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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と初心者
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課金王の戦闘

課金王の課金王たるや、です!

「てやっ!」


 

 ビキィン! と甲高い音と共に、2個目(・・・)の球体が完全に割れる。

 それにより、ゴーレムの左腕が力なく落ちた。



「よっし! これで攻撃手段は無くなったかな?」



 難なく両腕を破壊したカナ。しかし、油断なくバックステップで距離を取る。何故なら、ゴーレムは一歩も動いていないからだ。戦闘が始まってから、ただの一歩も。

 その予測に正解を告げるように、ゴーレムの目が青に変わった。


「足も同じ構造だといいんだけど……ッ!?」


 

 蹴りか、薙ぎか。どちらかが来ると思っていたから回避が間に合わなかった。

 走って、体当たり。

 単純なそれだけの動作は、その巨体から繰り出される事で凄まじい攻撃力を誇る。

 咄嗟にクロスさせた拳で防いだものの、カナの少ないdefではダメージは免れなかった。


「こっわ! こっわいよ! なにそれ! 走んの!? 構造は同じっぽいけど、どうやって当てろって……また来たァ!?」



 驚きはしているものの、今度は紙一重で――避け損ねた。更にHPが削れる。


「えぇー、ちらっと見えたけど、後ろ足かー。踏み出した脚じゃない方に避けて、殴れってことね」



 たった2撃。それだけで、カナの口調は落ち着いたものになっていた。分析が終了したのだ。

 2撃目を喰らったのは、どれだけ体当たりの軌道のブレが修正されるかの検証。


「3歩目までは動かないで――ここっ!」



 今度は紙一重で完全に避け切り、更に伸びきった右後ろ足の中継部分に打撃を入れる。

 ビシィ! と罅の入る球体。

 カナの口角が吊り上る。


「今度は両足……ちょうだい?」






「ふ、ふっふっふ。成程成程。これはこれは。余もまだまだ見る目を磨かねば、ということか」

「おー、ここまで似てっとは思ってなかったが……。ま、結果オーライ?」



 二人の目の前で繰り広げられる光景は、戦闘というよりも――舞のようだった。

 全高5m程の巨人と、150㎝程の青年が踊っている。

 リードしているのは――青年。






「シッ……最後ォ!」



 左足で踏み込んできたゴーレムの右側を通り抜けるように避け、球体に打撃。右足が崩れるのを尻目に、急停止をかけようとしている左足の球体にも打撃を入れた。

 ズゥン! という音を立てて地面に落ちたのは、ゴーレムの胴体。

 

「よし! これで終わり! ……なワケないよね。最初に見えたコアみたいなの壊さなきゃだと思うんだけど……どうやって開けるのコレ」



 頭にある穴――先程から目と言っていた部分には暗闇が広がるばかり。

 ペタペタと大岩と化したゴーレムを触ってみるも、反応は無い。

 思いっきり殴ってみても同じだった。

 どころか。


「あっ……、ナックルの耐久0になっちゃった」



 元々が量産品ナックルだったのだ。本人が知らないとはいえ、圧倒的なレベル差がある相手を殴り続けて壊れないはずが無かった。

 セインならなんとかしてくれるだろうと、無防備にもゴーレムに背を向けるカナ。


「セインー、ナックル壊れちゃ……ッ!?」



 悪寒を感じて咄嗟にしゃがむカナ。

 その頭上数㎜を岩石の砲弾が通り過ぎて行った。

 呆けてみているはずもなく、地面を転がりながら距離を取る。


「わー、浮いてるよ……。え、まさかのSTG?」



 先程まで無反応だったはずのゴーレム。その眼孔は紫色の光を放っており、その身を包む多数の岩石の1欠片が無くなっていた。

 無くなった1欠片は、先程撃ちだされた砲弾。


「全部避けて殴れってことね。さっきと同じかー。死角はなさそうだけド……おっと! って速い!?」



 松ぼっくりのようなシルエットとなったゴーレムの視界は全方位を向いているようで、避けども避けども岩石を撃ち出してくる。

 1つ避けた先にもう1つが撃ち出され、それを避けると更に――。

 休む暇が無かった。


「……アレ、これもしかして……」



 何かに気が付いた様子で姿勢を正し、時計回りに走り始めるカナ。

 そのカナが数瞬前までいた場所を岩石が貫いていく。

 円を描く。早すぎないように、遅すぎないようにスピードを調節しながら。

 岩石を剥がして行った。


「ふっふっふー! あとは殴るだけだね! って……ナックルないんだった。

――いっか、素手で」



 露出したコアを素手で殴り始めるカナ。ちなみに量産品ナックルの攻撃力は52。素手の攻撃力は2だ。

 そんな事は知らぬとばかりに殴り続けるカナ。実際に知らないのだが……。


「こーわーれーろーよー! はーやーくー! って、ほんと早く壊れてくれない? ちょっと長すぎ、っておお!」



 ようやく。バキン、と音を立てて、コアが崩れた。

 同時に、脳内に響き渡るレベルアップの音。中々終わらないソレに疑問を持ちながら、カナはセインと課金王の方向を見た。

 2人はこちらを見ていなかった。


「えぇー! 何メール打ってんの!? プレイスタイル見せろって言ったのアンタらじゃん!」

「ん? あぁ、すまんすまん。倒せたのか。流石は余の見込んだ者ぞ」

「おー、よくやったなカナ。なんかアイテムゲットできたか?」



 適当―! と叫ぶカナ。鍾乳洞なので、エコーがかかった。

 一応、セインの言うドロップアイテムを確認する。レベルアップの音は鳴りやまない。


「えっと、ライムストーンのコア、ってのと……石灰石5個かな」

「ブフッ……初撃破でレアドロ……。石灰石は普通だが、やっぱ持ってんなコイツ」

「カナ。それは武器や防具の材料になる。とっておけ。それで、レベルの方はどのくらいあがった?」



 苦しそうに腹を抱えるセイン。ピクピクと痙攣しているのは、笑い過ぎによってである。

 丁度レベルアップの音が止み、カナがステータスを確認してみると。


「嘘……lv27になってる……。なんで?」



 ク、ク、クとつっかえるような笑い声と共に呼吸困難に陥るセイン。ゲームの仕様上窒息死は無いが、苦しそうだった。

 

「ライムストーン・ゴーレム。アールヴァルの鍾乳洞の中ボスといったところか。そのレベルは68ぞな。レベル差64。そのくらいあがっても不思議ではあるまい」

「へ?」



 ここははじまりの洞窟ではなかったのかとセインを見るカナ。ようやく呼吸が落ち着いてきたのか、引き笑になりながらもセインは答えた。


「は、はじまりの洞窟ってのは合ってるぜ、げっほ。あー、面白れぇ。はじまりの洞窟が初心者の洞窟だなんて誰も言ってねーだろ? はじまりってな、このゲームの創世神話に出てくる単語なんだよ」

「うむ。どちらかと言えば上級者向けのダンジョンだな。間違っても昨日始めたばかりの初心者がいくような所ではない」



 騙したな!? とセインに詰め寄るカナ。そのカナの頭に、パシャっと液体がかかった。

 驚いて頭を触るも、濡れていない。むしろなんだか心地いい。


「エリクシールだ。全回復したであろう?」



 名前の響きからして効果を悟ったカナは、自身のHPに目を向ける。レベルアップで上限が上がっているにも関わらず満タンなHP。ついでにMPも満タンになっていた。


「い、いや! それって絶対高い奴じゃん! そんなのわた……俺に使っていいのか?」

「構わん。努力をしたうえで傷ついたものがいるのだ。それを癒す術を持っている余が、術を惜しむことなどないぞ」

「流石課金王だな」

「当然ぞ」



 思い出したように口調を戻すカナを気にも留めず、漫才をするセインと課金王。

 課金王の言い分を聞いたカナは、期待に応えられるようにしようと決意した。


「さて、休憩はここらでいいよな。カナ。次は俺達――ってか、課金王のターンだぜ。課金王が課金王たる所以、とくとみておけよ?」

「セイン。それは余のセリフぞ。余がいってこそかっこいいモノを……」



 すまんすまんと謝りながらズンズンと歩いていくセイン。並ぶようにして歩き出す課金王。カナは、どこかデジャビュを感じながら二人についていくのだった。








「ほわー、でっかい扉……なんかいかにもーな絵がかいてあるし」

「おう。ここがボス部屋だ。扉開けても俺の傍で動くなよ? 余計なタゲもらいかねん」

「ふ、そんな暇は与えぬさ。だが、レベル差がありすぎて一瞬で終わりかねん。少しグレードの低い武器を使わせてもらうぞ」



 鬼と恐竜を混ぜたような絵が描かれている扉の前。

 インベントリを操作して水晶の大剣を消し、代わりに取り出したのはどこか見覚えのある乳白色の大剣。白金色の鎧も、同じく乳白色の鎧に変わっていた。


「その剣と鎧ってもしかして……」

「あぁ、ライムストーンのコアと、石灰岩から作れる物ぞ」

「コアは1つでいいが、石灰岩はもう少し量が必要だけどな」



 では、行くぞ。と、扉を押す課金王。ギギギギと古めかしい音を立てて開いたその扉の向こう側は、先程と同じく大広間だった。

 そして、その真ん中に鎮座する、乳白色のゴーレム。

 大きさが桁違いであることを除けば、中ボスのライムストーン・ゴーレムと全く同じであった。


「……でっか」

「ほら、こっち寄れ。あいつタゲ範囲広いんだからよ」



 目測で10m。それだけの物体が入る鍾乳洞もどうかとは思うが、先程のゴーレムの2倍である。運営の悪ふざけなのではないかとすら、カナには思えた。

 中継部分である両腕の球体が、8m程の所にあるのもいただけない。


「さて、久しいな石っころ。前と全く同じやり方で、お前由来の大剣で壊してやろうぞ!」



 そう、高らかに宣言して大剣を上段に構える課金王。

 こちらのゴーレムは一撃入れるまで待つ、という仕様はないらしく、その太い腕の横薙ぎが来た。


「あ、危ない!」



 果たして、課金王は――避けなかった。モロに喰らって、それでも吹き飛ばされずに右脚の中継部分に大剣を叩きつける。

 一撃で壊れる外殻。それを見届ける事をせず、課金王はインベントリから出したエリクシールを――踏み抜いた。

 中の液体は地面に落ちることなく、課金王の身体に吸収される。

 更に、右足に一撃。崩れ落ちる右脚。


 頭上から、真横から、叩き潰しや薙ぎがきても気に留めずに脚を壊す課金王。

 喰らったらエリクシールを踏み抜き、いや、喰らいそうになった時点で既にインベントリからエリクシールを出している。


 あとは、その繰り返しだった。






「……いやいやいや、ゴリ押しってレベルじゃないよ、アレ。何あれ……」

「あれが課金王のプレイスタイルだぜ。あの鎧には吹き飛ばし無効とHPが満タンなら必ず1は残るようにするエンチャントがついててな。防御はそれだけでいいから、あとは火力をあげるだけあげて、回復はエリクシール。究極のごり押しって奴だ。お前とは正反対だろ?」



 相手を見極めて、的確に処理をするカナと、どんな相手だろうが関係なく叩き斬る課金王。確かに正反対だった。


「うわ、うわうわうわ、もう胴体しか残ってないよ……」

「大体1分ってとこか。装備が装備だから仕方ないか? ……いや、ありゃカナに見せる為にパフォーマンスしてんのか。遅いわけだぜ」

「あ、あれで遅いの? あ、終わった……」

「あの装備でも本気でやれば30秒かからないからなアイツ。究極のごり押しとはいったが、プレイヤースキルも中々のもんなんだぜ。今回はお前にみせるために、わざと全部攻撃食らってんだろ」



 ゴーレムを処理し終わり、インベントリの確認も終わったのか、セインとカナを手招きする課金王。


「これが、余のプレイスタイルぞ。余の名は課金王。素晴らしいだろう?」

「いや、もうすごいとしか言いようがないね……。アンタが課金王なのは納得だよ」

「いつみても気持ちよくエリクシール使うよなー。俺課金王に出会うまではエリクシール症候群だったから、初めて見た時はスカっとしたの覚えてるぜ」



 エリクシール症候群。

 大事なものが勿体無すぎて使えずに死蔵してしまう、RPGにありがちな症例だ。


「使われない道具が一番可哀想だというのに……。勿体無いのはどちらだという話よな」

「アンタに会う前は、だっての。今の俺は必要なときに必要なモン使えるぜ」



 笑いあいながら、セインと課金王は大広間の奥に向かう。街へ戻るワープ陣があるのだ。


「あ、こういう所にもワープ陣ってのがあるんだね」

「いつもはどうやって……って、昨日始めたんだったわ」

「初心者にはあるまじき、という奴ぞな」



 3人は、光に包まれた。


ライムストーン・ゴーレム lv68


アールヴァルの鍾乳洞の中ボス。弱点部位は各関節と中心のコア。パンチや薙ぎの威力が高く、上級鎧を着ていてもガリガリ削れる。更に、球体が見えている時間も少なく、避けて狙って当てるのは至難の業。避ける囮役と、狙う破壊役に分かれるのが安定法。


ライムストーン・ギガゴーレム lv75


アールヴァルの鍾乳洞のボス。大きさは単純に2倍。それだけでも脅威なのだが、攻撃力は2乗されている。並の装備で挑むと蒸発します。ジュッ!



エリクシール


HP・MP・状態異常を完全回復する奴。作品によってエリクシールとかエリクサーとかエリキシルとかエスカリボルグとか色々呼び方がある。

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