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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王の探訪
28/56

忍者と初心者

PVPはこの一話で終わりな上、長くないです。

 左拳を前に。

 右拳を手のひら側を上にして、腰だめに。

 両脚を肩幅より少し広い程度に広げ、踵を上げる。


 呼吸は深く、瞬きは左右交互に。

 

 全身を巡る血の流れを感じ、その流れを加速させるつもりで心臓を動かす。


「準備は出来てるよ」


 目の前に立つ小学5年生か、6年生くらいの女の子。

 身長は2倍近い差がある。 考えたくないけれど、恐らく体重も。


 格好はアニメなどで見るコスプレのような忍者。 見た所装備は右手に持つ短刀以外皆無だが、ゲームにおいてそんなものはアテにならない。

 武術のような構えなどではなく、恐らくゲームの中で身につけたのであろう独特の構え。 というよりは待機姿勢だろうか。

 

 イリュオンを開始して、初めてのPVPだ(セインとのじゃれ合いはその内に入らない)。


 口角が上がる。 

 そういえば現実で拳を使ったのはいつが最後だっただろうか。

 聖二が仕事に就いてしまったせいで、具合のいい喧嘩相手が居なくなってしまっていた。

 自身が大学に行ったのも理由の一つか。


 もう目の前の敵以外、何も見えない。

 もう目の前の敵以外、何も聞こえない。


 もう目の前の獲物以外、何も考えられない。


『FIGHT !!』


 試合の開始を告げる電子音と共に、最速の踏み込みで拳を撃ち込んだ。














 インベントリを整理する。

 出血毒苦無、毒苦無、神経毒苦無、麻痺苦無、火傷苦無、etc…

 手裏剣も各種ショートカットに入れた。


 右手には短刀。 なんの状態異常も付加していないが、攻撃力が一番高い物。

 

 ふぅ、と息を吐いて目の前の相手を見据える。


 歳は恐らく20そこらの男性。 中身は女性らしいが。

 構えは動画や漫画の中で見る武術の構えに似ている。 左拳を前に、右拳を腰だめに。

 

 相手の拳に嵌っているのはナックル。 色合いからしてライムストーンナックルか。

 ということは、敵に麻痺と火傷は効かないものと考えた方がいい。 インベントリの麻痺苦無と火傷苦無を隅に移動する。


 防具は絹の服。 防具ともいえない代物だが、防御力に置いては自身も似たようなものだ。 この忍者コスのような服に防御力は欠片程度しかない。 その代りAGIを底上げする付与効果があるのだが。

 先程の口ぶりからして、あの絹の服は全くの無効果。 つまり、本当にただの服。


 最初はナメられているのではないかと思った。


 だが、違う。


 対峙してみてわかるのは、この相手が課金王と同じ(・・)であるという事。

 即ち、どこかタガが外れている。


 一般の常識の範疇で考えてはいけない相手だ。


「準備は出来てるよ」


 相手の準備が整った。

 あとはこちらも開始の意をシステムに送れば試合が開始される。


 戦法はいつも通りヒット&アウェイ。

 最初の2分は短刀のみで戦い、そこから状態異常を付与していく。


 経験の差においてはわからないが、イリュオンの知識であれば自分の方が何倍も勝っている。 何より相手は始めてから2週間程度の初心者。

 

 油断しなければ、行ける。


 システムに準備完了を伝えるとカウントダウンが始まった。

 3、2。


 1。


『FIGHT !!』


 電子音が聞こえた直後、目の前に敵がいた。















 神速とも取れるカナの右ストレート。

 認識速度をAGIによって底上げされているシュリは、それに反応する事が出来た。


 シュリの取った選択は左へ転がるような回避。

 だが、カナの拳はシュリの想像を超えた速度で迫っていた。


 シュリの右わき腹をカナの右拳が捉える。

 傍から見れば、そこを抉るような速度と威力でシュリが殴られたように見えただろう。


 だが――。


「あっぶねっ!? あっぶねっス!?」

「……あれ?」


 コロシアムの画面に表示されているシュリのHPバーに減少は無かった。

 シュリ自身も当たった素振りは見せず、拳を振るったカナだけが疑問を浮かべている。

 

「もっかい……」

「踏み込みが見えなっ!?」


 左脚を軸にして身体を回転させ、右足の踏み込みと共に右拳を撃ち貫くカナ。

 それに反応を遅らせながらもギリギリで当たる(・・・)シュリ。


 しかし2回目も、シュリのHPバーに減少は無かった。


『カナよ。 それが格闘家以外に存在する回避率という物の効果だ』

「んー……もうちょっと芯に当てればいいのか……いや、衝撃の逃げ道を無くせば……」

『聞こえとらんな……』


 場外から課金王が知識への助け舟を出すも、カナは自己世界に理没していて聞こえない。


 格闘家以外に存在する回避率は、どのくらいの割合で直撃を免れるか、という物だ。

 それが高ければ例え見た目的に当たっていても、当たっていない事になる。

 シュリの回避率は80%。 全範囲攻撃や必中攻撃でなければほぼ必ず避ける事が出来る程度の回避率だ。 さらにシュリは高いAGIで動くので、それを捉えるのはさらに困難になる。


 相手が格闘家でなければ。


 格闘家以外の職業であればクリティカルも命中もシステムが行うのだが、格闘家は己の技量で行う。 結果、全体範囲攻撃や必中攻撃でなくとも回避率80%のシュリに対して有効打を与える可能性が高まっているのだ。

 カナの言うとおり、芯を捉えさえすれば、だが。


 今の2撃のように脇腹を掠める程度では回避率に負ける。 回避率に負けない様に、ど真ん中を撃ち抜く事さえできればその威力をそのままにシュリを打ち負かせる。


「ふぅ……。 は――」

「油断禁物ッス!」


 深呼吸し、息を吸おうとしたカナに向かってシュリが短刀で斬りかかった。

 AGIの最高位、250m/sの斬りかかり。


 しかしソレは、上体を反らしたカナの上の空間を斬っただけに終わる。


「アンタほんとに人間ッスか……!?」

「見えなくても……始動さえわかればどこに来るかは判断できる……なら……」


 ぶつぶつと呟きながら自己に理没するカナ。

 その間もシュリが斬りかかるが、全てを余裕で避け続ける。


「つまり……」

「あーもう! 『焼刃(やいば)』!」

「敵の攻撃を狙う! 『光晶拳』!」


 痺れを切らしたシュリがスキルを使う。 『焼刃』は火傷効果のある炎を短刀に纏わせるスキルだ。 敵に火傷が効きづらい事はわかっているが、これの真価は状態異常ではない。

 短刀が炎に包まれる事で、間合いも剣幅も3倍に広がるのだ。 タイムラグ無しに。


 間合いを見て避けていた敵はその変化に対応できずに攻撃を受ける。

 普通ならば。


 炎の短刀とカナの左拳が衝突する。


 圧し負けたのは、シュリ。


「んなっ!?」


 『光晶拳』は文字通りなんでも殴れるようにするスキルだ。 だが、その威力は使用者のstrに左右される。

 いくらシュリのSTRが低いとはいえ、相手はレベルもろくにあがっていない初心者。

 しかも格闘家に圧し負けるはずがない。


 ならば何故。

 シュリは理由を考えようとした。


 それは悪手だった。


「捕まえた……」


 短刀が動かない。 見れば、剣先を『光晶拳』が発動したままの左拳で掴まれているではないか。

 そして。


「ごぉぉぉぉぉおおおしょおぉぉぉぉぉぉぉおおおおけんんんんん!!」


 手繰り寄せるようにして引っ張られた短刀にバランスを崩したシュリは、真正面から迫るカナの右拳を避ける事が出来なかった。


 HPバーが一瞬にして全損する。


 元から低い防御力に、カナの拳はクリティカルと言える直撃だ。

 PVP用に設定された(・・・・・・・・・・)HPでは耐えきる事が出来なかった。


『手裏剣大好き LOSE !!』

「あ、手裏剣大好きって名前なんだ……かわいい」


 シュリの負けを伝える電子音が響き、2人はロビーへと戻された。


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