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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の考察
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課金王の拮抗


 基本的に一個人のプレイヤーがどれほどSTR――攻撃力を上げたとしても、レイドクラスぼボスの体力を目に見えるほど削るというのは滅多にない。

 そのボスが自らのレベルに比べ格下で、自分のSTRに比べてボスのDEFもかなり劣っているという稀有な状態であればソレもあるかもしれないが、イリュオンのレイドボスは下限が80lvで、上限は無い。 上記のような効果を出すには少なくとも100lvは離れている必要があるので、現在の大半のプレイヤーには無理な行為であると言えるだろう。


 しかしそれは基本的に、だ。

 そういう『差』をお金で埋めるために、課金アイテムというのは存在している。

 課金ポーションの効果は重複する。 

 今回課金王が持っていたパワーポーションの総計は、2999個。 所持上限である。

 そしてパワーポーションはSTRを+100上げる、という単純な効果の代物。

 2999*100。 簡単な計算。

 その値は、本来想定されていなかったのだろう。


 恐らく、正規の方法は広大な水晶の森林の中から’’大きな 赤い 木の実’’を見つけ出し、それを使って交渉、ないしはそこから戦闘をするのだろう。

 だが、今回は組み合わせが悪かった。

 この場所にいたボスがヴィンティルであった事。 気分屋の彼女はそういう『仕組み』を無視してしまうことがある。

 挑戦者の中に課金王が居た事。

 そもそも課金というのは『しなくても良い事』であり、課金アイテムなんぞがなくともクリアできるようなシステムになっている。 あくまで『近道』で『楽をするため』のアイテムなのだ。


 だからそれなりに高い現実のお金が必要だし、それだけでゴリ押しするには決して安くない金額が飛んでいく。

 ゲーム会社からしたって、たかがゲームにそれほどのお金を突っ込むのは……と思わざるを得ない金額が飛ぶのだ。 しかも使ったら一回来っきりのポーションに。

 想定外なのだ。 そんな無用の長物を、恒常的に買い続ける者がいるなどという事は。

 それを、一気に使い切るなどという事態は。



『え……』

「素晴らしい全能感だ!! ようやく――ようやく、この水晶剣を扱えているぞ!」

『嘘、あなた、とってもつよいのね!! 痛いわ、痛いわカキンオウ!』

「だから発音が違うと言っているだろう!!」


 それは、至って普通の戦いだった。

 鳥系のモンスターらしく上空へ上がってから急下降、そしてまた空中へ逃げるヒットアンドアウェイ。 大剣使いらしく敵が隙を見せるまで耐え忍び、その隙に極大の威力を叩きつける一点集中。


 それが凄まじい速度で行われていなければ。

 あるいは、そこに発生している攻撃の威力が1万分の1程であったのなら、至って普通の戦いと言っていいだろう。


『すごいわ! あなた、その剣を使うの初めてでしょう!? すごい、すごいわ!』

「見抜かれていたか……! だが、今は軽いぞ! 本当に水晶のようだ!」

『水晶だもの! 主様の愛娘が別けたエセレンシュよ!? 水晶に決まっているじゃない!』

「何ともそそる話だな! 後で考察させてもらう!」


 エセレンシュの水晶剣。

 見た目、なんとも折れやすそうな……装飾品にさえ見えるこの大剣は、プライマの街の地下訓練場最深部にいるエセレンシュがレアドロップするのだが、低いドロップ率もさることながらまずエセレンシュを倒せるプレイヤーが滅多にいないし、いたとして、そしてドロップさせたとしてもコレを十全に扱えるプレイヤーは現状いないだろう。


「全く、本来の姿を取り戻すのに要求するステータスがSTR30万とはふざけているな! 誰が使うのだこんなもの!」

『エセレンシュが使うのよ! ハイトゥを守る為に、エセレンシュが使っていたのよ!』

「なるほどボス用の武器か! そんなものをドロップ品にするなアホ運営め!!」


 そう、運営は想定していなかった。

 まさかこのふざけた値をクリアしうる存在が現れることなど。

 否、扱えないアイテム、というのは困るから……STRポーションの所持上限を2999個にしたのかもしれない。 それにしたって、課金を推奨しているような物なので法的に危ないのだが。


『でも、あなたのそれ、もうすぐ解けてしまうのでしょう? なら、一つ遊びをしましょう!』

「ほう! こちらの都合を汲み取ってくれるボスは初めてだな!」

『ええ! 私は気遣いができる母親なのよ! ふふっ、ルールはとっても簡単よ!』


 ヴィンティルがバサ、バサと羽音を立てて上空へ引っ込む。

 もうわかった、と言わんばかりに課金王は剣を構えた。


「最強の一撃をぶつけ合い、勝った方が勝者……合っているか?」

『ええ、ええ! 楽しい遊び! ぶつかり合いの遊び! 3つ数えたら、ばーん!』

「望むところよの!」


 仲間達が必死で大きな 赤い 木の実を探している。

 それが間に合えば、苦労なく目の前のボスを倒せるのかもしれない。


 しかし、個人とボスが己の意思を持ってぶつかり合うなど……ましてやそれを制す機会など、この先あるかもわからない絶好のシチュエーションだ。

 強いて言うならばカメラマン役として誰かにこの戦いを撮っていて貰いたかったのだが、そこは贅沢。


 ならば、自身はこの状況を盛大に楽しむ――それが最適解だ。


『いくわよ、課金王! 3つ!』


「その発音で正解だ、ヴィンティル! 2つ!」


 紫電が迸る。

 雷鳴が嘶く。

 大気が爆ぜる。


「『1つ!』」


 パチ、と弾けた音がする。

 シュ、と空気を切り裂く音がする。




 ――そして。




「……自明の理、か……」

『私の勝ちね!』


 例えSTRで勝ったとしても。

 ヴィンティルの逸話は、そもそもサンディーヴァの鳥の特徴は。

 速い事(・・・)である。


 ともすればスピードポーションをオールしていれば反応しきれたかもしれない。

 だが、高いレベルとはいえ常識の範囲内のAGIしか持たない課金王では、ぶつかり合う前に攻撃されて、そのHPを吹き飛ばされた。


 カシャン、とエリクシールを踏み割る課金王。


『あら……あなた、主様の雫を……』

「勝負には負けたが、死ぬわけにはいかん。 パワーポーションの効果は切れたが……皆が大きな 赤い 木の実を見つけてくるまで、相手をしてもらおう。 良いか?」

『勿論! また遊べるのでしょう? 強い力も良いけれど、硬い体や速い足も素敵よね!』

「見透かされているか……ならば、期待に応えるとしようではないか!」


 先程まで羽の様に軽く、空気の様に透き通っていた水晶剣は課金王の手にずっしりとした重みを伝えてきていた。

 要求ステータス以下のSTRになってしまったために、普段の姿……重く、硬く、水晶色をしているただの剣に戻ったのだ。


 あくまで真の姿を取り戻すための要求ステータスであり、この状態でも装備できるしスキルも使えるが、先の姿に比べれば弱い以外の何物でもない。


 それでも、課金王は水晶剣をインベントリに戻さなかった。


「創世神話関連のイベントで水晶剣を使わぬわけがなかろうに……さて」

『どうするの? どうするの!』

「勿論――ガードポーション、オールだ!」


 また、銀の柱が立ち昇った。









【ぜったい☆ショタっ子:ないねー】

【一円の為に生きる女:ないですね】

【後藤:無いな】

【ヘルウィンド:ひろすぎ】

【部隊長:ありませんねぇ】


 彼らは探していた。

 何って、大きな 赤い 木の実を。


 一円とヘルウィンドがペアを組み、他3人はソロで捜索を続けているのだが、無い。

 襲い来る枝葉はまだいい。 迎撃が出来るし、その上でチャットをする余裕もあった。

 しかし肝心の物が見つからない。


 課金王とヴィンティルの戦闘音や、時折立ち上る銀色の柱――3本目――がその戦闘の激しさを物語っているので速い所見つけたいのだが、しかし鬱蒼と茂るこの森で木の実一つを見つけるというのは困難を極める事だった。


【ぜったい☆ショタっ子:ポニテ馬鹿ー、なんかヒントないのー? 流石にだるいわー】

【部隊長:創世神話によれば知恵あるモノにその実を授けるとか。 間違ってもあなたには見つけられないのでは?】

【ぜったい☆ショタっ子:じゃあお前も無理だから諦めろ変態馬尻尾】


 相変わらず口悪く罵り合う2人。

 後藤なんかは黙々と探していると言うのに、なんというかはしたない2人だった。


【ヘルウィンド:大きな 赤い 木の実だっけ。 あかくて おおきな み じゃなかったっけ】

【部隊長:表記の上では確かにそうですけど、特に変わらないのでは?】

【ヘルウィンド:でも、気になる。 もしかしてだけど、その記述ってこうじゃなかった?】

【ヘルウィンド:サンディーヴァの樹は 赤くて 大きな 実 を生らす】


 それは一見何も変わっていないように見える文。

 だが、部隊長は気が付いた。


『部隊長:ミーミル! いますか!』

『ミーミル:いるよー』

『部隊長:この前調べてもらったサンディーヴァの樹に関する本……記述そのままコピペしてください!』

『ミーミル:何故図書館にいるとバレたし。 んじゃ貼るよー』

『ミーミル:はりのような はっぱをもつ さんでぃーう゛ぁのきは あかくて おおきな みをならす れいきを あやつる しゅねくれーう゛ぇの かめと なかがわるい きは とりを うみだし すうねんに いちど それがみとなる』

『ミーミル:こんな感じ』

『部隊長:ありがとうございます!』


 そしてソレを、部隊長はパーティーチャットに再度コピペする。


【部隊長:はりのような はっぱをもつ さんでぃーう゛ぁのきは あかくて おおきな みをならす れいきを あやつる しゅねくれーう゛ぇの かめと なかがわるい きは とりを うみだし すうねんに いちど それがみとなる】

【後藤:ひらがなばっかだな】

【ぜったい☆ショタっ子:狂ったか】

【ヘルウィンド:それ、創世神話?】

【部隊長:ええ。 やはり、このあかくてがかかっているのはサンディーヴァの樹に対して……つまり、探すべきは大きな実です!】

【後藤:……そうか? 俺は普通に大きな実にかかっているように見えるが……】

【一円の為に生きる女:まぁ当たって砕けろじゃないです? 上に打ち上げて、赤い木あればそこ目指せばいいわけだし】

【部隊長:一番目が良い一円に任せましょう。 ヘル、一円を打ち上げてください】

【一円の為に生きる女:まてまてまてまて】


 先程からドカンドカンと火球や風弾の放たれている方へ部隊長は駆けだす。

 熱波を防ぐ蒼錬鉱の防具は、しかし普通の防具より遅いものの通常と比べればかなりのスピードで耐久が減っている。

 出来るだけ早く済ませなければと思い直し、部隊長は2人の元に急いだ。








「へ、ヘルちゃん……本気?」

「本気。 赤い木見つけたらマーキングアローね」

「空中で射るのは超人な方々の特権かな~って……」

「一円は既に廃人だよ?」

「ウソダロ」


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