槍使いと忍者の研鑽
クリスタル観察日記の方と強くリンクしてるけど読まなくても問題はない
「それではな。 余はあの亀の攻略を考えに戻る。 2人とも、頑張るといい」
普段より聊か硬い声色で課金王は消えて行った。
残されたのは、セインとシュリのみ。
ここはヴィンティルの霊峰。 元はセインが攻略してみたいと言った場所であるが、ついでにとシュリもついてきたのである。
「……セイン、その中央の吹き抜けの位置覚えてるんスか?」
「いんや? それを探すのも含めて醍醐味だろーよ」
この世界は広い。 先に述べた様に、地球よりも大きい。
その世界のダンジョンは、これまたひどく広大だ。 前回は課金王が道筋を覚えているおかげでサクサクと進むことができたのだが、本来は山一つを探索する途方もない作業であることを忘れてはならない。 どこかに吹き抜けが或る。 そういうヒントはあるものの、上ばかりを向いていたら戦闘になるはずもなく、シュリは始まる前からため息を吐いた。
「ま、いいッスけどね。 最近課金王と一緒にいくトコ、軒並アタシ達のレベル越えちゃってるッスから。 レベル上げしつつ行くッスか」
「お前いくつだっけ? 俺はこの前あがって125だけど……」
「まだ122ッスねー。 アールヴァルの地下水脈で大分あがった感じッスけど、全然足りないッスわ」
レベルはステータスに影響する。 ステータスを上げる方法は3つあり、1つは対応したスキルを上げる方法。 武器のマスタリ系を上げればstrやdex、agiが上がり、魔法系を上げればintやMPが上がる。 セインのランスマスタリはstrで、シュリの暗器マスタリはdexとagiに半々に影響を及ぼしている。 Defとluckは少々特殊だ。
2つ目は武器の付与効果によるもの。 Strが上がる物、intがあがるもの、様々だ。
そして最後に、レベルを上げる事。
選んだ職業に初期値があり、例えば槍使いなら1レベルでstr30、def15、agi20、dex40、 int5、luck10といった具合だ。 その初期値に1レベルあがるごと、加算が為されていくのである。
ちなみに格闘家だけはまた違うのだが、それを述べるのはカナがいる時にしよう。
「確かここ、βン時のダンジョンだったよな。 適応レベルはそんな高くないんじゃねーの?」
「……ヴィンティルって創世神話の名前が付いていて、霊峰ってんだから超高いんじゃないッスかね……」
創世神話関係はレベル高い。 そういう式は、攻略組なら誰もが持っているモノだ。
「ま、話してないでいくか。 課金王の支援が無い上、俺の持ってるポーションはそんなにない。 被弾はできるだけ最少で行けよ?」
「忍者は元から被弾しないんスよ……。 どんな敵がいるかわかんないッスからね。 一応慎重に行くッスけど、先頭はセインがやってくれッス」
「あいあい」
慎重に行く、という言葉がどれほど当てはまるのか。 2人は一気に駆けだした。
「うっわー、なんスかここ……なんで何も出ないんスかね……」
「わかんね。 なんかトリガーがあるんだろうが、どこにあるのかすらわかんね……」
曲がりくねる穴の中を全力疾走する2人。 武器を装備しているのでモンスターは出るはずなのだが、未だにその姿を現さない。 上がって下がって、曲がって戻って。 行き止まりこそ無いが、既に自分たちがどこにいるのかはわからなくなっていた。
「……あの時の正解は上だった。 ってことは、下に行けばいいんじゃね?」
「何が『ってことは』なのかはわからんッスけど……まぁ行くだけ行ってみたらいいんじゃないッスか?」
分岐がある度、下って行く方の道を選ぶセイン。
ソレを何度か繰りかえしていくと、大きな広間に出た。
「……最下層、ってことでいいのか?」
「ひぇぇ……セイン、セイン……気配察知がヤバイモン察知してるんスけど……」
気配察知スキルはパッシブではなくアクティブスキルだ。 使用者の視界に波紋の様な物が映りこみ、隠れている物を色分けして暴き出す。 使用者にとっての脅威度で色合いが変わり、青なら安全、赤なら危険といった具合だ。
そして、今シュリの視界に映し出された物。
「全方位赤……ヤバイ数がいるッス!」
シュリの叫びが先か、その轟音が先か。
周囲をさんざめく囀り。 青い光が2人を中心とした台風の様に渦巻く。
先に見た、霊峰の頂きの雷鳥。
「『サンディーヴァの鳥』! レベルは……220!?」
「なんで見えるか知らないッスけど、そんなのラスダンじゃないッスか!! 100匹以上いるッスよ!? 課金王はこんなんどうやって……!」
エリクシールによるゴリ押しではない。 βテストの時にクリアしたのだから。
背中合わせに武器を構える2人。 しかし、勝ち目は薄い。
サンディーヴァの鳥達の移動速度は、雷速に匹敵するのだから。
「……逃げ道がふさがれていないことが救いッスね……」
「まぁやるだけやってみようぜ。 当たって砕けろ、だ」
セインはランスチャージを。 シュリが苦無を投げようとしたその時。
2人に、なんとも言い難い『声』が聞こえてきた。
『おいおい、人間とはどいつもこいつも物騒だねぇ……。 ま、安心しな。 ここはそういう場所じゃないからね。 お前たちも脅かすのはやめな!』
男とも女とも……人間とも機械音とも取れない、不思議な声。 脳裏に直接届くような声だ。 2人は顔を見合わせる。
「誰だ! 姿を見せやがれ!」
「気配察知……上ッスか!」
上。
頭上。
そこに、ヒトガタがいた。
『ふぅん……ちっこい方しかわからないのか……人間は面白いねぇ』
自分は人間でないとでもいう様な言葉。
真実、彼女は人間ではない。
「『エレイン』……? レベルはわからん……まさか……ネームド!?」
ネームド。 ネームドモンスター。 つまり、個体名のあるモンスターの事だ。
種族として数がいるモノ……先のサンディーヴァの鳥のようなモノとは次元が違う。
現状確認されているネームドは1体だけ。 エセレンシュという、プライマの街の訓練所の最終段階に出てくる精神体だ。 ちなみに課金王の愛用している水晶大剣も『エセレンシュの水晶剣』という名前である。
『くくく、ネームド、ね……確かにあの方に名づけられた私達は、それに相応しいかもしれない。
自己紹介をしてやろう。 私は『エレイン』。 サンディーヴァの鳥の長だよ。 ヴィンティルの母親と言えばわかるかね?』
ヴィンティルの母親。 創世神話において、その名称は出てきたものの明確な名は記されていなかった。
『さて、お話はここまでだよ。
お前たち人間と闘ってもスグにけりがついてしまう。 だから、ゲームをしよう』
エレインは両腕を広げる。 鳥が両翼を広げるように。
その腕が青白く光り、本当に羽毛を形成していく。 胴回り、足、首、頭と順に、その身を鳥へと移行させていく。
巨大な、雷鳥へと。
『この霊峰の山嶺。 そこまで追いかけっこだ。 ヴィンティルとヴァルフィンがよくやっていた奴さね。 ウチの奴らと闘うのは構わない。 罠を仕掛けるなりなんなりするといい。 お前たち人間が天辺に辿り着いて、答えを示す事が出来たらお前たちの勝ちだ。
逆に、道中で私らが追い付けば、お前たちの負けだ。 簡単だろう?』
ヴァルフィン。 創世神話における、ヴィンティルの番の名前。
『さぁ、十を数えたら追いに行く。 それまで全力で逃げな!』
聞きたいことは山ほどある。
だが、そういう仕組みならば仕方がない。
郷に入っては郷に従えとは少し違うが、課金王に振り回されている2人の適応能力は高かった。
「うおおおおおおおお!」
「逃げるッス!」
ランスチャージを溜めながら全力で背を向けて走り出す。
苦無を収納し、身を低くして駆けだす。
目指す場所は、あの天辺。
『十、九つ』
セインとシュリが戻って行った穴に、膨大な数の雷鳥が群がる。 ギチギチ、ギャーギャーと鳴くそれらの周囲には、バリバリという紫電が走り抜ける。
『八つ、七つ』
走れ。 奔れ。 駆けろ。 翔けろ!
『六つ、五つ、四つ、三つ』
戦うという選択肢は既に捨てている。 訳100lvの差を無視して挑むほど、2人のゲーム歴は浅くない。 1:1なら或いは……だが、100匹以上は無理がある。
『二つ、1つ』
架かる。
『行きなぁ! お前たち!』
ドバッ!!
大洪水の水が氾濫したかのような。
防波堤が崩れたかのような勢いで、鳥達が2人を追いかけはじめた。
おそくなりまったん




