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星降る夜に、君の隣で。  作者: 麻象 塔
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♯3 薄っぺらな壁。

 「あーあ、俺も誰かさんみたいにずる休みしてーよ」


 6限目の国語の授業が終わり掃除の時間になると、同じクラスメイトの一人がほうきを使って野球のスイングの真似をしながら、わざわざ僕の耳に届く様な言い方をしてきた。僕は挑発に乗る様に独り言、あくまでも独り言を溜息をつきながら言った。


 「法事で休む事がずる休みだなんて、無知蒙昧な考え方が出来て羨ましいよ。和樹は両親が死んでも学校来るんだね。」

 「あ?んだとこのっ」


 和樹が僕を睨む。頭に血が上ったのか少し赤い耳と眉間の皺が猿のように見えてクスリと笑ってしまった。するとほうきを持ったクラスメイトは僕に向かってそれを投げて来た。ほうきは僕の体にクリーンヒットするが、柄は当たらず穂先だけが当たったので痛みは全くなかった。



 「少し苛ついたらすぐそうやって手を出すんだ。ちょっとは気が済んだ?」

 「けっ。いちいちバカにした様な言い方しやがって。ずっと休んじまえバーカ」


 床に落ちているほうきをそのままにすると、地面をドスドスと蹴るように彼とその取り巻き達は教室を出て何処かに行ってしまった。教室から出て行く彼らを目で追いながら、僕は一昨日の叔父さんの言葉を思い出す。


 確かに僕は友達が少ない。クラスで虐められているわけでも、シカトされているわけでもない。ただ、僕とみんなとの周りには何か薄い壁の様なものがあって、僕はその薄っぺらな壁をどうにも出来ないでいる。だけど、僕は何も悪い事なんてしていないはずだ。みんなの輪の中にはみんなのルールがあって、それが僕とはちょっと違っているだけだ


 「美浜くん大丈夫?」

 「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」


 他のクラスメイトと比べると、随分小柄な女の子がそこに立っていた。後ろに括った髪の毛がピョンと揺れ、赤いパーカーの中に納まった。彼女の名前は瑠美るみ。誰とでも分け隔たりなく話す事が出来て、クラスでも相当の人気がある。去年のバレンタインでは、下校時間がとっくにすぎた教室にいる彼女が学校を出るまで、殆どのクラスの男子が教室に居残り続けた程の人気っぷりで。僕の様な奴とも普通に話してくれる出来た人間だ。


 「それよりほうき係がいなくなっちゃったからほうきやってくれる?僕がちり取やるから」

 「美浜くんもさ、ちゃんと話し合わなくちゃダメだよ。あんな言い方したら誰だって怒るよ」


 ほうきで床を掃きながら彼女は言う。素っ気なくそうだねと答えて、僕はほうきの動きに合わせてちり取を動かす。


 「私の話ちゃんと聞いてる?」

 「ちゃんと聞いてるよ。ごめんね。」


 彼女はすこし怒った様に僕に目線をぶつけてきた。さっきの事を省みると、確かに笑ってしまったのは僕が悪かったのかも知れない。けれど先に仕掛けて来たのはあっちだ。でも、なんて思考がグルグル回って結局答えは見つからない。


 帰りの会が終わると僕はまっすぐ家に帰った。帰り道を仲の良さそうなグループが何組か楽しそうに話しながら歩いている。僕は一人、知らない帰り道を探すように歩く。別に寂しくはないし、羨ましいとも思わない。ただ、今の僕は無性に悲しくて情けのない気持ちになっていた。


 玄関に着くと植木鉢の下にある鍵を取り出し、ドアノブを回す。僕の帰りを待っていただいきちさんが懐に飛び込む。


 「ただいまだいきちさん。今日もふかふかだね君は。」


 僕ははしゃぐだいきちさんを宥めてドアを閉めた。両親は共働きでこの時間はまだ帰って来ていない。靴を脱ぎ廊下を抜けてキッチンのダイニングテーブルに着くと、冷蔵庫に夕飯が入っている旨を伝える便箋が残してあった。今日も帰りは遅いらしい。


 だいきちさんに少し早めのご飯をあげると、僕は階段を登って二階の部屋に着く。CDプレイヤーにお爺ちゃんから貰ったCDを入れる。しばらく聴いていたけれどどうも落ち着かない。何故だか6畳一間の僕の部屋がとても狭苦しく感じる。窮屈な気持ちから抜け出す為に僕は外に出る事にした。玄関に着くと、僕が外に行かないようにする為に、靴の上に座るだいきちさんがいた。


「ごめんだいきちさん。ちょっと出かけてくるから、いい子にして待っててね。」


そう言って僕はだいきちさんを抱き上げ靴を履いた。別に両親が居ようが居まいが、僕は外に出る気分だったんだ...


 一人で外に出かける時、だいたいいつも行く場所が2つある。一つは図書館。最近内装工事が終わったばかりで、本の種類も大幅に増えたらしい。そしてもう一つはあの給水塔だ。本を読んだり音楽を聞いたりするのにうってつけの場所で、なぜだか僕はそこに居るととても落ち着く事ができる。一人の寂しい気持ちがぼんやりと移ろいでいく感覚に浸れる。


 ふと昨日の事を思い出す。また居るのかな、なんて考えながら僕の足は給水塔に向かっていた。


 「よっす」


今日も、先客は居た。

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