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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王とレイドボス
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仲間達の奮闘と格闘家の覚醒

そもそもなんで格闘家は不遇なのか、という。


 大樹に向かって疾走する後藤。

 見える物すべてが軌跡になって流れて行き、エルフィンの大樹は目の前だ。

 そしてその幹に、足を掛けた。

 落ちる事無く登って行く。 行ける。


「なんつー解放感だ……クセになりそうだぜ」

「そりゃ同感っスけど、無職ってそんな速いんスか? アタシ、忍者がAGI界の中では最高だって思ってたんスけど」

「ん?」


 そんな後藤の横を並走する、コスプレ忍者少女。

 慣れているのか、余裕そうに話しかけてきた。

 

「あぁいや、これはアクセサリの効果だ。 ハイトゥの耳飾りって言ってな、際限なくMPを喰う代わりにAGIを高め続けるって品だ」

「なんすかそのアタシが最も欲しいタイプのアイテム。 どこで手に入ったとか教えてもらえたりは」

「最古の街プライマ、ってトコだな。 今度課金王と一緒に行く事になってる。 お前さんも着いてくるか」

「いいんスか? っと、敵さんに気付かれたっぽいっスね! 『氷牙(ひょうが)』!」


 忍者娘――シュリの言う通り、二人に殺到してきていた枝が苦無によって凍結される。

 氷牙は苦無に冷気を纏うスキルで、焼刃と並んで使用頻度の高いスキルである。


 無職の後藤にはない攻撃手段。 幼い少女に護られるという状況に微妙な顔をしながらも、後藤は突っ走る。

 樹木の表面に生える水晶花を毟り食べれば、たちまちMPが回復した。 ライフは回復しない。 これもまた違う種類のようだ。


「なんか策はあるんスか?」

「あの花、叩き折ろうと思ってな。 根本をどうにかしない限り、みんな死んでくだろ」

「まぁアタシも同じ事思って来たッス。 けどアンタ、攻撃手段無いんじゃ?」

「殴れば多少削れるだろ? 繰り返すだけだ。 それに、今は早さが上がってる。 威力も上がるだろ」


 幹から枝葉の中へ入る。

 枝葉に絡み付いた水晶がでこぼことしているが、それに躓くほど二人は運動神経が悪くない。


「後藤さん、右ッス。 飛ぶッスよ」

「おう」


 突きでる枝を避けながら、気配察知の使えるシュリの導くままに駆け抜ける後藤。

 一切の躊躇なく、シュリの後を追って跳躍した。


「ッ、忍者、左だ!」

「わかってるッス! 『焼刃』!」


 豪ッと燃え盛る炎が伸びてきた枝を包み込む。

 しかし、炎には強いらしい枝に怯んだ様子は無い。


「後藤さんっ、これでヘイトはアタシに向いたはずッス! 水晶花、頼んだっスよ!」

「任せろ!」


 だが先の迎撃に加え、危険視すべきはシュリと判断したエルフィンの大樹が、内の攻撃の一切をシュリへと殺到させ始めた。 引きつけたままシュリは後藤と別の方向へ駆けだす。

 おかげで、後藤は攻撃される事無くソレの元へと駆け得る。


「よ、ほっ……っしゃ!」


 そして辿り着いた。

 今なお雷をチャージしている水晶花の、その根元。

 後藤の胴回りと同じくらいの太さの茎。 そこに向かって、躊躇なく拳を叩き込んだ。


「おし、ダメージは通るな。 だったら俺の領分だ」


 シャリ、と花を食べて。

 後藤は、未だに増え続けるAGIの恩恵を遺憾なく発揮して、超速の連打を始めた。

 素手の攻撃力は2。 普段であれば蚊に刺された程度にもならないその攻撃が、一瞬のうちに有り得ない量で叩きこまれる。


 それは目に見えて水晶花の茎を抉り始めた。


 後藤の顔にある表情は獰猛な笑みだけ。

 心は無。 ただ、目の前にある物を殴り続けるだけ!


 ある種格闘家よりも不遇な(自業自得だが)無職による、ささやかながらも重大な抵抗が始まった。









 


 シーンはエルフィンの大樹の根元、ヘイト稼ぎと完全回復役がいなくなり、ジリ貧に陥りつつあるプレイヤーたちに戻る。


 後藤とシュリが水晶花に辿り着くまでの移動時間は凡そ37秒。 その間に、ラジャネーと古城ではない方のPTにいた白魔が倒されてしまっていた。 残る白魔は、ぜっショタと相手方の1人だけだ。

 

「やばいやばい……課金王の回復に頼って白魔連れてこなかったのが本当にやばい!」

「やばいも何も、ウチにゃ元から回復魔いないじゃねえか。 エリクシールもってんだろ?」

「ワイドの話をしてんだよ! ジリ貧だぞ……!」


 根を捌きながらサイバー太郎とセインが言い合う。

 そう、脅威は何もあの雷光線だけではないのだ。 襲い来る根の頻度は先程までより早く、今でこそヴィンティルをもっつぁらら、ハルカ22、ぴーちゃんの3人が引き留めているがいつ撃破されるか分からない状況。

 氷魔が少ないこの現状、時間稼ぎも出来ない。


「まぁ、安心しろ。 あのビームに関してだけは、多分大丈夫だ」

「は? あのビームが一番やばいだろ」

「アイツが大丈夫って言ったんだ。 大丈夫だろ」


 セインが薄く笑う。

 その視線の先にいるのは、ぜっショタと何かを言い合っているカナの姿。

 

「……もし駄目だったら?」

「そんときゃそん時だ。 いつもそうだろ? ウチは」

「はぁ。 いっつも行き当たりばったりだよな……。 俺もう絶対野良パとかでやってける気がしないわ」

「双剣なんて状態異常ばら撒く役目以外やることないだろ」

「ヤメロォ!」


 四度目のチャージが始まった。







「だから! なんで近寄ってくんだよ! お前見るからに初心者だからわかんねーと思うけど、回復が一番ヘイト食うの! 俺の近くにいると無駄死にすんの!」

「それが目当てなんだってば! ヘイトが欲しいんだよ! あのビームは私がなんとかするから!」

「はぁ!? 格闘家に何が出来るんだよ! お前課金王のツレだろ! お前になんかあったら、その、……色々面倒なんだよ!」

「そんなこと気にしてゲームしてるの!? っていうか大丈夫だから! 確実になんとかできるから!」


 ぎゃいぎゃいと言い合うショタと青年。 勿論ぜったい☆ショタっ子とカナである。

 喧嘩しあい、罵倒しあう仲であったものの、それなりに……いや、最大限の信頼を置いていた部隊長が一撃でやられているのだ。

 布の服を着た、武器だけちょっと強いのをつけてみた風な初心者に何が出来るとも思えなかった。 ましてや格闘家。 PSさえあれば非常に強い職業である事は知っているものの、やはり初心者ではあのぴーちゃんの足元さえ見えないだろうと。


「奥方ァ! そろそろチャージ終わるでござるよ! やはり拙僧の後ろで隠れた方が良いのでは!?」

「貫通攻撃だっつってんだろ! 意味なく無駄死にする気か!」

「良い!? ぜっショタちゃん、そこを動かないでね! 判別しづらくなるから!」


 「ぜっショタちゃんておま……」というぜっショタの呟きはもうカナの耳に入っていない。 

 カナは集中する。 最大限に。 否、限りなく。


「そろそろ20秒だ! 誰が死んでも動揺だけはするなよ! その前にライフ削れ!」


 ryouhei831が叫ぶ。

 未だエルフィンの大樹のHPは半分あるとはいえ、削らない事には進まないのだ。

 その叫びは正しい。


「――来るッ!」


 光輪が集束する。

 雷が圧縮される。

 そして指向性を持った、ソレが――!



「そん……な!?」



 その後に続く言葉は、やはり「馬鹿な」だったのだろう。

 

 放たれた光線。

 雷の速度で走るソレは、しかし誰も貫いてはいなかった。


「へへっ……もう慣れたよ!」


 未だにバチバチと音を立てるそれ。

 輪郭の無い、ただの光としか表現できないその雷の線を、掴んでいる。

 カナの左手が。 白く光る、光晶拳を纏った左手が。


「ふんっ!」


 そしてあろうことか、カナは左手を思い切り閉じる事で、雷光線をガシャン! と砕いたのだ。


「お、お前……」

「どう? なんとかなったでしょ?」


 少しかっこつけて、首だけ振り向くカナ。

 ぜっショタは頷くしかない。 だってかっこよかったから。

 既婚の身とはいえ、かっこいいイケメンに振り向かれたらかっこいいと思ってしまう。

 しかも自分を守ってくれたのなら、尚更だった。


「カナ! 集中はあとどんだけ持つ!」

「いくらでも!」


 左手のひらに右こぶしを打ちつける。

 セインはその返事を聞いて、声を大にして叫ぶ。


「回復は絶対安全になった! あの二人はもう気にしなくていい! んで、ビームももう俺達には降ってこねえ! ならやることは!?」

「うるさい、言われなくても分かってる。 『アイスエンチャント』!」

「『アイスエンチャント』! 反撃だあああああ!!」


 マッカダナーとクレバー伊藤が双剣に氷属性を付与して突貫する。

 地面から突きでてくる根も完全に無視だ。 当たっても回復してくれると、ぜっショタを信じきっている。

 セインはもっつぁららにPT統合要請を送る。


「むむ、これは拙僧らも攻撃に転じて良いのでござるかな?」

「いいんじゃないかな。 どの道『アイス・ウォール』を貼ってる時間はないだろうし」

「では、拙僧らも最大火力の打ち込みとしゃれ込みますかな?」

「良いね、賛成だ」


 ホワイトマジシャンボーイと織田ちゃんが杖をまっすぐエルフィンの大樹へ向ける。

 火魔の『コロナ・レーザー』には劣るものの、氷魔にも火力の高い魔法は存在する。

 その中でもとびきりのものを使う気だ。


「セット、『ヘイル・レーン』」

「セット、『ヘイル・レーン』」


 コロナ・レーザーと同じく照射までに15秒かかるそれ。 二人の視界に、エルフィンの大樹を刺し貫く冷気の誘導線が映し出される。


「使うのは久しぶりだ……なんたって、ロマン砲みたいなものだからね」

「違いなし。 拙僧も試し打ち以外ではまだ使った事がござらん」


 そしてスタンバイが完了する。

 杖の先に、青白い粒子が集う。


「行け!」

「発射、でござる!」


 誘導線を伝い、空気が凍って行く。

 それは凄まじい速度でエルフィンの大樹に辿り着き――。


 キィン! と音を立てて、超巨大な氷の花を咲かせた。

 それはビームを照射してくる水晶花にも勝る大きさだ。


「砕けろ!」

(さい)ッ!」


 そのワードと共に砕け散る氷の花。

 それは微かとはいえ確実に、エルフィンの大樹の樹皮を抉り取っていた。

 ゴリっと大樹のHPが減る。


「なんだそりゃ! 初めから使えよ!」

「使うと照射まで動けないし、CTもかなり長いからね。 コロナ・レーザーよりは火力も出ないし、どこまで行ってもロマン砲でしかないよ」

「ついでに言うとMP全部使うでござるから、もう何もできないでござる。 どの道氷魔はもうお役御免でござろう?」

「ヒール対象を減らす意味でも、活躍はしたと思うよ」


 そう、ぜっショタ1人で対応できる人数には限りがある。

 ので、しっかりと攻撃のできる者だけを残して、後は見捨てた方が効率がいいのだ。


「あっ……ということで、後は頑張れ! ちょっと装備とかアイテムとか整えてから、また来るから!」

「うむ。 此方も部隊長を引き連れて参る。 しばし耐えるでござるよ」


 言っている傍から、地面から生えてきた根に刺し貫かれる二人。

 ぜっショタに自分たちは回復しなくていいというパーティチャットを送り、二人は消えて行った。



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