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アナザークロニクル  作者: そうたそ
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5、飛竜

 しばらく歩くと黄色い布が巻きつけられた登山道らしきルートが見つかった。


 霧に包まれた針葉樹林の中に幾筋もの細い陽光が射し込む。

 幻想的ではあるが、また魔物が襲ってくるかもしれないという恐怖に俺はビクついていた。


「そんなにキョロキョロするな」


 目の前のアイシャは悠然と歩を進める。


「いや、お前は甲冑着てるから平気だろうけどさ」


「別に襲撃に備えて着ている訳ではない、このオリハルなんちゃらという鋼で作られた鎧は常に内部をサラサラ快適に保ってくれるのだ」


 ああ、それで常に重たそうな甲冑を身につけているのか、寝る時も着込んでいるから変わった人だと思っていた。

 俺は異世界転移してから精々濡らした布で体を拭うくらいなのでいい加減ジャージが汗臭い。


「そう言うなら私も生身で行こう。『聖甲脱装(ディスタッカーレ)』」


 アイシャが呪文を唱えると光と共に甲冑が消え、布の短パンノースリーブにショートブーツの姿になった。


「どうだ?」


 ああ、アイシャも女の子だしそこら辺は気になるんだな。俺はアイシャの首筋に顔を寄せて匂いを確認した。


 クンクン……「大丈夫、全然臭くないよ!」むしろいい匂い!


「やめろ」 ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン「痛!」


 素手でもめっちゃ痛い。鞭打?


「行くぞ」


 アイシャは山頂に向かってどんどん進んでいく。やっぱり直行するのか。



 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



 山頂は100m四方の草原だった。中央に巨木がある。山頂付近に霧はかかっておらず、上空は青空だった。


「飛竜はおらぬようだな」


 無防備に歩いていくアイシャ。俺は当然匍匐前進だ。


「おっ、これだな」


「月下草か?」


 思わず立ち上がって近づく。


「ほら」


 確かにギザギザしてる。ギザギザの葉がヤツデみたいに放射状に分かれて……うん……これマリファナだ。


「こ、これが高級傷口の原料になるの?」


「うむ。どうも傷を治すというよりは痛みを麻痺させる目的で使われているようだが」


 あかんやつや。日本では持ってるだけで逮捕される草。

 まあここは異世界だし大麻草によく似た月下草という植物なんだなという結論で自分を納得させた。


 アイシャと2人でわっしわっし草を毟っていくと大人一抱えもある藤の籠はすぐに一杯になった。手が青臭い。


「そういえばその籠どっから出したの?」


 アイシャは籠一杯の草をより入るように圧縮している。


「ああ、この中だ」


 腰を横にくいっと突き出す。そこには布製の小さな袋が付いていた。


「この袋はこんな見た目だが意外と収納力があるのだ。甲冑や槍もこの中に仕舞っているぞ。製作者は四次元小袋と呼んでいたな」


 それ意外とってレベルじゃないから。そしてスレッスレなネーミングだ。

 甲冑の脇からポンポン物が出てくると思ってたがそんなドラえも●みたいな道具を仕込んでたのか。


 その後も夢中で採っていると、いつの間にか巨木の下に来ていた。

 これが伝説の樹か、この下で卒業式の日に告白して付き合いだしたカップルは永遠に幸せになれるとかならないとか……


 脳内でときめきメモリア●ごっこをしていると足元に小さな卵が転がっているのが見えた。


「あれ、卵だ」


 手にとって見ると鶏卵そっくりの白い卵だ。アイシャが近寄ってくる。


「飛竜の卵だな」


 ん?そういえば飛竜の縄張りとかいう話だったな。


「いやいや、冗談だろ?採るものは採ったしさっさと帰ろうぜ」


「そうだな、その卵も持って帰るか」


「え〜?こんな訳の分からない卵どうすんだよ、大体ちっちゃくないか?」


 ドラゴンの卵って多分もっと大きいだろ、見た事ないけど。

 そういえばこの辺だけ草がミステリーサークルみたいにグルグルになってるな。まるで『巣』みたいな……


「いいから寄こせ」


「あっ」


 カシャン。手を滑らせて卵を落としてしまった。


 ……ウォォォォン


 遠くから獣の鳴き声が聞こえた。数秒後、巨大な影が上空を通過する。


「わっ!」


 爆風が草花を吹き飛ばす。灰色の巨大なドラゴンは上空に舞い上がると、ゆっくりと羽ばたきながら舞い降りてきた。


 バサァッ……バサァッ……と降りてきた、巨大な翼を持つ体長8メートル前後のやけに筋肉質な恐竜。脚が6本あり、頭には牛のような角が2本生えている。


 あれ、デカくない?飛んでるのが不思議なくらいだ。

 アイシャは魔法眼鏡(ス●ウター)を装着した。女教師っぽい。


「ふむふむ……帝龍(タイラント)。戦闘力65万6369、強力な熱線ブレスを吐く」


「こ、これが飛竜?」


「いや、飛竜より強い。あいつらは精々戦闘力10万くらいだからな。私とて戦えば無事では済まないだろう。まあ大龍(グレートドラゴン)系統は割と温厚な性格だから刺激しないように退がれば大丈夫だ」


「……了解」


 着陸した巨龍は何かを探すかの様にしきりに地面をクンカクンカしている。

 俺たちは前を向いたままジリジリと後退していく。これ熊に遭遇した時のやつだな。


 ふと巨龍が何かに気づいたかの様にこっちを見た。


「ひっ!」

「静かに」


 あれ?俺達を見ていない。視線を追ってみると割れた小さな卵が……


「グオオオォォォォォ!!」


 怒り狂って走ってくる巨龍。


「嫌あぁぁぁ!」


 反射的に逃げる俺。


聖甲着装(アルマトゥーラ)!』


 アイシャは光を放ち、一瞬で白銀の甲冑に包まれた。


 ボコォン!変身した瞬間角の直撃を食らって人形のように吹き飛ぶアイシャ。俺も風圧で横に飛ばされる。


「ぐへっ!」

「グルルルルル……」


 岩の様な巨体が呼吸によってゆっくりと上下する。目は血走り、鼻からは青白い炎がチラチラと噴き出している。

 これ明らかに怒ってるよな……やっぱりこいつの卵だったのか?

 これと戦って勝てる生物なんて存在しないだろう。走って逃げ切れるとも思えないので腹ばいで地に伏せる。


 振り向いた巨龍と目が合った。脂汗が出、脚が震えだす。


「退がれ!」


 慌てて後退ると吹き飛ばされて行ったアイシャが空を飛んで巨龍の前に降り立った。

 アイシャ目掛けて角が振り下ろされる。それを白銀の騎士槍で受ける。

超重力(フリーズ)!』巨龍とアイシャの足が地面にめり込み、後方で屈んでいる俺も地面に押し付けられた。

 重力の魔法か?


 猛然と振り下ろされる角、牙、爪。アイシャは巨龍の足元に留まったまま、それら全てを騎士槍の(つば)で受け止めている。


 強化された重力さえも何の影響も与えていないように高速の戦いが繰り広げられている。

 俺は地面に押し付けられたままピクリとも動けない。


 ふと、巨龍が攻撃の手を止め首をもたげた。口から漏れる青白い光。ブレスが来る!


「オラアァァッ!」


 すかさずアイシャが真上に飛び上がり、右拳でアッパーをぶちかました。

 巨龍が仰け反る。続けざまにオーバーヘッドキック。ドラゴンの巨体が大きく傾いだ。


「すげぇ……」


 あのバケモノを小さな人間が押してる、しかも真正面から打ち合って。


 しかし巨龍はその翼でもって、ひとつ、ふたつ羽ばたくと空中で体勢を立て直し、そのまま高熱のブレスを放った。


「ガオォォォン!!」


 白い光の帯が空を焼き尽くす。


「アイシャ!」


 だがアイシャは既に着地していた。

 巨龍はアイシャが甲冑の脇から取り出した丸太を本人だと誤認して狙い撃ったのだ。


「おおっ!」


 アイシャは騎士槍を手に跳んだ。全身が魔力で光を放ち、急角度に軌道を変えて宙を舞う。


「オォォォォ!魔亞魔隷奴暴威(マーマレード・ボーイ)!』」


 重力操作で加速したアイシャは騎士槍の鍔に足をかけ、ラ●ダーキックのような勢いで眉間に蹴り込んだ。


「ギャオオォォォン!!」


 巨龍の頭から血が吹き出す。たまらず顔を背けた巨龍はそのまま上空へと飛び去った。


 着地したアイシャはそのまま倒れこみ、荒い息をついている。


「か……勝ったのか?」


「ハァ……ハァ……あと一歩の所で逃げられたが、あのクラスのドラゴンを無傷で撃退できたのだから上出来だな」


 はぁ、なんとか助かったようだ。時間にして10分も経っていないんだろうけど寿命が数年縮まった思いだ。

 俺はアイシャに肩を貸して立ち上がる。意外に軽いな。


「待てダイチ、もう一仕事だ」


 えっ、まだ何か?



 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



「いや〜助かりましたぞ、まさか飛竜を撃退までしてくれるとは」


 村長はカゴ一杯の月下草(マリファナ)を手にホクホク顔だ。

 村に戻った俺達は村長に月下草を渡し、ギルドからの書類にサインしてもらった。


 これを持ち帰れば冒険者ギルドが依頼書のサインと照合し、晴れて依頼達成となる。


「あ、撃退したとはいえ手傷を負わせただけなのでまた戻ってくるかも知れませんよ」


「わかっておりますじゃ、持ち帰ってもらった株がありますから村で栽培できるように研究してみますじゃ」


 ドラゴンを撃退した後、アイシャの指示で根の付いた株も大量に抜いて持ち帰って来た。

 ガサツなようで案外気の効く女だ。


「あ、お茶をだすのを忘れておりましたぞい」

「ああ、もう戻りますのでお構いなく」


 出されたお茶にはギザギザの葉っぱが添えられていた。


「こ、これは……」

「月下草ですじゃ、こうやって生で噛むのが最高あばばばば」

「ぼ、僕らはこれで失礼します……」


 村長を置いてそそくさと村を出た。

 生で食べるのが合ってるのかどうか分からないし、知りたくもなかったから……



 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



 ダイダロス山麓の村を出た俺達はセグレタの街まで戻らずに、ドルフィという町へ向かった。

 東へ徒歩で1日。

 村の月下草はこの町に卸されているのだという。


 巨龍との戦いの後アイシャはこう言った。


「村長は月下草の採取のみを金貨8枚という破格の値段で依頼していた。ギルドにも幾らか払っているだろう、そうつまり、この籠一杯にはそれを遥かに上回る価値があるという事だ……!」


 興奮気味に語るアイシャは目が$になっている、だが俺も思いは同じだ。


「アハハハハ……」

「ハハハハハ……」


 俺達は手当たりしだいに月下草をちぎり、アイシャの懐に押し込んだのだった。


 流通ルートの特定は簡単だった。ドルフィの町では普通に薬局で取引されていた。

 とりあえず宿を取った俺達は部屋でブツの確認をする。


「よし、出すぞ」

「ああ、頼む」


 アイシャが右腕を上げると甲冑の脇から大量の草が飛び出してきた。


 ブリュリュリュリュリュ!!


「臭!」めっちゃ草臭い。(*゜д゜⊂彡☆))Д`)パコーン


 結局月下草は金貨80枚で売れ、俺達はホクホク顔でセグレタの街に戻った。


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