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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と仲間達
22/56

初心者の風読

幕間です。

 最近セインの付き合いが悪い。

 ここ一週間ほどだろうか。 ゲームにログインしたという通知は出るもの、すぐに『退席中』という文字が表示され、チャットもメッセージも飛ばせなくなる。

 メールで確認を取ってみると、『すまない、今忙しいんだ』の一点張り。

 だというのにプライマの街で市販や生産のポーションをまとめ買いしていたり、その辺の草原で小動物相手に何かのスキルを練習していたりで、リアルが忙しいというわけでもなさそうなのだ。

 さらに、セインが隣に小学生くらいの女の子を連れて何か騒ぎながら仲睦まじそうに歩いているのをちょくちょく見かける。

 別にあんな年下の子に嫉妬をするわけではないのだが(そもそもセインの交友関係なんて興味ない)、わざわざ『退席中』を出してまでこそこそ何かをやっているというのが気に喰わない。

 確かに自分は初心者で、レベルも低いから足手まといなのはわかるのだが、結構長い付き合いの自分を放置して自分だけ楽しんでいるというそのスタンスがもう殴りたい。


 シュネクレーヴェの雪山はもうそろそろクリアできると思う。

 出てくる雑魚敵の特徴は全て覚えたし、中ボスだって倒した。 

 ぴーちゃんからスクロールを貰って覚えた剛衝拳と、その後プライマの街で買った光晶拳。 他のは少しお金が足りなくて買えなかったのだが、その2つとスキル無しの拳だけで十分に戦えるようになった。

 どうせセインは遊んでくれないのだし、ここらでケリをつけておくことにしよう。







 うーん。 寒い。

 いつ来てもココは寒い。 そんな印象しか湧かないダンジョン、シュネクレーヴェの雪山。 

 課金王に連れて行ってもらったヴィンティルの霊峰よりは低いけれど、それでも現実世界には凡そみられないだろう標高を誇るこの雪山は、見る者を圧倒する。

 常に降り積もる雪は山肌を白銀に染め上げ、山頂は厚く暗い雲に覆われている。


「さぁって、と」


 左掌に右拳を打ちつけて、準備運動をする。

 ゲーム的にこれが意味のある行為なのかはわからないが、気分を乗せる為に必要な儀式だと思えばいい。 よく体を伸ばしている、と思うことが大切なのだ。

 課金王やセインと行ったアールヴァルの鍾乳洞や、ぴーちゃんと行ったヴィンティルの雷雨林と違ってここは雑魚敵が既に湧いている。 目視できるので、奇襲の可能性がかなり減っているのだ。 もっともこちらからの奇襲も成立しづらいのだが。

 ここ、シュネクレーヴェの雪山に湧く雑魚敵は4種。


 『スノーラビット』 lv41の雑魚敵で、もっとも数が多い。 レベル4の自分が素手で倒せた事を見るに、このフィールドで一番弱いんじゃないかと思う。 ナックルをつけてからもその認識は変わらない。

 見た目はゆきうさぎ。 もふもふしたら絶対気持ちいい。 ぬいぐるみにして欲しいと思うくらいにはかわいいのだが、その攻撃は強烈の一言。

 助走をつけたキックを直撃でもらった時はライフの半分を持っていかれて驚いたものだ。


『スノーホーンラビット』 lv44の雑魚敵で、スノーラビットの群れを率いている事が多い。 個体数自体は少ないのだが、なんといってもタフだ。 しかもスノーラビットと同時に襲ってくるので、最初の頃は苦戦した。 見た目は上記のスノーラビットを一回り大きくして、角を付けた感じ。

 攻略方法として最適なのは、一番最初にその特徴的な角を壊してしまう事だ。 そうすれば、後に残るのはちょっと大きくてちょっと攻撃力の上がったただのスノーラビット。 

恐ろしくて角を喰らったことはまだないのだが、キックより威力が高そうなのは明白である。


『ユキタカ』 lv44の雑魚敵で、個体数は少ないものの空を飛んでいる。 攻撃力は然程高くないのだが、口から吐き出される冷気の渦みたいな攻撃がとても厭らしい。 一番最初に戦った時は右腕にくらってしまい、初の状態異常を経験する事になった。 凍結というらしい。

 攻略方法はとしては、凍結で動きの鈍った得物を確認すると、ユキタカは羽をたたんでミサイルのようにこちらへ落ちてくる。 そこを殴ってやればいいだけだ。 凍結に陥ったフリでも向かってきてくれるので殴りやすくていい。 AIでもフェイクに騙されるようだ。


『雪玉』 これは厳密に言えば雑魚敵ではない。 レベル無いみたいだし。 ただ、ランダムにいきなり山の上の方から転がり落ちてくるのだ。 

 拳を入れれば簡単に破壊可能なのだが、気付かずに巻き込まれるとかなり下まで落とされる。 雑魚敵というか邪魔敵だ。

 ちなみに壊すと経験値が入るらしい。 これでレベルアップした時はびっくりした。


「よ、っと……。 まぁ、良くも悪くもAIかなー。 ほ、よ、がら空き!」


 逐一彼らを倒していくのは面倒なので、ある程度引き連れてまとめてから剛衝拳を叩き込む。 このスキル、最初にぴーちゃんに説明された通りintをstrに換算してプラスするだけのスキル、ではなかった。

 ぴーちゃんも気付いていないのか、それとも気付いていて自分に見つけてほしくて言わなかったのかはわからないが、このスキルには説明文にない効果があったのだ。

 それは、鎧通し効果。 正式名称がわからないのだが、この技術をスキルで再現した物だと思われるのでこう呼んでいる。

 簡単に言えば貫通効果だ。 拳を叩き込んだ地点から、拳の進む方向にそのまま威力が伝播する。 敵が連なっていればその後ろの敵にも、そのまた後ろの敵にも……というように。 元々鎧通し自体は自分で出来るのだが、これほどの距離をダメージをそのままに伝播できるのはやっぱりファンタジーだと思う。 現実ならせいぜい50㎝くらいが限界だから。

 ともかく、この仕様を知れた事で狩りの効率が飛躍的に向上した。

 連れ回して、まとめて殴る。 勿論2分間のクールタイムがある以上、確実に叩き込まなければいけないというリスクが伴うのである種博打ではあるのだが、それでも今までチマチマやっていた時よりは格段に良いと思う。


 そうして雑魚敵を文字通り殴り飛ばしていくと、開けた広場に出た。 中ボスだ。



「フゥゥゥゥォォォォォォォォォォオオオオオ」


 名前は、『アイスルトール』。 冷気の竜巻を纏った球体? のような敵だ。 レベルは47で、今までの雑魚敵の中ではユキタカに近い攻撃をする。

 冷気弾、氷塊、氷の棘といった攻撃と、風弾、風の刃のような風を使った攻撃。 さらに恐らくライフが半分減ったくらい? で雷の攻撃をしてくるようになる。 

 冷気と雷は状態異常付で、風弾はかなり後ろまでノックバックするという、まぁまぁ面倒な相手だ。

 けれど、こういう敵には光晶拳が役に立つ。


 『光晶拳』 lv5 実体、非実体、個体、液体、気体問わず攻撃可能になる。


 ただそれだけが書かれたこのスキルだが、注目すべきはクールタイムやデメリットがないことだろう。 剛衝拳が未だにlv3なのに対して、こちらは連発できるからか2もレベル差が付いてしまった。


「いくよ!」


 誰に聞かせるわけでもなく声をかける。 自己暗示のようなものだ。 これから『戦闘』と呼べるものをするという、祈願。


 撃ち出された氷塊を屈んで避ける。 そこへ撃ち出される風の刃。 避けるのは不可能なので、光晶拳で対処する。 まるで本物の刃を殴っているかのような感触とともに霧散するそれを尻目に接近。

 冷気弾。 右拳を打ち払う様に動かしながら光晶拳。 剛衝拳の時もそうだったが、とりあえず手の形がグーになっていれば発動するらしい。 もっというなら指が曲がっていればいいらしい。 

 ソレを利用して、正面に向かって撃ち出された氷の棘を掴みとる。 殴れるようになるということは、触れる事だってできるのだ。 それを捨てて、更にダッシュ。


「こおおおおおおしょおおおおおおけんんんんん!!」


 叫ぶ必要性は無い。 でも叫んだ方が気持ちいいじゃん?


 白く光る拳は、アイスルトールの竜巻を確実に捉える。 更にここで、スキルではなく技術による鎧通しを行う。


 ビキィ!


 ひび割れる音。 中のコア部分に届いたのだろう。 竜巻がバチバチと音を立ているあたり、今の一撃だけで半分持って行けたのかもしれない。 

 普通であればここで一旦後退するのだろうが、そんなセオリーは知らない。

 再度光晶拳を発動。 竜巻を掴んで、身体を寄せる。


(ダブル)光晶拳ンンンンンンンン!」


 そんなスキルはない。 だが、しっかりと反応してくれるのはありがたいことだ。

 左拳の光晶拳による鎧通し。 右拳を引き戻すことで、更に貫通力を上げる。


「だっしゃあああああ!」


 少なくとも華の女子大生があげるべきではない雄叫びを上げ、敵のコアを砕き割った。

 まさか2撃で倒せるとは。 あ、レベルあがった。


「さって……」


 さて。




 ボスだ。











 傾斜80度……85度ほどの崖を昇り終え、さきの『アイスルトール』の広間よりももっと開けた場所に出た。 地面を見れば、ある一線から降り積もる雪の量が違うことが見て取れる。 恐らくここに足を踏み入れる事で、ボスが湧くのだろう。


 インベントリを開く。 取り出すのは、少し前に路地裏で細々とやっていた武器屋に造ってもらったナックル。 名を『ライムストーンナックル』というそれは、文字通りあのライムストーン・ゴーレムのドロップから造られたナックルだ。


 要求レベルは50。 アイスルトールとの戦闘後のレベルアップで、漸く装備できるようになった代物。 オルキディアの蒼籠手は要求レベルが79なので、まだまだ装備できない。

 それを、装備する。 ひんやりとしていて、どこかしっとりとした感触だ。


 もう一度性能を確認してみよう。


 ライムストーンナックル

 要求レベル:50

 耐久:120/120

 攻撃力:340

 防御力:550

 スキル

 状態異常麻痺無効

 状態異常火傷持続時間半減

 耐久減少半減


 説明

  ライムストーン・ゴーレムから造り出されたナックル。 熱を鎮める力を持つ。

 また、消耗を遅くする。



 今まで使っていた量産品ナックルの攻撃力が52だったので、劇的な進化だと思う。

 多分だけど、量産品ナックルをこんなに使い続ける自分の方が珍しい部類だと思う。

 お金が無かったから、節約って奴だよね。



 確認も終わった事だし、行こうか……という処で、それは起きた。


 

 轟ッ……という、遠方に響き渡る爆音のような音ともに、周囲が明るくなり始めたのだ。

 何事かと上を見上げると、そこには澄み渡る空が。 


「へ?」


 今の今まで、そこには暗雲があったはずだ。 それが今や影も形も無くなり、太陽が顔を見せていた。

 降り積もった雪が陽光を反射する。 ゲームでなければ失明していたかもしれないほどの光量。 いや眩しいよ!

 耳を澄ませてみれば、あの爆音はまだ続いている。 あっち……おぉ。


 おぉ。


 遠くに或る雪山? のような場所。 そこに、雪雲がすべて集約しているのが見えた。

 あれが突然晴れた原因か。 なんかあそこに課金王がいる気がする。 多分気のせいだろう。


「うむ。 気にしないで、私はここをクリアしよう。 そうしよう」


 足を踏み入れる。 すると、冷気が集まって来た。 ここも大きくなるだけかな?


「名前は……『アイスルトール』……あり? 同じ?」


 あれ、ここボスだよね?

 山頂だし……。 レベルも一緒……? あ、1だけ上がってる。


 とりあえず倒そう、か――ッ!


 右。 横合いからの冷気弾を避ける。 移動速度が速くなって――いや、目の前の相手は動いてない! それを確認しようとした瞬間、左手から風切り音。 屈んで避ける。

 そのまま前方へ転がって、左右の相手を確認。 『アイスルトール』と『アイスルトール』……。 つまり、複数タイプのボス! 昔携帯ゲーム機で戦ったことある!


「雑魚が何匹集まっても、雑魚は雑魚だよ!」


 ライムストーン・ナックルをガチんと鳴り合わせて、殴りかかって行った。


カナちゃんも頑張ってるんやで、って話。

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