プロローグ
よろしくお願いします!
シエラは生まれて3日で自我が芽生えた。いや、厳密には戻ったのだ。
前世で日本人だった頃の「私」の記憶を、生まれ変わった今思い出したことにより、思考力を取り戻した。
結論から言えば、最近流行りの異世界転生である。
当初、状況が呑み込めずにいるシエラは、赤子の条件反射か、なんとも頼りない泣き声をあげるしかなかった。
しかし、何年もの間子供としてのんびりと過ごしていれば、自然と適応していく。
現段階わかっていることは、ここはモンスターや魔人亜人が存在するファンタジー世界であり、シエラが住むのは人間が暮らす王政国家レサル王国だということ。
そして、シエラの両親は魔術師であるということ。
これを知ったときシエラは、やばい!魔術師キタコレ!うちの両親が魔法使えた件!と大興奮だった。
「かあさま、わたしおおきくなったらまじゅつしになる!」
「おやおや、頼もしいわね。じゃあ12才になったら魔力検査に行きましょう」
この会話を母親のステラと毎日しているのだ。
そして今日、やってきたのだ。シエラがうずうずしながら待っていた12才の誕生日が!
「お父様!おはようございます!」
朝一番ドタバタと足音をたてながら階段を駆け下りてきた娘に、ダニエルは穏やかな声をかけた。
「誕生日おめでとう。シエラがもう12才かぁ」
「時がたつのは早いわね」
愛娘の成長をしみじみと感じる両親にシエラは渾身のドヤ顔をかました。
「もう魔力検査もできる年齢だもの!」
机にならんだ朝食たちをぺろりと平らげたシエラは、両親と共に魔力検査に出かけた。
教会で気軽に行うことができるので12才になった子供はだいたい魔力検査にくる。シエラが入った教会にも、同じ目的でやってきた子供が6人ほどいた。
「魔力が130くらいあれば魔術師になれるのよね......」
「そうだね。もちろん、120程度でも工夫次第ではなることができるけれど」
緊張するシエラの肩に、ダニエルがぽん、と手を置いた。
「お父様とお母様の魔力はいくつ?」
「僕が196で、ステラは210だね」
200を越えた魔術師は出世が約束されている。今までシエラは気がつかなかったが、母のステラも父のダニエルも、優秀な魔術師だったのだ。
「ほら、順番が来たわ」
ステラに促され、シエラは神父の前に立った。
「名前を」
「シエラ・ジプソフィラです」
緊張で体が石のように固まったシエラは、カラカラに乾いた喉からなんとか声を絞り出した。
「ではシエラ・ジプソフィラよ、魔石に手をかざしなさい」
シエラは怖々と石盤形の魔石に手を伸ばす。心臓の音が自分の耳にまで響いて聞こえた。
魔石が輝き、表面に文字が映し出された。
シエラ・ジプソフィラ
魔力指数 600
「ろ、ろっぴゃっ!?」
驚きのあまり神父がすっとんきょうな声をあげた。
伝説に出てくる大魔術師が700。彼の次に高い魔力を持ったと言われる英雄が460。
教会中が騒然とする。人々はざわめきたちシエラは一気に注目の的になってしまった。
「あら、さすが私たちの子だわ」
「シエラはやっぱり天才だなぁ」
ステラとダニエルだけはここに来て親バカを発揮していた。しかし、周りはそうとはいかない。
「信じられない!この子は天才的な聖職者になれる!ぜひうちの教会にこないかね!」
食い気味の神父に後ずさりして、シエラは辺りを見回す。誰もがシエラを見ていた。
「わ、わたしは、両親と同じ魔術師になります」
教会に歓声が沸き起こった。
「天才魔術師の誕生だ!」
「俺たちはすごい瞬間を見たぞ」
「応援してるわ!」
あちこちから聞こえる様々な声にシエラはくらくらする。我が子を誉められご満悦な両親に手を引かれ、なんとか教会を出た。
「お母様、わたしどうなっちゃうの?」
不安げに尋ねたシエラに、ステラはにっこり笑った。
「もちろん天才になるのよ」
ステラは楽しげに、シエラと同じプラチナブロンドを風になびかせた。