課金王と忍者と初心者と穴
かつてない程短い。
章終わりだからってのは理由にならない!
右腰に構えた拳に、光が集約している事をカナは感じていた。
光晶拳の真白の光ではなく、薄いピンク色の光だ。
別段込められた力が強くなるわけでも、握力が上がるわけでもない。
ただ、大気中から発生する光の粒が拳へと集まり、それがジェット機のエンジン音のような高音を発している。
息を吸う。
かっこよさ。
ただそれだけを追及するために、課金王の息遣いを捉える。
白銀の鎧に覆われながらも、彼女の気配が聞こえてくる。
息を吐く。
目の前にあるのは巨大な雪山。
イメージする。 自らと課金王の攻撃が、コレに風穴を開けるところを。
幻視する。 練り上げられた光が、世界を叩き起こすところを。
息を吸う。
左脚を前に出す。 全く同時に、課金王も右脚を前に出す。
準備は整った。
「『剛衝拳』!!」
「『撫で斬り』!!」
二重音声たるや、というほどに合わせて声が発せられた。
カナの拳は前に進むたびに極光と呼べる光を放ち、雪山へ向かう。
課金王の大剣は空気を切り裂くたびに極大と呼べる光を放出し、雪山へ向かう。
2人の攻撃が振り抜かれた。
一瞬の間。 まるで、空振りでもしたかのような間。
だが、次の瞬間。
雪山の中心から薄いピンク色の光が漏れ出し――轟音と共に、鎮座していた雪の全てが上空へと舞い上がった。
パシャリパシャリとスクリーンショットを撮りまくる課金王。
先程までの課金王はいない。 今ここにいるのは、ただ綺麗な光景を手元に留めたい観光客である。
「……いや、普通に雪退かせばいいんじゃないっすか?」
「こっちの方がかっこいいじゃん?」
「……一応動画撮っておいたッスけど……いるッスか?」
「欲しい!」
「シュリ! 余にも送っておいてくれ!」
「……こういう人種がいるからカメラマンとかいう観光組が増えるんすよねぇ」
カメラマンは特殊な観光組だ。 そういう職業があるわけではなく、戦闘に付いていくだけ付いて行って戦わない者を指す。 ただそれだけなら寄生なのだが、彼らは録画機能を使用して様々な角度から戦うプレイヤーを録画するのだ。 生産が出来るわけではないが、リアル技能として動画編集が出来るらしく、実際に戦ったプレイヤーには無償で、動画を欲しがるプレイヤーには有償でソレを売っているらしい。
有償と言ってもリアルマネーではなく、ゲーム内通貨なのだが。 その行為を嫌う者も少なくはないが、課金王やカナのように‘かっこよさ’を求めるプレイヤーも少なくはないのでそれなりのカメラマンが存在しているのが現状だ。
彼らは彼らで、どの角度がかっこいいか、ズームや絞りはどうすべきかなど日夜研究を重ねているらしく、決して寄生スタイルに甘んじているわけではないことを追記しておこう。
「よし……進むとするか」
「気は済んだんスね。 で、雪山の無くなった場所ッスけど……」
「なんか穴あるね。 近付いて大丈夫かな?」
十二分にスクリーンショットを撮り終えた課金王が――表情は見えないが――満足気な声で戻ってきた。
3人の視線の先には、直径4m程の穴。
「ふむ……む、水が張っている……?」
「おー。 この色、ゼーラーゴの湖と同じ色じゃないっすか?」
「ほんとだ。 繋がってるのかな?」
穴を覗き込むと、暗いのにも拘らず虹色に揺蕩う水が。
シュリが指先を付けてみると、疲労が取れていくような感覚に襲われた。
「やっぱ同じ水ッスね。 入ってみるッスか?」
「うむ。 他に行く場所は無いようだしな。 しかし、やはりレベルアップはしないか……。 どうにかして退いてもらうタイプのボスだったのやもしれん」
「あはは……甲羅割ってごめんね、亀さん」
誰に言うでもなく、強いて言うならば雪となったシュネクレーヴェの亀に謝罪するカナ。
「それでは、余から行くぞ。 よっと」
「カナはジェットコースターとか平気ッスか?」
「大好き! 聖……セインを引き回したの懐かしいなぁ」
「あ、アイツのジェットコースター嫌いの理由がここに。 んじゃ、アタシもいくっす」
頭から飛び込むシュリ。
カナもそれに続いた。




