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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の考察
37/56

課金王と部隊長と熊

改めて新章スタートです。


 聳え立つのではなく、太く、強く育ったという痕跡の見られる樹。

 それがこのダンジョン『エルフィンの大樹』だ。

 存在そのものはβテスト後……つまり、ゲームサービスが開始されてすぐに見つかった、所謂初期ダンジョン。 初期なだけあって階層も少なく、出てくる敵のレベルも10から20という「まぁまぁ強いかね?」といった具合のダンジョンとして認知されてきた。


 だが、元から興味のあった者含め、格闘家事件やミニマップ事件を経て沢山のプレイヤーが創世神話について調べ上げると、『エルフィン』という単語が凄まじく重要なものであるという結論に至った。 時を同じくして攻略組が『アールヴァルの鍾乳洞』を発見。 対を為す片割れの名がついたこのダンジョンの推奨レベルがlv60程だったことから、『エルフィンの大樹』にも何かヒミツがあるのではないかと再探索が行われた。

 

 結果、今まで敵が出ていた1階・2階部分は木の(うろ)に当たる部分であり、その上にそびえる樹木内部に相当強い部類のダンジョンが眠っている事が発見された。 

 現在ではその洞部分は『大樹の洞』、幹部分を『エルフィンの大樹』と呼ぶのが一般的となっている。


 とはいえ。

 ワープ結晶が導いてくれるのは大樹の外側。 プレイヤーが2つを分けて区別しようとも、システム上『エルフィンの大樹』はこの大きな一本の樹のみであるからだ。

 そんな開始地点に、3つ(・・)の影が現れた。


 白金色の塊、課金王。

 ポニーテールの長身、部隊長。

 

 そして、熊のような大男が全く同時にワープしてきた。




「む?」

「おや?」

「ア?」



 課金王と部隊長を視認するよりも早くガンを飛ばすような声を上げる大男。

 上半身は世界に全くそぐわないと言っていい『バニラアイス』と書かれたTシャツ。 下半身は工場現場にありそうな作業服。 

 顔には一般的に泥棒髭と呼ばれる丸い髭がついており、その密度はとても濃い。

 

 明らかに浮いた人物だった。



「む……天永(てんえい)製菓コラボTシャツか。 ネタ防具ぞな」

「えぇ。 下は久安(きゅうあん)重工のコラボ作業服です。 ネタ防具にしては高い防御力の奴ですね」



 天永製菓はネタ武器『ゴリゴリ君ソーダ味』や『むちむちグミグミ』などの元となったお菓子を販売している企業だ。 創業906年。 

 久安重工はネタ武器『ビル・タワー』や『黄金のショベル』が失敗生産される由来となった企業で、サービス開始2年目程に急に出資を始めた。 なんでも社長含め重役が全員ハマった、等と言う噂が流れているが、真偽は定かではない。 創業871年。



「あーっと? んだ、あんたら。 人の服ジロジロみやがって」

「む、すまんな。 不躾だったか。 余は課金王という」

「私は課金王近衛部隊がギルドマスター、部隊長と言います」



 なんらかの拘りにおいてか、カナに名乗った時とは違って普通に名乗る課金王。

 その課金王の半歩前に踏み出し、どこぞの上流階級の執事かと思う程に洗練された動きで部隊長が一礼する。

 たじろぐ大男。



「お、おう……。 俺は後藤だ」

「ゴトー? ……聞いたことがあるような、無いような……」

「ゴトーじゃなくて後藤。 普通に後ろに藤と書いて後藤だ」

「苗字単体……と言う事は、あなたはかなり初期からいるんですね」



 当たり前と言えるのかはわからないが、MMORPGにおいて名前が被る、という事はよくあることだ。 正確には、入れたい名前が既に使われている、が正しいだろうか。

 故に名前の後ろに数字を入れたり記号を入れたり、名前自体をローマ字に変えたりなど工夫する。 †暗黒のガチタンク†のように特異な名前であれば被ることは少ないが、kanaやryouheiといった日本人名のローマ字はそれはもう被る。 故に彼ら彼女らは名前の後ろに誕生日を付ける事で、名前を使用できるようにしているのだ。


 つまり、シンプルで誰もが選びそうな名前を持っているということは、それほど初期のキャラクターであることを意味する。 もっとも偶然今まで使われず、偶然新規がそれを付けたら使えた、という例も無い事は無いが。



「まぁな。 一応βテスターだぜ。 キャラリメイクせずにずっと使ってる」

「ほう……それは奇遇ぞな。 余もβテスターだ。 とはいえ、余はキャラリメイクをしてしまったが」

「珍しいですね。 この場にβテスターしかいないとは」



 イリュオンの常識として、βテスター=強いけど癖が或るという等式が成り立つ。

 この場にいる3人を見れば、それが正しい物である事がよくわかるだろう。



「さて、新たな出会いも良いが……部隊長。 そろそろ()くぞ。 ではな、後藤」

「はい、陛下。 それでは後藤さん。 またどこかで」

「おーう。 んじゃーなー」



 そう言って歩き出す3人。

 全く同じ方向に。


 当たり前だ。 何故なら、後藤も今転移してきたばかりなのだから。


 多少気まずくなったのか、歩を早める後藤。

 わざわざそれを追う事も無いので、課金王と部隊長はそのままのスピードで目的地へと向かった。












「陛下、ここが目的地……ですか?」

「うむ。 これを見てみろ、部隊長」

「これは……? 円?」



 『エルフィンの大樹』の入り口が表だとすれば、ここは裏。 真裏とも呼ぶべき場所に2人は居た。

 課金王はインベントリを操作してスクロールを取り出して部隊長に渡す。

 スクロールに描かれているのは(いびつ)な円と数字。

 一度インベントリにしまってみれば、アイテムIDが7年前の物である事に部隊長は気付いた。

 アイテムIDを見ていつのアイテムか分かる者など、片手で数えるほどしかいないのは余談だろうか。



「そして、これが現在の物だ」

「現在、ですか?」



 課金王からもう1つのスクロールが手渡される。

 そこにも先程のスクロールと同じような(いびつ)な円。

 照らし合わせてみれば、後で渡されたモノは先に渡されたモノをそのまま大きくしたかのような形である事に気付けた。



「もしや……これは、『エルフィンの大樹』の外縁、ですか?」

「うむ。 7年前の『エルフィンの大樹』の外縁の大きさと、現在の『エルフィンの大樹』の外縁の大きさだ。 大きくなっているのがわかるか?」

「はい……。 信じがたい事ですが、この樹は未だに成長している、と?」

「うむ。 その事自体はスレやwikiなどで可能性が論じられていたのだがな、何分7年前のデータを持っている者が少ない。 余のコレは、倉庫を漁っていたら偶然出てきたものよ。 恐らく亀の歩みより遅い樹の成長に焦れて死蔵していたのであろうな」



 プレイヤー各人に1つ、最初から『倉庫』というモノが分け与えられる。 『倉庫』は各町のギルドから開く事が出来、一切の制限なく物を保管する事が出来る。 大盤振る舞いもいい所だ。

 整理機能・検索機能も充実しているので、コレクターにも優しい仕様である。

 

 とはいえ、コレクトすればするほど記憶は薄れていくもの。 入れた本人が忘れてしまえば、検索機能はあまり役に立たないものとなるだろう。

 だから多くの資材を所有するものは、『倉庫』の中身を浚い上げるためにギルド内に1日居座っている事が或るのだ。

 

 スクロールを返す部隊長。



「7年前は探索しなかった部分。 主に上層ぞな。 それは現在も沢山の攻略組が探索を進めている(・・・・・)。 だが、余は目指すべき場所は下なのではないかと思っている」

「下? ……まさか、根、ですか?」

「うむ。 7年前は恐らく密度が高く、見つけられなかった入口が……今なら広がっているのではないか、と思ってな。 少し前から探していたのだ。 そして、」



 エセレンシュの水晶剣を引き抜く課金王。

 彼女はそれを――思いっきり、地面に突き立てた。



「ふんッ」



 シャベルの要領で、てこの原理を使って地面を巻き上げる。

 まさかエセレンシュもこのような使われ方をするとは思っていなかっただろう。



「地形、壊せたんですね。 いや……元々壊す事が出来る仕様、という事ですか?」

「ふぅ……。 そうだ。 恐らく樹の根の妨げとならぬように、ここら一帯の土壌は破壊可能となっているのだろう。 そら……見えてきたぞ」


 課金王によって掘られた穴。

 その奥に、まるで深淵にでも繋がっていそうなほどに暗く深い穴が広がっていた。


 穴の外縁にはこれでもかと言う程に太い根が肌を出している。



「これは……。 かなり深いですね。 システムライトがあるとはいえ、とても暗い……」

「『アールヴァルの地下水脈』の雑魚は105lv。 つまり、ここもそれなりの強敵がいるであろう。 部隊長、お前は今幾LVだ?」

「私は177です。 一応現在のプレイヤーの中ではトップレベルだと思いますが……」

「余は201ぞ。 まだまだよの?」

「……御見それしました」



 ちなみにイリュオンの上級者だけを抜いた場合の平均レベルは115だ。

 この2人がどれだけ異常かの参考になるだろうか。



「しかし、201ですか……やはりレベルキャップは200ではなかったのですね」

「レベルキャップ自体推論でしかなかったからな……。 もしかすれば、そのようなもの自体無いのかもしれん」

「それは……良いですね。 やる気が出ます」



 さて、と言って穴の(ふち)に手をかける課金王。

 かなりの傾斜になっているようで、足場は非常に悪そうだ。



「行くぞ! 部隊長!」

「お供します、陛下」



 恐らく現在最高峰と呼べるであろう2人が、ダンジョンの攻略を開始した。


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