課金王と部隊長と集う仲間
みじか
プライマの街・噴水前。
待ち合わせ場所としてよく使われるここだが、ログイン場所が固定されているわけではないイリュオンにおいて、そこまでアクセスに富んだ場所というわけではない。
ただ、最初の街である事から所謂引きこもりプレイヤーにもわかりやすい、というだけの理由なのだ。
引きこもりは観光組にすらならなかった者の事を指す。 プレイ初めは美しく壮大な景色に心奪われたものの、今は上げられるSSや掲示板を漁り続けるのが日課になってしまった者。 現実とは違う、戦闘とういう行為に魅入られて盛った時期はあれど、レベルや戦い方、そしてごり押しでは行けない『技術』の問題についていけなくなったって愚痴ったり駄弁ったりしている者などが内訳だ。
そう言った者は総じて野次馬気質というか、良い意味でも悪い意味でも『有名プレイヤー』を見かけると、付かず離れず(と、本人たちは思っている割合近い距離)で雪玉式に膨れ上がっていく。
さて、我らが課金王がそんな野次馬の多い目立つ場所にいれば、一瞬にしてネット内を情報が駆け巡る。 当然その姿は本人の了承なしにSSを撮られ、行動やら足跡やらを予想、悪い時は追跡までされる。
課金王に対するプレイヤーの印象は大きく分けて4つであり、1つはシュリやセインのように馬が合ってつるむ者。 1つは部隊長のように崇拝する者。 1つは無関心を装いつつも視界に入ればチラチラ見てしまう者。
そして、どこまでも毛嫌いする者だ。
課金王はそのプレイスタイル上、本人の職業が大剣使いであれど、ポジションは『ヒーラー』扱いになる。
ワイドエリクシールで以て一瞬にしてメンバーを全回復させ、状態異常を回復。 耐久ポーションは装備を、各種課金ポーションはステータス上昇をと、回復役としては万能も万能、むしろそれ以上の戦果を叩きだす。
だが、イリュオンにはそもそもとして回復職・バフ職が存在する。
無属性を扱う『魔法使い』や、白魔法を使える『回復魔法使い』だ。
魔法使いの方は最低でも2つの属性(火・氷・風・地・無)を選んでいるはずなので、完全にお株を取られるということは無いが、回復魔法使いは別だ。
彼らは課金王とPTを組む時に限り、格闘家よりも不遇職へと成り下がる。
回復量・回復範囲・CTや回数。
どれをとっても課金王に劣ってしまうからだ。
厳密に言えば回数に関しては回復魔法使いに分があるはずなのだが、課金王の溜め込んでいるワイドエリクシールが既に4桁を越し、5桁に届こうかという域にあるのだから、在庫切れを狙うのは望み薄という所だろう。
唯一の取り柄といえばマナ上限増加(課金ポーションにはマナポーションが存在しない故に)だが、これもエリクシールによって全回復されてしまうのであまり意味がない。
また、回復魔法使いは『魔法使い』の括りにあるわけではなく、単一職業扱いであるが故に他の攻撃魔法を使う事は出来ないし、例え武器である杖で攻撃したところでその攻撃力は一律10と、素手の5倍でしかない。 どれほどレアものでも10なのだから、運営からソレで攻撃するなと言われているような物だろう。
課金王が居る事で一気に地雷職へと落ち込む彼らはほとんどが課金王アンチスレに入り浸り、日々を愚痴に費やす事に努めているという。
そんな回復魔法使いの中で、ただ1人。
課金王のフレンドである男が、プライマの街の噴水前で課金王に接近していた。
「おいっすー、課金王。 何、待ち合わせかー?」
「……」
「あり? ……もしかして中身居ない系?」
かるーいノリとチャラーい声で話しかけてきた男。
彼は課金王の白金色の鎧をがいぃんと叩き、噴水の縁に飛び乗ってから肩を組む。
金髪ポニーテール。 ピアス。 左頬と右肩に竜の顔のようなタトゥー。
瞳の色はダークブルーで、服装は白い法衣。
腰には白銀色をした水晶玉が先端に付いた杖を提げ、その水晶玉はそこはかとないオーラを出している。
彼の名前はぜったい☆ショタっ子。
身長130cmしかない、『笑顔だけはあどけない』が通り名の回復魔法使いである。
「おーい、課金王ー? ……こっちが居ないって事は、あのパツキンチャンネーになってんのかな?」
「……」
「いいよなぁあの身体。 正面から抱き着きてぇ。 こう、バフっと」
誰もいないにも関わらず独り言を続けるぜったい☆ショタっ子。 だが、それを取り巻く野次馬の中で、事情を知っている者だけはうんうんと頷く。
そしてぜったい☆ショタっ子にサムズアップを送る。
ぜったい☆ショタっ子はそのプレイヤーにそれだけは、と称される『あどけない笑顔』を送り返す。
初見ではよくわからないやり取りがここで為されたようだ。
「……この鎧の中もあのわがままボディなんだろうか」
「……」
「システム上そういう事は無いけど、鎧って蒸れるはずだよな……」
チャットでないからログは残らない。
だから言いたい放題のぜったい☆ショタっ子。 なお、たとえ本人が目の前にいてもセクハラまがいの発言は普通にしていたりする。
そんなぜったい☆ショタっ子の元に、2人の人間が近づいてきた。
1人は早足で、もう1人はキョロキョロしながらだ。
その二人を見た野次馬は目を見開き、高速でチャットを打ち始める。
「ふっ!」
「課金王バリア!!」
突如振り降ろされた長剣を、課金王の身体を盾にすることで防ぐぜったい☆ショタっ子。
当然敬愛する課金王に剣を当てることなど出来るはずもなく、長剣は無理な軌道を描きながら噴水の水へと切りこまれた。
「……おい。 子供に切りかかるのは不味いだろう」
「大丈夫です、後藤さん。 コイツの中身は30越えた喪女ですから」
斬りかかったのは部隊長。 付いて来たのは後藤だ。
「おっとネタバレは禁止だぞ☆ 公僕の癖にゲームなんかやってんじゃねえよ☆」
「……子供じゃなくても女ならダメだ」
「間違えました。 後藤さん、コイツの中身は「ショタっ子かわいい」と言って群がってくる女性に公の場で大々とセクハラしたいゴミのようなレズですので、遠慮はいりません」
「公の場でリアル事情に触れるマナー違反のクソ野郎にとやかく言われる筋合いはありませーん」
じゃれ合いの間にもぜったい☆ショタっ子は課金王の鎧の頭へと腕を回し、倒れない課金王を良い事に負んぶの格好になって首を傾げて見たり、足に隠れて指をくわえて見たりと煽り立てる。
コミックであれば額に青筋の浮かんでいそうな笑顔を浮かべつつ、部隊長はさらに斬りかかった。
比較的、というかプレイスタイル以外はこのゲームにおいて素晴らしいまでに常識人である後藤は困り顔で周囲を見渡して助けを求める。
しかし野次馬は首を振るばかり。
後藤から見ればそうでもないのだが、部隊長とぜったい☆ショタっ子の攻撃と回避の応酬はそれなりにレベルの高い物であるし、例えそれが無くてもこの2人の間に入って行こうという勇気のある者はいないのだった。
と、そこに助け舟が現れる。
「あーっ!! 陛下になんてことを!!」
「……元隊長。 叛逆?」
燃え盛りまくる炎に、助け舟の皮を被った油の塊が投じられた。
「ん? おお……。 助けて、おねーちゃん達! 怖いおじさんが! 僕、何もしてないのに……!」
「懐かしい顔ですね。 2人とも、コイツはゴミのような性格をしたレズですので、お気を付け下さい」
「了解! コイツが悪いのね!」
「……了解。 鎮圧する」
「なんでぇ!?」
一円の為に生きる女とヘルウィンド。
元課金王近衛部隊のギルドメンバーである。
「えーっと……これはどういう事だったりするんスか?」
「さぁ? まぁ、悪いのはぜっショタなのは分かるわよ」
「ひどくない?」
一円の為に生きる女の膝に座って腕を拘束されているぜったい☆ショタっ子。
本人はそれなりにある一円の為に生きる女の感触を後頭部で楽しんでおり、拘束されているにも拘らず割合楽しそうだ。
部隊長もそうであろうな、という事には気付いているのだが、ヘルウィンドはともかく一円の為に生きる女が犠牲になるのならば別に構わないので放置している。
若干引き気味の後藤合わせ、たった今合流したシュリ、ぴーちゃん。 そして動かない課金王を含めると総勢8名と、それなりの大所帯となったメンバー。
彼らはこれからあるダンジョンを攻略しに行く……のだが、
「それじゃシュリ」
「これが渡したかったモノだ。 郵送不可のアイテムでな……貰ってくれ」
「はいッスー」
突然課金王が動き出す。 課金王は取引窓を開き、何かのアイテムをシュリへと渡したようだった。
その間ぴーちゃんは髪の毛を弄ったり手を後ろに組んだりと、まるで中の人がいるかのような仕草を取る。
「……相変わらず意味わかんない技術。 ほんとソレどうやってんの?」
「秘密だ」
「秘密よ」
「……やはり実は別人説……ッ!」
唯一事情を知らない後藤は、しかし言葉の節々から何をしているのかを読み取る。
即ち2重ログイン。 1人のプレイヤーが違うキャラクターで同時にログインする事だ。
だが、VRでそれをやるとなると……ぜったい☆ショタっ子の言うとおり、意味の解らない事になる。 それこそ別人でもない限り、人間には無理なのではないだろうか。
「じゃ、私は行くわね」
「あ、アタシも失礼するッスー」
ぴーちゃんとシュリはそのまま姿を消す。
残された6名。 課金王、部隊長、後藤、一円の為に生きる女、ヘルウィンド。
そしてぜったい☆ショタっ子。
「ところでどこ行くの?」
「どこでもいいでしょう。 回復職は一切役に立ちませんから」
「長剣よりは役に立つと思うけどなー」
「……PvPが希望ですか?」
売り言葉に買い言葉。
ぜったい☆ショタっ子が何か発言すると、必ず部隊長が引っかかる。 ぜったい☆ショタっ子も無視するわけでなく、部隊長を煽り立てる。
犬猿の仲に見えるソレは、しかし初対面の後藤含めて――生温かい目で見守られていた。
「あんた……先日ぶりだな。 今日はよろしく頼む」
「改めて名乗ろう。 余の名は課金王。 大剣使いだ」
「ヘルウィンド。 風・火魔法使い」
「あー……俺は無職だ。 継戦力だけは期待してくれていい」
否、背景として扱われていた。
ちなみにぜったい☆ショタっ子を膝の上に乗せている一円の為に生きる女はヘルウィンドに羨望の眼差しを送っていて、ヘルウィンドに「私も! 私の紹介も!」というアイコンタクトをどうにか伝えられないか奮闘している様だった。




