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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の考察
44/56

課金王と部隊長と準備する仲間達


「それで? 何故あなたがここにいるんですか?」

「んー? ただの通りすがり。 でも、メンバー集めてたって事はどっかいくんでしょ? つれてってよ! なんなら寄生させてよ!」


 堂々と寄生宣言をするぜったい☆ショタっ子に、大きな溜息を吐く部隊長。

 彼とてこの反応は日常的に見慣れた物であり、平時であれば先程のような過剰な反応はしない。 疲労が重なるから。

 だが、今ここには部隊長の敬愛する課金王がいるのだ。

 課金王とぜったい☆ショタっ子がフレンドである事は知っているが、だからといってその存在を認可するわけではないのである。


「馬鹿な事を言っていないで、とっととどこかに――「良いぞ」――行ってくだ、え?」


 首をぐりんと動かして課金王を見る部隊長。

 視界の隅でぜったい☆ショタっ子が腹を抑えて笑いこけるのを我慢しているのが腹立たしいが、それよりも大事な事があった。


「呆けるな、部隊長。 こやつはこれでいて有能だ。 まぁ、それはお前が最も知っているだろうがな?」

{それに、あそこの敵は寄生してゆっくりしている者でも容赦しないだろうからねぇ?}

 

 課金王の言葉と同時に、P.f.K.からメッセージが飛んできた。

 それを見てようやく納得する部隊長。


 ゲームの敵キャラには得てして敵愾心というステータスが積まれている。

 ようはヘイトであり、誰を狙うか、何をしている敵を狙うか、というのに当たりを付けて攻撃する事でヘイト管理を行うのが初心者を抜けた中級者の必須スキルだ。

 先日課金王と部隊長が攻略しに行った時、地面に攻撃したのが課金王であるにもかかわらず、そのヘイトは課金王と部隊長の両方に向かっていた。


 しっかりとしたヘイト検証は検証班が行うのだが、大まかな基準として恐らくPTメンバー全員が狙われるのだろうと当たりを付けていたのだ。

 だから自衛ができる者を選んだ次第である。


 イリュオンにおいて寄生行為は基本的に『自分以外のPTメンバーに戦ってもらって経験値・アイテムだけ貰う』という行為であり、必ずPTに属す必要がある。

 これから攻略するダンジョンであるので観光は無理。 よって、どうあっても戦わざるを得ないのである。


「やった! それで、どこ行くん?」

「エルフィンの大樹だ。 後藤、PTに入ってくれ」

「ん……あー。 どうやるんだ? すまん、ずっとソロだったもんで……」


 頭を掻いて答える後藤。

 3人のやり取りを静観していたところに突然名前を呼ばれて驚いているようでもあった。


 後藤の言葉を聞いて戦慄する他のメンバー。

 チュートリアルなんぞクソくらえと言わんばかりに説明の少ないイリュオンであるが、それでもコミュニケーションに関する説明だけはしっかりとされる。

 それが例えβテスターであろうと変わらない。

 つまり、それを知らないと言うのは余程説明を聞いていないプレイヤー、もしくはそれだけの長期間をソロで居続けたということになるのだ。


 そして、言い草からして後藤は恐らく後者。

 後藤がβテスターである事を知っている課金王、部隊長は7年と言う期間の全てをソロでいた事に驚きを隠せない様で、


「え……あ、えっとね、じゃない。 余を視界に入れてメニュー画面を開いてくれ。 余がPT募集をしているのが見えるか?」

「おー……これクリックすればいいのか?」

「ああ。 参加申請を押してくれればいい」

「へぇ……メニューなんざ前向いて使わないからな……。 初めて知ったぜ。 ありがとうよ」

「う、うむ」


 いつも堂々としている課金王らしくない態度での対応になったのだった。


「準備は良いか?」

「ああ。 大丈夫だぜ」

「いつでも」

「いい」

「あ、大丈夫でーす」

「GO!」


「それでは行くぞ。 ワープ結晶――目的地は、『エルフィンの地下樹脈』」

「へ?」


 一行は白い光に包まれた。











「ひゃあ真っ暗……なんか浮遊感あるんですけど!?」


 真っ暗で広い空間に白い光が現れ、中から複数人――課金王、部隊長、ヘルウィンドに一円の為に生きる女、後藤、そしてぜったい☆ショタっ子が放り出された。


「む……開始地点は空中になるのか。 確か同じように空中で始まるのはツァスサツァルの塔くらいではなかったか?」

「ああ、確かにそんな塔ありましたね。 6年ほど行ってませんが……一円、気配察知で何か見える物はありますか?」

「なんでそんな落ち着いてんの!?」


 ツッコミを入れながらも気配察知を使う一円の為に生きる女。

 彼女の視界、自分たちが落ちている方向に多数の赤いシルエットが見えた。


「わー……下の方にいっぱいいますねぇー……しかもめっちゃ向かってきてる!!」

「一円、上などにはいないですか?」

「いないいないいないけど下がめっちゃいる!!」

「前回と同じようだな。 ここは……」

「私に任せて。 火・風で全範囲攻撃撃つ」

「任せよう」


 前回、課金王と部隊長は壁伝いに滑り落ちる様にして下に向かった。 

 が、今は完全に空中。 足場の完全に無い状況では長剣も大剣も活躍しづらい。

 こういう場で一番活躍できるのは軽業師や鳶職であるのだが、生憎とこの場にはいなかった。


 よって、足場が要らずとも広範囲を攻撃できる(=狙いを定める必要が無い)魔法使い、ヘルウィンドが先陣を切るというわけだ。


「『マナエクステンド』『ライフエクステンド』」


 ぜったい☆ショタっ子の持つ白木の杖から青と赤の光が放たれ、ヘルウィンドの身体に染み込む。

 その名の通りMPとHPの上限値を上げる魔法だ。


「ん……マナ上限上げは助かる」

「寄生するのではなかったのか?」

「いやぁ……こんな可愛い子に前立ってもらって、何もしないわけにはいかないでしょー」

「だが、それはしまっておいた方が良いぞ。 この先に装備耐久がガリガリと持っていかれるフィールドに出るからな。 ネタ武器は持っているか?」

「麺棒があるねー。 あー、そういうダンジョンか……。 なるほろ、ヘルウィンドちゃんはだからロリポップなんて持ってるのね」


 ぜったい☆ショタっ子が言うとおり、ヘルウィンドの手には良くある棒付きぐるぐる縞々飴……ロリポップキャンディーがあった。

 ヘルウィンドの身長も相俟ってか矢鱈とヘルウィンドが幼く見えるが、ロリポップキャンディーの大きさが10分の一ほどであったならばもう少し現実味があっただろう。


「俺には関係ない話だな……」

「全身ネタ装備ですからねぇ。 一円、あなたは大丈夫ですか?」

「あ、はい。 もう矢筒しか持ってないですから……弓はいらないんで」

「行く。 『ストーム・ストーム』『ラ・ソレイル』」


 ハルバードたるやと言う程の大きさを誇るそのロリポップキャンディーの柄を持ち、ヘルウィンドがスキルを使う。 落ち行く一行の周囲を竜巻が囲み、その気流内の中心、つまりヘルウィンドの持つロリポップキャンディーから、小型の太陽と見紛う球体が発射された。

 それは生成の一瞬辺りを明るく照らし、周囲を浮き彫りにする。


「……木の、根っこ?」


 遠目には大小さまざまだが、恐らく近寄ればその一つ一つが遥かなる大きさであろう巨岩の密集。 それが幾重にも幾重にも重なり果てて、この大きくも暗い空洞を作っている。

 岩の隙間には至る所に根、根、根。

 締め付けすぎて岩を砕いているモノもあれば、岩の内部から根が生えているようにして露出しているモノもある。


「ここはエルフィンの大樹の根の中ぞ。 ……まぁ、余もこういう風景だったとは思っていなかったが」


 周囲の風景に圧倒される一行をよそに、ヘルウィンドの『ラ・ソレイル』が撃ちだされる。

 そしてそれは、愚直にも突っ込んできていた先頭の『マホウドリ』に着弾し、


「たまや」

「か~ぎや~!」


 盛大な光と共に、爆発した。

 『ラ・ソレイル』は現状でわかっている火属性魔法の中では上から2番目の範囲と5番目の火力を持つ、火属性を取っている魔法使いの代名詞とも呼ぶべきスキルだ。

 範囲の1番は『ファイア・ストーム』というスキルで、使用者の周囲に炎の渦を生成するスキル。 火力の1番は『コロナ・レーザー』というスキルで文字通りレーザーを発射するスキルだ。

 『コロナ・レーザー』は「照射している間MPを消費し続ける」というスキル故に、マナの回復手段さえあれば実質半永久的に使用可能というぶっ飛びスキルである。

 とはいえ一度使い切るとCTがかなり長い他、照射方向が微調整程度しかできないことから『ラ・ソレイル』や火力3番目のスキル『コロナ・デブリ』が使われる方が多い。


「ほれ」

「エリクシール。 ありがたい」


 ライフは減っていないが、少しばかり減ったであろうMPの補充として課金王がエリクシールをヘルウィンドに投げる。 贅沢極まりない使い方だが、それが課金王だ。


「『気配察知』! 周囲にリポップ確認!」

「ふむ、ヘルの周囲は私が守りましょう。 ぜっショタ、上に気を配りなさい」

「指示すんな! わかったけどさ!」

「あー……じゃ、俺はこっちから来る奴弾くぜ。 足場の無い状況久しぶりだしソロじゃないのも久しぶりだから、漏らしたらすまん」

「回復は任せておけ。 余も戦闘はするがな!」

「自衛はするけど、できるだけ察知に努めます!」

「撃つ」


 各々が役割分担をしてマホウドリを弾きにかかる。

 各々初対面も多い中(後藤に至っては7年ぶりのPTプレイ)、しかし上級プレイヤーたるや、しっかりと己の役割を果たしながら下へと落ちて行った。










「ふぅ……パーティプレイって結構面白いもんだな。 つか、MP回復が定期的に来るのかなりありがたいな」

「む? 無職にもMP消費するスキルがあるのか?」


 マホウドリの猛攻を抜け、最下部の扉前で準備を整える面々。

 その中で、後藤が感心したように呟いた。


「いやいや、無職にはスキルなんて一つもないぜ。 そうじゃなくて、コレがMP喰うんだ」


 そう言いながら後藤が見せてきたのは、白金色のイヤリングだった。

 右耳についたソレは、どこか課金王のフルプレートアーマーと同じ輝きを放っているように見える。


「『ハイトゥの耳飾り』って言ってな……βテストクリアした時にドロップしたんだ」

「ほう、ハイトゥか。 ちなみにそこがどこか教えてくれたりはするか?」

「『最古の街プライマ』ってとこだな。 俺はワープ結晶持ってないから、それから一度もいけてないんだが」

「……知らん名前だな。 はじまりの街と同じ名前か。 Wikiなどには報告しないのか?」

「いやー、俺はそういうの苦手でな……。 つか、ネットが苦手というか……」

「ふむ。 ワープ結晶は余が出すから、今度共に行ってくれないか?」

「ん、いいぜ」

「助かる。 それで、その耳飾りはどのような効果があるのだ?」

「MPを消費してAGI上昇だな。 反射神経と動体視力はかかせねーんだ」

「上昇量は?」

「上限は無いぜ。 一度起動させるとMPを喰らい続ける代わりにAGIも上がり続ける」

「……なるほど。 壊れ性能だが、MPの回復手段がなければ使い所を考えなければならんな」

「アンタと一緒にいると常時起動できて楽しーんだが、上がりすぎると目を回すなコレ」

「AGI900代の世界は練習が必要よなぁ」


「陛下、準備終わりました」

「うむ。 全員耐久の減らぬ装備にしたか?」


 問いかけながら見渡す。

 部隊長は『けやきのぼう』を持ち、その身体を蒼錬鉱という鉱物から造られた青いアーマーを着こんでいる。 ひどくアンバランスだ。


 一円の為に生きる女は真白のワンピースという戦闘に向かなそうな格好に、弓を持たずに矢筒を背負って矢を両手に持っている。 課金王の知識にある通りであればワンピースの名は『気になるあの子のワンピース』というネタ装備であり、耐久は無い。 

 効果は『まるで夏の日差しに照らされたかのような輝きを発する』という無駄の極めのようなものであり、防御力は普通に売られているワンピースと同じくとても低い。


ヘルウィンドはロリポップキャンディーを右手に持ち、その身は虹色――上からオレンジ赤ピンク紫青緑のグラデーションに包まれている。 ネタ装備にしてコラボ装備『懐かしのバネのアレ』という適当なアイテム名であり、これもまた耐久は無い。

 効果は『よく伸びる』というものであり、真実この服はよく伸びる。 ただそれだけの装備だ。


 ぜったい☆ショタっ子はその手に持っていた白木の杖をピコハンに変え、防具自体は変化が無い。 元からネタ装備を纏っているからであり、『地獄に舞い降りた天使』というローブだ。

 とあるスレで神実装と騒がれた有名なネタ装備で、効果はただ1つ。 背中に着いた『えんじぇぅ☆うぃんぐ』を動かせる、というものだ。

 ちなみに飛べない。 神実装と言われたのは飛べるかもしれないと言う期待心からであり、様々なプレイヤーが様々な検証を行って結果:飛べない。 に落ち着いた時は、それはもう騒がれた。 例によって運営からの説明が一切なかったのも問題だったのかもしれない。


 課金王と後藤は一切装備を変えていない。

 課金王は自ら耐久ポーションを使えばいい話であるし、後藤はそもそもネタ装備しかつけていないからだ。

 アクセサリは元より耐久という概念がない。


「うむ……濃いな」

「俺もわりと浮いた格好してる自負あったけど、この中だと大分薄れるな」


 平時であれば良く目立つ2人も、この中(特にヘルウィンド)では割合普通に見えるのだった。


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