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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王との登山

繋ぎにつき短い! 短い回! 

 雷鳴轟く、とはこの場所を示すのだろう。

 ゴロゴロではなく轟轟という雷の音。ゲームという仕様上、音量は抑えられてはいるものの、思わず耳をふさぎたくなる音であるのは間違いなかった。

 空を覆っているのは灰と黒のまだら模様。時に白い稲光が照らすそれは、果ての見えない巨大な雷雲。


「着いたぞ、2人とも。武器を外してくれ」



 3人が現れた場所は、そんな霆降り注ぐ山嶺(いただき)

 少し背伸びすれば雷雲に手が届くのではないかと思う程の高所だった。


「んだ、ここ……上に雷雲があんのに、下にも雲がある……?」

「あ。ナックル外さないと敵が湧いちゃうってことか。ん、おっけ。

 で、ここがヴィンティルの霊峰? すっごい高いね……」



 セインの言うとおり、眼下には更に雲の海がある。所々に見える緑とも黒とも取れる錐は、背の高い木々だろうか。

 

「そうだ、ヴィンティルの霊峰。余がβテストの時に見つけた場所よの。知る人ぞ知る、という奴だ。余ともう一人しかクリアしたという報告を聞かぬ」

「wikiにあげねーのか? 独り占めだーとか騒ぐやついるだろ?」

「あげてるぞ。しっかりとどのように攻略したのかもな。真似できるとは思わぬが」



 課金王はその性質上、時間さえかけられればクリアできないダンジョンがない。エリクシールがぶ飲みができるからだ。 それを理解している故に、課金王は新発見ダンジョンの情報を逐一BBSやwikiにあげている。それを、所謂『一般の』攻略組が参考にし、初心者や普通のプレイヤー用に解いてwikiが完成する仕組みだ。

 アンチは沢山いるが、課金王に感謝しているプレイヤーも少なくないのだ。


「カナは……まぁ、いけるやもしれんな。どうする? 今からでも武器を装備すれば、戦うことができるぞ?」

「……んー、いいや。わ……俺はやりかけたらやり終わるまで浮気できないタイプでさ。シュネなんとかの雪山も終わってないのにこっちに手をだしたら、どっちもできなくなりそうだから」

「シュネクレーヴェな。つか、そろそろ認めろよめんどくせぇ」



 な、何が!? はいはい、なんでもないですよ、と掛け合う2人を微笑ましい目で見る課金王。勿論気付いている。


「そうか。ならばいい。

 さて、ここは入口なのだ。奥へ進もうぞ」

「奥? 奥って……あ、なんか洞窟がある」



 基本的にワープ結晶でいけるのはダンジョンの入り口だ。そこからは自分の足で進むしかない。勿論モンスターは湧かないので観光がてら、だが。


 振り返って本山の方へ歩いていく課金王。セインとカナもそれに続いた。







「時にセインよ。ヴィンティルというワード、聞き覚えはないか?」



 歩きながら課金王がセインに問う。


「んあ? あー、あるぜ。創世神話のだろ?」

「……ね、ねぇ。ちょくちょく出てくる創世神話って、なんなの?」



「創世神話というのはな、このゲームの世界の歴史のようなものぞ。初心者の街……プライマだな。そこには図書館があるのだが……行ったことは無いか?」

「え、そんなのあったんだ……。

 えへへ、早く戦ってみたくてすぐ街の外に出たからなぁ……」



 恥ずかしそうに言うカナ。VR慣れしていない者がとる行動としては、そこまで珍しくなかったりする。


「つーかコイツ脳筋だからそういうの読まねーと思うぜ。戦ってる時はあんなに頭よさそうにみえんのにな」

「セインだって同じでしょ! ……って、セインがそういうの読む事が驚きなんだけど」



 そうでも……あるな、と頭を掻くセイン。


「いやよ、俺もまぁ戦ってる方が好きなんだが……このゲームリアル志向なトコ多くてよ、いろいろ調べてみたくなるんだ。Wikiに上がってる考察とか暇つぶしにはちょうどいいぜ?」

「うむ。余はココをもう一つの世界だと思っているくらいには好きぞ。

 創世神話は、その名の通りこの世界の成り立ちを綴った物語ぞな。

 1柱の龍と世界の核たる龍樹、それを取り囲む妖精と花畑、元素を司る卵生の動物達。

 そこから展開していく世界の成り立ちのような物語ぞ。

 最初は世界の説明として置かれていると思われていたのだがな、どうにもそれ以上の説明が無い。無論運営はノータッチだ。

 だが、攻略していく内に関わりのありそうなダンジョンとモンスター、アイテムが出てきてな。余も含め、謎を解き明かそうとするプレイヤーは皆創世神話を読んでいるというわけだ」

「オルキディアの蒼篭手のオルキディアってのも、創世神話に出てくる妖精だぜ。つか、誰々の何々っつー装備はみんな創世神話に関係ある上にユニーク装備だな」



 改めてとんでもないものを貰った気がすると冷や汗を流すカナ。


「ヴィンティルというのはその神話に出てくる鳥ぞ。雷と嵐を呼ぶ夜の鳥。雷鳴と同じ速度で飛ぶと言われる。番をヴァルフィンとし、はじまりの子供達を産んだとな」

「……ちょっとだけ興味出てきたかも」



 そのヴィンティルの霊峰を進んでいく3人。

 20分程歩いただろうか、不意に課金王が立ち止った。


「ん? 目的地に着いたのか? にしちゃなんもないっつーか……洞窟もまだ奥があるが」

「思ったより普通の洞窟だよね。この前いった鍾乳洞の方が綺麗だったかも」

「……2人とも、上を見るといい」



 立ち止まって洞窟の上……天井に顔を向ける課金王。

 言われ、2人も上を向いた。


「……わぁ」

「……空?」



 視界の先。

 そこは空だった。


「この場所が山嶺の頂点の真下ぞ。吹き抜けになっているようでな、頂点は上の雷雲を突き抜けているが故、空が見える。さて、昇るぞ2人とも」

「…………え?」



 あー、昇んのかーと合点が言った様子のセインと、言っている意味が解らないと目を点にするカナ。2人にパワーポーションがかけられた。


「先に行くぞ」

「カナ、ロッククライミングって奴だ。まぁ安心しろ、パワポで想像以上に握力あがってっから。落下ダメージは……まぁなんとかなるだろ」

「安心できないよ!?」



 2人を置いてどんどん昇って行く課金王。それにセインが続き、渋々と言った様子のカナも昇り始めた。


プライマの街


キャラクターを作成した時に最初に現れる街。NPCの武器屋、防具屋、道具屋、スキル屋等が揃っている。初心者向けに生産をするプレイヤーも少なくは無い。

他に図書館や役所、ギルドハウスなどがある。



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