表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る夜に、君の隣で。  作者: 麻象 塔
18/18

♯15.5 来週の私へ

 「お帰り。もう帰ってたんだ」

 「あ、あぁ」


 酔い潰れた私の父は、玄関で横になっている。いつからだろう、こんな体たらくなクソ親父になってしまったのは。


 「リビング行くなら靴ぐらい脱いでよ… 」


 私は酷く泥酔した父の靴を脱がしながら、昔の事を考える。あの頃はよかったな、なんて。でも感傷に浸る気は無い。ただ、ただ。あの頃の優しくて頼りになる父に戻ってくれたらと、何度心の底から思ったことか。これじゃまるで介護みたいじゃない。


 「クソッ...酒くさ」


 口から勝手に言葉が漏れる。


 私は父をおぶって寝室へと運び毛布をかけると、担ぎ疲れた肩を気怠げにぐるりと回す。父親のだらしない姿を見ていると、こんな奴の娘なのかと情けなくなってくる。自分の部屋へ入ると、ベッドにボスンと仰向けに倒れ込み、おでこに右腕を乗せた。


 「一体、なんなんだろうな。」


 言いようのない何かが頭の中でグルグルと勝手に回る。このストレスをどこかにぶつけたい衝動に駆られ、落ち着くために、すでに匂いでバレているであろう机の引き出しの中に隠したタバコとライターを手に取り、火を点ける。


 酷く汚れた窓を開け、タバコの煙を吐く。煙は、空に吸い寄せられるように登り、月明かりに照らされて静かに消えた。


 「思いー出はーいーつーもー綺麗だけどー」


 気分を少しでも高揚させる為に、好きな曲を歌ってみるけれど、残念ながら効果は無いようだ。


 タバコを吸いながら、私は瑠美と母の事を考える。二人は元気だろうか?今度引っ越す場所で二人に出会ったら、どうしたらいいのか?会えるのか?...会ったらどうすればいいのか。正直怖い。二人に会うことが怖い。



 こんなどうしようもないのに、1週間後の私はちゃんとしているのだろうか?今の高校と同じように通学は出来ないでいるのだろうか?新しい心療内科の先生とはうまくいくだろうか?未来の私はどうしているのだろうか。


 そうだ。せめてこのむき出しにできない心を、私は来週の私に綴ろう。


 私は机の中からまだ使っていない大学ノートを取り出すと、私の心の虚無感と同じ白色にペンを走らせた。

 

 弱虫な私から来週の私へ。


  柏 佳香

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ