1、腹黒女騎士と緑色の小鬼
その騎士は登りゆく朝日に照らされて黄金色に輝いていた。
十数体にも及ぶ小鬼の群れを屠りながら返り血の一滴も浴びず、白銀の甲冑に身を包んだ騎士は静かに佇んでいる。
金なのか銀なのか紛らわしい。
しかしそれは宗教画のように神々しい光景だった。
状況を整理しよう。
俺、小松原大地18歳は目が覚めると見知らぬ草原で小鬼の様な怪物に囲まれていた。
特に襲われる様子もなかったのだが、白馬に跨った女騎士が「まてまて〜い!」とか言いつつ駆けてきて、無抵抗のゴブリン的な小鬼を次々と馬上槍でぶっ刺して全滅させた。
辺り一面ゴブリンの死骸と緑色の汁が撒き散らされ、近くにいた俺も汁まみれになって今に至る。
「大丈夫か?」
女騎士が兜を外しながら問いかけてくる。
全身がゴブ汁でビッチャビチャなので全然大丈夫ではないのだが怪我の有無に関して尋ねられているのだろう。
「あ……大丈夫です」
「そうかよかった、では金をだせ」
少し癖のあるショートボブの金髪に青い瞳。
美しき女騎士は唐突に金を要求してきた。
「えっ?」
「早くしろ、助けてやっただろうがこの貧弱モヤシ野郎」
淡々と恫喝してくる。
反射的に尻ポケットをまさぐるが、元々自室で眠っていたところ異世界転移? してしまったので財布もスマホも持っていない。
普段学校指定のえんじ色のジャージで寝ている俺だったが当然靴も履いていなかった。
そもそも頼んでもいないのに代金を請求するとはどういう事だろう。騎士というより盗賊の所業である。
だが俺に抗議する事は出来なかった。
ついさっきゴブリンの群れを淡々と刺殺する様を目撃してしまったし、その槍の穂先は今俺に突きつけられているからだ。
「あ〜、金は持ってないんだけど」
「文無しか、仕方ない。ゴブリンの死骸から魔石を集めろ。終わったら後ろをついてこい、街で売れば幾らかにはなるだろう」
女の機嫌が少し悪くなる。
魔石とはゴブ汁の中に落ちているパチンコ玉サイズのキラキラした玉だろうか、それよりも魔石と俺どちらを売り飛ばすつもりで言ったのだろう。
この見かけによらず冷酷な女は両方売るつもりなんだろうか。
ともあれ俺は言われた通りにし、女の後ろを素直についていった。
顔に緑色の汁がかかったままだったが、それを差し引いても俺は青い顔をしていたに違いなかった。