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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の考察
50/56

課金王と仲間達の勝利

この章は終わりです


 部隊長が2人を見つけ出した時、既に発射の準備は整っていた。

 風属性魔法の中でも特に威力の低い――低いというか無い――スキル、リパーシヴ・フィールド。その効力はただ1つ。

 周囲にある物を、INTm分吹き飛ばすという物だ。


「私のINTは今877だから、結構飛べるはず」

「いやまっておかしいってっていうかここ地下でしょ天井ぶちあたらない!?」

「……大丈夫」

「ヘルチャアアアアン!! 根拠のない大丈夫はやめて!!」


 喋りながら向かい来る木の枝をその場から動かずに迎撃する一円の為に生きる女。

 十二分に上級者と言える動きだ。


「安心しなさい、一円。落ちてきたら受け止めるくらいはしてあげますから」

「元ギルマスまで……っていうか元マスが飛べばいいじゃないですか!」

「私は弓使い程目がよくありませんので。DEXが高いと隠しステータスとして視力もあがるのですから、とっとと飛びなさい」

「元隊長、護衛お願い」

「ええ、ヘルウィンドと一円は発射に集中してください」


 イヤイヤ言いながら大人しくヘルウィンドのロリポップキャンディーの渦中心に乗っかる一円の為に生きる女。

 部隊長は周囲の枝を殲滅していく。


「発射用意。10、9、8」

「ヘルウィンド、GOです」

「了解。 『リパーシヴ・フィールド』発射!」

「ちょまてよおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ぐわん! と空間が歪むようなエフェクトがロリポップを中心に発動する。

 それによって、突然磁極が変わったかのようなスピードで一円の為に生きる女が天空へと撃ち出された。


「たーまやー」

「かーぎやー」


 一円は昔から弄られ役だったなぁ懐かしい。

 そんな郷愁のような思いが2人の心をよぎる。


 一方で一円の為に生きる女もあれだけやいのやいの言ってはいたが、実の所高い所はそこまで苦手なわけではないらしく、真面目な顔つきになって上昇しながら辺りを見渡す。

 広大な水晶の森。 どこまでも――本当にどこまでも広がっているその森は、あまりにも幻想的だ。 後方に目をやれば、大きな鳥。 

 陛下が一手にて引き受けているボス。

 そうだ、自分達は陛下に信頼されて実探しをしているのだった。


「――!」


 その自負を思い出して、視覚を研ぎ澄ませる。

 遠距離攻撃をするタイプの弓使いではないが、高いDEXによって研ぎ澄まされた視力はソレを見つけた。

 赤い実だ。 部隊長の推理はとんだ的外れで、普通に他の木々と同じ水晶樹に、赤くて大きな実が成っていた。


『一円の為に生きる女:発見! マーキングアロー射ます!』


 矢で戦う弓使いが自分の売りなのに、今日はとことんマーキングアローする日だ。

 これなら普通の弓使いを連れて来た方がよかったのではないかと思わなくもないが、近接手段を持たない弓使いではこの森で生き残れなかっただろうと思い直す。


 狙いは十分。 空中だが、いつもそれなりの高速戦闘を行っている身。 然したる問題は無い。


 ――HIT!


 目測はぴったり。 マーキングアローは、吸い込まれる様に大きな赤い実に直撃した。

 PTメンバーの視界に映る、赤い点。 わかりやすい様にマーカーの色を赤にしたのだ。


【一円の為に生きる女:元隊長の推理は全くの間違いでしたけど、アレが赤くて大きな実っぽいです!】

【ぜったい☆ショタっ子:やーいwww的外れwww】

【部隊長:受け止めなくていいですか?】

【一円の為に生きる女:まだ上がってるんで! 落下ダメ怖いんでお願いします!!】


 チャットでコントをする面々を尻目に、後藤が率先して赤い実を目指す。

 マナを際限なく喰らうアクセサリによって増大したAGIによって、それなりの速力で近づいていく。

 だが――。


【後藤:おかしいな……このマーキングアローってのは、距離感によって大きさとか変わる……よな?】

【一円の為に生きる女:え? はい。 近付けば大きくなるはずです】


 一円が赤い実を確認する。 未だ上昇を続ける一円の視界に或る赤い実は、先程よりも小さくなっているように見えた。

 いや、違う。


「げ」


 確実に。

 視界に或る赤い実は、空中から見ているからこそわかるが――移動していた。


【一円の為に生きる女:アレ、移動してます! 後藤さん止まって! あんま遠く行かれると不味い!】

【後藤:あぁ、回り込む奴が必要か。 これは俺にタゲがあると見ていいのか?】

【一円の為に生きる女:後藤さんの停止に合わせて赤い実も止まったんで、そうかと。 元マス……は私を受け止めてもらわないとだから】

【部隊長:いいじゃないですか。 ヘル、風系の何かで落ちてきた一円を頼みます。 私とぜっショタは左右から回り込みましょう】

【ヘルウィンド:了解。 少しくらいダメージ行っても許してほしい】

【ぜったい☆ショタっ子:共同作業にゃ吐き気がするけど、仕方ないか。 なんならオレが一円ちゃん受け止めてあげるけど?】

【一円の為に生きる女:結構です】

【ぜったい☆ショタっ子:手厳しいなぁ……】


 身体の上昇が止まる。 最高点に達したようだ。

 地下だと言うのに877mより高い天井があるという事実が恐ろしい。 というか地盤とかどうなっているのだろう。 ファンタジー世界のゲームってすごいなぁ、なんて考える一円の為に生きる女。

 そして落下が始まった。


「う、わ……こわっ」


 鳶職を職業にしているプレイヤーはいつもこのような風景と感覚を味わっているのだろうか。

 下で待機するヘルウィンドが準備しているスキルは魔法。 現実にはない物だ。

 いくら長年イリュオンをやっているとはいえ、魔法に受け止められるという経験は今回が初めて。 

 それなりに、怖い。


「ヘルちゃん!」

「『ストーム・ストーム』」


 彼我の距離があと50m程になった。

 その瞬間、ヘルウィンドがスキルを発生させる。


 竜巻を起こすスキルだ。


「それホントチョイス合ってる!?」

「低威力・広範囲・風力。 一番都合がいいはず」

「ええいままよ!!」


 斜めに発生した竜巻に突っ込む一円の為に生きる女。 落ちているのだから、彼女に選択肢は無い。

 そして、気が付いたら地面に居た。


「――ッ!?」

「『ストーム・ストーム』内部の風速は凡そ32m/s。 拘束力も強いから、絡め取られると一気に持っていかれる。 このスキルが重宝されている所以」

「ライフ一気に5割減ったんだけど……あ、回復来た」


 ストーム・ストーム自体の威力はとても低い。 だが、絡め取った敵を叩きつけてダメージを与えるのが本来の目的であるこのスキルによって算出されるダメージは、ともすれば普通に落下した時に受ける落下ダメージよりも高い場合があるのだ。


「今回はロリポップだったから、あんまり威力で無かった。 良かったね」

「あー……普段ヘルちゃんが使ってるオーブスタッフとかだったら……」

「軽装の弓使い程度、我が敵ではない」


 ふふん、と胸を張るヘルウィンド。

 スリ○キーな姿で胸を張っている姿は、とてもかわいらしかった。


【部隊長:赤い実、追い越しました。 ぜっショタは?】

【ぜったい☆ショタっ子:こっちも追い越したよ。 後藤さん、合図したら赤い実に向かって全力ダッシュで】

【後藤:俺の全力ダッシュだと、お前達より早いぞ?】

【部隊長:スキルでブーストかけるんで大丈夫です。 ぜっショタ、あなたは赤い実の出方を見てから動きなさい】

【ぜったい☆ショタっ子:わかってる】

【後藤:あぁ、追い込み漁か。 本職だ】


 後藤がリアル漁師であると言う事が判明したが、それはどうでもいい。

 三方で3人が準備する。


【ぜったい☆ショタっ子:GO!】


 後藤、部隊長が走り出した。











「ふむ……」


 ステータスを上昇させる系統のポーションは使い切った。 無論INTやLUCと言った自身の戦闘に然して関係の無いポーションは残っているが、パワポ、スピポ、ガーポはインベ分丸々2900個ずつ、金銭換算にして1,799,400円を今回の戦闘で放出したのだ。

 だが、それでも。


『楽しいわ……楽しいわ、カキンオウ。 人間にしてはとても強かった。 ハイトゥを思い出すわ……、けど』

「うむ。 余の方は万策尽きたな。 後はエリクシールと耐久ポーションで凌ぎつづけるだけぞ」


 ヴィンティルは倒せていなかった。

 格上なのでライフは見えないが、余り削れた気がしない。

 相も変わらずばっさばっさと翼を羽ばたいて、課金王を見下ろしているのだ。


「が……そもそも、それが余よの。 最初の1か月はステータスポーションなど課金ラインナップに無かったのだ……。 エリクシールのごり押しこそが、余のスタイル。 余の生き方。 ふむ……ならば、特に問題は無いな」


 水晶剣を構える。

 全く逆境足り得ない。 この程度で課金王を追い詰めたと思われては思い違いも良い所だ。


『……あぁ、あなた……本当にハイトゥにそっくりね。 生まれ変わり?』

「知らぬ! なんだ、ハイトゥは死んでいるのか!?」

『あ、そんなことは無かったわ。 ごめんなさい、あんまりにもそっくりだったから』

「……ハイトゥとヴィンティル、お前の関係はどのようなものだ?」


 課金王は思案する。

 この敵から、創世神話の情報を絞れるかもしれない。

 幸いにして時間はまだありそうだし、何よりAIなのかなんなのかはわからないが、課金王自身に興味を持ってくれているのだ。

 引き出せるだけ引き出したい。


『特に関係は無いわ。 私は主様の元で生まれたサンディーヴァの鳥。 ハイトゥは主様に拾われた最後の人間。 でも、ずっと一緒に居たから家族よ』

「では、お前とヴァルフィン……そしてアールヴァル、エルフィンに関してだ」

『ヴァルフィンは私の番いよ。 アールヴァルとエルフィンは私とヴァルフィンの子供。 アールヴァルはエセレンシュと、エルフィンはハイトゥと仲が良かったわね』

「エセレンシュ……エセレンシュは何者ぞ?」

『主様の子供の、そのまた子供かしら? 世界の中心にある龍樹――』


 龍樹? そう課金王が問おうとした時。

 ざわわわ!! と森が開けた。


「なんだ!?」

『あら、おしゃべりは此処までみたいね。 貴女の仲間が、森の知恵比べに勝ったのよ。 ふふ、それじゃあまたね、カキンオウ』

「だから発音が違うと……」


 ヴィンティルがピュイー――! と鳴いて、高速で去っていく。

 

 次の瞬間。


「ぬ――」


 水晶の森が、全て――地面に引っ込んだ。


――――『熱命樹の知恵比べに勝った』称号を得ました――――


 そんなアナウンスが脳内で流れる。

 同時、課金王の近くに帰還の魔法陣が現れた。

 消えた森の先に、自身と同じくキョロキョロと辺りを見渡している仲間達が見えた。


「……相変わらずヒントが無いにも程があるわ……考察が捗るとはいえねぇ……」


 はぁ、と息を吐く課金王。

 チャットを打つ。


【課金王:どうやらクリアのようだな。 装備の耐久減少も止まっているし、余の近くに帰還の魔法陣も出た。 皆、称号も手に入ったか?】

【後藤:おー、やっとクリアか。 いやぁPTプレイってのも楽しいな。 また誘ってくれよ】

【部隊長:何か拍子抜けですが……莫大な経験値が入ってきましたね。 ドロップは無いようですが】

【ぜったい☆ショタっ子:ドロップあったわ。 『命の実』効果はHP全回復&リジェネ効果10分間500%だってさ。 ライフ面だけ切り取ったエリクシール強化版みたいなドロップ】

【課金王:ほう。 こぞって集めに……ハイリスクハイリターンぞな】

【ぜったい☆ショタっ子:リスクがデカすぎるでしょ】

【一円の為に生きる女:あのー、なんか『サンディーヴァの水晶槍』ってのドロったんですけど欲しい人います?】

【課金王:余はいらんな、レアドロだろう、とっておくなり売るがいいぞ』

【後藤:俺も武器はいらねぇな】

【ヘルウィンド:私も槍は要らない】

【ぜったい☆ショタっ子:レアもレア、初攻略のレアドロなんだから億いけるかも? 取引板に性能貼って出してみなって】

【部隊長:まぁ億は普通に行くんじゃないですか? 槍使いは結構いますし、見た目もキレイですし】

【一円の為に生きる女:マジかー……もったいなくて売れなくなりそう】

【課金王:使わぬ武器を死蔵するくらいなら、使う金銭に変えた方が良いと余は思うが……そこはお前の好みぞな】


 面々がチャットを打ちながら歩いてくる。

 課金王は面々に耐久ポーションを渡した。

 

「ふー……広すぎるのも考え物っていうか、どこまで続いてるんだろうね」

「余と部隊長は、ゼーラーゴの晶水道以外の地下全てがエルフィンの地下樹脈であり、この星の地表部分を覆っていると考えている」

「それ、地球7個分の大きさって事?」

「うむ。 ワープ結晶が無ければ一生彷徨う事に成りそうだな」

「流石にまた運営クレームが飛びそうだね……」

「今日は結構疲れたから、先に帰るぜ。 さんきゅな、あんたら」

「あぁ、急な誘いを受けてくれてありがたかった。 また、共に戦おう」

「あいよー」


 後藤が帰還用魔法陣に入り、その姿を消す。


「んじゃオレもー。 全く役に立った記憶は無いけど楽しかったわ」

「あぁ、では陛下。 私も失礼します。 ギルメンに呼ばれているので」

「うむ、またな、ぜったい☆ショタっ子、部隊長」


 2人が消える。


「あ、私達も帰りますねー。 PT組めて、光栄でした!」

「また、お願いしたい」

「うむ! 今度は十全の装備で戦おうぞ」


 一円の為に生きる女とヘルウィンドも。


 そして、1人残された。


「さて……」

 

 課金王は魔法陣に――入らない。

 そのまま、見えている壁に向かって歩き。


「幸い、時間はあるのでな……」


 スタスタと、壁沿いに歩き始めた。

 ワープ結晶を持つ課金王は、この場所がどれほどの広さなのか、どこまで行けるのかを確かめる所存なのである。

 ……途中で飽きて帰るのが、事の顛末である。






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