槍使いと忍者の敗北
短い遅い
「セイン! 道順覚えてるっすか!?」
「覚えてるわけねぇだろ。 上いきゃいいんだよ上に」
「使えねー!」
セインのagiは230。 シュリのagiは870。 シュリが合わせているから2人は並走出来ているが、本来のシュリの移動速度であれば遥か先にいるはずだ。
セインが可哀そうだから、などという殊勝な心がけなどシュリは持っていない。 道順を覚えていないというのもあるが、要は壁が必要なのだ。
「ピュィイィィィイイイイ!」
「はやっ! ち、セイン!
――後は頼んだッス!」
「ですよねー。 しかし、ざっと100lv差相手に攻撃通るのか……?」
セインは何も一度目の挑戦で攻略できるとは思っていない。 何度も挑戦してようやくつかむモノであるからだ。
だからこそ、agiの高いシュリを先に行かせるのは当たり前の事であり、セインはサンディーヴァの鳥達を相手取る。
とりあえず、インベントリから赤熱した槍を取り出すセイン。
『バクフウランス』。 『バーンス・ライム』という、どこで切ってんだよというツッコミを受けているスライムがレアドロップする素材から造られる槍で、敵に接触すると爆発するという性質を持つ。 持ち手まで。
その性質を利用し、投擲する事で広範囲にダメージを与える事が出来る槍だ。
レアドロップなのに使い捨てである。
「喰らえ!」
それを適当に投げるセイン。 相手の数が数だ。 真ん中に投げりゃ当たる。
そう思っての行動だったが……。
「ピュイ!」
「ピュイ、ピュイ!」
「ピュイイィィイイイ!」
サンディーヴァの鳥達は器用に真中に穴を作り、その槍をやり過ごす。 『バクフウランス』は敵に当たらないと爆発しない。 ガン、と岩に当たって落ちた。
「うっそだろ……ならこっちだ!」
次にセインが取り出したるは『コールドヤリ』。 生産スキルで作ることができる槍の1つで、地形に当たっただけで周囲5mほどを凍らせる。 勿論持ち手ごと。
それを、斜め下に向かって投擲する。
「ピュイ!」
サンディーヴァの鳥達はそれをなんなく避けるが、地面に当たった『コールドヤリ』は構わずに氷を生成した。
「ピュア!?」
「ピュイ、ピュイ!」
「おっしゃ!」
氷に囚われるサンディーヴァの鳥達。 狭い通路故に、後続までもが詰まる。
その隙に出来るだけ距離を取るセイン。 ちなみに『コールドヤリ』も使い捨てである。
「ピュイ。 ピュァァァァアアアアアア!」
セインの走る背後で、空気を劈くような爆音が聞こえてくる。 バリバリという音。
創世神話において、サンディーヴァの鳥達は熱を扱う種族だ。 熱そのものとして書かれている事もあるくらい、プラスの熱の扱いに長ける。
その種族に氷を使うのは悪手だった。
一匹一匹がその群青の翼に雷を纏い、周囲に放出を始める。
バリバリという音は轟轟という爆音に、白い光は紫電と言われる高圧の光に。
「ピッ!」
ピュイ、と鳴いたのであろう一匹がセインの横を通り抜ける。 雷速。
セインの視界に映る体力ゲージが、7割削られた。
「いや当たってねーだr……!?」
ザク、と。
背骨の辺りに何かが刺さる。
セインのゲームバージョンは制限無しの物なので、規制無くありのままに描写された。
「マジか……!」
腹から出る嘴。
体力ゲージは一瞬で底を尽き、身体が粒子となる。
セインの保った時間は、わずか5分だった。
「速くないッスか!?」
その事をパーティーウィンドウで知ったシュリは、ツッコミを入れる。
セインは決して弱くない。 攻略組の中でも上位の方にいるし、多対一にもなれているはずだ。
そのセインがものの5分で負けたということは、即死系スキルを使われたか、対応できない何かがあったということ。
先程の広間で自分たちの周囲を回っていたのを見る限り、サンディーヴァの鳥達の内部ステータスのagiは800前後。 あれが全力だとは思えないのでプラス200くらいだろうか。 Agiは反応速度にも影響するので、200ちょいしかないセインが反応できないのは当然だろう。
「……ュィィィィィィィ」
ち、と舌うちするシュリ。
かなり近くまで来ている。 体感、最初の入り口の辺りの高度にすら辿り着けていないので、クリアは絶望的だ。
そもそもここをクリア、ないし攻略したいと言ったのはセインであって自分ではない。
なら、滅多にお目にかかれない高レベル相手に多対一を舞った方が自分のためになるのではないか。 そうシュリは判断し、サンディーヴァの鳥達の来る方向を向いた。
「さっきの轟音と甲高い音からして爆風と氷結の槍使ったと思うんスが……その後のバリバリ聞こえたのはこの鳥達ッスかね」
狭い通路故に反響も大きくなる。 下で起こったことは上に抜けやすいのだ。
「雷系の相手なら……こ、」
これ、と言って何かを取り出そうとしたシュリの腹。
そこに、群青の鳥がいた。
雷速で動く相手に見てから動く等という悠長な事をしていて、間に合うはずもない。
「何にもできなかっ――」
パーティクルを残して、シュリも粒子になった。
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