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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の探訪
32/56

課金王と初心者と忍者と亀

「えーと?」


 甲羅を割ってからシュネクレーヴェの亀に動きが無い。

 流石に返り血が付くシステムは無いようで、カナに赤い所は見受けられない。


「死んだのなら……レベルアップなりすると思うんスけど」

「消えもしないとなると……もしや倒してはならなん類いだったか?」

「え、そんなのあるの!?」

「稀だがな。 ネタバレになりかねん事ばかり故に言う気はないが……創世神話関連だと、極稀に倒してはならん奴がいるようだ。 運営に問い合わせてもだんまりだからプレイヤー間の推測だが」


 シュネクレーヴェの亀は動かない。


「そういや道とかも出来ないッスねぇ。 一旦ゼーラーゴの湖から出ないと復活しない感じッスか?」

「……ワンチャン、エリクシールかけてみるとか? その……課金王のだから私がどうこう言うのはおかしいんだけど」

「ふむ……まぁそれで状況が改善するのなら、やってみるとするか。 何、気にする事はない。 文字通り湯水のようにあるのだから」


 インベントリを操作し、エリクシールを取り出す課金王。

 濃い虹色と飴色のその液体は、真白の景色と陽光によって地面にプリズムを造り出している。

 瓶の首を持ち、力なく横たわるシュネクレーヴェの亀の顔の前に歩み寄る課金王。


 元々グラフィックにコルク栓は無く、首の三分の一まで注がれた液体が(なみ)と揺れる。


「襲いかかってきた場合にはゼーラーゴの湖中に逃げるという事でいいな?」

「了解ッス」

「りょーかい! 迎え撃つくらいはしてみたいけどね!」


 課金王がエリクシールの瓶を傾ける。 液体は平行を保ったままその形状を変え、瓶の口へと進む。

 そして、その滴が――シュネクレーヴェの亀に垂れ落ちた。


「くっ!?」


 爆発的に。 そう表現するのが最も適確だろうか。


 シュネクレーヴェの亀に垂れ落ちた滴の箇所を皮切りに、その身が凍り――そして、雪となって行く。

 否、身体だけではない。

 シュネクレーヴェの亀が倒れ伏す地面も、触れている空気すらも――等しく凍りつき、雪となって真白に染まっていく。


「課金王! 苦無ッス!」

「助かる! 2人ともゼーラーゴの湖に飛び込め!」

「こおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」


 ん? と真横から聞こえる呼気にシュリが振り向く。

 そこには腰溜めに拳を構えるカナの姿が。


「逃げろッス! あぁもう! まず引っ張るって……嘘でしょ!?」

「しょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」

「まさか空中で凍結する体験が出来ようとは……昔のゲームならありがちだが、VRMMOでは余が初体験なのではないか?」


 足先、右手を凍らせながら課金王が呑気に言う。 氷の侵食スピードはとても速い。

 シュリの身に悪寒が走る。

 すぐ後ろに、触れてはならないモノが迫ってきていると。


 全てを凍結させる冷気が――。





「けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええんんんん!」





 その冷気を――カナの拳が、殴り割った。


「光晶拳流石に便利すぎ……って、拳凍ってるッス!」

「冷気の塊が残るんだねー。 見えないけど、踏んだら凍るねコレ」

「『エリクシール』!」


 かっこよくないから、という理由でいつもは滅多に使わない呼び出しによるアイテム使用。 課金王の凍結が回復する。

 動くようになった腕にエリクシールをもう一本取り出し、カナに向かって投げる課金王。

 カナはそれを凍った拳で殴り、回復させた。


「シュリも一応飲んでおけ。 なんとなくだがな」

「アタシは……まぁ貰えるなら貰っておくッスけど」

「で……殴ってみたけど、アレどうするの?」


 アレ。 そうカナが指差したモノ。

 それは、大量の雪。 文字通り雪の山。 シュネクレーヴェの亀がそのまま置き換わった量の雪がそこに鎮座していた。


「ふむ……もう寄っても平気そうだが……」

「苦無投げてみるッス」

「頼む」


 シュッと投げられる苦無。

 トスッと雪に刺さる苦無。


「大丈夫そうっすね」

「雪を退ければ道があるとか?」

「……エリクシールをかけると雪になる……というのは理解し難いが……」


 雪の山に近づく3人。


「……ただの雪だね。 っていうか、すっごいふわふわしてる」

「シュネクレーヴェの雪山の雪は硬いッスけど……これは柔らかいっすね」

「だが、至極冷たいな……。 ゲーム出なかったら凍傷確実だろう」

「とりあえず全部ぶっとばしてみる?」

「……現状それしかなさそうッスね。 アタシ火力ないんで、2人にお願いするッス」


 一歩下がるシュリ。 大剣を取りだし、ついでに耐久ポーションを飲む課金王。 拳を構えるカナ。 シュリとカナにも耐久ポーションが渡った。


「課金王、どうせならかっこよくやってみない?」

「余もそう考えていた所よの。 ……ふむ」


 課金王は少し思案し、インベントリを操作する。


 取り出したるは、勇者っぽい剣。

 巨大な剣だった。


「アレ、課金王ネタ武器持ってたんスね。 うちのメンバーでよく使ってる奴いるッスけど……課金王が使うの初めて見るッス」

「うむ。 世界にそぐわないネタ武器は滅多に使わないのだがな? この『勇者のつるぎ』シリーズに備わった機能が気に入って、これだけは使っているのだ」

「機能?」


 まぁ見ていろ。 そう言って雪山とは別方向を向き、『勇者のつるぎ』を上段に構える課金王。


 そしてそれを、勢いよく振り降ろした。


 シュリとカナは目にする。

 その剣が振られた瞬間に薄いピンク色の光を纏い、剣先が地面に近づくごとに天を割るほどに伸びて行った事を。

 そしてその光景と共に、まるでアニメの効果音のような爆発音が響いたのを聞いた。

 しかし、音や光景に反して地面は抉れたりしていない。 『勇者のつるぎ』が刺さっているだけ。


「流石ネタ武器……馬鹿ッスね……」

「え、もしかして演出だけ?」

「うむ。 壮大な演出と臨場感あふれる爆発音が剣を振るう時に発生する、という機能が付いているのが『勇者のつるぎ』シリーズだ。 これは『勇者の大剣』よ」


 ネタ武器。 生産武器であるコレは、見た目や実用性がそぐわない物を纏める時に名指される総称。 ryouhei931の使った『ビル・タワー』やセインの持つ『釘バッド』がこれに類される。

 本当に使えないモノから使い用によっては絶大な効果を発揮するモノ、普通に実践に耐えうるモノと様々あるのだが、基本的に見た目がおかしい。

 これらにはしっかりとしたレシピが無く、基本的に普通の武器の失敗結果として生産される。

 しかし中にはどの武器や素材をどういう風に扱えばネタ武器になるのかを見極める、所謂『ネタ武器職人』も存在していて、日々ネタ武器の発見と研究に勤しんでいるとかいないとか。


「ちなみにそれ以外の機能(スキル)はついていない。 正真正銘、ただそれだけの武器だ。 そしてカナ。 お前にはコレをやろう」


 そう言ってまたインベントリを操作し、取り出したのはナックル。 無駄な……しかも安っぽい宝石によって装飾が為された見た目からしてプラスチックっぽいナックルだった。


「えっと……『勇者のナックル』……これって」

「うむ。 『勇者のつるぎ』シリーズのナックル版だな。 つるぎとは名ばかりで、かなりの数の『勇者のつるぎ』シリーズが見つかっているのだ」

「効果は……」

「同じぞ」


 ですよねー、とため息をつくシュリ。

 そして、目を輝かせていそいそと装備するカナ。


「タイミングは……いいか。 自ずと合うだろう」

「そーだね! いやぁ……いいなぁこういうどうしようもない武器!」



 拳を腰溜めに。 大剣を下段に。


 呼吸。 

 

 吸う。


 吐く。


 吸う。


「『撫で斬り』!」

「『剛衝拳』!」



 カナの右拳アッパーと、課金王の左逆袈裟が全く同一に繰り出された。


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