課金王と部隊長の退避
超絶短い
定期的に行われるワイドエリクシールによって体力は全回復するが、耐久ポーションはPTメンバー全体に届くわけではないので、ガリガリガリガリと装備の耐久が削れていく。
「ふむ……」
『部隊長:熱波を防ぐタイプの装備といえば』
『山川斎藤重兵衛:いきなりすぎでしょ……。 熱波? 熱って事ならアイスルトール系列のドロップか、蒼錬鉱の製作装備とかじゃない?』
『部隊長:もってませんね……。 誰か売ってくれません?』
『くじらさん:アイスルトールアーマー2M。 フル装備だと4M。 蒼錬鉱持ち込みなら1M、こっち持ちなら2M』
『部隊長:蒼錬鉱持ち込み1Mで。 今はダンジョン中なんで後でギルドハウスに』
『くじらさん:山川ほっぽり出していったトコ?』
『部隊長:えぇ。 フィールドデバフが耐久減少のようです。 熱波を防ぐものがないとガリガリと』
『山川斎藤重兵衛:うわー、盾使いには鬼門じゃん』
『ミーミル:スラッシュ系で防げないの? 熱波なら謎判定でカットできそうだけど』
『部隊長:スラッシュ系で遮断は出来る様ですが、武器の耐久減少は早まる一方ですね。 ふむ……』
『ミーミル:じゃあ耐久減らない奴でやればいいじゃん。 けやきのぼうとか。 あれ確か長剣も当てはまってたでしょ?』
『部隊長:それです。 んじゃくじら、後で』
『くじらさん:ほいさ』
「まさかダンジョンでけやきのぼうを使う日が来るとは……」
ギルドチャットを終えた部隊長が取り出したるはネタ武器『けやきのぼう』。 素手の攻撃力が2であるのに、この武器を持つと攻撃力が1になる素晴らしきロマン武器だ。 素手同様耐久減少が無く、且つ長剣・片手剣・双剣・細剣のスキルを使用可能になる。
ソードスラッシュのようなstr依存のスキルさえも攻撃力が1になるので、PVPにおけるスキルや立ち回りの練習に使われる事もある武器だ。
「しかし……もっと攻撃してくるものだと思っていましたが、そうでもないんですね……。 陛下の方に多く行っているのでしょうか?」
『ミーミル:つかどこのダンジョンいってんの?』
『部隊長:エルフィンの大樹ですね』
けやきのぼうを振り続ける部隊長。 ソードスラッシュが断続的に発生し、熱波を防ぐ。
破壊しようにも攻撃力1ではどうしようもない。 度々襲い来る蔦をソードスラッシュや撫で斬り、ガードステップでズラしながら進む。 左手は手元の仮想キーボードでチャットを打つ。
『ミーミル:なんでそんなトコに? つか、そこそんなギミックあったっけ?』
『山川斎藤重兵衛:陛下と一緒なんだってさー。 なんか新しい場所見つけたんじゃないのー?』
『部隊長:えぇ。 雑魚レベル105の新しいダンジョンですね。 今中ボス部屋なんです。 クリア条件がわからないのが難点ですねぇ』
『くじらさん:ボス倒して終わりじゃないのか。 めんどそう』
『部隊長:フィールド全体がボスですから、倒しようがないんですよねぇ。 誰か創世神話調べてきてくれません? サンディーヴァの樹について』
『ミーミル:今丁度図書館にいるけど……もしかしてサンディーヴァの樹と闘ってんの?』
『部隊長:そうですよ』
ガードステップでも熱波を遮断できる事に気が付いた部隊長は、そちらへ切り替える事にした。 ソードスラッシュより消費MPもCTも少ないのだ。 ワイドエリクシールでMP回復は出来るものの、いざという時に備えてMPは残しておいた方がいい。
大体の攻撃は頭上から襲い来る枝だが、油断していると足元にいきなり生える根に足を取られる。 長剣には両手剣などと違って長距離を移動したり、身体を無理矢理に動かすスキルが無いので捕まったらおしまいだ。
ガードステップはガードしなければ効果を発揮してくれないのが痛い所である。
『ミーミル:相変わらず軽いなぁ……。 一応調べてるけど、既存の情報に弱点とか無かった覚えがあるよ』
『山川斎藤重兵衛:せいぜいシュネクレーヴェの亀と対立してる事くらいだねー。 あとサンディーヴァの鳥が生まれた樹だとか』
『部隊長:それは私も知っていますよ。 氷・風・火取ってる人いましたっけ?』
『くじらさん:ダチャーンが氷・風・地でsumsum2001が氷・無・火』
『ミーミル:しかしどっちもinしてないね。 sumsumに至ってはもう4か月だし』
『山川斎藤重兵衛:スムさん確か転職するから半年くらいinできなくなるって言ってたよー』
『くじらさん:あいつ確か30代だったような。 今更転職すんのか』
『ミーミル:ギルマスー、ダメだ。 弱点っぽいのは何も無い。 ただ、サンディーヴァの樹ってのは何年かに一度「あかくて おおきな みをならす」って書いてあるから、ソレがヒントかも』
『部隊長:礼を言います。 赤くて大きな実ですね』
『ミーミル:ういー』
断続的にガードステップ・ソードスラッシュをしているとはいえ、防ぎきれない熱波が防具を焼いていく。 既にここへ来た時の耐久値の半分を切っている。
【部隊長:陛下。 赤くて大きな実、というのがヒントのようです】
【課金王:あぁ、創世神話の奴ぞな。 そうだ、余は失念していたのだが、耐久は大丈夫か部隊長】
【部隊長:ご存知でしたか。 装備の方は大分キツめですね。 防具程度無くても、と言いたいところですが、未知のダンジョンでは少し厳しいです】
【課金王:耐久が1になった装備は仕舞って他の装備に変えるといい。 合流した時に、耐久ポーションをドバドバかけてやろう】
【部隊長:ありがたい】
ワイドエリクシールの回復。 これで7回目だ。 合計6千3百円。
恐ろしい金の使い方だと部隊長は震えた。 勿論畏敬として、だが。
一応中ボスの扉の在った場所の壁に添って進んでいる部隊長だが、一向に角が見つからないことに疑問を抱く。 これがもし円状の空間だったとしたのなら、凄まじく広い円であろう。 なんせ、壁は真平らに見えるのだから。
そもそも何故地下にこのような広い空間があるのか。 ワープ時特有の感覚が無かった事から、ここは今もエルフィンの大樹直下であるはずなのだが。
『ミーミル:そういえばサンディーヴァの熱窟の方は最深部にマグマ溜まりがあったんだっけ?』
『くじらさん:槍使いが投擲してみた結果、マグマ溜まりの奥にも空間があるってわかったらしい。 陛下みたいな回復し続けられる人か、完全にマグマの熱遮断できる装備じゃないと進むのは無理』
『山川斎藤重兵衛:サンディーヴァの熱窟ってどこにあるんだっけー?』
『ミーミル:ネクサリアの東の方。 だけど3年前だっかに火・地魔法使いが調べた結果、かなり広範囲にマグマ溜まりが点在してるって結論が出てたはず。 あとはwiki参照』
まさか。
【部隊長:陛下、つかぬ事を聞きますが……先程噴水から出てきたのは、もしやアールヴァルの地下水脈を辿って来たのでしょうか】
【課金王:む? 系列としては似ているが、地名はゼーラーゴの晶水道だったな。 水の性質がアールヴァルの地下水脈と同じ故、どこかでつながっているのかもしれぬ】
【部隊長:張り巡らされた地下水脈。 なら……ここ、地下樹脈は……?】
【課金王:まさかどこかへ繋がっていると言いたいのか? しかし、部屋全体が中ボスだぞ? ……有り得ぬ話ではないが】
【部隊長:本当に中ボスなのでしょうか。 サンディーヴァの樹と言ったら、創世神話の中でもかなりの上位クラス。 実は中ボスはエルフィンの大樹側に居て、この敵はボスであるという可能性は……】
【課金王:無きにしも非ずだが、そうなるとどの道街中にまでボスが根を張っている事になるぞ】
【課金王:いや、そうか。 ヴァルフィンもプライマの街の直下まで来ていたな。 となると、もしやこの壁の向こうに晶水道があるのか?】
【部隊長:晶水道の方は見ていませんので判断できませんが……この空間、どう考えても広すぎます。 地下に部屋があるのではなく、地下のある一定の深さから地表までに空洞があるのだとすれば】
【課金王:壁伝いは愚策、という事か。 確かにそれだと、いつまでたっても終わらなそうぞな。 なら壁に垂直に歩くか】
【部隊長:はい。 ただ、晶水道という場所を挟んでいるのだとした場合……もしそれがこの壁の向こうにしかないのだと、1本しかないのだとしたら、これまた永遠に歩く事になりますね】
【課金王:準備を整えてから再挑戦した方がいい、か……。 人数も増やした方がよいだろうな】
【部隊長:はい。 4、5人がベストですね】
【課金王:では一度戻るぞ。 ワープ結晶を使う】
【部隊長:お願いします】
直後、部隊長の視界が光に包まれる。
気付いた時には、プライマの街に出現していた。




