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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の考察
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課金王と部隊長と鳥と樹

クリスタル観察日記とリンクしています。

 ゲームシステムの灯りが課金王と部隊長の視界を保つ。

 とはいえ灯りが無ければ2m先も見えない程に暗く、更に足場が非常に悪い。

 だというのに2人は何の障害も無いかのような様子で、奥へ奥へと滑っていた。


「視覚系のポーションでもあればいいのだがな……。 これではどのような景観をしているかがわからぬ」

「今度、ネタ武器職人や鍛冶師に常時発光系の装備を依頼しましょうか。 ユニーク装備はわかりませんが、ネタ武器ならありそうですし」

「ネタ武器職人か……。 余はあまりネタ武器職人とは縁が無いのだが……」

課金王近衛部隊(ウチ)に良いのが居ますよ。 陛下が懇意にしている手裏剣大好きさんのギルド、ラジャネーレダローのサブマスターも有名なネタ武器職人だったはずですが」

「む……今度頼んでみるか」


 ズザザザアアッ! と音を立てながら滑り落ちていく2人。 課金王の想定よりももっと深い洞だったらしく、奥へ行くごとに傾斜が急になっていた。

 ふと装備欄を見る課金王。 そして、すぐさま耐久ポーションを部隊長へ投げた。

 なんなくキャッチする部隊長。


「陛下?」

「飲んで置け。 余も驚きだが、何故か耐久がガリガリと削れている」

「……そのようですね。 もしや、このダンジョンは……」


――――『エルフィンの地下樹脈(じゅみゃく)』に到達しました――――


 2人の脳裏にシステムアナウンスが鳴り響く。

 それと同時に耐久力の減少が止まった。 まるで今までは何かの外部に居て、何らかの余波を受けていたかのように。


「『アールヴァルの地下水脈』に対する『エルフィンの地下樹脈』とな……。 やはり対になっていると見るべきよの」

「ですね。 そして陛下。 敵軍のようです」

「む……。 少しだけ傾斜が緩くなったか。 落ちながら戦うダンジョンとは、面白い!」


 課金王の言うとおり、少しだけ緩くなる傾斜。 そして洞の下の方から、高速の何かが飛来してきた。

 少しだけデジャヴを感じる課金王。 『アールヴァルの地下水脈』でも同じだったからだ。


「来るがよい」


 大の字に身体を開く課金王。 見慣れた光景故に、部隊長は止めない。

 その大きな鎧に、ガィン! という音を立てて何かがぶつかった。


 それをすぐさま両こぶしで挟む課金王。


「む……今ので死ぬのか。 耐久は無いようだな。 『マホウドリ』。 レベルは105……。 つまり、コレがここの雑魚か」

「のようですね。 私のスキルを使わない一振りでも簡単に倒せました。 レベル差もあるかと思いますが、『カジキ・ザ・グングニル』同様HPは低いものかと。 ですが……」

「うむ。 名前通り、恐らく属性魔法を多用してくるのだろうな。 しかしまぁ、そのあたりは長剣の得意分野であろう?」

「えぇ。 エセレンシュをも倒した剣技。 (とく)とご覧あれ」


 部隊長の言葉に呼応したのかというタイミングで、洞の深い方から緑色の光を帯びたマホウドリが軍勢で飛来する。 そのまま突っ込んでくるものもあれば、身体に火や冷気などを纏っている個体もあるようだ。

 ただ、一切のフェイクをかけずに突っ込んでくるその様は、


「現実のアホウドリはもっと賢いのだがな……。 このマホウドリは、本格的に阿呆のようだ」

「そのようですね。 AIであるかは知りませんが、行動パターンとしてはカジキ・ザ・グングニルと同様なのかもしれません」

「だが数が数よの……。 まぁ、回復は任せるがいい。 ドーピングポーションはどれを使う?」

「では、キヨウサポーションでお願いします!」


 キヨウサポーションはdexを100あげるポーションだ。 名前の由来は器用さからで、プレイヤーの推測では運営がdexをカタカナにできなかった末のネーミングだと言われている。 

 Dexは生産品の完成度上昇や応用力など、主に観光組・生産職が大事にするステータスだ。 しかし、戦闘に関係が無い、などという事は無く、弓の命中精度や手振れ防止等、事精度においてもっとも大事となるステータスである。

 

「フッ」


 部隊長の扱う長剣は、守りも攻めもできるがどちらかに特化している事は無い、という器用貧乏な印象を付けられがちの武器だ。 しかし、それは同時に万能型への道を持っているということで有り、今まさに部隊長がその完成形に近しい物を見せていた。


「『撫で斬り』、『ガードステップ』、ふふ、お腹ががら空きですよ?」


 『ガードステップ』は刀剣であれば全武器使用可能なスキルだ。 文字通り刀剣でガードをしながら移動する、というとても簡単なスキルであり、対象と同じ速度で剣を振る事が出来れば出来るほど、ノーダメージに近くなるスキルだ。 ダメージを喰らおうが関係ない課金王は滅多に使わないが、取得している事は取得している。


 部隊長は撫で斬りでマホウドリを浮かせ、ガードステップでその下にもぐって斬り付ける、という行為を流れるように行っていた。 自らを守りながら攻撃するその様は、長剣使いに在るべき姿と言えるだろう。 流石に初見の相手に対して速度を合わせる事は難しいのか、少しだけダメージを受けている。

 それもすぐに、後ろでワイドエリクシールを叩き割った課金王によって回復されるのだが。


「索敵持ちが居ないとどこまで続いているのかがわからぬ、が!」

「えぇ。 段々全方向から来るようになってきましたね。 恐らくそろそろです」


 課金王も何もしていないわけではない。 しかし、大剣という大振りな武器である以上、細かい動きが可能な長剣に対して撃破数は遥かに下回っていた。

 

「む……あれよの。 毎度思うが、このマークは運営が描いているのか……それとも」

「この恐竜のような鬼のような絵、ですね。 創世神話的に考えるのであれば、龍である……と考えるのが妥当ですが」

「龍と龍樹か……。 さて、開けるか」

「では、私が」


 まるで本物の王を前にした騎士団長のような、臣下のようなしぐさをしつつ、重厚な木製のドアを開ける部隊長。

 それを待ちながら、課金王は気付いた。


 装備の耐久が、一切減っていない事に。












「これは……」

「なんと、異質な……でも綺麗」


 SSを撮りはじめる課金王。

 そこには、密林が広がっていた。


 一見ただの密林、ジャングルなのだが、その木々の一本一本が水晶で形作られている。 

 地下水脈、晶水道、そして地下樹脈。 どこもクリスタルが存在していたが、全て違う色だった。

 さらに言うと、何故か木は針葉樹だった。


「しかし、中ボスはどこに……。 陛、いえ、お邪魔はしない方がいいでしょう」


 夢中になってSSを撮る課金王。 漏れ出る言葉は既にロールを忘れているが、部隊長も課金王の性別を知っているので特に気にしていない。

 とはいえ何もしないと言うわけでもなく、とりあえず周囲を調べようと一歩踏み出し――


「ッ!?」


 寸で、足元に違和感を覚えて飛び退いた。


 足元がとても温かかったのだ。 まるで、生物の体温のように。


「陛下!」

「何かし……ごほん。 何だ?」

「中ボスは……恐らく、コレです!」


 コレ。

 部隊長は人差し指で地面を指す。


 釣られるようにして足元を見る課金王。 そこには、ただただジャングルの腐植土があるばかりだった。


「む……? なら、攻撃を叩き込んでやるか……。 『パワーポーション』。 『撫で斬り』!」


 SS撮影を中断されて少しばかり不機嫌になりかけた課金王だったが、好奇心が勝ったのか急に乗り気になってスキルを使用する。

 ゼーラーゴの湖で見せた、空中にパワーポーションを同時出現させて叩き割りながらの撫で斬りを、地面へとぶち込んだ。


 ――ザワワワワッ!!


 瞬間、密林が走った。


 そして、課金王が攻撃を撃ち込んだ箇所から急激に水晶混じりの樹木が顔を出す。


「ぬぉ!? 『ソードスラッシュ』!」

「陛下! 『撫で斬り』!」


 2人を別つようにして生えた樹木。 課金王と部隊長が両側からスキルを撃ち込むが、切れる様子はない。

 そして2人の視界……地面の上に、文字が出現した。


 『サンディーヴァの樹』


「創世神話の……! ぬ、『耐久ポーション』! 『ワイドエリクシール』!」

「装備耐久減少バフ!? いえ、これは……まさか、熱波ですか!?」

「そのようだ! しかも、余たちでさえLVが見えぬとなると……初の植物のネームドかもしれんぞ!」


 とても嬉しそうな声で言う課金王。 部隊長も驚いてはいるが、楽しそうに頬を歪めている。

 どちらもどこかズレているのだ。


「創世神話によれば、サンディーヴァの樹は知性があるはず。 コレに認められるまでクリアにはならぬだろう。 定期的にワイドエリクシールは使うが、危なくなったらチャットしろ! それでは、後で再び相見えようぞ!」

「あ、陛下……。 行ってしまわれたか……。 しかし、これは面白い。 まさかボス部屋全体がボスとは……。 つまり、破壊を気にしなくてもいいと言う事!」


 課金王の前では絶対に見せないような凄惨な笑みを浮かべつつ、部隊長は破壊しながらの移動を開始した。


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