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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王の正答

章終わり。前の話とくっつけてもいい感じ!


「満天の星空……って、こういうのを指すんだろうね」



 雷雲を突き抜けた山嶺(いただき)。その吹き抜けを昇りきった3人を迎えた物は、海だった。

 カナは画面端に映る時計に目をやる。15:22。当たり前だ、さっき昼食をとってきたばかりなのだから。

 では、この光景はなんなのだろうか。黒よりも黒に近い青に、綺羅綺羅と輝く星々が瞬いている。眼下に広がる雷雲よりも黒く、稲光よりも明るい星々。


「なぁ、課金王……。この場所、どこなんだ? これだけ高いのに雷雲が途切れねぇ。どこっつーか……どうやって辿り着いた?」



 頭上に広がる黒い海も、眼下に広がる灰の海も、どこまでも広がっていた。

 このゲームに描画範囲などという無粋な物は存在しない。見たまま、見えたままが真実だ。ならば、ここはどこなのか。


「……βテストの時に用意されたマップは、今のサービスで使用されているマップとは違ったのだ。集められた100人のβテスターは、10人ごとに各地に配置された。報告に上がる限り、『絶海の孤島』、『煮え滾る溶岩に囲まれた洞窟』、『光り輝く雪山』など、様々な場所だな。

 余が配置されたのはここ、『雷鳴轟く剣峰』の麓の村だったというわけだ。雷鳥信仰の篤い村だ」



 βテストだというのに、運営はほとんど情報を落とさなかったとセインも聞いている。

 それでも離れないプレイヤーが多かったのは、余りにも出来過ぎた世界のせいか。


「βテスト故に、課金アイテム等なかったのでな。とりあえずプレイヤースキルのみで攻略するほか無かった。その時の相棒が、この霊峰をクリアしたもう1人ぞ」



 え? という顔でセインが課金王を見る。だって、それならば。


「じゃあここの攻略に、課金王はエリクシールを使ってないの?」


 

 カナが代わりに質問する。

 課金王の代名詞たるエリクシール。それを使うからこそ、課金王は課金王だと思っていたのだ。真似できないと言ったのもエリクシールを使いまくるからだと。


「意外そうな顔よな。まぁ、気持ちはわかる。それが余のプレイスタイルぞ。

 だが、それが無い時代は己が身一つでなんとかするしかなかった、それだけよの」



 そういえば、セインが言っていた。本来ならば課金王はもっと強いと。それは、もしかしたらセインの知っている強さよりも上なのかもしれない。


「つーか、課金アイテムが無い時代から課金王って名前だったのか?」

「ふ、流石にそれは道化というものぞ。βテスターの報酬として、名前を変える権利と配置された場所にワープ結晶で飛ぶことができる権利が与えられた。この時、余は課金王となったのだ」



 つまりここが『どこ』であるかを、課金王ですら知らないのだ。


「βテスト時代に配置された場所で、実装されているマップと地続きに発見されているのは『煮え滾る溶岩に囲まれた洞窟』だけぞ。名を『サンディーヴァの熱窟』。セインはクリアしているのではないか?」

「おう、そこはクリアしたな。大分最近。

 ってことは、ここも隔離空間とかじゃなくて繋がってるはずってことか」



 サンディーヴァの熱窟は、lv100帯のダンジョンだ。常時ダメージとして熱風の効果があり、素手もしくは防具の無い所で敵に触れただけでダメージが来る。


「じゃ、じゃあさ。思いっきり突っ走ればどっかに着くんじゃない?」

「方角がわかればそれでいいのだがな。見当違いの方向に走っても場所の特定は出来んぞ」



 だよねー、と落ち込むカナ。カナが思いつく事を目の前の課金王が試していないはずがない。


「んで、ここが目的地の最後って事でいいのか?」

「そうだな。だが、最後に1つだけ見せたいものがある。戦うことはできないが――」





 徐にインベントリを操作する課金王。いつもの水晶の大剣を取り出し――装備した。


 直後。


 神鳴りが響き渡る。

 通常、上から下に降るはずのソレは――眼下に広がる雷雲から、一直線に真上に上がった。



「な……。途中から装備つけても、敵は湧かねぇはずだろ……?」


「……何か、いるよ!」



 カナがナックルを装備し、構える。

 雷雲から伸びる稲妻はその本数を増し、響き渡る神鳴りはその強さを増していく。

 吹き荒れる嵐がそのまま逆さになったように、雨と風も上空へ上空へと昇っている。


 カナの言うとおり、何かがいる。稲光と同じ速度で飛ぶ何かが。1匹ではない。稲妻の本数が増えるたびにその数を増やし、こちらを取り囲んでいる。


 まるで、縄張りを荒らされた動物の様に。


 まるで、神聖な物を護るために集まったかのように。


 そのナニカが通った後には青い軌跡が残り、それは螺旋を描くように3人の周りを飛び続ける。

 目で追うことは敵わない。カナはそう判断し、目を閉じようとする。


 だが。


「セインにカナよ、よく見ておけ。今となってはどうしてこんなことを試そうと思ったのか覚えていないが……、これが正解らしい」



 そう言葉を紡いだ課金王は、インベントリを操作し――エリクシールを取り出した。

 周囲の蒼い軌跡が、虹色に揺蕩うエリクシールの瓶によく映える。


 課金王はそのエリクシールを――直上に向かって思いっきり投げた。


 甲高い音。

 それが鳴き声だと気付いたのは、カナの直観か、セインの観察眼か。


 頭上の黒い海よりも深く、昏い青。

 仰ぎたくなる程の威圧感。


 そして――稲光に照らされて、一瞬だけ見えたその姿。


 パリンと音がして、エリクシールの瓶は割られた。


「あれが――サンディーヴァの鳥達の愛し子、ヴィンティルだ」







 


「……いやぁ、すげぇモンみた気がするぜ……」

「うん……」


 

 あれほど吹き荒れていた嵐は、エリクシールがヴィンティルに吸収されると同時止み、周りを取り囲んでいたナニカ――課金王曰くサンディーヴァの鳥達――もいなくなった。

 カナも課金王も武装を解除しており、今はただ静寂が過ぎるだけだ。


「どうだ、カナよ。

 この世界、面白いと思わぬか? 余もコレを始めて見た時は大声で宣戦布告をしたものだ。必ずすべてを見つけてやるとな」



 課金王の言うとおり、カナはこの世界に興味が出始めていた。戦闘するだけでなく、探究者として世界を見たいと。


「あー、カナをこっちに引き込むためのサプライズだった、って事か? 俺まで再燃してきたぜ……」

「折角見込みのある新人が現れたのだ。深淵(こちら)に引きずり込まない手はあるまいて。強い者は何人いても足らぬからな」



 未だ放心しているカナを置いて、セインと課金王は話し合う。ここで言う強い者というのは、レベルの話ではない事くらいセインにもわかっている。


「……なぁ、カナ。めんどくせぇから話しちまえよ。一人称は俺じゃなくても気にしねぇって。そんな奴腐るほどいるからよ」

「へっ? え、へっ? 

 あ、あー……。うん、そうだね。一々訂正するのめんどくさくなってきたし……」



 丁度いいとばかりにセインがカナを現実に引き戻す。

 

「薄々感づいてたと思うけど……私、リアルでは女なんだ。騙しててゴメンネ?」

「コイツ、女で殴ったりするのはイメージ悪いからーって頑なに男キャラしか作ろうとしなかったんだ。んで、作ったら作ったで女口調は気味悪がられるーってな」



 赤毛の青年は、都合悪そうな笑みで謝った。


「そうか……では、同性として、改めてよろしく頼むぞ、カナ」

「うん! ……うん?」


βテスト


βテスター100人を募集して行われた仮サービス。仮サービスとはなんだったのかというくらい完成され切ったそれは、前評価が悪かったゲームということも相俟ってか、特大の高評価をたたき出したという。

最も、ダンジョンの難易度により不満は多数出たようだが。

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