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2話

クレイフォレストについた3人は、やっと仕事モードに入り始めた。


「チェイス、周囲の警戒をお願いしますよ」

「あいわかった」


クロエが周りを確認し、チェイスが剣を抜いたことを確認して、シエラは手先に意識を集めた。


指の先が熱くなり、構えた両手の間をシエラの魔力の具現化である白銀の光が渦巻いた。


そして光は徐々に魔石となっていく。形を持ち始めた魔石に、より強い魔力を込める。


魔石というのは、魔力を凝縮させ作るもので、魔力を多く込めるほど精度も輝きも増す。


うまくできた魔石は綺麗なので部屋に飾っておきたくなるが、魔石は特殊な加工を施さない限り一週間程で消えるので、使うか吸収するかしかない。


「さて、こんなもんかな」


シエラは拳大(こぶしだい)の水晶のような魔石を作り上げた。


「さっすがお嬢さん。相変わらず綺麗なのを作るねぇ」

「お見事です」


チェイスとクロエが称賛の声をあげる。

少し得意気になったシエラが魔石を結界に向け(かか)げた。


シエラは頭の中に魔術式を浮かべ、それに集中する。


途端、弱っていた結界が青白い光を放ち、バチバチと音を鳴らす。

森と面している土地全ての結界をほとんど1に近い状態から作り上げるのだ。魔力だけでなく体力や精神力も大分削られた。


しばらくして光が収まると同時に、魔石は跡形もなく消失し、シエラは膝をついた。


「あー、ほんとしんどい」

「おつかれさん」


チェイスがシエラに手を差し出し、クロエがバックパックを探った。


「回復ポーション使いますか?」

「わたしそれ効かないのよね」

「ああ、そうでしたね。何故でしょうか......」


「へえ、妙なこともあるんだな」

「お母様もそうなのよね」


一同が首を(かし)げていると、結界の向こうから生き物の声が聞こえた。


「なんだ!?」


声は徐々に近づいてくる。シエラは額に汗が滲むのを感じた。結界には万全を尽くしたはずだ。モンスターが通ることはできない。そう信じたかった。


足音が聞こえ始める。さほど大きくはないため、森の主などではなさそうだ。

しかし油断はできない。大きさだけが強さではないのだ。もしも結界を破るほどの力量のモンスターだったら、シエラが魔術を使えない今、打つ手はない。


声は間近になった。チェイスが剣を握る手に力を込める。クロエとシエラも、森を睨み付けた。


「だずげでぐだざいぃぃぃ」


張り詰めた空気の中現れたのは、先ほどのずぶ濡れ狼の青年だった。


「僕、ウェアウルフなんですよぉぉぉ」


その場にいた人間全員がきょとんとし、状況を理解した途端笑いの渦が沸き起こった。


シエラも人間は結界を行き来できるようにしておいたが、ウェアウルフはどちらかと言えばモンスター寄りの部類なので、結界により町から閉め出されてしまったのだ。本人からすれば死活問題だろうが、なんとも間抜けな姿には笑わずにいられなかった。


「ご、ごめっぶはっごめんなさっふふっ」

「僕死んじゃいますってぇ!」


ひとしきり笑ってから、やっと話せるようになったシエラは、多少冷静になってきた。


「困ったわね、もう結界を解くことはできないわ。森を突き抜けて回っていくしかないけれど......」

「モンスターだらけのこの森をですか?」


青年はぐすぐすと泣きながら文句を垂れる。


「仕方ないわね......クロエ、チェイス、一緒に行くわよ」

「クレイフォレストは広いんだぞ?抜けるのに2日はかかるだろ」

「仕方ないですよ。我々の過失ですから」


何かごとあったときのため、宿なしで数日過ごせる程度の物はチェイスに持たせていた。


「ありがとう!」


いつの間にかけろりと泣き止んだウェアウルフの青年は、まぶしい笑顔を浮かべていた。



◇ ◆ ◇



木のない空間を探し出して簡易式のテントを開き、4人は焚き火に当たっていた。


「僕はオスカー・ゾグラフっていいます」


情けなくすすり泣いていた人物はどこへやら。青年もといオスカーは終始ニコニコして話している。


「そもそも、なんで森にいたのよ」

「僕は商人なんです。クレイフォレストにはここでしか採集できない植物がたくさんあるので!どこも取り扱ってませんから、一攫千金のチャンスかと......」


一攫千金どころか命の危機である。


「どこも取り扱ってねえってことは需要がねえってことじゃねーの?」


チェイスが煙草を片手に言った。


「あ、そうか」

「今気づいたのね......」


シエラが呆れ返る。


「ところで、どうしていつも濡れているんですか?」


クロエがふと口にした。誰もが気になっていたことだった。


「あ、僕はウェアウルフと人魚のハーフだから、濡れてないと大変なことになるんです」


満月の夜に凶暴化するウェアウルフと、海の覇者人魚のハーフ。それがどうしてこんなにも抜けた者になったのか。


周りの目には気づかないオスカーは嬉しげに息を吐いた。


「それにしても、まさか本当に銀の魔女と話すことができるとは思いませんでした!」

「銀の魔女?」

「あ、人間は知らないんですね」


オスカーはふむと考え、話し始める。


「どの種族でも、銀の髪を持つ女性は魔力が高い傾向があって、そういう人たちを銀の魔女って呼ぶんですよ」


たしかに、シエラのプラチナブロンドは母であるステラの遺伝で、ステラも魔力が人より高くて最初に聞いたときはとても驚いたことをシエラは思いだした。


「銀の魔女にはいくつか特徴があって、今言った魔力が高いとか、少し長命だとか、魔法にかかりづらいとか、睡眠中の魔力の回復速度がすごく速いとか」

「それでシエラ様にはポーションが効かなかったんですか」


シエラの中の長年の謎は今解き明かされた。オスカーには感謝せねばならないな、と思ったタイミングで、当の本人が頭から水を被っているものだから、全てが台無しになった。


「ぷはっそれに、シエラ・ジプソフィラは有名ですからね。規格外の魔力量を持つ天才少女って」


やけに気持ち良さそうなオスカーが言った。


「わ、面と向かって言われると照れるなぁ」


頬を赤らめるシエラをくすりと笑ってから、オスカーが言う。


「貴女は人間族ですからね。魔力が高い者は、モテるから大体すぐに結婚してしまいますが、人間族は魔力を重要視しない分、他種族でもシエラ・ジプソフィラを手にいれるチャンスがある」


オスカーはにっこり笑った。


「みーんな手にいれたがってますよ、シエラさんのこと」

「ほ、ほんとに!?」


思わず立ち上がったシエラをチェイスが挑発ぎみに笑った。


「みんなっつったって異種族たちだろ?」

「まあ、そうですね。今まで言ってらっしゃったお客さんは、龍人とか魔人とか......」


シエラは背筋が凍るのを感じた。龍人や魔人の嫁などにいこうものなら、動いた拍子に(つぶ)されてしまいそうだ。


「ダメじゃない......」


頼むから私に人間の恋人をください。シエラは心から神に願った。

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