課金王と忍者と初心者
繋ぎ回だから短い
「あれから一週間? 一週間と一日っすか? そんくらい経ったスけど、あの巨大亀は攻略出来たんスか?」
「うむ。 だから呼んだのだ。 セインも来れれば良かったのだが……。 何やら南米で大会があるらしい。 先一週間は日本に居ないそうだ」
「南米で大会……? セインってなんかの選手だったんスか?」
「む、知らなかったのか……。 なら今度セイン本人に聞くといい。 余からは言わぬ」
「いやそこまで興味ねーっすけど」
プライマの街の噴水前。 白金色のフルプレートアーマーと、コスプレにしか見えない忍者衣装の子供がいた。 言うまでも無く課金王とシュリだ。
2人は噴水に腰を掛け、誰かを待つように一定時間ごとに時計を確認している。
「そういえば課金王、アタシ、愛し子に見初められた者って称号手に入れたッスけど……」
「ほう。 その称号を手に入れたのは恐らくシュリで3人目ぞ。 無事にクリアできたのだな」
「被害は甚大ッスけどね。 セインは道に迷うし」
「あー……。 目に浮かぶ」
課金王とシュリが会話していると、そこにかけつける影があった。
「ごめん、遅れた! って……えーと……こど……も?」
「あぁアタシは小学生ッスから子供で合ってるッスよ。 アタシはシュリッス。 えーと?」
「あぁ、君がシュリちゃんだったんだ。 私はカナ。 まだ始めてから2週間しか経ってないけど、よろしくね!」
赤毛の青年。 装備は簡素で、絹の上下服に武器はナックルのみと、戦いに行くにしては軽装すぎる印象を受ける格好をしている。
「む、カナよ……。 あのレザーメイルはどうしたのだ?」
「あー、アレは動き辛かったから売っちゃった。 この服が一番楽でいいよ。 動きやすいのがなんといっても素晴らしいよね」
「……初心者?」
イリュオンは武器に目が行きがちなのだが、その実防具も重要だ。 課金王のフルプレートアーマーを見れば一目瞭然だが、防具の良さは生存率の高さに比例すると言っても過言ではないだろう。 一部の例外を除いて。
その例外とはまさにシュリのようなスタイルの者のことで、防具や装備に回避率上昇系のエンチャントを貼り、最初から攻撃を受けないようにするということ前提で戦う者である。 例え直撃クラスの攻撃でも、回避率が高ければ軽減できるのだ。
ただし、回避率そのものを上昇させるには――それが体感できるほどになるには――高いAGIが必要となり、AGIが高ければそれだけ体の制御が難しくなるという欠点がある。
要は速すぎて加減が出来ないのだ。 現実よりも数倍、数十倍、数百倍という速さで動く事が出来る故に、その処理を脳が行えない。 高AGIへの適性は、持って生まれた才能がなければ使いこなせないのである。
だが、格闘家はこれに含まれない。 格闘家には回避率という物が存在しない。 回避は自分で行えと言うシステムだからだ。 故に、鈍重な敵であれば低いAGIの職業より格闘家の方が回避は楽かもしれない。 見て、避ければいいだけなのだから。
しかし、速い敵になってくると話は違ってくる。 明らかに目で追えない速度を持つ敵相手に見てから避ける、なんてことは出来ない。
仮に避ける事が出来たとしても、それは見てからの反射ではなく経験による勘が為せる業だ。 何度も失敗し、何度も挑戦したベテランにこそ許される領域だ。
決して始めてから二週間の初心者が出来る事ではない。
「あー……、え? 課金王? その、カナさんには失礼っすけど……本当にこの人をあそこに連れて行くんスか?」
「呼び捨てでいいよー」
「うむ。 カナの戦闘センスは目を瞠る物があるからな。 なんならPVPでもしてみるか? 五分……運が悪ければシュリが負ける可能性もあるぞ」
「まじっスか!? えー……あ、ちょっと試してみたくなってきたッスけど……」
「え? 何々? 今からダンジョンに行くんじゃないの?」
シュリはイリュオンを始めてから5年の歳月を経ている。 そのシュリが、始めてから二週間のカナに負ける可能性があると言われたのだ。 シュリは自身を驕るつもりはないが、それなりの自負がある。 流石にはい、そうですか、とは行かないのだ。
「カナよ。 対人戦は……あぁ、ゲーム内でだ。 イリュオンでのPVPは経験済みか?」
「え、いや……無いけど」
「戦ってみたくないか?」
「そりゃあ……戦ってみたいよ。 そもそも私は対人戦の方が得意だし」
「ほう……では予定変更ぞ。 ネクサリアのコロシアムへ行こうぞ」
「ネクサリア……?」
「赤の門潜った先にある街ッスよ。 さっき言ったコロシアムとか、まぁプライマにはない建物が沢山あるッス」
課金王はもう決まったとばかりに歩き出す。 それに追従するシュリ。 戸惑いながらも歩き出すカナ。
「へぇ……。 え、で、私と誰が戦うの?」
「アタシっす。 カナさ……カナは格闘家ッスよね。 アタシは忍者ッス」
「忍者! 手裏剣とか、苦無とか投げる奴だよね! へぇ……そんな職業もあるんだ」
「本当に初心者ッスねぇ……。 あぁ、でも課金王とセインに気に入られているなら……」
前方に見えてくるのは、赤色の門。 鳥居のでっぱりを無くしたような形をしている。 漢字で言うと『円』のような形だ。
その門は真白の膜のようなものが波打っており、そこへ人が入ったり出たりしているようだった。
「へぇ……こんなのあったんだ……。 あれ、黄色と青色のもあるんだ」
「あっちは違う所に出るッス。 ラウとテルゾナッスね。 まぁ行かない方がいいッスよ」
「どうして?」
「攻略が終わってないんス。 出た瞬間状態異常がランダムで付与されて、運が悪ければ石化して即死。 凍傷になって動き辛いままモンスターに襲われて死。 1秒にライフが100減る毒状態になって解毒し続けなければいけなくて諦める。 そんな感じッス」
「うわぁ……」
「課金王はまだプライマの周辺を探り終ってないって言って、ラウにもテルゾナにも行こうとしないんすよねー」
「む、何をしている―! 先に言って予約しておくぞー!」
「わかったッスー! そんな感じなんで、調合師か錬金師が対策見つけるまでは放置ッスね。 さ、行くッスよ」
「うん。 楽しみだなー」
課金王に続いて、2人も白い波打つ膜へ入って行った。
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