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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王との舞踏

戦闘描写が上手くないのでス……。

 その巨大な図体からは考えられない速度で、長い頭が大薙ぎに振られる。

 セインとシュリは上下に避け、課金王は真正面から受け止めた。


「課金王! アタシはパワポじゃなくてスピポでお願いするッス!」

「承知した! セインはそのままで良いな!?」

「応!」



 直後、シュリの方向へ水色のビン――スピードポーションが投げられる。

 それに体当たりするシュリ。ビンはシュリの身体に当たった瞬間砕け、中身が吸収された。

 瞬間、グンとシュリの速度があがる。海蛇の体躯を駆けずりまわりながら、傷をつける。


「被弾無視できるからいいものの、こりゃめんどいな、っと!」

「うむ。このカジキ、戦闘中も普通に突っ込んでくるとは勇気があるよの」



 そう。カジキ・ザ・グングニルは、海蛇が突進していようが暴れていようが関係なく3人を狙って突き刺さってくるのだ。カジキ・ザ・グングニル単体ならまだしも、レイドボスとの戦闘中はいやらしいものとなる。


 ガイン! と、ワイドエリクシール――パーティメンバー全員にエリクシール効果。勿論課金アイテム――を叩き割る課金王。とてもではないが、空間に満ちる常時回復効果だけでは回復が追い付かないのだ。


「麻痺、2回目行くッス! 10秒後!」

「承知!」

「りょーかい!」



 カジキや海蛇からの攻撃を無視して、水晶剣を上段に構える課金王。

 セインも一旦距離をとり、チャージランススキルを発動、力を溜める。


「3、2、1、今!」

「ふん!」

「オォラァ!!」



 カウントピッタリに動きを止める海蛇。シュリの麻痺攻撃だ。

 それを完全に信頼しきった二人が、カウント通りに火力をぶち込む。

 課金王は本気の叩き斬り。セインは高速の突き。


 課金王は攻撃が終わるとすぐにワイドエリクシールを飲む。


「む……、終わったようだな」

「カジキもいなくなったッスねー」

「はー、案外あっけなかったな。パワポとエリクシールの恩恵だが」

「『アンダレイク・サーペント』……やはりか」



 戦闘時間は約9分。通常のプレイなら考えられない速度だが、課金アイテムの凄さたるや、という所である。

 ついでとばかりに耐久ポーションを二人に投げる課金王。


「さんきゅー。ドロップは……アンダレイク・サーペントの鱗4枚」

「アタシは牙ッスね。2本」

「余も牙ぞ。2本」



 俺だけはずれっぺーな……と落ち込んでいる風のセイン。実際はそういう事を気にする性格ではないが。

 

 ガラリ、と音を立てて、広間の奥の壁が崩れた。


「回復は終わったな。次はボスぞ。約束の時間まで残り少ない。巻いていくぞ」

「おー。……え、今の中ボス? 明らかにレイドクラスだったろ!」

「聞いてねーッス……。課金アイテムないと持たないッスねコレ……」



 愚痴愚痴いいながらも歩を早める二人。疲れより、好奇心の方が上なのだ。






 ヒュンヒュンと、先程より速度を増したカジキ・ザ・グングニルが飛び交う。狭い通路故に避けづらいが、それはカジキ・ザ・グングニルも同じこと。セインが後ろ手に回す槍の錆となって細切れになって行った。

 一応、旋風槍せんぷうそうというスキルである。


「ん……? 地面になんかいるッスね。カジキじゃなくて……ヘビ?」

「うむ。雑魚敵だな。シュリ、捕まえられるか?」

「俺はカジキで手一杯だから頼むわー」

「了解ッス。……そこ!」



 ザク! っと音を立てて、シュリが地面――白い砂が積もっている――に小太刀を突き立てる。手ごたえを感じたシュリは、抜けない様に抉るようにして小太刀を地面から抜く。


「おー、こんなんがいたのか。見た目はさっきの中ボスのちっこい版だな」

「前回来た時に噛まれてみたが、毒:lv.1程の常時ダメージ系状態異常になった。解毒ポーションは効かなかったがな」

「名前は、『レイク・サーペント』ッスね。まぁどういう状態異常なのかは検証班が調べるッスよ」



 解毒ポーションはゲーム内で造ることのできるポーションだ。その名の通り、状態異常の毒のみを解除できる。

 課金王はひったくたにエリクシールを使うが。


「む、見えてきたな。ボス部屋の扉ぞ」

「おー、時間は……あと30分くらいか。余裕じゃね?」

「さっきから気になってたんスけど、何かこの後に予定があるッスか?」



 約束の時間とか、課金王とセインの二人は分かっていて、シュリにだけ伝わってない情報があることを問うた。

 あれ、言ってなかったのかと課金王を視るセイン。


「あぁ、セインの身内ぞ。余が勝手に言いふらすはずがあるまい」

「なーる。別にいいのに。ま、あれだシュリ。俺と課金王が気に入ってる新人が一人いてな、そいつと約束してんのさ」

「あんたら2人が気に入る新人……? それは、なんとも……」



 ご愁傷様ッス、とは口に出さないシュリ。自身も新人時代、課金王に世話になったのだ。とやかくいう事は出来ない。セインは別だが。


「つーわけで、30分くらいでシメたいわけ。いけるだろ?」

「状態異常が効く奴なら、ッスけどね。任せるッス」

「開けるぞ、2人とも。準備は――聞くまでもないな」



 目配せだけで確認を取り、扉を開けにかかる課金王。

 

 開いた扉から見えたのは、先程よりも大きい大広間。

 そして、8つの大岩。


「あー、なんか予想着いたわ」

「ありがちなパターンッスね。課金王、さっきと同じくスピポでお願いするッス」

「承知。余が狙う首を集中攻撃で頼むぞ」



 各種ポーションを真上に投げ、大剣を腰だめに構える課金王。

 パワーポーションだけが他のポーションより早く降ってきて――。


「ゼェヤァアア!!」



 課金王の頭に当たった瞬間、課金王は大剣を振りぬいた。

 発生したのは、RPGご用達の『飛ぶ斬撃』。

 スキル名をソードスラッシュというそのスキルは、使用者のstrに威力を依存するという単純な物。

 パワーポーションで増幅された斬撃が、左端の大岩に当たった。


 甲高い悲鳴とともに持ちあがる大岩。1つだけでない。8つ同時に、だ。


「名前は、『ヤマタノレイク・サーペント』……。日本語にするなら日本語のまま通せよ」

「馬鹿いってねーで、来るッスよ! お先!」



 呆れたように表示される名前を視るセインを置いて、スピードポーションの恩恵を受けたシュリが駆ける。小太刀には最初から毒を塗っているようだ。


「ノリノリだなアイツ……。ま、俺もそうだけどよ!」



 負けじとパワーポーションを飲んだセインが、チャージランスを使用して胴体を突く。

 カジキ・ザ・グングニルが居ない分、余計な事を考えずに攻撃できた。










「7本目ェ! あと一本ッスね!」

「どーだろーな。八つ首の場合と九つ目の頭がある場合とで、色々説があるんだが」

「八つ首であろうぞ。九つ目の頭があるのなら、地面がどこかしら盛り上がっているはずだ。このゲームの運営はそういう所はリアルよな」



 なるほど、と納得するセイン。

 ワイドエリクシールを踏み抜いた課金王は、シュリに声をかける。


「シュリよ! 先程と同じぞ! 麻痺とともに、最大火力で叩く! カウントダウンは任せたぞ!」

「りょーかいッスー!」



 武器の種類を麻痺系のみに切り替えて、シュリはヤマタノレイク・サーペントの身体に傷をつけていく。

 カウントダウンを頼むなどと簡単に言ってはいるが、蓄積された状態異常の値を正確に判断できる者など、片手の指程しかいなかったりする。


「麻痺行くっすよー! 10秒前!」

「課金王、パワポもう一個頼む」

「うむ。すぅ……」

「オオオオオオ!」



 見ずに投げられたパワーポーションを頭突きで割り、チャージランスの体勢に入るセイン。

 課金王は上段の構えだ。


「3,2,1、麻痺!」

「ふん!」

「だっしゃい!」





 アンダレイク・サーペントとの戦闘を彷彿とさせる流れで、ヤマタノレイク・サーペントは倒れた。



「ふぅ、思ったより時間かかっちゃったッスね。単純にHP量の問題ッスけど」

「だが、想定の範囲内ぞ。ワープ結晶様々よの」

「ドロップは……酒?」



 一足先にインベントリを見たセイン。そこには『ヤショーリ』という表示名。


「余も同じぞ。『ヤショーリ』……八塩折之酒か」

「アタシも同じッスねー。固定ドロップっぽい感じッスか」



 今度は自分だけレアドロなんじゃないかと一瞬喜んだセインだったが、2人とも同じものがドロップしていると聞いて肩を落とした。残念がっているわけではない。


「さて、行くぞ二人とも。目的地はすぐだと思われる」

「ん? コイツ倒すのが目的ってわけじゃねーのか」

「まだ戦うんスか……?」



 流石にもう戦わん。余も疲れたからな、と笑う課金王。精神的疲労だけは、課金アイテムをもってしても回復できないのだ。


 歩き出す課金王についていく二人。

 普通ならそこにあるはずのワープ陣の代わりに、物凄い勢いで周囲の液体が吸い込まれる穴が開いていた。


「なぁ。これ、なぁ。そういうこと?」

「うむ。先に行っているぞ」



 課金王とシュリを交互に見て、少しだけ及び腰のセイン。そんなセインに構うことなく、課金王は穴に飛び込んでしまった。

 一瞬にして吸い込まれる課金王。


「行くしかねーッスよ、セイン。アタシはagi高いッスからこういうの慣れてるんス。なんなら背中押してあげるッスけど?」

「……はぁ。俺ジェットコースターとかあんまり好きじゃねーんだけどなぁ。仕方ねぇか。先行くぜ」



 とぼとぼと、穴に近づくセイン。ビュッっという音と共に穴に吸い込まれたセインは、まるでその場から消えたようだった。


「……敢えて頭から!」



 水泳の飛び込みの様な形で穴に入るシュリ。

 例にもれず、シュリも一瞬で消えた。


レイク・サーペント lv.110


湖蛇。噛まれると毒っぽいけど毒じゃない状態異常に見舞われる。勿論解毒ポーションじゃ解毒できません。噛む力はそこまででもないが、地面に潜んでいきなり状態異常をしかけてくる厄介な敵。


アンダレイク・サーペント lv.130


地下湖蛇。全長30mの巨大蛇。一撃一撃が重く、身を振り回す速度も速いのだが、どう頑張っても1本故に慣れると避けやすい。その代り、カジキ・ザ・グングニルが邪魔してくるので難易度は高め。


ヤマタノレイク・サーペント lv.135


ぶっちゃけヤマタノオロチ。でも尻尾は一本。アンダレイクもそうだが、地面から露出している大岩への攻撃もダメージになってる。全体魔法で攻撃すると吉。ドロップは何故か酒。それお前を討伐する物だろ。


解毒ポーション


錬金術師と製薬師が作れるポーション。材料が違うだけで、効果は同じ。最近付与効果が付けられることが判明した。課金アイテムではない。


ワイドエリクシール


1人が使うと、パーティメンバー全員効果が表れるエリクシール。普通は1本だけ買って、大人数レイドで使うのもの。課金アイテム。

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