シュネクレーヴェの亀
半分説明回
装備への付与効果にはいくつか種類がある。
そもそも装備自体に大きく分けて2つの種類があり、1つは鍛冶や木工などのスキルで以て造る、製作装備。 これは言ってしまえば量産可能な装備であり、必要な素材と必要なスキルレベルがあれば生産が可能だ。 そして、さらに素材を加える事によって制作時に判明したスロット数に付与効果を付け加える事が出来る。
付与できる効果は、耐久力増加やAGI増加など、基本的にステータスを上昇させる物や、素材本来の敵が持っていた状態異常などを付与できる。
そしてもう1つがドロップ装備。 モンスターを倒した時に、装備そのものがドロップする場合である。
この場合、同じ性能の物は一つとしてドロップしない。 名前が同じでも、付与効果も攻撃力・防御力などが全く変わるのだ。
付与効果も大小様々であるが、生産では絶対に付ける事の出来ない特殊な効果なものが多い。 例えば斬りつけた敵が一定時間宙に浮く細剣。 例えば攻撃されるとどこからか鐘の音が聞こえてくるレザーアーマー。 履いているとランダムで足元に落とし穴が生成される靴なんてものもある。
ネタなんじゃないかと思われるくらいの効果から非常に有用な効果までピンキリで、それが欲しくてドロップ装備を掘り続けるプレイヤーも少なくない。 見た目だけのネタ武器と見た目は普通のネタドロップ装備だけを装備するギルドだってある。
そして、そのドロップ装備の中でも特に特殊で且つ、特別な名前が付いている装備。
それがユニーク装備だ。
『誰々の何々』という構成で、誰々には神話の生物名が入る。
例えばカナが課金王からもらった『オルキディアの蒼篭手』。 オルキディアは神話に出てくる妖精の1人で、妖精ファイオラの娘だ。 装備効果の通り治癒や水に関する逸話の多い妖精で、龍とも繋がりがあったとか。
ただ、『オルキディアの蒼篭手』はオルキディアからドロップしたものではない。 オルキディアの眷属からドロップする装備だ。
恐らく世界のどこかに『オルキディア』というネームドモンスターがいるはずなのだが、未だ見つかっていないのが現状である。
ユニーク装備の付与効果はそれはもう特殊だ。
詠唱時間が必要なくなる杖、泡に包まれる手袋、常にリジェネ効果のある篭手。
全てその神話の生物の逸話に関係した効果であり、生産では絶対にまねできない効果だ。
プレイヤー間では大層高値で取引される。 基本的には手放したがらないプレイヤーがほとんどだが、引退するプレイヤーがユニーク装備を市場に流せば掲示板などで一騒動が必ず起きる。
さて、そんなユニーク装備であるが、課金王も2つのユニーク装備を愛用している。
一つは『エセレンシュの水晶剣』。 そしてもう一つが『ハイトゥの大鎧』である。
ハイトゥとは神話に出てくる最古の人間で、凄まじいまでの魔法使いだったと伝えられている。 上記した詠唱が必要なくなる杖も『ハイトゥの魔杖』というアイテムだ。
創世神話に於いてエセレンシュとハイトゥは夫婦であり、2つとも訓練所地下のネームドモンスター『エセレンシュ』からドロップするものだ。
『ハイトゥの大鎧』の説明文を読むと、ハイトゥのためにエセレンシュが創り上げた鎧であると書かれていて、その効果はただ1つ。
それこそが課金王がこの鎧を愛用する理由であり、このプレイスタイルを維持できている要素。
HPがMAXの状態ならどんな攻撃を受けても必ずHPが1残る。 である。
「流石にこの大きさが向かってくるのは……想像以上に怖い、が」
見た目だけで言えば酷く折れやすそうな、割れやすそうな水晶剣。 それを地面に刺して右手で持ち、ふんぞり返る課金王。 鎧の効果があるにも関わらずガードポーションとパワーポーションを飲んだのは、自身のステータスだけで耐えきれるか試してみたかっただけである。
「ゴォォォォォオオオオオオオオ!」
「ふん!」
そんな課金王に、シュネクレーヴェの亀の頭がぶつかる。
パワーポーションで強化した握力で水晶剣の柄を強く握り、踏ん張る課金王。
課金王の視界にあるHPバーはガードポーションなど無かったかのように一瞬で削り取られる。
「鎧が無ければ死んでいたな……」
「ゴォォォオオオ!?」
そこから先に進めない事に驚いた様子のシュネクレーヴェの亀。 自身の何十、何百分の一かという大きさの敵に止められたのだ。 その反応は当然と言えるだろう。
自身のステータスでは太刀打ちできそうな攻撃力にため息を吐きつつエリクシールを飲む課金王。 HPバーはフルに戻った。
「あと10秒で麻痺いけそうッス!」
「応! カウントダウンは任せたぞ!」
「10秒だね、りょーかい!」
シュネクレーヴェの亀の突進中も体中を駆けまわっていたシュリから状態異常蓄積の合図が来る。 それを聞いて、課金王は水晶剣の柄を両手で掴んだ。 いつのまに昇ったのか、カナハシュネクレーヴェの亀の甲羅の上にいる。
「3、2、1! 麻痺ッス!」
きっちり10秒後、シュネクレーヴェの亀の体が硬直する。 状態異常:麻痺だ。
それを確認する事も無く、シュリは苦無を出血毒に切り替えて身体を走り回る。 前足付近に来るたびに課金王がシュリに向かってスピードポーションを投げ、さらに速度を上げる。
課金王も『撫で斬り』や『ソードラッシュ』をシュネクレーヴェの亀の顔に斬りこんでいく。
そんな中、カナはシュネクレーヴェの亀の甲羅の上で目を瞑っていた。
左手を大きく開いて眼前に。 左脚は立膝の形で後ろに。 右脚は膝を立てて横に。
そして、右手は――右拳は、肩の後ろまで大きく振りかぶって意識をそこに集中させる。
そしてカッと目を見開き、叫ぶ。
「ごぉぉぉぉおおおおおおしょうけええええええええええええええん!!」
撃地捶、鎧通し、纏絲勁などの技術を使ったソレは、シュネクレーヴェの亀の甲羅全体に凄まじいまでの力を伝播する。
中国武術でいう所の八勁だ。
勁とは特別な力ではなく、言ってしまえば運動量の事。
カナの腰の回転力、腕を振るう遠心力、体重、筋力、質量。
ゲームの仕様にはない技術によって放たれたソレは、しかしゲームの設定が正しく認識する。
結果。
「ゴォォォオォォオォォァァァァァァアアアアア!?」
「嘘……ッス」
「……!」
シュネクレーヴェの亀の真白の甲羅は、その全てが粉砕された。
痛みに叫び声をあげるシュネクレーヴェの亀。 駆けずり回る事を中断し、完全に素でそれを見上げるシュリ。
そして、撫で斬りを行おうとしていた腕を殴って強制解除し、スクリーンショットを連射する課金王。
「うわ、グロ……」
そして、甲羅内部の血肉をセーフティモード無しで見てしまったカナは、自身が起こしたことながらそれにひいていた。




