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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王とレイドボス
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課金王の消滅と仲間達の覚悟

不穏なサブタイトル。

そしてお久しぶりです。筆休めは終わりました。


 さて、ここでイベントの中心部から外れた、所謂花畑で行われている闘いに目を向けてみよう。 外縁部、サンディーヴァの鳥達と闘うプレイヤーたちである。

 前述したようにファイオリアの花が持つ特殊な効果が気になる研究組達は、躍起になってそれの採取に勤しんでいて、それを護衛する攻略組達もまたサンディーヴァの鳥達に慣れつつあった。


 そんな、程よく緊張が消えてきた――まだ一時間程しか経っていないのだが――頃合い。

 一人の弓使いがいつもの癖で使用した気配察知に、妙な物が映り込んだ。


 空を覆う大群の群青。

 その中を、ある方向に向かって直進する、ともすればサンディーヴァの鳥達よりも早い――魚群。

 

「おい、ぼーっとするなよ。 慣れてきたが、油断してっと死ぬぞ」

「あ、おう……空を飛ぶ魚……?」


 それらは銀色の軌跡を残しながら、大群と呼べる量が泳いでいた(・・・・・)

 銀の虹。 気配察知の赤と銀光は、美しかった。


 思わずSSを取る弓使い。


「あとで掲示板に載せるか……っとぉ!」


 急降下してきたサンディーヴァの鳥にスキル「リパーシヴ・アロー」(斥力を発生させるスキル)を打ち込み、これを回避する。

 辺りを見れば、未だに減る様子がみられないその群青に、仲間達が奮戦している。

 どの道あの魚群に何をする事も出来ない弓使いは、すぐさまその戦いに戻って行くのだった。








 場面を課金王たちに戻そう。

 ヴィンティルに微かなダメージを与えたぴーちゃんだったが、振り落されてあわや撃墜、という所をハルカ22ともっつぁららに助けられる。

 エルフィンの大樹のHPバーが黄色に変わった事で何か変化が来るかと身構えていたプレイヤーたちは、しかしヴィンティルが舞い戻って来ただけという(それにしたって脅威ではあるのだが)変化に戸惑いを覚えていた。


 基本的な話だが、レイドボスはHPバーの色が変わる時に行動パターンを変える。そしてそれは、レイドボス自身のものであるはずなのだ。 過去の例を見る限りは。

 過去にも取り巻きを持つレイドボスや二体一対のレイドボスも存在したが、片方を七割五割削ったからと言って、片方の動きが変わると言う事は無かった。

 だから、ヴィンティルが来た事がエルフィンの大樹の変化だと油断する者はいない。

 戸惑いこそすれど、絶対に何かあるはずだと身構える。


 そしてそれは、やはり正解だった。


「花が……!」


 口に出したのは誰だったか。

 ヴィンティルと闘う課金王、ぴーちゃん、ハルカ22、もっつぁららにそれを任せ、恐らく周囲の索敵をした誰かが発した言葉なのだろう。

 そしてそれにつられ、プレイヤーはエルフィンの大樹の上部と足元の花畑を見る。


 変化が顕著だったのはエルフィンの大樹の方だ。

 水晶の樹が絡み付いた大樹。 その枝葉に、水晶色の花が咲き始めた。

 足元のファイオリアの花と同じか、多少群青色が混じっているだろうか。

 ただ、足元のソレよりも遥かに巨大で――美しさより、恐ろしさを感じてしまう程、言い知れぬ威圧感を纏っていた。


 そしてファイオリアの花畑もまた変化をする。

 水晶色だった花弁に、うっすらと白色が混ざったのだ。

 ただそれだけの変化。 それだけの変化であるはずなのに、まるで何か得体のしれない強大な存在の背を踏んでいるかのような、危機感とも言うべき恐怖に襲われる。


『主様!? すごいの! 主様が様子を見に来てくれたの! 久しぶりなのー!』


 ヴィンティルが踊る様に喜ぶ。

 

 主様。

 課金王は、サンディーヴァの地下樹脈で聞いた話を思い出す。

 「世界の中心に或る龍樹」と、その後の言葉は聞き取れなかったが、確かにそう言っていたはずだ。

 気になる言葉。 創世神話の龍と、世界の中心に或る龍樹。

 関係が無い、などと思えるわけがない。


 さらに言えば、様子を見に来てくれた、と。

 なると……。


「――誰ぞ! この花を採取してほしい! 恐らく、先程のファイオリアの花と違う種になっているはずだ! しかも、創世神話において最も重要になる情報の一端と見たぞ!」

「ほっほー! マジかよ! 俺大活躍だな、りょーかいっと!」


 ぜっショタのヒールをの隙を埋めるように走っていたお兄たまと呼べが、抱えていたインベントリから錬金釜を取り出す。錬金術は錬金術師しか使えないが、錬金釜自体は持ち運び・開封共に誰でも可能なアイテムだ。

 出血毒の研究の最中だったのだろう、アールヴァルの地下水脈の水が入った錬金釜に、ファイオリアの花を漬けた。

 やはり、消えずにそのままの形を保つ花弁。


「……ぱく」

「ぴーちゃん?」


 その傍らで、ぴーちゃんが白くなった花弁を食す。

 白い粒子がその身体に取り込まれた。


「……これ、完全にエリクシールね。 ライフもMPも全快するわ」

「マジ? ってことはさ……」


 わざわざ敵が回復手段を用意してくれた。

 それだけで終わるはずがない。

 つまり、ここからさらに攻撃が苛烈になるということだ。


『ピュイ! エルフィンのおうちもようやく目を覚ました(・・・・・・・・・・)みたいね! おはよう!』

「まじかー……そういう事かー……」


 その言葉で大体を察した面々。

 今までの攻撃は、人間で言う所の寝相だったわけだ。


 そして、まるで伸びでもするかのように……メキメキと音を立て、エルフィンの大樹が更なる膨張を始める。

 この間も来ていた根による攻撃がさらに苛烈になると同時、枝葉に実った花弁がゆっくりと――下を向いた。


 そして、周囲の暗雲からバリバリと音を立てながら雷を吸収し始めたではないか。

 

「気のせいじゃなければ、花弁の中心になんか集まってる気がするんスけど……」

「氷魔ァ! 壁だ、壁造りまくれ! 俺はわかる! あれはやばい!」

「『アイス・ウォール』! こっちにもCTがあるんだけどな……!」

「『アイス・ウォール』! これを機に氷魔が増える事を願っているでござる」


 ryouhei831のまくしたてる声に氷魔法使いが反応するが、勿論連続で使用できる魔法ではない。 今までの一分間隔でギリギリだったのだ。 さらに、この間も根による攻撃は続いているので、立てた傍からシャリシャリと崩されていく。

 織田ちゃんの呟きは戦闘音に消えたが、プレイヤーの誰もがもう少し氷魔が欲しいとは願っていた。


 そして、群青の水晶花のチャージが終わる。

 カッ! という、まるでフラッシュを焚かれたかのような一瞬で――それは発射された。


「……ふん、まさか……一撃系とはな。 鎧の効果も関係無しか。 アホ運営め」

「これ……貫通、攻撃か……くそっ!」


 その先。

 最もヘイトを集めていた巻貝の薪と、そして課金王。

 恐らく巻貝の薪に向けて放たれた雷光線は、課金王をたやすく貫き、その背後に庇われていた巻貝の薪をも刺し貫いた。


 課金王の纏う「ハイトゥの大鎧」は、体力が減っていない状態で死に至る程のダメージを受けても必ずHPが1残る効果を持つ。

 だが、それが発動するのはあくまで「ダメージ」だった時だ。

 即死攻撃には為す術を持たない。


「課金王!」

「陛下!?」

「まずっ!」


 即死攻撃が成功した際、エリクシールを使用する猶予は存在しない。

 最大回復力を持つ課金王と、最大敵愾心を集める巻貝の薪の身体が、消えて行く。


「死ぬのは久方ぶりぞ……! すまぬ、皆! 出来るだけ早く帰ってくる! 失ったポーション各種、全て上限まで買ってくるでな!」

「俺を心配する声がひとっつもなかったのが心残りなんだけど? 俺もなんか有用なネタ武器でも漁ってく」


 ぶつぶつ不満を垂らしていた巻貝の薪と課金王。

 両者の身体が、フィールドから消えた。


 そして、なんでもなかったかのように――システム的にはなんでもないから当たり前なのだが――エルフィンの大樹の水晶花が、新たにチャージを始めた。


「っ……散開しろ! ちゃんと測ったわけじゃないが、チャージにかかる時間は20秒程だ! いいか、直線状に並ぶなよ! 消し飛ばされるぞ!」


 サイバー太郎が叫ぶ。

 この時点で既に五秒は経っただろう。

 しかし、散開しろと言われても、まとまっていなければ氷魔の盾が上手く機能しない。

 さらにここにはヴィンティルがいるのだ。 あまり広がるわけにはいかない。

 そんな折だった。

 

『んー、カキンオウいなくなっちゃった。 でも、同じ匂いのあなた! ピュイ! 遊びましょう?』

「あっちに手助けに行きたいのだけどね……。 カナ! 光晶拳は、何でも掴めるわ! 健闘を祈るわよ!」

「! わ、わかった! ぴーちゃんも頑張って!」

「ぴーちゃん。 私も加勢する。 ギルマスもいける?」

「勿論! 陛下の仇は取りたいけど、それは後回しよね」


 カナに助言を送りつつ、格闘家二人と軽業師はヴィンティルと相対する。

 他の者に被害が行かないように引き離す算段だ。


「さて……貴女は名乗りを理解しているようだし、課金王に倣って私もやらせてもらうわ。

 ――私は課金王に全てを捧げるためだけの存在、P.f.K! ぴーちゃんと呼びなさい!」

『ぴーちゃん! 可愛いのね!』

「あらありがとう。二人は、名乗る?」

「え。 あ……え、遠慮しておきます」

「何恥ずかしがってるのよ。 ふふん、私はやるわよ!

 ラジャネーレダローがギルマスにして創立者! もっつぁららとは私の事よ!!」

『もっつ……呼びにくいのね!!』


 毛色の違う美人二人が高らかに名乗りを上げ、さらにヴィンティルがそれに反応し、二人(もしくは二人と一匹)の視線がハルカ22へと集中する。

 う、とたじろいで、しかしハルカ22はパンッと手のひらに拳を当てた。


「ラジャネーレダローが……えーと、唯一の格闘家。 ハルカ。 貴女を倒す者」


 静かに、言う。

 叫ぶのは恥ずかしかったからだろう、その静かな宣言は、しかし隣のぴーちゃんに深く刺さったようで、ある種憧れのような表情を浮かべていた。


『ハルカ! 言いやすいのは良い事ね! 私はヴィンティル! 主様の地で生まれた最初の子供! そして、エルフィンのお母さんよ! よろしくね!』


 そんな、なんとも軽いノリで。

 勝ち目の全く見えない戦いは始まった。

 







「おい、カナ。 お前さっきぴーちゃんに言われた事……本気でやるつもりか? 課金王は今いないし、いても即死ダメ臭いから死ぬぞ?」

「うわ、ビビってんのセイン。 だっさー」

「心配してんだよ、アホ。 お前、死ぬの初めてだろ? VRゲームで」


 セインが真剣な顔で言う。

 そう、カナはVRゲームで未だ死を迎えた事が無い。 そんな初心者ははっきり言って異常なのだが、そうであったのだから仕方がない。

 ここにいるプレイヤーの面々は多かれ少なかれ一度は死んだことがある者達ばかりだ。

 単純にセーフティを強化して死を緩和している者もいれば、全くそういったことをせずにしっかり死んでいる者もいる。

 だが、皆が皆、総じて残すコメントは一つ。


 『死ぬのだけはやっぱ慣れないな』と。


 それは死んだ者だけにしか分からない感覚だ。

 体感ゲームだからこそ感じる、その不思議な感覚。

 ゲーム初めにワープ酔いをしていたカナが体調を崩さないか心配なのだ。


「大丈夫だって。 死なないからさ(・・・・・・・)


 パン、と手のひらに拳を合わせるカナ。

 その顔に翳りは一切ない。


 あるのは、非常に楽しそうな……ワクワクとした、好奇心に満ち溢れた笑顔のみだ。


「……ハッ、馬鹿カナを心配した俺が馬鹿だったわ。 ま、失敗した時は足腰に力いれておくといいぜ」

「ん、なんで?」

「漏らすからだよ、大抵の奴ウォァ!?」


 セインの顔面をオルキディアの蒼篭手が掠める。


「流石にデリカシーがない。 セクハラギルマス。 よって運営に通報する」

「待て待て待て待て! マッカーサー早まるな! 悪かった悪かった! あやまっから!」

「……いこ、マッカダナーちゃん。 とりあえずヘイト稼がないと」

「ん」


 マッカダナーとカナはセインにあっかんべーをしつつ、樹へと駆け出した。

 残されたのは、「別に普段は気にしねーだろ……」とふてくされるセインだけだった。






 水晶花のチャージが終わる。

 どこに放たれるのか。 一番ヘイトを持っている者の所。 誰がヘイトを持っているか。


「ッ! ぜっショタ! 『ガードステップ』!」

「うおっ……!?」


 それはもちろん、ヒールを連発しているぜったい☆ショタっ子である。

 

 超高速の光線がぜっショタを――。


「……ふ、ガードステップで……防げない事くらいは、わかっていましたよ……!」


 貫かなかった。


 部隊長が、弾き飛ばしたのだ。

 ぜっショタを。


「おま……」

「あぁ、勘違いしないでください。 陛下が倒れられた今、広範囲の回復手段は重要だ。 損得の問題です。 器用貧乏な長剣使いより、白魔が残った方がいいと判断したまでです」


 そして、貫かれたのは部隊長である。

 セーフティを使っていない部隊長の身体の側面には、大きな穴が開いていた。

 痛みこそ勿論制限されているが、左腕から右腋下にかけてまでが空洞になる経験などした事が無かったのだろう。 非常に不快そうに顔を歪めている。


「馬鹿が、かっこつけやがって。 夕飯はオムライスな」

「ふ……チーズマシマシで……お願いします……」


 部隊長が消える。

 蛇足であるが、現実の二人は隣り合ってプレイしている――!


「……確か、花を喰えばMPも回復するんだったよな?」

「あ、うんー。 僕もさっき食べてみたけど、全快だったよ」

「よし」


 後藤が覚悟を決めたような顔する。

 山川斎藤重兵衛の言葉で、何かを決意したらしい。


「AGI1000越えの状態で走るのはちょっと怖かったんだけどな……四の五の言ってられる状況じゃないか」

「へ?」

「要はあの花さえどうにかすりゃ、このビームは止まるんだろ? じゃあ……行ってくるぜ」


 瞬間、山川斎藤重兵衛の視界から後藤が消える。

 余りの早さに、消えたように見えたのだ。


「……無職って、AGI上がるのー?」


 盾の事以外はあまり知識の無い山川斎藤重兵衛の言葉に答えてくれる者は、誰もいなかった。



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