第1話 Tシャツと女の子とオレと、トカレフさん
あ~、うん。オレさ、今困ってんだわ。ひじょ~に、困った状況に陥ってる。
その原因はというと・・・、
「お、お願いですから、ワタシのとなり15cmに必ずいて下さい(>_<)」
と名前も知らない女の子にTシャツの裾を、1時間近くも引っ張られてる。
これはもう、LサイズのTシャツが3Lくらいにならんばかりの勢いだな。
「あのさ、Tシャツ伸び伸びになるからそろそろ離して欲しいんだけどさ・・・」
「わわっ! すみませんすみません! ワタシまた人に迷惑かけちゃったよぉ~」
既に前科持ちだったのかよ、この娘。
(あぁ~、もうこのTシャツ外じゃ着られねぇわ)
デロデロに伸びてしまったシャツを見ながら、やっとの思いで女の子が手を離してくれた。
「じゃあ、オレはこのへんで・・・」
「ま、待って下さい!!」
と再び女の子にシャツを引っ張られる。ご丁寧に今度は逆サイドに回りこみ、必死にシャツを引っ張ってらっしゃいやがる!
(何この娘? そこにある服屋のまわし者か何かか??)
そう思ってしまうくらい、傍目に見てもオレの服を引っ張っていた。
もしこれが客引きだとしたら最悪の宣伝効果だろう。
そもそも人通りの多い駅前だというのに、誰もオレたちに目を止めず何食わぬ顔で素通りしていやがる。
「ええいっ! これだけ人が通ってんだから、誰か1人くらい助けにきてくれてもいいだろうに!!」
そう叫ぶのだが、その願い虚しく、一切目もくれない。
(これだから、最近の若者はスルースキルばかり上達しやがるんだよ!!)
そもそも、なんでこの娘に服をデロデロになるまで引っ張られた挙句に、15cmとなりに居てくれとか言われてんだよ!・・・・・・そうゆうことか!?
「も、もしかして、ここがスナイピングポイントの中心で、今この瞬間オレが『的』としてスナイパーに狙われてるのか!?」
とシャツを引っ張ってる女の子に詰め寄った。
「ふ、ふぇ? すないぱ???」
どうやら違うらしい。もっともスナイプされる謂われ(理由)もないのだが。
だが、油断は禁物である。オレは周りにスナイパーがいないか、見回す。
『ぶんぶん、ぶんぶん』とそれに合わせて女の子おも振り回してしまう。
「あわわっ!? め、目がまわりましゅるぅ~~」
そう言いながらも、シャツを掴む手は離していなかった。
「おっと、すまんすまん」
正直これで離れないかぁ~、っとちょいワザとだったんだが失敗に終わった。
「ううっ・・・酷いですよぉ~」
目を潤ませ、今にも泣きそうになりながらも、上目使いでオレに必死に抗議してくる。
「うっ・・・(照)」
「うっ?」
よくよく見ると、ただ地味な女の子とばかり思っていたが、すっげぇ美少女だった。
腰まで届くほどの長く美しい、今時珍しい黒髪をなびかせ、お人形さんのように綺麗に整った顔立ち、長いまつげに、柔らかそうな唇。そしてシミ1つない白く透き通った肌。
何よりも強烈に異性を感じさせてくれる、その柔らかそうな大きな胸。
もう15cmどころか、m超えしてるんじゃないのか?
しかも・・・である。動くたび、いや話をするたびに、上下にたゆんたゆん♪と擬似音付きで激しく揺れてらっしゃる。
(や、やばい・・・こんなモノを間近で見せられたら鼻血出そうに・・・っといかんいかん!)
オレは誤魔化すように首を左右に振り、心を落ち着かせる。
「???」
女の子はきょとんとした顔で、オレを見つめていた。
(ううっ、だからそんな見上げないでくれよ・・・胸が、お胸様が強調されて・・・)
「こ、こほん! それで、キミは何んでオレの服を引っ張ってるのかな? それにキミのとなり15cmだっけ? 見ず知らずのオレが傍にいなくちゃならないの?」
咳払いをし、そうオレは強引に話題を変えた。
「え、え~っと、それはその・・・」
何かを誤魔化すように、また言いずらそうにもじもじしている。
(ってか息をしているだけで、お胸様が揺れてらっしゃいますよコノヤロー!!)
オレはその誘惑に負け時と思っていると、女の子は何やら覚悟を決めたように『うん! 夕霧ならきっとできるよね!』と両手を握り締めながら呟いていた。
(夕霧? この娘の名前か?)
「あ、あの!」
「は、はい!?」
女の子のいきなりの大声に、オレは思わず返事をしてしまう。
「わ、わ、ワタシと・・・『男女』の関係になってくれませんか!!」
「・・・、・・・、はい?」
(やべぇ、この娘何言ってんだ? もしかして援助系だったのか?)
「ふぇぇぇっ!? OKなんですか?・・・はわわ、ど、どうしよう(>_<)助けてお姉ちゃん」
オレの質問の聞き返しを、答えのOKだと勘違いしてしまう女の子。
(いや、この娘アレなんだわ・・・頭がちょっとのヤツ・・・)
「あ、あのー違くて、その~いや~・・・」
なんて断ればいいんだよ!
「ふえっ? やっぱりワタシとは『嫌』なんですか(´・ω・`)しょんぼり」
今度はどもったオレの言葉を拒絶だと勘違いしてしまう。しかもすっごく落ち込んでしょんぼりとしている。言うなればリストラされたサラリーマンがブランコで遊んでいる時くらいだ。
「ええいっ! まどろっこしいな、もうっ!!」
「はぅぅぅぅっ!?」
どうやらオレの大声で驚かせてしまったようだ。
「あっ、ごめんごめん。えっと、夕霧ちゃんだっけ?」
「な、な、な、なんでワタシの名前を知ってるんですか!?」
オレが名前を知っていることにひどく動揺していた。
「いや、さっき自分のこと『夕霧』って言ってたからさ」
「なぁ~んだ、そうだったんですか♪ ・・・!? も、もしかしてさっきの聞こえてました?」
いや聞こえてたからオレは『夕霧』と名前を言ったわけなのだが・・・。
「い、いや、聞こえてないかなぁ・・・あはははっ」
とわざとらしく笑って誤魔化すオレに対し、
「あ~よかったぁ~♪」
とのんびり安心する夕霧ちゃん。
(騙されてる、騙されてるよ夕霧ちゃん。なんだかこの娘の将来が心配になるわ)
「・・・でさ、何の話だっけ?」
「・・・さぁ?」
二人とも首をかしげてしまう。どうやら肝心な話をすっぱり忘れてしまっていた。
「・・・、・・・!?」
「・・・、・・・!?」
と二人同時にそれに気づく。
「あの!」
「あの!」
またもや同時。意外とシンクロ率が高い。
「え~っと、とりあえずオレからでいいかな?」
「は、はい! どぞ、どぞです」
とりあえず年上?のオレから話を切り出すことにした。
「でさ、さっきの・・・」
「言いからただ黙ってアナタは、ワタシと『男女』の関係になってください!(>_<)」
・・・あっうん、オレは間違ってないよな?
「い、いや、オレから話をさ・・・」
「黙りなさい!」
と今度は強めにピシャリと|有無を言わさずの姿勢。
・・・そろそろさ、オレもキレていいよね?
オレの怒りは観測史上過去最高を記録しようとしていた。
「あははっだよね~・・・って! てめぇ人が甘くしてりゃ調子に乗りやがってこのクソあ・・・」
今まさにマジギレしようとするオレの口に、冷たい金属でできたモノが突っ込まれ、言葉を続けられなかった。
「・・・(ま)」
「ワタシは『黙れ』と言ったはずですが・・・アナタには聞こえませんでしたか?」
オレは『ぶんぶん』と首を横にふり、『聞こえてました!』と言葉ではなく、行動で示す。
何故なら・・・オレの口の中には、ロシアンマフィアが大好きなトカレフさんがイートインされていたからだ。
第2話へつづく