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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王との共闘

 アールヴァルの鍾乳洞から戻ってきた3人は、一旦昼食休憩を入れて、再び落ち合うことにした。

 カナはそのままログアウト。セインと課金王は――。


「言わずとも良い。消化不良なのだろう?」

「課金王流石だぜ! わかってた事だけど、俺だけ雑魚しか相手してねーもんよー」



 スライム駆除とか清掃員かよー、と先程まで投げていた量産品の槍を取りだしてグルグル回すセイン。勿論課金王には当てないようにしている。


「ふむ、約束の時間まで2時間あるわけだが……どうだ、最近見つけたばかりのダンジョンへ行ってみたくはないか?」

「おぉ! ん、最近見つけた? 課金王がか?」

「そうだ。余が発見者だな。称号が手に入ったから間違いはないだろう」



 当然だが、ダンジョンの発見というものは時間がかかる。必要最低限の情報――バグか仕様かの判別等――は運営に質問すれば帰ってくるが、ゲーム内のコンテンツに関しては基本ノータッチだ。プレイヤーが開拓するしかない。

 ある程度歴史のあるVRMMOにも関わらず、illusi-onlineはコンテンツの3割も開拓されていなかった。3割という数字は予測だが。



「俺と課金王が先駆者って奴? そりゃ――そりゃ最高だぜ課金王!」

「一応もう一人呼ぶがな。詳しく検証したわけではないが、最初に出てきた雑魚のレベルが105であった。回復は余がやればいいが、余とセインだけでは火力不足であろう」

「105ォ? 雑魚が? なんだそりゃ……絶対楽しいじゃねえか」

「メールは既読になっているからもうすぐ来るであろうぞ」



 年甲斐もなくはしゃぐ中年のおっさんと、インベントリを操作する課金王。そんな派手なコンビに、突進するような速度で迫る影があった。


「あー、呼んだのってコイツか……んー、フルスイング!」

「だっはー!? 何するんスか! アンタしかもそれ釘バットだし!」



 セインが振り向き様にフルスイングしたものは、ネタ武器『釘バット』。長物を扱える職業だけが装備できるソレは、ネタ武器とは良いながらも普通に実戦に耐えうる程の威力を持っていた。


「お前なら避けると信じてたからサ!」

「うっざ! そういうスマイル使って許されるのはイケメンだけッス」


「よく来てくれたな、手裏剣大好き」



 セインと罵り合いをしていた影――15歳くらいの少女は、急に呼ばれた自身の名につんのめる。

 噴き出すセイン。


「課金王……だからアタシの事はフルネームじゃなくて、シュリって呼んでくれっていつも言ってるじゃないッスか!」

「クックックッ、い、良いじゃねえか。自分の、ブフッ、自分の名前くらい大切にしろよ手裏剣大好き!」

「名前呼ばれる度に黒歴史の身にもなれッスー!」



 プレイヤーネーム、手裏剣大好き。見るからに忍者です! という格好をしたアサシンである。

 ちなみに衣装は史実の黒ずくめではなく、二次元にありがちな露出のあるタイプだ。


「そうか、すまんなシュリよ。時間も限られているのでワープするが、いいな?」



 いいか? ではなくいいな? であるのは、シュリが準備を整えてきている事への信頼からだった。

 応、いいッスよーと答える二人。


「行き先は……アールヴァルの地下水脈」



 課金アイテム、ワープ結晶の光と共に、3人はこの場から消えた。











「アールヴァルの鍾乳洞が発見された時から、余は一つの疑問を抱いていた」



 ピチャピチャと水音が響く、水の匂いが強い洞窟。

 そこを、3人の人影が歩いていた。

 先頭で歩きながら話すのは課金王。後ろの二人は話を聞きながらキョロキョロと辺りを見回している。


「そもそも鍾乳洞とは、地下水に混ざった石灰によって創られる物だ。なれば、その地下水とやらは何処から来ているのか……とな」



 地面に溜まっている水に手を触れるシュリ。サラサラ――真水だ。

 リアルだよなぁ、と感心した様子のセイン。


「最初はアールヴァルの鍾乳洞の中に、抜け道でもあるのかと思った。だが、いつものローラー法で探しても見付からなかった」



 あー、アレか。と、セインとシュリは嘆息する。


「だから余は――アールヴァルの鍾乳洞を飛び越えた」



 何がだから、なんだろうと二人の思考が一致する。

 課金王の語りは止まらない。


「システムの壁は存在しないと確信していたのだ。鳥系のモンスターが鍾乳洞を越えていくのが見えたからな。後は、パワーポーションがぶ飲みでロッククライミングぞ」



 パワーポーション。これも課金アイテムだ。10分間だけ、strを+100するというもの。


「登りきると、遠目に洞窟があるのが見えてな。スピードポーションを使っても良かったのだが、まぁ観光がてら歩いたぞ」



 スピードポーションも、agiに+100する課金アイテムである。


「そうして見つけたのが――着いたぞ、ここだ」



 二人の視線の先に広がる光景――それは、青白く光輝く地下湖だった。


「うっひゃー! キレイッスね!」

「あぁ、キレイだな。だが……行き止まりじゃね?」



 セインの指摘通り、地下湖が鎮座しているだけで道や扉などは見えない。



「あるであろう、道。目の前に」



 そういってずんずんと湖の方へ歩いていく課金王。そのまま――入水した。



「おいおい! 水中ダンジョンかよ! そんな装備持ってきてないぜ!」

「アタシも水中ダンジョンじゃ役に立たないッスよ?」



 水中ダンジョン。海の中等に存在する、水没したダンジョンだ。最大の敵は浮力。

 ゲームの仕様上窒息死は無いが、呼吸がしづらくなることは確かで、戦闘中ともなればその弊害は顕著になる。

 よって、水中でも通常通りに呼吸出来るようになるエンチャントや、浮力そのものを半減するエンチャントなどが存在するのだが、生憎二人はそういった類いの防具を持ってきていなかった。


「まぁ、入ってみろ。騙されたと思って、という奴ぞ」



 課金王の鎧も水中用エンチャントはしていないはずなのに、何の躊躇いもなく入水したことを受けて、そろーっと湖に身を浸ける二人。


「ん? これ……水じゃない?」

「なんスかこれ……でも、アタシはこれを知っているような……」



 水ではない。浮力はほとんど感じられず、呼吸がしづらくなることもなかった。処か、心地好ささえある。


「多分ではあるが、擬似エリクシールであろうな。一瞬で完全回復するほどではないが、HPとMPの常時回復効果あり、と見ている。ちなみに掬う事はできなかったぞ」



 マジで!? と言った表情でインベントリから容器を探す二人だったが、告げられた一文に肩を落とした。


「さて、そろそろ湧くぞ、二人とも」



 何が、なんてわかりきった事であった。

 瞬間、弾丸のような、矢のような物がセインに飛来する。


「どわっ!? なんだありゃ!?」

「矢……? いや――魚?」



 ギリギリで避けるセイン。

 シュリが見たシルエットは、矢のようでいて、尾びれと背鰭があることから辛うじて、魚であると判断できた。

 体を大の字に広げる課金王。


「……ふん! そら、コイツが正体ぞ」



 そんな隙だらけの獲物を無視するはずもなく――まんまと突っ込んできた魚は捕獲された。


「えーと、『カジキ・ザ・グングニル』……? だからネーミングどうにかしろって何度も」

「レベルは105ッスね。あー、もしかしないでも、コイツが四方八方から飛び交ってくるダンジョンッスか?」



 うむ。コイツだけではないがな、と言って、カジキ・ザ・グングニルを押し潰す課金王。

 めんどくせー! とはセインの本音だった。









 風切り音がしたら避ける。余裕があれば、武器を突き出す。セインとシュリは安定した撃退法を身に付けていた。全て自機狙いなのだ。速度に慣れてしまえば、避けるのは簡単だった。

 課金王は避けるのが面倒なのか、ガン、ガン、と鎧にぶち当たってくるカジキを余所に、耐久回復ポーションとエリクシールがぶ飲みで歩いている。

 耐久回復ポーションは、身に付けている武器防具の耐久を40回復するというアイテムだ。例に漏れず、課金アイテムである。


「そろそろぞな……ん、セイン! そこな岩場に投擲頼むぞ」

「ん? よっと、おぉ、わかった! おらっ!」



 セインが量産品の槍を投擲する。ゴッ、という音と共に、槍は弾かれた。


「岩の音じゃないッスねー。モンスターッスか?」

「うむ。そろそろ出てくるぞ。前回来た時はパワーポーションがぶ飲みで20分かかったのでな。HPはかなり高いと見ている」



 ゴゴゴゴゴと、地面が揺れる。まるで、地面の直ぐしたで何かが蠢いているような――。


 ドパッ! と大きな音を立てて、先程の岩石が勢いよく持ち上がった。


「うわー、薄々感付いてはいたけど、想像よりでっけぇ」

「あー、成程。常時回復なんて効果があるだけはあるってことッスね……。3人で倒す奴じゃなくないッスか?」



 現れたのは、巨大な海蛇。先程の岩場は、頭についたコブだったようだ。

 尻尾の方はまだ地面に埋まっているにも関わらず、地面から頭までの長さは20mくらいある。

 確実にレイドボスだった。


「この液体のおかげで楽になるかと思っていたのだがな。常時回復効果はあの蛇にも適用されているらしい。だからまぁ、回復はいつも通り余が行う。セインは余と共に攻撃を。シュリは常時ダメージ系を中心に状態異常を頼む」



 了海ッスー。と状態異常エンチャント付きの苦無や小太刀を取り出すシュリと、黒曜石色をした槍を取りだすセイン。

 課金王は水晶の大剣を担ぎ、二人にパワーポーションをなげかけた。



 戦闘開始だ。


カジキ・ザ・グングニル lv.105


 鋭くしなやかな身を高速で撃ちだし、獲物に刺さったまま獲物を食べる。

 グングニルとは言うものの、必ず当たるとかそういうことはない。



パワーポーション


課金アイテム。

10分間、strを+100する。


スピードポーション


課金アイテム。

10分間、agiを+100する。


耐久ポーション


課金アイテム。

身に着けている装備の耐久を40回復させる。



playername:手裏剣大好き

人間 アサシン:lv.120

HP:1002

MP:820

str:220

def:112

agi:850

dex:774

int:82

luck:64


スキル

 暗殺術:lv.30 状態異常持続:lv.12 状態異常攻撃:lv.12 気配察知:lv.23 

 暗器マスタリ:lv30

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