格闘家の訪問
初心者の風読と同じく、幕間的な話です。
一応時系列的には繋がってます。
ほぼチャットですね
「ねね、ヘルちゃん。 ヘルちゃんのお友達に腕のいい木工師がいるって聞いたんだけど……」
「いる。 けど、何故南に頼まないの?」
「アイツ、今アールヴァルの地下水脈にいるんだってさ。 ワープ結晶忘れたみたいで、帰ってくるのは明後日になりそうとか言ってて……。 陛下とのクエスト行く前に、ちょっと修理と強化お願いしたくてさ……」
プライマの街、北西。 他の家々に比べて明らかに異彩を放つ広い家。 所謂パッラーディオ建築で作られたその建物が、ギルド『ラジャネーレダロー』のギルドハウスだ。
建物内部は4区画に分けられ、男性用、女性用、生産区画に訓練区画と、一見実用性に富んでいるように見える構造をしている。
が、女性区画にはギルマスであるもっつぁららの撮りためたイケメンのSS(許可は取っている)や、これまたもっつぁららの(正確にはヘルウィンド以外の)SSコレクション『かわいいヘルちゃん』が飾られているし、男性区画には南北南南の自撮りSS(撮らせた)やryouhei831と激熱侍EXの観賞用武器群が部屋の6割を圧迫しているなど、完全に趣味に走った装いをしているといえるだろう。
また生産区画は料理と調合のスペースが隣にあるせいで、時たま異臭を放つ事で知られている。 凄惨区画と言われ、生産職以外は近寄らない場所でもある。
折角の広いスペースを趣味に彩った区画の中で、唯一まともであるここ、訓練区画に大体のメンバーが集まっているのは仕方のない事だった。
「……連絡取った。 今から行く?」
「うん、ごめんね……。 ちなみにどこにいるの?」
「ネクサリア。 準備とかある?」
「ううん! もう全部持ってるー」
「わかった。 行こう」
そして、そんな訓練区画からギルド唯一の清涼剤と言っても過言ではないヘルウィンドが外出してしまう。 一円の為に生きる女の方は誰も気にしていないのだが。
残された面々はまた武器の調整やスキルの練習に打ち込むか、もっつぁらら・ホワイトマジシャンボーイを弄りにかかるのがラジャネーレダローの日常だった。
普段ならこの後は誰かがダンジョンに行くか、勧誘したりSSを撮りに行く程度の事しか起きないのだが、この日は違うようで、
『ディンディンディンドゥディディーン、ディ、ディ、ディディディーン』
という、田舎のチャイムみたいな音がギルド内に響き渡った。
「……このチャイムに戻したの誰だよ。 折角俺がギルマスの寝言ボイスにしておいてやったのに」
「ハァ!? なにそれ、知らないわよ私それ!! ちょ、りょうへい! そのデータ消せ!」
「別に構わないが、みんな持ってるデータだぞ? ヘル以外」
「あ、これの事か? 『んにゅぅ……ぃらっぁ~ぃ……だーりぃん……』。 かわいいよな、コレ」
「ガチタン……アンタ、覚えておきなさいよ……」
「なんで俺だけなんだよ! りょうへいだろ発端は!」
「俺じゃないねー。 このデータ取ったの俺じゃねーわ」
『んにゅぅ……ぃらっぁ~ぃ……だーりぃん……』
「再生するな! って、今の誰!?」
「チャイムだよ。 今設定し直した」
「喰らえッ!!」
「は? ごほォ!?」
「おー……りょうへいの口に赤いモンが……。 おっと、ストップだギルマス。 それ以上近づくなー? 消すから、データは消すから!」
「ァ……へめ……ヒルマフこえ、カトーマの……」
「解毒ポーション激辛仕様! ちょっとは反省しなさい!」
「……いあねぇひごとひやはって……ガフッ」
『んにゅぅ……ぃらっぁ~ぃ……だーりぃん……』
「アァ?」
『んにゅぅ……ぃらっぁ~ぃ……だーりぃん……』
「何? 誰? 今度は誰?」
「いや、チャイムでしょ? 誰か来てんじゃないの?」
一連の流れを見ていたハルカ22の言葉だった。
「えっと……?」
「ん、加入希望者? ちょいまってねー、今どたばたしてるから」
「あぁ、違うわ。 用があるのはシュリなのだけれど」
白金色の長髪をサラサラと揺らす美人。 美女というよりは美人。
もっつぁらら達に客の応対を任されたハルカは、訪問客にそんな印象を抱いた。
アバターにしちゃ自然……だし、そもそもこんな色味、スキャン以外で出せたっけ?
自身もアバターづくりに結構な時間をかけたハルカは、そんな事を思う。
「ん、違うの? シュリはまだお昼ご飯から帰って来てないよ」
「あら……それじゃ、また来るわね」
「んー……ウチで待ってれば? 昼落ちしたの結構前だし、喋ってれば帰ってくるっしょ」
何よりもハルカが気になったのは、その武器だ。
両手に嵌められた、水晶のような半透明の武器。 恐らく篭手。
つまり、格闘家。 何を隠そう、ハルカ22も格闘家だった。
「あら、いいの? それじゃあお邪魔しようかしら」
「ん。 今死体処……片付けしてるから、ちょいまっちっちー」
チャットを打つ。
『ハルカ22:美人さんがシュリに用があるってんで中に誘ったけど?』
『もっつぁらら:人気ね、あの子。 りょうへいとガチタンは凄惨区画に置いてきたから、もう大丈夫よ』
『ハルカ22:り』
「準備出来たから、ついてきて、おねーさん」
「あぁ、私の事はぴーちゃんって呼んでね、お嬢さん」
「……ハルカ22。 好きに呼んで、ぴーちゃん」
やっぱ美人さんってどっかズレてんだなー、なんて思いながらハルカはギルド内部に戻る。 しっかり後ろをついてきている事を確認しつつ、建物真ん中のエントランスから右にある扉に入る。
ちなみにここは何も置いていない。 というよりかは、何も設置することが出来ない仕様になっている。
「大きなギルドハウスねぇ」
「ん……そうなの? ここ以外のギルド入った事ないからわかんないや」
「私が見てきた中では3番目に大きいわね。 一番大きなものは『ゆんゆん電波発信所』のギルドハウスだったけど……」
「……あぁ、文屋か」
一瞬何だそれは、と思考が止まったハルカだったが、瞬時に脳内を検索して答えを見つけ出す。 サービス開始時からあるギルドで、検証データなどをまとめている情報収集ギルド。 元々はメンバーの1人が個人的にやっていた攻略ブログだが、段々と検証・攻略に協力するメンバーが増え、ついには運営が公式認定してくれたといういわば伝説のギルドだったりする。
その分確実な検証結果が求められるので、所属しているメンバーはスペシャリストを名乗れる人間でないとダメなのだとか。
「ほら、ネクサリアのコロシアムの横に、大きな建物があるでしょう? 丸々一つ、アレが『ゆんゆん電波発信所』のギルドハウスよ」
「……マジ?」
「マジマジ」
その綺麗な顔からマジとか聞きたくなかったなー、なんて思いつつ、ハルカとぴーちゃんは訓練区画についた。
「いらっしゃい、ラジャネーレダローにようこそ」
「こ、こんにちは……」
『ホワイトマジシャンボーイ:りょうへいさんとガチタンは?』
『もっつぁらら:灰になった』
『ホワイトマジシャンボーイ:そ、そうか……』
「少しの間、お邪魔するわね。 あ、私はP.f.K。 ぴーちゃんって呼んでね」
『もっつぁらら:やっぱ美人ってどっかおかしいのかしら』
『ハルカ22:思っても言わない優しさ』
『ホワイトマジシャンボーイ:失礼すぎるぞ君達。 というか、それならギルマスも美人じゃないとおかしい』
「オゴ……」
「? どうしたのかしら……」
「ん、気にしないで。 それよりもぴーちゃん、シュリが来るまでの間ちょっと喋らない? ぴーちゃんも格闘家なんでしょ?」
「あら、あなたも? ふふ、格闘家を語れる人は少ないから、嬉しいわ」
『ホワイトマジシャンボーイ:肘は痛い』
『ハルカ22:自業自得』
『もっつぁらら:インガオホー』
『南北南南:何!? 私が頑張ってる間に美人が来てるの!?』
『もっつぁらら:あら、いたのね南。 とっくにカジキに刺されて死んだと思ってたわ』
「聞いてもいい事かわかんないんだけど、その篭手……何? 見たことないけど」
「ふふ、ユニークだから知らないのも無理はないわ。 コレはね、『シャンブルの晶手』っていうの。 ドロップ場所はネクサリアの訓練所最深部よ」
「……マジで?」
「マジマジ」
『南北南南:へっへー、超絶強い護衛がいるから大丈夫だもんねー! つか巻貝に押し付けられた感あるけど久しぶりに戦えてラッキー!』
『巻貝の巻:俺より強いお前ならいけるかと思ってな。 押し付けてすまねーYO』
『激熱侍EX:マキ、どこにいる? あまりはぐれるなって言っただろう』
『巻貝の巻:激熱の真上かなー。 もうすぐ着地するから、できれば波の排除よろ』
『激熱侍EX:了解』
『南北南南:そっちも楽しそうだなオイ』
「ネクサリアの訓練所って、敵が硬すぎて攻略無理って言われてる場所じゃなかった?」
「他の職業ならエリクシールがぶ飲みとかでない限り無理かもしれないけれど……私達は格闘家よ? 避け続けて叩き込み続ければ、勝てない敵なんていないわ」
「……」
『ハルカ22:すごく戦いたくなってきた』
『もっつぁらら:PVPお願いしてみれば? 最近PVP機能使ってないのだし』
『ホワイトマジシャンボーイ:ギルマス、生産区画に口を押えてもがき苦しむ2人がいたんだけど……』
『もっつぁらら:それが灰よ』
「……シュリが来るまでの間、PVPとか……やってくれません、か?」
「いいわよ? じゃあネクサリアに、」
「あ、このギルドハウス、PVP機能ついてるんです」
『もっつぁらら:しかし、敬語使うハルカって思ったよりかわいいわね』
『巻貝の巻:いい男が見つからないからってレズに走るのか』
『激熱侍EX:婚活中の女とは因果なものだな……』
『南北南南:思っても言ってやらないのが優しさだってさっき』
『ryouhei831:婚活のストレスを俺達にぶつけてきたのか……』
『†暗黒のガチタンク†:カワイソ』
「じゃ、私は外で待ってるわね」
「ん。 ごめん、私の都合で」
「いいのよ~死体処理してくるだけだから」
『ホワイトマジシャンボーイ:南無』
「じゃ、やろうか」
「そうね。 やりましょう」




