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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と仲間達
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課金王の敗北

あくまで課金範囲で最強って話

 一面の白。


 ゼーラーゴの湖のみを除き、そのブレスは他全てを凍らせた。


「全体攻撃ッスか……。しかも氷結の状態異常系っぽいッスね」

「あぁ……『アンダレイク・サーペント』と『ヤマタノレイク・サーペント』の時も思ったが、それ以上だ。

 こいつ……明らかに3人で挑むようなボスじゃねぇ!」


 落ちながら巨大な亀を評するセインとシュリ。

 上空から見た事で分かったこのボスの表示名は『シュネクレーヴェの亀』。

 雪山と同じ名を冠する――創世神話の生き物。


「そうだ、コレ返しておくぜ。氷割るからよ」

「割るって……あぁ、そういうことッスか。課金王巻き込まないでくれッスよ?」

「保証は出来んが……まぁ課金王なら大丈夫だろ」


 苦無を手から抜き取り、シュリに返す。


 発動するスキルは、先程も使ったランスチャージ。指定する座標は、氷の内部(・・・・)

 

 速度・威力をスキルレベルに依存するランスチャージであるが、その二つを底上げする方法が一つだけある。


 ――落下。


 溜めて突撃するスキルだからこそ、平面では作用しない加速度というものが相対速度を速め、結果威力を向上させる。

 自身が受けるはずの落下ダメージを相手に受けさせるようなものだ。今回は氷だが。


 槍を氷面と垂直になるように構え、スキルを発動させる。

 穂先から鮮やかな赤い光が溢れ、セインの後ろ……つまり上空へと尾を引く。

 螺旋を描きながら落ちるソレは、流星の如く勢いで氷へと突き刺さった。






「………………あり?」






 かなり高い所から落ちてきたから、いつものダメージの数倍は出ているはずなのに。

 ハタウオノヤリは氷に突き刺さったまま、ビクともしない。


 どうにも間抜けな格好のセインの横に、スタッとシュリが着地する。そのまま殿とかに向かって推参! とか参上! とか言いそうな着地の仕方だ。


「『そうだ、コレ返しておくぜ。氷割るからよ』」

「いや、いやいや、普通割れると思うだろ!? あの高さだぞ!? 威力で言えば『ダマスカ・ストーンゴーレム』でも一撃で割れるくらい出てたって!」


 『ダマスカ・ストーンゴーレム』はとある坑道に出てくるボスで、凄まじい防御力を誇ることで有名だ。最も、魔法に一切の耐性が無い故に、こんがり焼かれてアイテムドロップすることも少なくないのだが。


 とりあえず槍を引き抜くセイン。恐ろしい透明度の氷の遥か下に、課金王の白銀色のフルプレートアーマーが見えた。

 

「ありゃ、課金王固まってるッスか?」

「ん……おぉ、ホントだ。あ、メール来た」


 固まっているはずの課金王からのメール。メールは思考ポインタで打つこともできるので、不思議ではない。


『エリクシールを使ってみたが治せぬ。氷結系の状態異常解除アイテムも全て試したがダメだ。状態異常ではない可能性も視野に入れたが、エリクシールで治せないとなると余にはお手上げよな。ワープ結晶で戻ろうと思うのだが、やっておきたいことがあればやるといい。終わったらメールの返信を頼むぞ。余はスクショ撮ってるからね』


 完全に諦めモードだった。

 最後の一文に至ってはロールを止めている。


 課金王はエリクシールでゴリ押すか、それができなければ入念な準備をするタイプだ。

 今回の様な理不尽な攻撃には対応できないのである。


「だってよ」

「そっちにも同じメール来てたッスか。

 しかし、やっておきたいことって言われても……『シュネクレーヴェの亀』はまた眠りに就いたぽいッスが」


 シュリの指差す先、先程この氷原を作り上げた亀は、最初と同じように手足首を引っ込めて山へと擬態していた。視力が悪いのか、取るに足らぬ敵だと判断したのかはわからないが、セインとシュリに興味はないようだ。

 藪を突いて出てくるのが蛇とは限らない。


 龍でも出てきたら面倒だ。


 セインとシュリは互いを見て頷き、メールを返信する。

 『帰る事に依存はない』、と。


 メールを送って2秒。眼下の課金王と2人の身体が光りはじめる。フルプレートアーマーのいい所は、鎧内部に空洞があるところだ。

 それがあるから、口を使うことができる。


 その場から光の粒子となって消える3人。


 その光の粒子を、どこか懐かしそうな目で『シュネクレーヴェの亀』が見ていた。









「ふぅ……すまんな、2人とも。まさかエリクシールで治せぬ状態異常……なのかはしらんが、そんなものがあるとは想定しておらなんだ。……いや、言い訳よの。誘っておいてコレだ、今度何か埋め合わせをしよう」


 プライマの街へ帰って来ての課金王の第一声がコレだ。

 

「あー、アタシはまた保留で。欲しいアイテムが実装されるまで……」

「んじゃ、俺はアレだ。ヴィンティルの霊峰、連れてってくれ。今度でいいからよ」


 課金王が埋め合わせをしたがっている時に断ると、逆に事が大きくなるのを2人は知っているので正直にしてほしい物・事を言う。シュリは具体的ではないのだが、十分に伝わったようだ。


「シュリの保留は14個目だな……ふ、何を要求されるやら……」

「そりゃ名前変k――むぐ」


 シュリのプレイヤーネーム。手裏剣大好きの事を、課金王は良い名前だと思っている。無いとは思うが、変えるのは良くないなどと言って名前変更アイテム――実装どころか予定すら発表されていない――をくれなくなったら困るのだ。

 結局そんなものを貰う時点で変えたいと思っているとバレるということに、シュリの考えは至っていない。良くも悪くもまだまだ子供なのだ。


「ヴィンティルの霊峰は……今行くか?」

「ん、いや、もうすぐ仕事だからな。遠慮しておくぜ」

「あいわかった。行きたいときに余かP.f.K.にメールを送るといい。連れて行ってやろう」


 何故そこでP.f.K.が出てくるか、とは聞かない。

 2人ともわかっている。


「それでは、余も一旦落ちるぞな」

「ういうい、おつかれさん」

「お疲れッスー」



 ログアウトする課金王。

 続いてセインもログアウトし、シュリだけが残された。


「ふぁふ……小学生の時間制限として眠気入れてくんのホントやめてほしいッスね……」


 長時間のVRを規制するための機能とはいえ、戦闘中等大変なのだ。

 大きな欠伸をもう一つ上げて、シュリもログアウトした。


まぁ負けたままじゃないんですけどね!

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