それぞれのレイドボスの攻略
だいぶ遅れました
イリュオンにおいて「攻撃手段」とされているのは大きく分けて2つ。
「スキル攻撃」と「通常攻撃」である。これはプレイヤーにせよMOBにせよ同じで、色々と不遇極まりない格闘家であってもこの法則には従っている。 敵MOBや一部プレイヤーは無発声でスキル攻撃が使えるので、通常攻撃との見分け方はエフェクトが付くか否か。
大剣使いの「撫で斬り」や鞭使いの「乱れ打ち」など、名前からすると通常攻撃かと勘違いするようなスキルにも、例えば薄らぼんやりとした薄ピンクの光だったり、青い残影だったりと、なにかしらのエフェクトが付く物だ。
待機状態で既に目に見えているものがほとんどだが、中には敵と接触してからエフェクトが見えるものもあるので初見での判断は難しいと言えば難しい。 だが、少なくともレイドボスの使うスキルは過去の例を見る限り全て前者。 攻略が出来る様にという配慮なのか、スキルの前兆がみえる仕様になっている。
「緑! 赤! 雷系!」
「『アイス・ウォール』!」
「『アイス・ウォール』!」
緑色と赤色のエフェクトを纏い始めたエルフィンの大樹。それを察知して、魔法職が壁を作る。 基本知識として、エフェクトの色によって属性が見えるのだ。 赤なら火魔法、緑なら風魔法といった具合に。
属性間の相性もあるので魔法職が1人いればいい、ということはない。 全属性を使える仕様ならばそれでよかったかもしれないが、属性は1人3つまで。 全属性をカバーするのであれば2人の魔法職が必要になる。
今回エルフィンの大樹が纏った風と火のエフェクトは、掛けあわせる事で雷の属性を纏う。 上位属性として扱われる雷は、地属性の壁を貫通してしまう。 本来ただの風属性であれば地属性の壁でも防げたはずなのだが、今回ばかりは火属性に強い氷魔法の壁のみ、となった次第だ。
エルフィンの大樹から射出されるような速度で伸ばされた水晶の根。それは氷の壁に一瞬阻まれるが――、
「く、押し切られる!」
「他に氷いないのか!?」
次第にピシ、ピシ……とひびが入り始める。
また、カバーできない範囲にいるプレイヤーに根が襲いかかった。
現在このフィールドにいる氷魔法使いはホワイトマジシャンボーイと織田ちゃんだけ。氷魔法自体あまり人気とは言えないので、人口も少ない。フレンドやギルメンに氷魔法使いがいる者はすぐにギルドチャットやメッセージを飛ばすが、結果は芳しくないようだった。
そうしている間にも根による攻撃は熾烈を増していく。
「めんどくせぇ、近接は自分でぶっ叩けばいいだろ!」
「ですね。あちらは陛下がいるので、もっつぁらら、PT統合しましょうか。ぜっショタがヒーラーですので」
「はいはい」
「うあー、シャチクにされる~」
ラジャネーレダローと課金王近衛部隊+後藤のパーティーが統合される。他のPTも同じようにヒーラー職がいるPTと戦闘特化のPTが統合した。 位置的にどんなに離れていてもPTという括りがあれば「マナエクステンド」や「ライフエクステンド」、「パーティーヒール」といった白魔のスキルは効果を現すので、ホワイトマジシャンボーイと織田ちゃんが別個の場所で壁を創ってもどちらもサポートできるようになったわけだ。
最初から被弾する気が一切ない者も少なからずはいるようだったが、できるだけ均等になる様に戦いの最中ながらもPTが4つ、出来上がる。
「じゃあヒールに専念するから、みんな頼むよ☆」
1つはぜったい☆ショタっ子、部隊長率いる課金王近衛部隊の面々、もっつぁらら率いるラジャネーレダローの面々、そして後藤のPT。 火力であるryouhei831とヘルウィンドに攻撃を任せ、ホワイトマジシャンボーイと織田ちゃんが壁を、ぜったい☆ショタっ子とお兄たまと呼べが回復を。 手裏剣大好き、ハルカ22、もっつぁらら、後藤が遊撃を務め、部隊長、山川斎藤重兵衛の二大巨盾が回復2人を守り抜く布陣だ。
ラジャネーレダロー、課金王近衛部隊のどちらも連係プレイは慣れたモノ。 後藤は持ち前の学習能力の高さで、ぜったい☆ショタっ子は何も考えずにPTメンバーが死なないようにヒールを掛け続けるだけという、割合理想的なバランスのPTとなった。
「よろしくね! マッカダナーちゃん!」
「う、うん……よろしくお願いする」
1つは課金王とP.f.K、kana0729の3人と統合したセイン率いる古城の砲門、そしてテルゾナ帰りの激熱侍EXと巻貝の薪。 正確には帰ってきたわけではないが。
このPTは前者のPTと違って、連携も役割も全く考えていない超攻撃特化だ。 課金王という火力兼ヒーラーがいる故に、他の職は安心して突っ込んでいける。 巻貝の薪はあくまでネタ武器職人であって近接職ではないのだが、ヘイトを稼ぐと言う一点においては無類の強さを発揮する。火力は無いのだが。
急遽用事が出来てしまい来られなくなった破壊王01に課金王のスクショをバンバン送りながら、古城の砲門は連携など一切考えずに突っ込んで突っ込みまくる。 マッカダナーとセインに対抗意識を燃やしたのか、カナもまたそれに倣って突っ込んでいった。
ピコピコハンマーやブーメランでヘイト稼ぎをする巻貝の薪によってヘイトのほとんどが集められ、集まったヘイトによる一点集中攻撃はぴーちゃんと激熱侍EXが叩き潰す。
一定間隔でワイドエリクシールによる全体回復が入り、誰も引くことなく手を休める事も無い。
ここもまた、ある意味理想的なバランスのPTといえるだろう……か?
残る2つのPTは課金王と余り関わりの無い面々であり、そこもまた危なげなくいいPTを築けている様だった。
「もうすぐ7割だ! みんな備えろよ!」
レイドボスのHPバーは基本的に残り7割時点、5割時点、3割時点、1割時点で色が変わる。 全快時が赤色、7割までは紫色、5割までは黄色、3割まではピンクで1割までが灰色だ。
そしてレイドボスの攻撃パターンも変わってくる。 最近にあった巨大ウサギのレイドボスであれば、最初はその場でのジャンプ着地による全体攻撃のみ、次がジャンプ着地と回し蹴り、その次がジャンプ後最も近いPTにピンポイントで着地と回し蹴り、最後が上記全て+強制ノックバック。
どれも基本的に事前情報が無い初見殺しなので、節目節目で備えるのは基本である。
課金王のいる超攻撃PTによってガリガリと削れていたライフバーはあと少しで7割を切る。 毒などのダメージで切り替わられるよりは、大技で一気に切り替わってくれた方がわかりやすい。
「火魔! コロナ・デブリを頼む!」
「了解……!」
「おう!」
「わかった!」
見た目の華やかさなら、やはり火魔法使いが一番だ。
ヘルウィンド他、氷魔法使いに比べてかなり人口の多い火魔法使いたちが、待ってました! とばかりにスキルの準備を始める。
エルフィンの大樹の周囲に現れる7つの光球。 内に燃え盛る炎を秘めたそれは、段々と膨張していく。 高火力のスキルを準備すれば当然のようにヘイトがそちらに集まるが、
「お前らの相手はこっちだ!」
飛んできたフリスビーの方が危険だと判断し、根をそちらへ殺到させた。
ネタ武器『フリスビー』。 効果は、パーティメンバーの貰うヘイトの10%を集めるというもの。 延々と攻撃し続ける古城の砲門とカナの集めたヘイトの10分の1は、スキル準備のヘイト上昇量程度では全く敵わない。 フリスビーはそのまま空中で水晶の根によって刺し貫かれ、壊れた。 有用な効果があるネタ武器は耐久値が設定されている場合が多くあるのが難点だ。 さらにそれは、通常の武器より遥かに少ない。
だが、その時間稼ぎによってコロナ・デブリの詠唱が完了する。
「『コロナ・デブリ』!!」
七方向から放たれた小さな太陽。
それがエルフィンの大樹へと着弾し、大爆発を起こした。
赤かったライフバーが紫色に変わる。
「『気配察知』……ッ! 下ぁ!」
「そう来るか! 『ワイドエリクシール』、『ソードスラッシュ』!」
気配察知を行ったサイバー太郎が叫ぶ。
彼の視界には、敵正反応を示す赤が多数……地中に表示されていた。
それを察した課金王がワイドエリクシールを上空へ放ると共に低空のソードスラッシュを放つ。 何か取り巻き的な敵が出てくる可能性を考慮してのものだ。
その行為とほぼ同時に、接地していたプレイヤーの身体を鋭い水晶色の根が刺し貫いた。
「ぐぁ!?」
「きゃぁ!」
刺され、プレイヤーのHPバーの3分の1がごっそり持っていかれる。 落ちてきたワイドエリクシールを踏み割る課金王だが、回復できたのは自分のいるPTだけ。 仕方がないと、メニューを操作する課金王。
巻貝の薪が課金王のやりたい事を察知し、彼女にネタ武器『拡声器』を渡した。
「良い判断ぞ! 聞こえるか! そちらのパーティのパーティーリーダー達よ! アイテムトレード画面を開け! しかと受け取れ、よ!」
言って、課金王はワイドエリクシールをトレード状態にして投げる。
トレード画面を開いている者同士で無ければトレードは出来ないので、聞こえていなければワイドエリクシールは課金王の手元に戻ってくるだろう。
「助かった!」
「ありがとうございます!」
が、存外近くにいたらしい2つのPTのリーダーがそれを空中でキャッチ。 トレードは成功し、2人ともすぐに使用、PTが全快する。
「ぜっショタは必要か!?」
「舐めて貰っちゃ困るな~☆ スキル行使の速さだけなら誇れるんだよね」
ぜったい☆ショタっ子は既に回復済み。 身体に何かが触れた瞬間にスキルを行使するその反応速度は、確かに常人に真似できるものではなかった。
「太郎、定期的に気配察知使え! シュリもだ!」
「わーってる!」
「わかったッス!」
セインが気配察知を使える知り合い2人に指示を飛ばす。 どれほどの頻度で攻撃が行われるかわかるまで、気配察知だけが頼りだ。 向こう2つのPTは弓使いが多いようで、気配察知の精度はあちらの方が上だろう。
「ッ! 来る!」
「来たッス!」
「おいおい間隔みじけぇな!」
プレイヤーがバックステップや踏み込みなどで自分の場所を移動する。 直後、元いた場所を水晶の根が貫く。
「『光晶拳』! あ、やっぱり。 これ掴めるね!」
「カナ、いい仕事! 『回し斬り』!」
何を思ったのか、突き出た水晶の根が引っ込む前にぐわしっと掴むカナ。 その行為によって引っ込めなくなった根の無防備な部分へ、マッカダナーが双剣のスキル「回し斬り」を放つ。 回し斬りは手元で双剣を回転させるスキルで、両方合わせて系16回ヒットするので、接近できる相手には友好的なスキルだ。 また、状態異常を付与する武器であれば一気に蓄積値を上げられる。
「ハル姉、次頼むッス!」
「それはいいんだけど……あの赤毛の人、なんであんな軽装備なのか知ってる? さっきから一切被弾してないのはすごいけど」
「あの人はアタシの攻撃全部捌けるくらいには目がいいッスからね、この程度の根じゃあ捉えられないッスよ」
「何その超人」
不遇職だけあって40数人いるプレイヤーの中でも格闘家はハルカ22とP.f.K、そしてkana0729だけ。その中で、P.f.Kとカナは最前線で踊るように戦っている。
先日の一件で格闘家としてぴーちゃんにある種憧れさえ抱いたハルカはカナが気になるようだった。
「来るぞ! 多分1分間隔で来てる!」
「1分て。 紫でコレとか、殺意高すぎだろ!!」
これでは長い詠唱もままならない。
火魔たちは早々に詠唱の長いコロナ・デブリやコロナ・レーザーをやめ、発生の速いフレイム・シュートなどを撃ち始めた。
1分間隔で来る足元からの刺突を避けながらの戦闘は、やはり集中力がいる。 課金王やもっつぁららのPTにはいないが、あちらにいるらしい無魔の使う身体強化魔法が黒いエフェクトを放ちながら猛威を振るっているのが見えた。
「『スピードポーション』『スピードポーション』『スピードポーション』『スピードポーション』『ワイドエリクシール』……」
スピードポーションとワイドエリクシールを使い続けるだけの機械にでもなったのではないかと思う程高速で口を動かす課金王。 そのおかげでPTに更なる火力が生まれているのは事実だが、
「ありがたいが……一体いくら飛んでるんだ、この戦闘で」
それなりに金持ちの家系であるという自覚がある激熱侍EXでさえ、その湯水の如き課金ポーションの使い方は異常だった。
「考えないほうがいいぜ、激熱。 さっき計算してみたけど多分3万越えてる。 つか、そっちの格闘家さんだけで大体処理できてるみたいだから激熱も攻撃組行って来れば? 構わないよな?」
「ええ、いいわよ。 どうせ課金王はあまり激しい動き出来ないし、私と2人で守れば360度全方位守れるから」
格闘家に守りを任せるなど、普通なら考えられない行為だ。
だが、P.f.K.の動きを見る限り、そういった心配はなさそうだと巻貝の薪は判断した。
「……そうか。 ならば、行ってくる。 死ぬなよ、マキ」
「お前もな、激熱」
拳を合わせる2人。
P.f.K.も課金王も、少しだけ羨ましそうにそれを見ていた。
「ようやく半分だな! 硬すぎっていうかライフ多すぎるわボケ!」
「文句ばっかりねぇ。 まぁ同意するケド」
「んむー、マナは花を使えばいいでござるが……ライフは割とカツカツでござるなぁ」
「はいライポ。 課金王にゃ負けるけど、おれっちだって調合師としての矜持が」
「お兄、喋ってないで足動かせッス! 頼りにしてるんスから!」
「ヒャッホー!! ロリに言われる『お兄』ほど元気になるものはないぜ!! シュリたん、頑張るよお兄たま! 頑張るからね!!」
「……きめぇ」
白魔としてヒールを続けるぜっショタだが、当然それだけではこの人数を賄うことは出来ない。 そのため、ライフポーションを沢山抱える・その場で製作も可能な調合師が走り回っている。
ラジャネーレダローが調合師、お兄たまと呼べである。
彼はシスコンだ。 リアルでは兄しかいないので、架空の妹を愛でる危ないタイプのシスコンだ。 そしてロリコンでもある。
大手ラジャネーレダローに所属しているだけあって腕は確かな物だが、言動はほぼほぼアウト。 お兄たまと呼べ、まで呼ぶと長いのでシュリやヘルウィンドは「お兄」と略すのだが、それが心にクるらしい。 呼ばれる度に元気になるお兄たまと呼べを見て、ryouhei831やホワイトマジシャンボーイは引いている。
「黄色来た! ……上!」
「あれ、ヴィンティルか!」
『もーっ! エルフィンのおうち攻撃したらダメなのー!!』
エレインと共にサンディーヴァの鳥たちを指揮していたヴィンティルが、プレイヤー目掛けて急降下してくる。 狙いは――最もヘイトの高い、巻貝の薪。
「げっ!」
「『ガードポーション』……余の後ろに回るがいい」
言われた通り白金色のフルプレートアーマーの後ろに回る巻貝の薪。
何か迎撃の策があるのかと期待した巻貝の薪は、次に起きた光景に目を剥く。
ガィン! と……硬質な音を立てて、その巨鳥を課金王が受け止めたのだ。
「『エリクシール』……全く、スキルを使わぬただの体当たりでライフが全部持っていかれるとは……この鎧が無ければ死んでいたな」
『ピュイ!? またあなたなの!?』
受け止められた事に驚き、飛びあがって離れるヴィンティル。
既に課金王は全快し、さらには――。
「見よう見まねだけど……『光晶拳』」
『ピュイ! あなた、なんで私の背中にいるのー!? 降りるのー!』
「あら、一撃貰ったんだもの。 一撃返さなきゃ、ね? 『剛衝拳』」
光晶拳で掴んだ右翼の付け根に、剛衝拳を入れるぴーちゃん。
それはぴーちゃんとカナが共に行ったヴィンティルの雷雨林にてカナが見せた、翼のある生物のソレをもぐ手法。
『おんなじ匂い……! 危険ね!』
「きゃ!?」
だが、ヴィンティルが身体に雷を纏わせたことでそれは中断された。
状態異常:麻痺が付与されたのだ。
掴んでいる事も出来ず、落ちるぴーちゃん。
「タダじゃ、終わらないわよ! 『エリクシール』!」
音声行使でエリクシールを使うぴーちゃん。 麻痺が回復し、落ちる様に向かい来るヴィンティルに向かって手をかざす。
「『砲傷拳』!」
そこにヴィンティルの嘴が突き刺さり――、
「……あら?」
「大丈夫? ぴーちゃん」
『痛い! 痛い……けど、良いわ! ピュア!?』
貫かれるかと思われたぴーちゃんはギリギリで駆け付けたハルカ22によって抱きとめられ、九死に一生を得た。
さらに打ちこまれた火の玉――もっつぁららのスキル――がヴィンティルのヘイトを奪い、先の砲傷拳による出血も相俟ってヴィンティルは一旦空中に舞い戻る。
「借りが出来ちゃったわね」
「気にしないでいい。 それより、次は一緒に行っていい?」
「是非。 一緒にやりましょう」
ハルカ22はぴーちゃんを降ろす。
そして2人でヴィンティルを見上げた。
エルフィンの大樹は残りライフ半分。 対してヴィンティルは全快にほど近いライフを持っている。
まだまだ終わらない戦いに、2人は、そして全プレイヤーが思いを馳せていた。




