課金王と仲間達と森と鳥
20日も開いてる・・・
今回課金王と部隊長が人数を増やした理由は2つ。
1つは、例え分断されたとしてもチャットでない声の届く距離を保てるようにしたかったため。
課金王、部隊長共に近接職のため、派手な魔法や遠距離攻撃をしての狼煙があげられないのだ。 『勇者のつるぎ』シリーズならばあるいは、という所だが、インベントリも無限ではないため常時ネタ武器を持ち歩いているプレイヤーは少ない。
課金王の当初の狙いとして、近接職はソロとして行動する事が多いし、声掛けだけで互いの位置が分かる程度の技量があるだろうと言う事で『1人で行動できる者』に召集をかけた。
ヘルウィンドや一円の為に生きる女が来たことは完全に誤算……嬉しい誤算であり、2人ならば狼煙役も務まると言う事で大歓迎と言ったところである。
そしてもう1つの理由だが、
【後藤:マッピング久しぶりだから拙くて悪い】
【課金王:気にするな。 それより、ソロで大丈夫そうか】
【後藤:平気っつか、アンタのエリクシールで大分楽だぜ。 一撃貰うと半分吹っ飛ぶとは思ってなかった】
【ぜったい☆ショタっ子:バフでしっかり軽減出来てるのにねー。 課金王のガーポ切れちゃったから、ちょっとピッチ縮めてくれると助かるよ☆】
【部隊長:回復の催促って……白魔法使いの名が聞いてあきれますね】
【ぜったい☆ショタっ子:どう足掻いてもエリクシールの回復量のが多いんだから、回復量じゃないとこで頑張ればいいんでしょ☆】
【ヘルウィンド:信号弾5番、上げる】
【課金王:了解】
【後藤:了解】
【部隊長:了解しました】
【ぜったい☆ショタっ子:おっけぃ】
【一円の為に生きる女:何故戦闘中にチャットできるんだこの人たち……あ、了解だよ】
大剣を振り回しながらチャットしていた課金王が顔を上げる。
上空に『コロナ・デブリ』が撃ちだされたのが水晶の木々の隙間から見えた。
【部隊長:距離に変化はありませんね】
チャットと撃ちだされたそれを見て、課金王は進行方向を少しだけ外側に修正する。
コレが2人が人数を増やしたかった理由である。
マッピングをするにせよ探索をするにせよ、2人だと迷いやすい。 お互いの距離をどうにかして保ったとしても、一度ずれればずれ続けるだろう。
だが、真ん中にもう1人起点となるモノがあればソレは修正できる。
当初の予定ではもう少し狭域で推し進めるつもりであった。 声掛けをし続け、その声が聞こえる距離の遠近大小で修正するつもりだったのだ。
だが、ヘルウィンドという魔法使いの登場で良い方向へ予定変更が出来た。
無魔法以外は元より派手な物の多い魔法使いのスキルだが、その中でも特に派手な火魔法と範囲攻撃に長けた風魔法の両方を取得した、願っても無いプレイヤー。
念のため一円の為に生きる女についてもらったが、分断されてもソロで行動できるというのは魔法使いとしては稀有だ。
そもそも魔法使いを選んだフレンドが居ない課金王の中で、ヘルウィンドの株はものすごい勢いで天井を突き破っている。
彼女の打ち上げる『コロナ・デブリ』を見て距離を測り位置を修正する事で、課金王含めPTはほぼ直線を進むことが出来ていた。
【ぜったい☆ショタっ子:大きくて赤い木の実だっけ? 見つけるの】
【後藤:こんな水晶の樹に木の実がなるのかね……】
【ぜったい☆ショタっ子:ていうかココ広すぎない? 杉内?】
【課金王:プライマの街までの距離は測ってある。 もう一つの場所と同じならば、恐らくその地点の天井に抜け穴があるはずだ】
【一円の為に生きる女:マーキング弾撃ちます! 敵影!】
先程『コロナ・デブリ』の打ち上げられた地点と程近い場所から、紫の一条の光が打ちだされる。
【一円の為に生きる女:久しぶりに弓使ったけど、案外打てるもんですねー】
【部隊長:早く弓をしまいなさい。 壊れますよ】
【一円の為に生きる女:隊長ナイス助言すぎる!!】
職業変更の出来ない(キャラを作り直す必要がある)イリュオンでは、他職業のスキルをわざわざ覚えるプレイヤーは案外少ない。
PvPに重きを置いているプレイヤーならば暗記は必須だろうが、世界観光がメインのプレイヤーは覚える必要が無いので知らない、というのが当たり前だ。
一応wikiには情報が記載されているのだが、その膨大な情報量全てを覚えている人間は極僅かだろう。
そんな中、それなりに多い弓使いのスキルの中でも一般に広く知られるスキル。
それが『マーキングアロー』である。
効果は単純で、矢の当たった敵の位置をPTメンバーに知らせる、というモノ。
ミニマップがないイリュオンで、どのようにして敵の位置を知らせるのか。
それもまた単純な事だ。
【後藤:なんだ、あれ】
【一円の為に生きる女:多分鳥かと。 飛んでるし】
【ぜったい☆ショタっ子:うぇーいこの枝だけじゃないのかぁ……結構カツカツなんだけど!】
課金王の視界に映る、紫色に光る点。
何という事は無い、遮蔽物を無視して『マーキングアロー』の当たった箇所の光が視界に映る、という効果なのだ。
ちなみにマーカーの色は自由に変えられる。
【ヘルウィンド:攻撃してみる?】
【課金王:サンディーヴァの地下樹脈に現れる鳥と言ったら……まぁ、サンディーヴァの鳥よなぁ】
【ぜったい☆ショタっ子:やっちゃえー☆】
【部隊長:追いかけてみるのはどうでしょう? あの鳥がとまった場所に大きくて赤い実があるのかもしれません】
【後藤:追いかけるって、かなり早いぞアレ。 俺じゃ枝を迎撃しながら追いかけるのは無理だ】
【一円の為に生きる女:私も無理かなーって……ごめんなさい】
襲い来る枝をいなし、叩き割りながら考える課金王。
【課金王:一円よ、何故マーキングアローを撃ったのだ?】
【一円の為に生きる女:気配察知したら赤が頭上後方にあったので……】
【課金王:赤だったのだな。 なら、敵だろう。 ヘルウィンド、攻撃してくれ】
【ぜったい☆ショタっ子:追いかけるとか言ってたヤーツ】
【部隊長:次はあなたが信号弾として撃ちあがりますか?】
【ヘルウィンド:了解。 コロナ・レーザーを使う。 一円、守って】
【一円の為に生きる女:喜んで!】
ワイドエリクシールを踏み割り、マーキングの方を見る。
その間にも枝が襲いかかってきているのだが、課金王は既に迎撃を止めている。
耐久ポーションとワイドエリクシールを断続的に使い、その瞬間を今か今かと待っているのだ。
スクリーンショットを撮る為に。
「溜めが終わるまで15秒ある。 私は動けないから、お願い」
「へいさ!」
迫ってくる美しいクリスタルの枝から一切目を離さずに、一円の為に生きる女は返事をした。
弓使いという括りで見た場合、一円の為に生きる女の実力は中の上程度の物しかない。
だが、弓使いで近接をするという雑技団染みたプレイにあたっては一円の為に生きる女が上の上。 いや、一番上手いと言っても過言ではないだろう。
何故ならこのプレイスタイルを編み出したのが、ほかならぬ一円の為に生きる女だからだ。
このプレイスタイルをしているプレイヤー人口自体が少ないので、一番上手いと言ってもそこまで胸を張れるものでもなかったりするのだが。
矢の本矧を握りしめ、双剣使いさながらの格好で迫りくる外敵を迎撃する。
弓使いのスキルは基本的に『矢が当たった場所』を起点にして効果を起こす物が多いので、要は矢さえ当たればいい、という理論の元やったらできた、というのがこの曲芸擬きの原点だ。
「ていっ!」
ドクン、という心臓が脈動したような音が辺りに響く。
それは一円の為に生きる女の背後――つまり、ヘルウィンドがいる辺りから響いており、その音は1秒経つごとに大きく、重く、深くなっていく。
「『気配察知』!」
自身を中心に広がる波紋を感じつつ、ヘルウィンドの周囲に外敵が忍び寄っていない事を確認する。
一円の為に生きる女は声に出さないとスキルを使えないので声に出しているだけで、かっこいいからとかいう今一理解できない理由ではない。
「一円、チャット代わりにお願い」
「わっほいムズカシイの来たね!」
両手が塞がっている一円の為に生きる女は戦闘中にチャットする、というのが中々に苦手だ。
相方が居ればそちらが戦っている間にチャットも打てるのだが、今回はその相方が動けないという事態。
同じギルドに所属する草を生やしまくる両手剣使いやコスプレ忍者のように、自身と同じく両手が塞がっているくせに何でもないかのようにチャットする奴らが不思議でしょうがない。
「『フラッシュアロー』!」
ぺかー! と鏃が光り輝く。
敵に着弾しなくても効果を発揮する数少ないスキルの1つであり、効果は単純に「光って敵の目を晦ませる」というもの。
正直樹木に目があるのか、という突っ込んではいけなそうなツッコミもやりかけたが、実際に効いているので文句は無い。 納得はしていないが。
【一円の為に生きる女:陛下!】
「あと7秒、6秒」
【一円の為に生きる女:あと5秒です!】
「5,4、3」
彼女らは心得ているのだ。
課金王が無類の「綺麗な光景好き」であると。
そしてそれには、派手な魔法のエフェクトも勿論含まれる。
「『コロナ・レーザー』」
サッとヘルウィンドの隣まで下がる一円の為に生きる女。
彼女の目の前(正確にはヘルウィンドの目の前)にあった、成人男性の握りこぶし大の真白の球体から一条の光が伸びた。
「おー、ぴったしだねー!」
その光は遠方の紫色のマーキングをぴったり貫いた。
とはいえこの光自体に攻撃力は無い。 これはプレイヤー側だけが見える道標のようなもの。
「発射」
瞬間、ヘルウィンドと一円の為に生きる女の斜め上向き前方が真白に塗りつぶされた。
まるで写真の上から白いペンキをベタ塗りしたかのような、驚きの白さだ。
ヘルウィンドの体からは絶えず青い粒子が噴出していて、それが拳大の真白の球体へと吸い込まれていた。
と、2人を見なれた光が包み込む。
課金王のワイドエリクシールだ。
「すごい。 MPが尽きない」
「おおー……すごい、何にも見えない」
『コロナ・レーザー』の勢いは衰えない。
ペースの上がったワイドエリクシールによる回復が、その火力を普段の何倍もの物にしている。
「今ので3万円越えた……? おーっそろし!」
「私のお小遣いの3倍……」
「1万円も貰ってるの!? ぶっるじょわー!!」
今回の戦いに使われた金額の重さに震え、更にはヘルウィンドの月の小遣いの多さに震える一円の為に生きる女。
なおただ会話しているだけというわけではなく、動けないヘルウィンドをしっかり守りつつのじゃれ合いである事から、彼女のプレイヤースキルの高さがうかがえるだろう。
【後藤:おーい弓使いの姉ちゃん】
【一円の為に生きる女:はい! なんでせう!】
【後藤:あのマーカーってのは、死んだら効果消えるのか?】
【一円の為に生きる女:あ、そうですよ。 死んだら光が消えるスキルです】
【後藤:消えてねえよな】
言われ、照射点を見る。
確かに紫色は消えていない。
「ヘルちゃん、ネタ武器で攻撃力下がってると思うんだけど……それでもコロナ・レーザーこれだけ照射すればすんごい威力出てるよね?」
「そのはず。 これだけ長い時間照射したの初めてだから計算が追い付かないけど、100lvくらいの敵なら蒸発させるくらいの威力は出てるはず」
【一円の為に生きる女:100lvの相手なら倒せるくらいの威力が出てるはず、だって】
【部隊長:一円、チャットやめて迎撃に集中しなさい。 マーカー、そちらに向かっています】
バッとチャットから顔を上げると、確かに遠くに会ったマーカーがこちらに向かっているのが見えた。
とりあえずチャットを開きっぱなしにして迎撃態勢を取る。
【ぜったい☆ショタっ子:真ん中組に合流するよ。 課金王とポニテ男は場所を維持して】
【後藤:俺も行くぜ】
【部隊長:距離、300m切りましたね。 ぜっショタ、後で斬ります】
【課金王:良い映像が撮れた。 余も久しぶりにロマン砲が打ちたくなったぞ】
そのチャットが流れると同時、凄まじいスパンで起きていた回復……つまり、ワイドエリクシールの使用が止まった。
そのタイミングでヘルウィンドのMPが尽きる。
「時間にして1分近くの照射……あとでSSか動画貰おう」
「動けるようになったなら、ちょっち手伝ってほしいかなー……なんて」
「勿論。 次のエリクシール回復まで待ってもらわないとだけど」
「ですよ、ねー!」
真下から生えてきた水晶の樹木を避けつつ、『クラッシュアロー』を付与した矢でそれを叩く事で砕き割る。
その反動を殺さずに身体を回転させ、付与した『クラッシュアロー』の消えないうちに鏃で上方で生え忍ぶ枝葉を撫でる様に触らせていく。
クロスボウの『クラッカーアロー』などと違い、敵にあたらなければ効果を発揮しないこのスキルだが、その威力はクロスボウの比ではない。
鏃の触れた水晶はその尽くが内側から粉砕され、水晶粒の雨を降らしていく。
「『マナエクステンド』。 やっほい、生きてる?」
「合流できたな。 つか今まで弓使いの姉ちゃん1人で頑張ってたんだな」
「動きが緩慢だからそこまで大変……ではあったけども! 近接が2人増えてくれるのはめちゃくちゃありがたいです!」
「あれ? 僕も近接枠?」
「違うの!?」
【部隊長:敵確認しました! レベルは見えませんが、ネームドらしき表示名を確認。 速すぎて見えませんのでそちらで確認お願いします】
【課金王:見えたぞ。 『ヴィンティル』。 レベルは見えんな……】
【ヘルウィンド:陛下、エリクシールをお願いします】
【ぜったい☆ショタっ子:同じ距離なのにポニテノッポは見えないんだぁふっしぎぃ~】
【部隊長:陛下が凄いのです。 私は普通です】
バサッ、という羽ばたきが聞こえた。
すると、周囲の水晶の樹木がメキメキ、パリパリと音を立てながら退いていくではないか。
「……でかくねぇ?」
後藤のつぶやきがぽろりと零れ落ちる。
それはこの場にいる4人の心の内を代弁した物だった。
パチパチ、パリパリと紫電を纏う翼幅は少なく見積もって50……60mはあるだろうか。
群青色のその身体はひどく美しく、見る者を圧倒する。
太い脚には鋭い鉤爪が3本生え、それさえも美麗に輝いていた。
『懐かしい匂いがするわ。 とても懐かしい匂いよ』
謳うような声が響いた。
誰のものと問うまでも無く、目の前のネームド……ヴィンティルのものだろう。
波のような響きだ。
『お母様の匂いがするわ。 ヴァルフィンの匂いがするわ。 エセレンシュの匂いがするわ。 ハイトゥの匂いがするわ。 でも、一番強いのは……主様の匂い!』
鳥が歓喜の声を上げる。
木々のさんざめくようなその声は、ここがゲームだとわかっていても恐ろしいと感じる物だった。
その声質は、可愛らしい少女のものであるというのに。
『見せて? 私に、主様の輝きを見せて? あなた達がヒトであるというのなら……エセレンシュに認められたというのなら! 私にも輝きを見せて!』
叫び。
慟哭の様で歓声のようなソレを皮切りに、ヴィンティルが4人に急降下して――、
「これぞ――ロマン砲! 余が命名……『大剣弾』!」
突如飛来した何かによって、その片翼を完全に凍らせながら吹っ飛んだ。




