な気がするんだけれど、それだとその子が確実にアルバートに絡まれるし。
アルバートはなー。
信用がなー。
最終的に“ヒロイン”には引くほど一途になるんだけど(てっぱん)それまで、普通の子に耐えられるか。“ヒロイン”以外に本気になるのかが保証できないし、そこまで面倒みるのとか果てしなく面倒だわ。
とりあえずこの呪いの現象をどうにかするだけだから、シチュエーションを作ってみましょう。
ダメならヒロインを転ばせなくては!
フェリックには、尊い生贄になってもらいましょう。
可愛い女の子を転ばすよりも、罪悪感が薄れるし。
あ、声かけちゃった。
まぁ、後ろからタックルじゃないけど、まぁ、仕方ない。
フェリックの足元に薄い氷を出現させて、その上、躓くくらいの小さい石も出現させる。
これくらいなら、誰でも出来る。
フェリックが滑って、バランスを崩す。
予定では前に転んで石に躓いて、アルバートの方に豪快に身を投げ出せばいっかなって予定だった。さすがに自分の方に人が向かってきたら受け止めざるを得ないでしょ。
だけど、そうは上手くいかない。
フェリックは、後ろ向きにバランスを崩して倒れていって、体制を立て直せない。
やばい!
後ろ向きは危ない!
やってしまった!
ケガするかも!
最悪だ。
……。
顔面蒼白になりながら何も出来ない。
ここから受け止めに行けるほどの身体能力はない。
……だけど、フェリックはケガをしなかった。
アルバートがフェリックを受け止めたから。
さすがの運動神経。
でも、アルバートが女性相手じゃなくても、そんなに俊敏に動くなんて思わなかった。
……私、またやってしまったな。
と言うか、乙女ゲームのイベントを誰かにやらせるってダメだな。
何か、ダメだな。
見てはいけないものを見てしまった感がすごい。
あのですね。
フェリックも普通に整ってるんですよ。
そりゃ。アルバートと同じで、女の子に囲まれてますからね。
イケメンがイケメンを抱きとめる。
絵になりますね!
これは、ダメだ。
私がダメになる。
すぐに証拠となる氷と石を消滅させて、その場から逃げる。
目に先程の光景が焼き付いてしまってる。
これ以上考えたらダメだ。
クセになったら困る。
私もみんなも困る。
大いに困る。
……結果は明日以降。
ダメだったら、片っ端からヒロインを攻略対象にタックルさせるしかない。
物理的に押し出して。
食堂とか。人の多いところで、さりげなく。
……人を押そうだとか、転ばそうなんて、それこそ悪役令嬢みたいだ。
さっきは本当に焦った。
とても危険な方法だけど仕方ない。
それか、ヒロインの友人にどうにか誘導させるしかない。
でも、この後強制的なイベントって何かあったかな。
後は、ヒロインの行動次第なはずだから、何も起きないはず。
つまり、この初回イベントさえ乗り切れば!
普通の日常が戻ってくる!
……はず。
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