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アナザークロニクル  作者: そうたそ
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4、ダイダロス山

 ダイダロス山はセグレタの街から東に3日ほど歩いた所にあった。

 連日歩き通しで膝がパンパンだ。


 麓には小さな集落がある。

 手近な家で村長の所在を尋ねると奥の方の家に案内された。


「冒険者ギルドから来ました、依頼は月下草の採取という事で間違いないですか?」


「うむ、月下草は高級傷薬の原料となる草で村の貴重な収入源なんじゃが、生息地の山に飛竜が住み着いてしまってここ数ヶ月は取りに行けてないんじゃよ」


 革のベストを着た老人がお茶を出してくれる。


「あ、ありがとうございます。月下草というのはダイダロス山の頂にしか生えないそうですね、どういう感じの草なんでしょうか?」


 見た目の確認はしておかないと違うものを取ってきても困るからな。


 ちなみに村に入ってからはずっと俺がやり取りしている。アイシャは村を素通りして山頂に行こうとした為、俺が引き止めたのだ。


「見た目はちょっとギザギザした感じの葉じゃな、山頂に群生しておるからすぐにわかるはずじゃ」


 細長い葉っぱを1枚ずつ俺達に差し出してくる。


「ああ、これですか?でもそんなにギザギザはしてなさそうですが……」


「それは月下草ではなくお茶請けとして出した葉っぱじゃ」


 完全に月下草の出し方やったやん。


 あとその葉っぱは食い物なのか?この辺りの風習なんだろうし意外とスイーツ的な味なのかもしれない。


「いただきます」


 モシャ……モシャ……


 うーん苦い、あと渋みが強いね。

 お茶請けとして成立してないな。アイシャは自分に出された葉っぱを俺の方に押しやると懐から煎餅(せんべい)を取り出して1人で食べ始めた。


「お、おいアイシャ、失礼だろ」


「ああ大丈夫じゃ、そもそも食用の草じゃないからのう」


「何食わせてんだ!」


 おめーが失礼だよ。


「いや、冗談で出したんじゃが本当に食べるとはのう」


「ぐっ……」


 ツッコむ所だったのか?よし、


「は、葉っぱやないか〜い!」


 ……シーン。


「どうした?」


「……なんでもないです」


「はっはっは、毒でも入っていたのかのう?採取完了までは村の端にある空家に泊まってくだされ」


 このジジイ……



 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



 夕方頃、村の入り口付近にある木造の小屋に案内された。


 月下草を取り扱う薬剤師が住んでいたが、月下草が取れなくなり収入が激減して先月この小屋で首を吊ったそうだ。

 うん……その情報要らなかった。


 ヴァレンティナは小屋の外で草を食んでいる。


「飛竜がちょっと厄介だな」


 アイシャが魚を頬張りながら言う。今日の夕飯は焼き魚だ。釣り針に干し肉のかけらを付けて垂らすとフナみたいな魚が面白いように釣れた。

 ちょっと泥臭いな、カレー粉でもあればいいんだが。


「飛竜?」


「空を飛ぶドラゴンだ。動きが素早く凶暴で好戦的」


「別に戦う必要はないだろ?月下草だけ取って見つからないように帰ればいい」


「1本や2本持ち帰っても仕方あるまい、村長が籠を渡してきただろう、それ一杯分は取って来いという事だ。飛竜は山頂を縄張りにしているという話だから見つかって戦闘になる確率は高い」


「猟銃で遠くから狙撃するとか」


「猟銃の弾なんて何処に飛ぶか分からんし、威力はさほどでもない。ボウガンの方がマシだが飛竜を仕留めるには力不足だな」


 この世界の銃器は性能が良くないらしい。


「……俺は留守番してていいかな?」


「駄目だ、何の為の奴隷だと思っている」


 竹串でビシッと指してくる。逆に何の為の奴隷なんだよ。



 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



 翌朝、俺とアイシャはヴァレンティナを村長に預け、徒歩でダイダロス山を登っていた。

 濃い霧の向こうから朝日が射している。一歩踏み出す毎に夜露を纏った草葉が足元を濡らしてゆく。


「はぁ……はぁ……こっちで道合ってるのかよ」


「大丈夫だ。というか山頂を目指しているのだから高い方に登っていけば間違いないだろう」


 なんて浅はかな考えだ。こいつはきっと単純な円錐状の山を想像しているのだろう。


 遠くからではなだらかに見える山でも尾根の連なりによって起伏が連続している所なんて幾らでもあるし、道が二股に別れている所だってある。

 方角すら定かではない状態で上へ上へと登っても辿り着く事はないだろう。


 まあ俺としては道に迷った挙句村に引き返してくれた方が有難い。


 3時間後


「うん、どうもこっちではないな」


「ほら!だから言ったじゃん、一旦引き返そうぜ」


「引き返すにも帰り道がわからん」


「あ」そりゃそうだ。


 参ったな。周りを見渡すと赤いものが視界に入った。


「あ、あの木、布が巻きつけてある」


「でかした。山頂へのルートだな」


「いやだから引き返そうぜ、村まで繋がってるんだから」


 近寄ってみるとそれは血に塗れた人間の片手だった。


「ひぃぃぃぃ‼︎」


「むっ、魔物(モンスター)か?」アイシャの手に騎士槍が現れた。戦闘態勢に入る。


 その時茂みの奥がガサガサっと揺れ、デカい山羊が飛び出してきた。

 そのままアイシャに突進する。


 ギィン!金属同士がぶつかるような硬質な音。

 騎士槍に弾かれた山羊の角も相応の硬度を持っているようだ。


 そしてシマウマサイズの黒い山羊は人間の腕を咥えていた。

 やはりこいつは魔物だ。迷い込んだ村人が犠牲になったか。


「ビッグホーンだな、気をつけろ」


 魔物の名前だろうか、気をつけろと言われても……


 ビッグホーンと呼ばれた魔物は人間の腕をペッと吐き出すと俺の方に真っ直ぐ突っ込んできた。


「うわっ!」


 アイシャにもらった金属製の小盾を前に構える。


 次の瞬間、ガキンと音を立てて角の先が盾を貫通してきた!


「ひいぃぃっ!」


 突進の勢いで体が宙に浮く。


 その瞬間、横から飛び込んできたアイシャが山羊の首に騎士槍をぶっ刺した。


「ギエェェェェ!」


 倒れた山羊はしばらく痙攣していたが頭に騎士槍を突き込まれ、すぐに動かなくなった。


「早速役に立ったな、流石私の奴隷だ」


「囮としてかよ!」


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