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瑠璃の王石  作者: シエル
第1部 王女の帰還
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4.約束

澄み切った青空が広がる、ある日の昼間のこと。アイリスの花が咲き渡る野原の上で、ある"約束"を交わしたハーシェルとウィル。しかしその約束は、二人の運命からして、決して守ることができるはずもない約束なのだった……。

石は目覚め、ついに物語は動き出す。



 それからというもの、近くの町に宿をとっているというラルサは、毎日のようにハーシェルの家にやって来た。宿をとってからは、馬ではなく歩いて来るようになっていた。「いっそここに泊まればいいのに……」とセミアは言った。男一人分の寝るスペースくらいあるのだ。しかしラルサは、「お、王妃様とわたくしが同じ部屋で寝るなど、めっそうもございません!」と、瞬時に提案を断った。

 ラルサは、小屋を訪れてはよくハーシェルやウィルと遊んだ。小屋の外で追いかけっこをしたり、そりすべりをしたり。特にそりすべりは、今までに二人がやったことも、考えたこともなかった遊びだったので大興奮した。

「こうやって、この箱を縦に切って広げるだろう?」

 ラルサはこの日、町から厚い紙でできた大きな箱を二つほど持ってきていた。市場でいらなくなったものをもらってきたのだ。普段は、この中に果物や野菜などが詰め込まれている。

「そして、ここをこうくっつけて……ひもを通せば……」

 ラルサは意外にも器用な手つきで、その箱を折ったり、切ったりを繰り返した。ただの箱だったはずのものが組み合わされて、徐々に別の形のものへと作り変えられていく。

 しばらくすると、それは立派なそりへと変貌していた。

「わぁ!」とハーシェルたちが歓声を上げた。

「行くぞ!」

 そりを脇に抱えたラルサを先頭に、三人は小屋の外へと走り出ると、ラルサは野原の傾斜にそりを置いた。

 そしてその上に座ると、ハーシェルたちを手招きした。

「さあ、嬢ちゃんたちも乗るんだ」

 まだハーシェルのことを「姫」と呼ぶわけにはいかないので、ラルサはハーシェルのことを「嬢ちゃん」と呼んでいた。セミアには先に無礼を謝っておいた。ちなみにウィルのことは、「ウィル坊」と呼んで親しんでいた。

『ええ!?』

 ハーシェルとウィルは同時に声を上げて驚いた。どう見ても、三人で乗るには狭すぎるのだ。

「お前ら二人ともちっこいから大丈夫だ! そら、乗った乗った!」

 ハーシェルが先に乗り込み、ウィルがそれに続いた。確かにぎりぎりだが、なんとか三人とも乗ることができた。ハーシェルが先頭で、ウィルが二人の板ばさみになるような形になった。

 ラルサがひもを持ち、他の二人もひもやらそりの縁やらをつかんだ。

「しっかりつかまってるんだぞー! 行っくぞー……三、二、一……」

 うわああああ! と、子どもたちの叫び声が、澄んだ青空を突き抜けるように響き渡った。

 最初は怖がっていたものの、それはすぐに興奮へと変わった。二人は味をしめて、何度もそりで丘をすべった。ハーシェルとウィル、二人ですべったり、また三人ですべったり。遊び疲れて、その夜ハーシェルは夕食も食べないで気を失うようにパタン、と布団の上に倒れた。そして、そのまま朝まで眠ってしまった。

 三人で近くの川に遊びに行ったこともあった。いつもは母がついてきたが、今回はハーシェルとウィル、ラルサの三人だ。ラルサは手づかみで魚をつかまえて見せ、ハーシェルとウィルを大いに驚かせた。負けじと二人も挑戦したが、すばしっこい魚をつかまえることは思った以上に難しかった。しまいには、魚に向かって飛びかかったハーシェルは勢い余って水の中へ転び、服を全部濡らしてしまった。怒られることを覚悟して家に帰ったが、セミアは「派手にやったわね」と言って笑っただけだった。




 そんな日々が続き、約一週間が経とうとしていた。

 今朝も、ラルサはハーシェルの小屋を訪れ、セミアと椅子に座ってお茶をしていた。

「本当に、いつもありがとう。ハーシェルたちと遊んでくれて。あの子たち、最近とても楽しそうだわ」

 セミアが紅茶をすすりながら言った。

 ラルサは首を横に振った。

「いえいえ、そんな感謝されるようなことはしていませんよ。『遊んであげている』なんて感覚は全くありませんからね。子どもたちよりも自分の方が楽しんで遊んでいるのではないか、なんて思うこともしょっちゅうですよ。あ、でも嬢……ハーシェル様には、かないませんね。あの子は何に対しても全力で楽しんでいる……いえ、いらっしゃる」

 ラルサは言葉につっかえながら言った。

 セミアはふふっ、と笑った。

「無理しなくてもいいのよ」

「わたくしにも、あの子とそう年が離れていない息子がいるもので。子どもと遊ぶことには慣れているのです」

 そう言って、ラルサも少しお茶をすすった。

「では、早く息子さんに会ってあげなくてはね。もう一ヶ月もあなたの帰りを待っているんですもの」

「――セミア様」

 ラルサはかたん、と紅茶のカップを机の上に置いた。

 それから、決然とした表情でセミアをまっすぐに見て言った。

「明日の早朝、ここを発とうと思います」

 夜に出て行くことも考えたが、夜では逆に怪しまれやすい。朝ならば、少し遠出をする、とでも考えれば、全く不自然な行動ではない。それがラルサの考えだった。

「荷物と……心のご準備を」

 ラルサはかなり心構えをして言ったのだが、セミアは特に驚いてはいなかった。

 ただ、そんな気遣いをしてくれるラルサを安心させるように、微笑んだ。

「心の準備なら、とっくにできてるわ。私も、そろそろ頃合いだと思っていたの。あとは荷物の準備と……」

 (――ハーシェル)

 セミアは心の中でつぶやいた。

 あの子に、本当のことを話さなければならない。本当のことを知ったら、あの子はどんな顔をするだろうか。自分がお姫様であると知って、喜ぶ? ……いや。きっとひどく驚き、悲しげな表情をするだろう。ハーシェルは、この野原とウィルのことが大好きなのだから。この場所から離れねばならないことは、とてもつらいに違いない。その上、ここへ戻ってこられることは、決して、ないのだ。

 それに、セミアはもう一つ心配していることがあった。果たして、ハーシェルは王宮の暮らしに上手く馴染めるのだろうか。山で自由奔放に育ってきたハーシェルにとって、王宮での暮らしは堅苦しいはずだ。

 ラルサはセミアの考えていることを察してか、黙ったまま何も言わなかった。「大丈夫ですよ」なんて、言えるわけもない。

 ふと、ラルサが言った。

「そう言えば、嬢……ハーシェル様は、一体、外で一人で何をしておいでなのですか?もう一時間以上、部屋にお戻りになっていませんが」

「さあ? どうしてかしらね」

 セミアはとぼけた。

 ハーシェルは、セミアにこっそりある"計画"を話してからというもの、毎朝一人で外の草むらに座り込んでいた。時々立ち上がっては、アイリスの花を何本か摘んでいる。そして最後には、必ずこそこそと小屋の裏に何かを隠しているのだった。

 ずっとハーシェルが行っていたこの行動の意味は、今日の昼、ウィルがハーシェルの家にやって来た時にすべて明らかになる。



 澄み切った青空が広がる真っ昼間。ウィルはいつものようにアイリスの野にやってきた。

 ハーシェルは小屋の近くの野原に座ってウィルを待っていた。ウィルが来たことに気づくと、ハーシェルは立ち上がって下にいるウィルに向かって大きく手を振った。

「ウィルー!」

 ウィルも、ハーシェルがいることに気づくと走って野原を登ってきた。

 少しだけ息を切らして、ハーシェルがいるところにたどり着いた。

「やあ、ハーシェル。……今日はおじさん、いないの?」

 ちょっぴり残念そうにウィルが言った。いつもなら、ウィルが来たら「さぁ、遊ぶぞー!」とばかりにラルサが陽気に笑いながら小屋から出てくるのだ。

「うん。さっき帰っちゃった。なんか、出かける準備があるから忙しいんだって」

 ええー、とウィルはますます残念そうな顔をした。

「もしかして、もうすぐ自分の家に帰っちゃうのかなぁ……」

「ねぇ! そんなことより、今日はウィルに渡したいものがあるの!」

 ハーシェルが意気揚々と言った。

「渡したいもの?」

 ウィルは不思議そうに聞き返した。

「うん! ちょっと待ってて!」

 そう言うと、ハーシェルは身をひるがえして小屋の方へ走って行き、その後ろへと姿を消してしまった。すると今度は背中の後ろに何かを持って、両手を隠しながら出てきた。

 両手を隠しながら走り出すと転んでしまいそうだったので、帰りは歩いてウィルの元まで戻ってきた。

 ハーシェルはぴたり、とウィルの前で止まった。

「なんだい?」

 ウィルが戸惑うように聞いた。ウィルには、ハーシェルの背中の後ろにあるものが何なのか、全く想像がつかなかった。

「目、つぶって」

 ハーシェルが言った。

 ウィルは素直に目を閉じた。

 ウィルは、自分の頭にふわり、と何かがかかるのを感じた。

「もう開けていいよ」

 目を開けると、ハーシェルがにこにこしながら立っていた。

 ウィルは頭の上に手をやり、そこにあるものを探った。そしてそれに手を触れると、あっ、と声を上げた。

 これってもしかして……

 ウィルは両手で頭の上にあるものを取り、見える位置に下ろした。

 それは、アイリスの花で作られた花冠だった。

 器用に花が束ねられ、輪っかの一面に白い花が咲いている。形もしっかりしており、随分と立派な冠だ。ウィルが以前に作ったものよりも断然上手い。

「すごい……これ、ハーシェルが作ったの?」

 ウィルは目を見張って冠に魅入った。

「うん!」

 ハーシェルは、ウィルの反応を見て満足げにうなずいた。

「ハーシェル下手だから……毎朝、うまくなるまで練習しようって決めたの。ウィルがいない間にね。びっくりした?」

「うん。だって、前に作った時よりすごく上手にできてるんだもん」

 ウィルが大まじめに言った。

 ハーシェルは、にへへ、と照れたように笑うと、またくるっと体を後ろに向けて小屋の方に走って行った。そして小屋の後ろへと消えてしまった。

 今度は現れるのが少し遅かった。ウィルは再び去って行ったハーシェルに、小屋の方向を見つめたまま、ぽかん、とその場に突っ立っていた。

 すると、今度は腕やら首やらにいくつもの花の輪を下げて、ウィルの方へと下ってきた。優に全部で十個以上はあるだろう。

「見て見てっ」

 ウィルの元へ戻ってくると、ハーシェルはとさっ、と体にかけていた花をすべて地面に下ろした。それらも皆、アイリスの花で作られたものだった。長いものから短いものまで、大きさはバラバラだ。それらのほとんどは、花がしおれてしまっているものや、すでに枯れてしまっているものだった。

「今までに作ったやつ。これが最初に作ったやつで……ひたすら長く編んでみたの。これがその次に作ったやつで……これはけっこう最近作ったやつかな。花がまだ元気な方だから。……あっ、これ昨日作ったのだ!」

 ハーシェルは座り込んで、その一つ一つを手に取り始めた。そしてそのうちの一つをぱっと取り上げて、ウィルに見せた。

 なるほど、ウィルかかぶっているものと出来栄えがそう変わらない。違いと言えば、花が少ししおれていることだった。

 ハーシェルはウィルと同じように、その冠を頭にかぶった。

「前にウィルと一緒に冠を作った時、ウィルが冠をくれたでしょ? すごくきれいにできたの。あの時ね、もっともっとうまくなって、今度はハーシェルがウィルに冠をあげようって決めたんだ。だからそれ、お返し」

 そういうことだったのか。

 ウィルは思った。

 ハーシェルがアイリスの花でたくさん編んだのは、単に冠作りが上手くなりたかったからじゃない。ウィルにあげるためだったのだ。ウィルにあげるためだけに、上手になろうと毎日一生懸命練習した。

「ありがとう」

 ウィルは感謝の気持ちを込めてハーシェルに言った。

 ハーシェルは座ったままウィルの方を見上げて、応えるように笑った。

 ハーシェルはまだ立ちそうにない気がしたので、ウィルはハーシェルの隣に腰を降ろした。

 ウィルは座ってあたりの景色を見回して初めて、アイリスの花がわずかだが、なんとなく減っていることに気がついた。一週間近くも大量に花を摘み続ければ、それも当然かもしれない。どうしてこれまで気がつかなかったのだろう。

「花、減っちゃったね」

 同じことを考えていたのか、ハーシェルがやや元気のない声で言った。

「かわいそうなこと、しちゃったかな」

「大丈夫だよ。アイリスの花って一年じゅう咲いているだろう? だから、すぐにまた元どおりになるよ。それに、つんだ分の一部は、こうしてぼくがもっているし」

 ウィルがハーシェルを励ますように言った。

「――〝永遠に変わらないもの〟」

 ハーシェルがふと、何かを思い出したようにぽつりと言った。

「ねぇウィル、花言葉って知ってる?」

「花言葉?」

 ウィルが聞き返した。

 ハーシェルはうなずいた。

「そう。花にはね、一つ一つに意味がこめられているんだって。そして、それに合わせてそれぞれが〝言葉〟をもっているの。前にお母さんが言ってた。――ウィルが言ったように、アイリスの花って一年じゅう咲いてるし、ハーシェルがこんなにとっちゃっても、たぶん気がついたら元にもどってるの。成長するのが速いから。いつも変わらず、そこにあるの。だからアイリスの花言葉は、〝永遠に変わらないもの〟」

 ハーシェルが言った。それから、思いついたように付け足した。

「ハーシェルたちも、変わらないよね。ずっと一緒にいられるかな」

 ウィルはほとんど間髪を入れずに答えた。

「いられるよ。当たり前だろう?」

 そう、それは二人にとって当たり前のこと。

 それでもハーシェルは、そう言ってくれたウィルが嬉しくて、ぱっと顔を輝かせてウィルの方を見た。

「絶対?」

「絶対」

 ウィルが力を込めてうなずいた。

「じゃあさ、約束しようよ!」

 ハーシェルは右手の小指をぴん、と立てると、その指をウィルの方に出した。

 そして、じーっとウィルの方を見つめた。

「……」

 何かを待つように自分を見てくるハーシェルに、ウィルはわからない、という表情をした。

 ハーシェルは驚いた。

「まさか、知らないの? 約束する時はね、お互いの小指どうしを握手するみたいにからませるの。そうやってやった約束は、絶対にやぶっちゃだめなの」

 ウィルは自分の左手の小指を立てると、ハーシェルの小指とからめさせた。

「……こう?」

 うん! と言ってハーシェルが笑った。そして、ぎゅっと願いを込めるようにウィルの小指を握った。ウィルも同じように小指で握り返した。

「いい? 来年も再来年も、ウィルはハーシェルの家にやって来るのよ。そして、鬼ごっこをしたり、川に行ったりして遊ぶの。ずっと変わらずに」

 ウィルはうなずいた。

「おばさんのアップルパイも食べたいな。また焼いてくれるかな?」

「もちろんよ。あのあと、たくさんりんご買ってきたんだから。明日にでも食べられるわ」

 それから、ハーシェルはウィルに満面の笑みを見せた。

「ずーっと一緒だよ」

「うん、ずっと一緒だ」

 ウィルの顔にも自然と笑みが広がった。

 さぁっと野原を撫ぜるように、二人に優しく風が吹きつける。花びらが、小さな吹雪のごとく、ひらりと空に舞い上がった。

 ハーシェルは、この瞬間をずっと忘れないだろうと思った。景色も、温度も、草の感触さえも。まるで時を止めたかのように、なぜか一瞬がとても長く感じた。

 しかし実際は、ほんの数秒のことだった。

 約束を交わし合うと、ハーシェルは小指をはずして立ち上がった。

 ウィルもそれにならって立つと、二人は並んで仲良く野を下り始めた。

「あっ、そう言えばね、明日ウィルと行きたいところがあるの。市場ってすごいんだよ。人がたくさんいてね、それで食べ物とか服が……」

 身長差があまりない二人の頭の上には、肩を並べるように同じ白い花冠が隣に並んでいる。楽しげな二人の会話はだんだんと遠ざかり、やがて野原に溶け込むように消えていった。


 ――だが、二人にその明日がやって来ることは二度となかった。

 来るはずもない明日を信じて疑わず、ハーシェルとウィルは今はただ幸せそうに笑い合っていた。



   *  *  *



 その日の夜のこと。

 ハーシェルとセミアは床に就いていた。と言っても、眠っているのは母のセミアだけで、ハーシェルは布団をかぶって横になってはいるもののまだ寝ついてはいなかった。時々あることだが、たまたまセミアの方が先に眠りについてしまったのだ。

 なんとなくまだ眠くなかったハーシェルは、横になったまま明日のことを考えていた。昼にウィルと遊んだ時に、明日一緒に市に行く約束をしてきたのだ。

『市場か……。楽しそうだね』

『でしょでしょ? 明日あるから、一緒に行こうよ!』

『そうだね。でも……』

 ウィルは何か悩むように少し黙ったが、気を変えたのか、明るい顔をして言った。

『うん、行くよ。一人で行くよりは楽しそうだ』

 ハーシェルは驚いて、一人で行ったことがあるの? と尋ねたが、『え、うん、まあ……』と妙に落ち着かなげに返事を返されただけだった。割とやんちゃなハーシェルでさえ、一人で山を下りようとなど考えたこともない。通い慣れているので道に迷わない自信はあったが、七歳のハーシェルにとっては遠いし、不安だ。同じ山に住んでいるウィルも、市場までの道のりはハーシェルとそう変わらないはずだ。

 (ウィルって、意外と行動力あるような……)

 しょっちゅう山道を一人でくぐってハーシェルの家にやって来るくらいだ、町に下りることも似たようなものなのかもしれない。

 ハーシェルは寝返りを打ってセミアと向かい合った。

 暗闇に目が慣れてきたハーシェルには、その表情がはっきりと見えた。形のよい唇をかすかに開け、きれいに整ったまつ毛がわずかに上下している。

「お母さん」

 なんとはなしに、ハーシェルは母の名を呼んでみた。

 しかしその声が届いている様子はなく、規則正しい静かな寝息ばかりが聞こえてくる。

 (つまんないなぁ……)

 横向きになっている母の胸からは瑠璃色の石がすべり落ち、布団の上に転がっていた。深い瑠璃色の海の周りを、薄い霧が覆い隠すように白くうず巻いている。暗くてはっきりと色は見えないものの、いつも眺めているハーシェルにとっては、その色が今もよく見えているような気がした。

 あまりに暇だったハーシェルは、なんとなく手を延ばして石に触れてみた。

 その時だった。

 突然、すーっと霧が晴れるように、石の表面の白いもやがゆっくりと動きながら消えていった。かと思うと、石の中心から全体にかけて、勢いよく青白い光が溢れ出してきた。その光は部屋全体を青白く照らし出し、小屋のすき間から幾筋もの光となって外に飛び出した。

 ハーシェルは「わっ!」と叫んで石から手を離した。しかし、その光がおさまることはなかった。あまりの眩しさに、ハーシェルは目を開けているのがやっとだった。

 セミアも、その明るさに気づいて慌てて飛び起きた。

「いけない!」

 セミアはすぐさま自分の手で輝く石を覆い隠した。それでも光はあふれんばかりに手の中から漏れ出していたが、いくぶんかはマシになった。

 二人で息をのんで見守っていると、やがて徐々に光は弱まっていき、部屋は再び暗闇に包まれた。

 セミアは恐る恐るといったふうに、ゆっくりと手の中を開いた。石は、光を失って静かにそこに横たわっている。

 セミアはそれを確認すると、黙って近くに置いてあった手持ち用の小さなランプに火を灯した。

 明かりの中で石を目にしたハーシェルは、その石が光り輝く前と今では、全く違っているように感じた。

 まず明らかに変化しているのは、色だ。謎めいた雰囲気の深い青が、ずいぶんとすっきりした明るい青になっている気がする。

 (……いや、違う。色が変わったんじゃない。……もようが変わったんだ)

 瑠璃色の周りを覆うようにあった、うっすらとした白が見事に消え去り、あとにはもともとあった青だけが残されている。すっきりして見えたのは、このせいだったのだ。

 さらに、気のせいではないかと思えるほどわずかではあるが、石がかすかに光っている。青の色自体が変わったのではない。白が消え、石が薄く光っているがために、色が変化したように錯覚したのだ。

 そして、もう一つ。見た目以上に大きく異なっていることがあった。

 石に、ものすごい生命力を感じるのだ。

 光る前はただの物体だったはずのものが、まるでどこからか命を吹き込まれたように息づいている。

 (この石、生きている……)

 なぜそう思うのかはよく分からなかったが、ハーシェルははっきりと確信をもってそう感じた。

「石が目覚めた……」

 セミアが石を見つめたまま、放心したようにつぶやいた。

 それから、きっ、と表情を変えると、ハーシェルと向かい合って言った。

「こうしてはいられないわ。いい、ハーシェル、今から私が話すことをよく聞きなさい。あなたにずっと黙っていたことがあるの。どっちにしろ明日の朝には話すつもりだったけれど、少し早めなくてはいけなくなったわ。あまり時間がないから、絶対に口を挟まないこと。質問は全部移動中に聞くから。いい?」

「移動……?」

 ハーシェルは聞き返そうとしたが、「いい?」ともう一度セミアに厳しい表情でさとされると、突いて出てきそうになる言葉を飲み込んで、黙ってうなずいた。

 セミアは、すぅーっと息を吸って話し始めた。

「今から七年前、この国の隣国であるナイル帝国と、その西のミスク共和国の間で戦争があったの。ほとんど不意打ちの状態で襲われたナイルの王宮内は、それは慌てたわ。民を先に避難させていたのが、唯一の救いだった。けれど、王宮の人々はまだ逃げてはいなかった。王宮を落とされるなんて、よっぽどの時だけですもの。だけど、ミスクの勢力は予想以上に大きく、その上同盟国に出兵していたせいで、国に残っていたナイル兵は少なかった。王宮にまで戦が及ぶ危険性が生じたのよ。そこで、王妃とまだ赤子だった王女は、安全のため国外へ避難した。……このアッシリア王国へ」

 セミアは、そこでいったん言葉を止めた。

 ハーシェルは、セミアの話を難しい顔をして真剣に聞きながらも、なぜ母は自分にこんな話をするのだろうといぶかしんだ。国どうしの戦の話や、そこから逃れた王妃と王女の話が、いったい自分にどう関係しているというのだろう?

 そして次に母が発した言葉は、ハーシェルにとってはにわかには信じがたいものだった。

「私たちがその王妃と王女、アッシリアに逃れてきたナイルの正統な王族なのよ」

 ハーシェルは、ぽかんと口を開けてセミアを見つめた。

 今、母はなんと言ったのだろう。ナイルの、正統な王族……?

 続けて、セミアは静かな表情でハーシェルに言った。

「それに、私たちの姓は『エリス』じゃない。正しくは『ルイス』。あなたの本当の名は、『ハーシェル・ルイス』。ナイルの、ただ一人の姫なのよ」

 ナイルの、姫……

「……それじゃハーシェル、お姫さま?」

 ハーシェルは裏返ったような声で言った。

「そうよ」

 セミアの明るい茶色の目は、真剣そのものだった。

 ハーシェルはセミアと同じ色、セミアより少しだけ大きい瞳をめいっぱいに開いた。

「きれいな服を着て、おいしいものいっぱい食べて、広い広いお城に住んだりするの?」

 ハーシェルが想像するお姫様とは、そのようなものだった。母が寝る前に時々読み聞かせてくれた、物語の中に登場するお姫様たちだ。だが、それはあくまでも遠い国の、遠い世界の物語で、自分とはまるでかけ離れたものだった。

「そうよ」

 セミアがまたうなずいた。

 ハーシェルはさらに大きく目を見開いた。

「……すごい」

 それは、女の子なら誰もが想像する、夢のような世界だった。ハーシェルはそんな夢のような世界を想像して、幸せに頬が緩みかけたが、あることに気づくと急速に笑顔も浮き立つ心もしぼんでいった。

「待って」

 ハーシェルの顔からは、もはや血の気が失われていた。

「『そうよ』ってどういうこと? それじゃ、まるでハーシェルたちがここから出て行くみたいじゃない。だって、お姫さまって、お城にいるものなんでしょう?」

 ハーシェルがこわごわと尋ねた。

 セミアは悲しみとも、哀れみともとれる表情をハーシェルに向けた。

「戦争は終わったのよ。私たちは、帰らなければならない。ラルサがここへ来たのは、それを知らせるためよ。だから言ったでしょう? 移動するって」

 それは、ハーシェルにとって死刑の最終宣告も同然の言葉だった。

「いやよ!」

 ハーシェルは立ち上がって叫んだ。

「ここを出て行くなんて、絶対にいや! それなら、お姫さまなんかじゃなくっていい。このままここにいる方が、ずっといいもん! ここを離れるのはいや。ウィルに会えなくなるのもいや! 明日、一緒に市場に行くって約束したもん! 絶対に、いや!」

 ハーシェルはそれからしばらく、いや、いやを繰り返した。

 セミアはただ黙っていた。厳しい口調でさとそうとすることもなければ、なぐさめることもなかった。

 それが、逆にハーシェルを落ち着かせた。何も返事が返ってこないのだから、必然的に、言い返す言葉も生まれない。

 言葉はだんだんしりすぼみになっていき、やがてハーシェルはあきらめたように何も言わなくなった。

 どちらも言葉を交わさないまま、数十秒か、数分の時が流れた。ハーシェルには、どのくらい経ったのか分からなかった。

 ハーシェルがぽつりと言った。

「ナイルって、遠いの? ときどき、ウィルに会いにここに戻ってこられる?」

 セミアは、なぜか深くため息をついた。

「距離的には、戻るのが不可能なほど遠くはないわ。アッシリアの本当にすぐ隣だもの」

「じゃあ――」

 ハーシェルは顔を明るくして言いかけた。

 しかし、セミアは暗い表情のままハーシェルの言葉をさえぎった。

「だけどね、やっぱり不可能なことなのよ。アッシリアとナイルの間には、それ以上に大きな問題があるの。距離が近いことなんて、何の意味ももたない。一度アッシリアを出てしまえば、戻るのは絶対に無理な話だわ」

 どうして、とハーシェルが聞いた。

 セミアはしばし言いにくそうに口をつぐんだが、やがて重い口調で答えた。

「――アッシリアは、ナイルの敵国なのよ」

 ハーシェルの顔に驚きの表情が広がった。

 その時、とんとん、と突然小屋のドアをノックする音が、寝室の壁をはさんで響いてきた。

 二人は、あからさまにびっくりして体を縮み上がらせた。

 セミアは、ドアがある方向の壁を見つめたまま、身じろぎもしなくなった。

 ハーシェルも、時間が時間だったし、深刻な話の途中だったので、不意打ちの訪問者に異常な警戒心を抱いた。

 緊張感で、空気がぴりぴりと張りつめる。

 しかし、意外とすぐに声は聞こえてきた。

「セミア様、わたくしです」

 ラルサの声だ。

 セミアはホッと息を抜くと、立ち上がりながら言った。

「ちょっと待ってて」

 そう言うと、セミアは早足に寝室から出て行った。

 ハーシェルも、セミアに続いて少し遅れて部屋から出た。

 そこでは、ちょうどラルサがあたりをうかがうように、ちらちらと外に目をやりながら戸を閉めている最中だった。

 ラルサは戸を閉めたあと、きちんと横板を引いて鍵をかけることも忘れなかった。

 戸が閉まるやいなや、セミアはしゃべり始めた。

「ラルサ、よかった、来てくれて。大変なの。石が――」

「石が、目覚めた?」

 セミアの言葉をついで、ラルサが言った。

 セミアはちょっと驚いたような顔をした。

「ものすごい光でしたからね。明日に備えて、外で馬の体調の最終確認をしていたら簡単に見えましたよ。山の中のこの小屋の方向から、光が放たれているのが。派手に光ったのが、不幸中の幸いといいますか、それもまた不幸といいますか……」

 ラルサは困ったように眉にしわを寄せて、右手で髭をなでつけた。

 それから、ちらりと石に目をやって言った。

「この子が石に触れたことは?」

 セミアは首を横に振った。

「いいえ。おそらく、今回が初めてだと思うわ」

「そうですか。この子が石に触れたことが起因と考えて、まず間違いはないでしょうね。しかしまあ、二百年もの長い間眠っていた石を、こうもたやすく目覚めさせてしまうとは。この子はもしや――」

 ラルサは、何か考え事をするようにしばらく黙った。しかし、それ以上は何も言わなかった。

「とにかく、すぐにアッシリアの者がやってきます。あの光で誰も気づかないはずがございません。出立のご準備を」

 セミアはうなずくと、どこからか大きなリュックサックを持ってきて、その中から地味な茶色の大きなマントを引っ張り出した。そしてそれを寝衣の上から体に巻きつけるように羽織ると、もうひとつ、今度は少し小さめのマントを取り出して、ハーシェルに着せ始めた。

「これから長い旅になるけれど、あなたは何も心配しなくていいんだからね。お母さんの膝でずっと眠っているといいわ。そうしたら、きっとすぐに着くから」

 セミアはハーシェルにマントを着せ終わると、立ち上がってリュックサックを背負った。マントを出したせいか、ずいぶんとリュックがしぼんでいた。本当に必要最低限のものしか入れていないのだ。

「あっ、いけない。寝室のランプをつけっぱなしだったわ」

 セミアは、はっとしてあわてたように言うと、急いで寝室の方に戻ろうとした。

 その時、それまでやけに静かだったハーシェルが、ふいに口を開いた。

「……約束、したのに」

 セミアは寝室に行きかけていた足を止めて振り返った。また髭をなでつけながら考えにふけっていたラルサも、顔を上げてハーシェルを見た。

 ハーシェルは、どこかぼんやりした表情をしていた。

「ずっと一緒にいるって。来年も再来年も、鬼ごっこして、川で遊んで、一緒にアップルパイ食べるって。約束――」

 ハーシェルの両目に、ふわっと涙が浮かび上がる。

 そして、そのまま眠るように気を失った。

 ハーシェルの後ろには、たった今軽く首筋に手刀を入れたラルサが、その小さな体を支えながら立っていた。

「手荒なことをしてすみません。でも、こうしてあげた方がこの子のためだと思ったので……。見ていられなくて」

 ラルサは、いたたまれないような表情をして言った。

 セミアは首を横に振った。

「いいえ、いいのよ。私もその方がいいと思うわ。このままでは、ハーシェルの心が悲しみでつぶれてしまう」

「運命とは、いささか残酷だとは思われませんか? この子が無邪気な笑顔で野原で遊んでいるのを見ると、ときどきそう思うことがあるのです。今までは普通の子どものように、ただ無邪気で平穏に過ごしてきたのに、そのままでありたいと願っても、明日からはただの子どもでいることさえできない……」

 ラルサはハーシェルの頭をそっとなでながら、悲しげに言った。

 あどけない表情で眠っているハーシェルはまだ幼く、頬には涙のあとが残っている。

 これからこの子に訪れるであろう試練を考えると、ラルサは不敏に思えてしかたがなかった。

「……石まで目覚めさせてしまった上に、唯一の友達にも二度と会えないかもしれない。この子は、運命に耐えていけるでしょうか?」

 さぞかし娘が心配だろうと思いながらセミアの顔を見て、ラルサは驚いた。

 意外にも、セミアはラルサほど心配そうな表情はしていなかった。むしろその瞳はまっすぐとして気丈で、今朝までの不安そうな顔が嘘のようだ。

「いいえ、ハーシェルはそんなことでへこたれたりしないわ」

 セミアは、ラルサに向かって微笑んで見せさえした。

「私の子ですもの」

 その時、ラルサはなぜか妙に納得してしまった。

 一人赤ん坊の姫を抱きかかえたままこの小屋にたどり着き、今朝までの心配をものともせず、ハーシェルを信じる強さをもっている母の娘なら大丈夫だという気がしたのだ。

 ハーシェルのことを心配してへこたれているのは、自分の方だったのかもしれない。

 (相変わらず、見かけによらず心がお強いお方だ……)

「確かに、今はとても苦しくて悲しいかもしれないわ。けれど、この子は必ず立ち直る。昼間にハーシェルのことを考えていたら、なぜかそんな自信が芽生えてきたの。だから大丈夫よ、ラルサ。ハーシェルのことは心配しないで」

「……は、はい」

 王妃様の心配をなぐさめるはずの自分が、なぜ逆に王妃様になぐさめられているのだろう……

 ふとラルサは思ったが、この際それ以上は考えないことにした。

「では、ランプを消したらすぐに出発しましょう。もしも追っ手が来た時は……いいですね?」

 セミアはしっかりとうなずいた。

「ええ。あなたを置いて全力で逃げるわ」

「……あの、もう少しわたくしのことを心配するそぶりを見せてくださっても。あってはいるんですが」

 ラルサがしぶい顔で言った。

「あら、だって心配したってしょうがないじゃないの。私はきっとハーシェルを守るのに必死だもの。それに、あなたは死なない。……そうでしょう?」

 セミアはいたずらっぽく笑った。その言葉からは、ラルサに対する全信頼が見てとれた。

 ラルサは目をわずかに細めて微笑んだ。

「ええ、そうですね」

 それからセミアがランプを消すと、セミアたちは静かに小屋を出た。

 晴れた空にはまんまるにほど近い月が輝き、思ったほど暗くはなかった。

 小屋の前では、ラルサが引き連れて来た二頭の馬が、すっくと闇の中に立って並んで待っていた。馬の片方には、すでに荷物がくくりつけられている。

セミアはラルサのリードも待たずに、さっさと荷物がない方の馬に乗り上がった。ラルサも、もう片方の馬にハーシェルを抱えて乗ると、ハーシェルを自分の前に座らせて手綱を手に取った。

 セミアは最後に見おさめとして小屋を振り返った。使い古した箒、割れた壁板の補修の跡、中からよく子どもたちを眺めた窓。そのひとつひとつに、今はひどくいとおしさを感じた。

 仮の住まいではあったけれど、この七年間、この小屋はセミアにとっても"家"であり、愛着もわいていた。ここを離れたら最後、この小屋はもう誰のものでもなくなってしまうが、またいつか、他の誰かが自分のように花咲く野原の中でこの小屋を見つける時が来るのかもしれない。

「では、いいですか?」

 ラルサがセミアを振り返って言った。

 セミアは小屋から目を離して前を向くと、覚悟を決めたようにうなずいた。

 二頭の馬が一列となって、月明かりをたよりに夜の野原の中を駆け下りる。そしてその先には、底知れぬ闇をたたえた深い森が待っていた。

 セミアはもう、振り返らなかった。



   *  *  *



 セミアたちがアイリスの野から消えてまだ数分と経たぬ頃。

 アイリスの野には、セミアたちと入れかわるように、暗褐色のマントに身を包んだ男たちが、馬にまたがり荒々しい様子で現れていた。人数は七、八名で、胸にはそれぞれワシの翼をかたどった銀の紋章――アッシリア王家、直属の部下であることを示す紋章が、月明かりに照らされ光っている。

 男たちはすぐに丘のてっぺんに立つ小屋を見つけると、一人を先頭に丘の上を駆け上がって行った。小屋の前に着くと、先頭を走った男は後ろの三人にその場に残るよう指示し、すばやくあたりをうかがうと、残りの数名を連れて小屋に入った。

 男たちは乱暴にドアを開けると、土足のままずかずかと部屋に上がり込んだ。部屋にはまだ生活の跡が残っており、洗った皿や使い込んだフライパン、テーブルの上には花瓶にさされた花が飾ってある。花はまだほとんどしおれていない。窓辺には、この家の住人が作ったのだろうか、きれいに編み込まれた花冠が一つ置かれてあった。窓から差し込む月明かりにちょうど照らされて、暗い部屋の中でくっきりと白く浮かび上がっている。

 それらにざっと目を通すと、次に男たちは寝室に入った。ほんのついさっきまでそこで寝ていたかのように跡の残った布団、そして、そのそばには手持ち用の小さなランプが立っている。

「ちっ、逃げられたか……」

 クローゼットの中やカーテンの裏など、人が隠れられそうな箇所を隈なく物色したあと、部下の一人が舌打ちをして言った。

 先ほど仲間に指示をした男は、かがんで布団のそばのランプに手を伸ばすと、そっとそれに触れた。男はその感覚に、すっ、と目を細めた。

「まだ温かい……」

 男はランプから手を離して立ち上がると、仲間の方を振り向き低い声で言った。

「探せ。まだそう遠くへは行っていないはずだ。急げ!」

 男たちはうなずくと足早に小屋を出、馬に再びまたがった。

 リーダーの男は隊を二人ずつに分けた。そして、「散れ」という一言と同時に、一斉に放射状に斜面を馬で駆け下りた。

 そのうちの一つは、真っ直ぐにハーシェルたちがいるのと同じ方向へと向かって行った――


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