それぞれのレイドボス
レイドボス。
強襲や急襲などを意味するRaidとBossを組み合わせた俗語で、複数パーティで戦うボスの事だ。
その身体は巨躯である事が多く、このイリュオンにおいても度々不定期でレイドボス戦が行われている。
何が切っ掛けになっているのか、どういうタイムテーブルで行われているのかは定かではないが、一説によると攻略された場所によってレイドボスが出現するようになる、との事だ。
心当たりのあるプレイヤーはちらほらいる。
それはどこぞの白金色の大鎧だったり、2人しか到達していないユニーク職だったり、様々だ。
さて、なれば今回のレイドボスは――。
《これより、レイドボス「群青色の雨、水晶色の花」を開始いたします。12:30から、今日の0:30までお楽しみ下さい》
システムアナウンスとは違う、運営の誰かの声で全プレイヤーの耳にそれが届いた。
その透き通る女声とは対照的に、各地で雄叫びがあがる。
ついでに「はぁぁああ!?」という疑問と怒りの入り混じったような声も上がった。
その疑問と怒りの原因は、期限時間にあるだろう。
通常レイドボスは長くて3時間、短くて1時間くらいのクエスト時間が設定されている。
だから仕事や学業で行けなかった、というプレイヤーも多々いるし、逆に時間フルで戦い抜いて気持ちよく眠れる、なんてプレイヤーも度々見える。むしろイリュオンに入り浸る暇人は後者の方が多かったりもする。
だが、流石に12時間は長すぎるのだ。
当たり前だがプレイヤーは人間であり、夕食やトイレ、風呂などと言った生活が付きまとっている。いくら休日とはいえフルで戦うなど出来るはずもないし、集中力だって途切れてしまうだろう。
もっとも、だからこその雄叫びも上がったのだが。
長い時間ということはそれだけ強い、もしくは体力の多い敵。
どれほど楽しめるのか、という所に重きを置くイリュオンのプレイヤーだからこそ、そういう不満を全て圧し折っての雄叫びだったのかもしれない。
さて、開始します、のアナウンス。
その直後だった。
エルフィンの大樹が、溢れんばかりの輝きに包まれたのは。
エルフィンの大樹はプライマの街から視認可能な高さであり、故に多くのプレイヤーがそれを目撃した。
成長。 青々と茂っていたエルフィンの大樹が、更にその枝葉を伸ばし、一回り、いや二回りは大きくなった。 さらにその中心から群青色の光が天に向かって迸っていて、それはまさにillusionというに他ならない。
また、エルフィンの大樹付近で張っていたプレイヤーは、その根付近の大地に水晶色をした花が咲き誇るのを目にする。
大きな花だ。 それが、凄まじい。 いや、夥しい速度で広がっていく。
――――レイドフィールド『ファイオリアの花畑』に転移しました――――
そんなアナウンスにプレイヤーが周囲を見渡してみれば、そこは今さっきまでのエルフィンの大樹があったフィールドではなかった。
いや、プライマに居た面々も、他の場所に居た面々も、どのようにして判断されたのかはわからないが――レイドボスに参加する気があった者だけが、ここに転移していたのだ。
そこは、幻想の花畑。
水晶色の花が咲き誇る、輝きの園。
その中心に、青々と茂る大きくなったエルフィンの大樹が鎮座していて、その中心から群青色が迸っている。
天を見上げれば、雲。
その輝きの園とは裏腹に、バチバチ、ゴロゴロという雷鳴が響き渡る暗雲があった。
「気配察知……おいおい……」
プレイヤーの1人が気配察知を使う。
それで、わかった。
何が「群青色の雨」なのか。
――ピュィィィィィィィイイイイイイ!!!
暗雲の中。
果てしない密度で、赤点が渦巻いていた。
「サンディーヴァの鳥……Lv130……!」
その全てが敵対存在。 倒すべき敵。
そして、それを纏める存在は。
『子供がやられたんだ……きっちり仕返しをしないと、親として情けないだろう?』
天から、大きな大きな鳥が降臨する。
光と同じ群青色の羽毛は羽ばたくたびに光を散らせ、神々しさを感じさせる。
『ピュイ! 外に出るのは久しぶり! 嬉しい!』
その鳥よりも、更に大きい群青色の鳥。
ゆっくりと降りてきた先の鳥の周囲を、楽しそうに嬉しそうに飛び回る子供。
「『エレイン』……『ヴィンティル』……!」
ネームド2匹。
プレイヤーはこの2匹がレイドボスだと確信した。
上で渦巻いている鳥は、ただの取り巻きなのだということも。
『ただまぁ、蹂躙も楽しくはない。 そこに、ファイオリアの花があるだろう? それを食せばたちまち魔力が回復する夢の様な植物さ。 ここは仮初の土地。 いくら食べても主様もお許しになる。 さぁ、始めようじゃないか』
『ピュイ! じゃあ、みんな! 行くの!』
青い、雨が。
「んーむ」
シュリは駆け巡りながら、しかし不満そうな声色で声を漏らした。
現在パーティを組んでいるのはもっつぁらら、ryouhei831、ホワイトマジシャンボーイ、ハルカ22、ヘルウィンド、そして1か月のテスト勉強終りで活き活きとしているお兄たまと呼べ。
彼ら彼女らの内、半数以上がサンディーヴァの鳥たちと交戦経験があり、ハルカ22とお兄たまと呼べもそれなりのベテランプレイヤーであるが故に、あまりHPが減っていない。
シュリも含めて、何か物足りなさを感じているのだ。
降り注いでくるサンディーヴァの鳥。
シュリ以外の面々は視認できているとは言い難いし、確実に被弾はしている。
だが、これがレイドボスらしいかと言われると、違う。
もっと激しい戦闘がしたい。
もっとギリギリの戦いがしたい。
そう思う彼ら彼女らの足は、自然とエルフィンの大樹に向かっていた。
「ギルマス邪魔!! 色々と邪魔!」
古城の砲門。
ここはラジャネーレダローや課金王近衛部隊とは違い、基本的に連携など考えない。
全員が全員攻撃特化で、回復も個人個人。 スイッチだとか、そういう基本的なパーティ行動でさえ疎かであるので、ギルドだけのパーティだと飛び交うのは怒号である。
「うっせー、2週間ぶりなんだぞ楽しませろ」
「ぬああああああああ!! なんでそれ届くんだよ!! 俺の獲物!!」
「いいだろ腐る程でてくるんだから。 それよりネームド行こうぜネームド。 絶対課金王とかシュリとか行ってるはずだから」
槍使いとして卓越したスキルを持つセインがサンディーヴァの鳥たちを次々と落とす。
水平方向に飛んできたあの狭い洞窟に比べ、今回は遮蔽物の無いフィールド。 さらに言えば、鳥たちが来るのは直上だけ。
それに対応できない程、セインは甘くない。
「愛しのカナちゃんは入ってないのか?」
「は?」
サイバー太郎が入れた茶々に、セインが低い声を出した。
「む……カナがいるなら、行くぞ」
そんな2人にマッカダナーが入り込む。
2人とも会話しながら戦闘を行っているが、どちらも片手間であるようには見えない。
本気で戦いながら、会話も続けているのだ。
「ん? 何、マッカーサーあいつとなんかあったのか?」
「別に……っていうかマッカダナーだ!」
「マッカーサー、チンピラに絡まれてるところをカナちゃんに助けられたんだよ。 ありゃあイケメンだったね。 ギルマスよりイケメンだった」
クレバー伊藤が茶化す。
マッカダナーの”あの一件”はセインのいなかったギルドで持ち切りなのだ。
「うっせぇ」
「セイン、先に行くぞ」
「あ、待てよマッカーサー!」
「マッカダナーだ!!」
ともあれ、セイン、マッカダナー、サイバー太郎、クレバー伊藤の4人もエルフィンの大樹に向かった。
「おい、あれ……」
「あぁ、NEETSHINだな」
「NEETSHINと一緒に居るのは誰だ?」
「多分部隊長って奴と……あぁ、盾wikiの人だな。他は知らん」
「あのショタっ子が誰かって聞いてんだよ!!」
「お前ショタコンかよ」
「は? ショタコンだよぉぉおぉぉおおおおァアァァア!!」
「うっせ」
「すみませんね、後藤さん。 こいつのせいで注目浴びちゃって」
「いや、いつもこんなもんだから大丈夫だ。 それよりいいのか? パーティ組んでもらって」
「ええ、別にデメリットはありませんし、うちの2人はサポートになれてますからね」
「オレを除いたなサラっと。 あ、後ろの人に媚とかないと。 ☆ミ」
「あははー、相変わらずだねぜっショタさんー。 あ、後藤さん。 初めまして、山川斎藤重兵衛って言います。 好きに呼んでくださいー」
「噂はかねがね、織田ちゃんという。 ダチャーンと呼ばれることが多いが、拙者も適当に呼んでくれて結構だ」
「おう、俺は後藤。 よろしくな」
「ふ、せい! 『剛衝拳』!」
「『ソードスラッシュ』『ソードスラッシュ』『ソードスラッシュ』、ふむ」
「『砲傷拳』! ……カナ、後ろ!」
「見えてるよ! や!!」
白金色のフルプレートアーマーを中心に、嵐のような速度で降り注ぐサンディーヴァの鳥たちを、竜巻のような激しさで叩き落していく赤と白金のライン。
ゆっくりとエルフィンの大樹に向かって歩きながら『ソードスラッシュ』を上空に放つ白金色のフルプレートアーマーは歩みを止める事無く、そしてその周囲で戦闘する赤と白金も合わせて移動する。
「ね! ほんとに、中身同じ人なの!? 『光晶拳』!」
「む? そうだぞ。 『ソードスラッシュ』、『撫で斬り』」
「課金王がいつもと違う事をしている、のに気が付ければ、少しは、わかるかもねぇ!」
課金王と、P.f.K.と、kana0729である。
208lvの2人と、79lvの初心者1人が合わしきれているこの異常さは、しかし周囲にプレイヤーがいないために理解されない。
「いつもと違う所……?」
「『撫で斬り』『ワイドエリクシール』まぁ、最近はそうでもなくなったかもしれんがな」
「『光晶拳』! そうかしら? あぁ、確かに最近はかっこいいとか言ってやってるかもしれないわね」
「むむむ……?」
カナは高速に流れる視界の中、少し考える。
その間も手は止まっておらず、むしろ駆逐スピードがあがったかもしれない。
「『耐久ポーション』『ソードスラッシュ』『撫で斬り』」
「……?」
「あら、気付いたかしら?」
ふと、違和感を覚えた。
確か課金王は、かっこよさを追及する時以外は――、
「音声認識を使ってる……?」
通常時は、何も言わずにアイテムやスキルを使える課金王が、わざわざ全部声に出して行っている。
対してぴーちゃんは、咄嗟の行動の時のみスキル名を言っているものの基本は無言でスキルを出しているように見えた。
「……ぴーちゃんだけしっかり動かして、課金王は歩くのと喋るのだけにしてる……とか?」
「ふむ、まぁほぼほぼ正解だな。 それだけではないが」
「『光晶拳』! 『剛衝拳』!」
それ以上の事はわからない。
どのようにしてその技術をものにしているのか、そもそもそんなことが可能なのか。
とはいえ、それ以上追及する事も無い。
少なくとも自分には出来ない故に。
「あのでっかい木、行くんでしょ? もっとスピード出せる?」
「無論だ。 『スピードポーション』」
「じゃ、走るわよ!」
「うん!」




