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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王との探索

綺麗な世界が視たいです……。

 急流。

 後ろから押し上げる力が強い故に進んではいるが、四方から来る圧力は地味にHPを削ってくる。自身の防御力が他二人より高いこと等承知の上な課金王は、視界の隅に映るHPバーが少しでも削れたらワイドエリクシールを飲み、補佐していた。


「む……陽光か。余の読み通りならば……」



 後ろのセインは揉みくちゃになって回転しまくっているが、課金王はしっかりと姿勢を保って出来る限りのマッピングを行っていた。


 Illusi-Online。そこそこの歴史を持つこのゲームのコンテンツが、何故3割程しか開拓されていないのか。

 細部を詰めれば不満は沢山出てくるのだろうが、大きな理由は2つである。

 

 1つは、フィールドが広大過ぎる事。


 広大なフィールドという売り文句はMMORPGにはありがちだが、広すぎると不満が出る程広いゲームは中々ない。Illusi-Onlineはその少ないゲームの一つだった。

 帰還のワープ陣以外、ワープ系アイテムがすべて課金ということも相俟って、徒歩で開拓するしかないプレイヤーは多大なる時間を強いられるのだ。


 暇な検証班が、リアリティに富んだこのゲームの広さを、水平線の丸みから割り出そうとしたことがあった。この運営なら星ひとつ作りかねんという議論の結果から。

 1度目の検証結果を信じる事が出来ずに他の場所でも計測を繰り返したが、割り出される答えは同じだった。


 なんと、地球7個分。計算上では、それほどの規模があるという判断だった。



 もう一つは、ミニマップがない事。地図が欲しいなら自分で描けというスタンスは、βテストの頃から一貫して変わっていない。なんど運営に要請を出しても、「それだけはできません」という答えが返ってきた。

 幸い無地のスクロールは簡単に手に入ったので、MPを消費して文字を書けるペンを以てプレイヤーは昔ながらのマッピングをすることになった。



 この2つの理由から、世界開拓は中々に進んでいないのである。


 課金王も世界を隅々まで開拓したいと思っているプレイヤーの1人だ。初めていく地域だからこそ、マッピングを疎かにするなど以ての外だった。


「あと12分……。

 セイン! シュリ! もうすぐ出口ぞ! 受け身の準備を!」

「……」

「楽しいッスねこれー! セインはグロッキーッスけど」



 大丈夫そうだと判断し、課金王は衝撃に備える。


 光。出口だ。






――――『ゼーラーゴの湖に到達しました』――――



 ドブッ! という音と共に、3人は排出された。

 片膝を着きつつも、しっかりと着地する課金王。

 背中から思いっきりぶち当たるセインと、その上に鈍い音を立てて着地するシュリ。

 三者三様である。


「ぐふっ……さっきのヘビ野郎より重いぜ……」

「失敬なッス! アタシはクラスで一番軽いんスよ!?」

「大分広い所に出たな……。湖底、か?」



 パーティメンバー同士なのでダメージは入らないが、なんとなくワイドエリクシールを飲む課金王。

 よっこいせ、とシュリを退かして立つセイン。退かされたシュリは着地したあと、キョロキョロと周りを見渡している。


「ほぉー、こりゃキレーなとこッスねー。お日様も見えるし、上行ってみるッスか?」

「さっき聞こえたアナウンスからして『ゼーラーゴの湖』ってとこなんだろうな。3人とも初到達でいいのか?」

「称号があれば、そうであろう。しかしゼーラーゴか。創世神話に出てきた単語よの」



 自身達が排出された穴のある壁を昇って行く3人。水ではないとはいえ、多少の浮力がある液体のおかげでパワーポーションは必要無かった。

 

「あー、なんだっけ。ゼーラーゴの魚達だっけ? 図書館で見たな」

「うむ。サンディーヴァの鳥達の対として描かれる物よな。もしやこの湖にソレがいるのやもしれぬぞ」

「ssの準備はバッチシッスよー! って、そろそろ湖面ッスね」



 3人、ほぼ同時に湖面から顔を出す。

 そして、その光景に息を飲んだ。



 虹色に揺蕩う湖面。

 真白の湖畔は太陽光を反射し、銀に輝いている。

 遠くに見える山々はその雄大さを誇示し、蒼空との境界線を見せつける。


「あの山脈は……シュネクレーヴェの雪山か。なるほど、そういう位置関係か」

「なんつー広さだよ……。シュネクレーヴェの雪山自体結構遠いとこにあったよな?」

「agi900が全力で走って20分ッスね。にしても、遠近感が息してないッスねー。山よりこの湖の方がデカく見えるッス」



 Agi900は、そのまま900km/hだ。よって、凡そ300km程の距離があると言える。

 そこに初期値のagiで辿り着いたカナってやっぱ面白れぇよな……とひとりごちるセイン。


「観光及び探索はまた今度、ぞ。この場所は記憶された。ワープ結晶を使う」

「ん、おーけぃ。そうだ、シュリもアイツに会ってかねぇか?」

「アイツって、期待の新人君ッスか? ……うーん、遠慮しとくッス。ママ……じゃない、お母さん待たせてるッスから。お昼ごはん食べてないんスよ」



 とりあえず飛ぶぞ、と課金王がワープ結晶を使う。

 3人は光に包まれた。







「カナはまだインしてねーみたいだな。時間はギリギリってか」

「予想以上に移動時間が長かったよの。スピードポーションが意味を為さぬ移動法は鬼門ぞ」

「んじゃ、アタシは落ちるッスー。あそこ攻略する時は誘ってくださいッス!」



 応、承知と返事をする2人に手を振って、シュリはログアウトした。


 その場所、数㎜は違うかもしれないが、今シュリがログアウトした場所に現出するログインの光。

 出てきたのは赤毛の青年。カナだ。


「同一人物説……ッ!」

「え、うわ!? 二人ともずっと待ってたの!? ごめん、急いできたつもりだったんだけど……同一人物って何?」

「案ずるな、カナよ。余もセインも今きた所ぞ」



 今この場所に着いたのだ。間違いではない。

 セインも課金王も、1食抜く事くらいは日常茶飯事だった。

 食事よりもゲーム。ダメな大人である。日々をエンジョイしていると言えるのだろうか。


「さて、カナよ。戦闘と観光、どちらがしたい?」

「え、2択!? スキルとか使ってみたいんだけど……」

「んなのは後で教えてやるからよ。観光行こうぜ観光。ワープ結晶なんて本来そんな使いまくれるもんじゃないんだぜ?」



 課金王が湯水の如くアイテムを使うせいで忘れがちであるが、基本無料のVRMMOの課金アイテムという物は高価だ。それをタダで使わせてくれると言っているようなものなのだから、課金王の『王さ加減』が窺い知れる。

 ちなみにワープ結晶は1つ500円だ。中々に良いお値段。


「んー、そんなに言うんなら、観光で! でも観光って何するの? ただ見て回るだけ?」

「うむ。見て回るだけぞ。魔境秘境よの」

「このゲームの醍醐味の1つでな。一度クリアしたことのあるダンジョンに武器つけねーでいくと、敵が湧かねーんだ。パーティメンバー全員が着けてねー必要があるけどな」



 先に上げた2つよりは小さいものの、攻略が中々進まない理由の1つとして度々話題にあげられる理由がコレだ。

 観光組が多すぎるのだ。

 新しいダンジョンを開拓し、強い敵と戦いたい、且つ世界を見たいという攻略組。課金王やセイン、シュリは此処に属される。

 そして、開拓された綺麗な世界を見たいだけで、戦いはそこまで好きじゃないという観光組。Illusi-Onlineの、なんと半数以上のプレイヤーがここに属される。


 彼らは基本生産職などに就き、アイテムを提供する代わりにダンジョンをクリアした攻略組について行かせてもらうというスタンスを取っている。

 それほどまでに美しい世界なのだ。


「へぇー。どんなトコがあるの?」

「未到達地は沢山あるが、開拓地だけでもより取り見取りぞ。逆に問おう、カナはどこへ行きたい?」

「割と何でも通るぜ、カナ。どこがいい?」


「んー、じゃあ高い山! この前いったシュネなんとかの雪山以外で! あそこは自分でクリアしたいからね」

「シュネクレーヴェな。そういうトコこだわるよな、お前」

「当然! わ……俺が到達するからこそ気持ちいいんだろ?」



 とってつけたように口調を戻すカナを余所に、どこがいいかと思案する課金王。

 やはりこういう時もマップが無いのは不便である。手描きの地図が描かれたスクロールは倉庫の奥だ。記憶力の良い課金王は、余計なスクロールを持ち歩かないのである。


「ふむ……、ヴィンティルの霊峰でどうだろうか。現状見つかっている中では一番高い山よな」

「じゃ、そこで!」

「え、おい課金王! 俺そこ知らねーぞ!? どこだソレ!」

「ならばセインも楽しむがいい。ワープ結晶――行先は、ヴィンティルの霊峰」



 勢いよく首を課金王に向けるセインを諭しながら、課金王はワープ結晶を使った。

 わくわくしているカナと声を荒げるセイン、フルプレートで見えはしないが、多分ニヤリと笑っている課金王を光がつつんだ。


パワーポーション 1つ200円


スピードポーション 1つ200円


ガードポーション 1つ200円


キヨウサポーション 1つ200円


マジックポーション 1つ200円


ラックポーション 1つ200円


エリクシール 1つ700円

ワイドエリクシール 1つ900円


ワープ結晶 1つ500円


耐久ポーション 1つ900円

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