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余の名は課金王  作者: 劇鼠らてこ
課金王と格闘家
12/56

初心者からの推移

試験的にじっくり描写してみる


ちょっと痛い表現がありますのでご注意



「剛衝拳!」



 

 相手の出方など眼中にない。ただ使ってみたくて仕方がない、と言った様子で放たれたソレ。普段のカナであれば絶対にしないその乱暴な一撃は。




「クェッ?」




 グリフォン――表示名『ハースト・グリフォン』――に届かずに止まった。


「うぇっ?」

「カナちゃん……ちゃんと説明読んだかしら……? その間合い、スキルの字面から衝撃的な物が出ると思ってたんじゃない? 出ないわよ、そんなもの」



 思ってました。

 漫画や格闘ゲームにありがちな、ビームとはいかないまでも衝撃波的な物を想像していたカナ。

 勿論そんなものは出ず、結果グリフォンと1m程離れた場所で右拳を突きだしたまま固まるという結果に終わった。

 残念そうなぴーちゃんの視線が痛い。


「さっきの光晶拳と同じよ。拳に纏うだけのスキル。こういう派手さがないのも、不遇職と呼ばれる理由の一つかしらね」

「……ふぅ。普通にやろう。……普通にやろう」



 余計なロマンを捨てて深呼吸するカナ。他のVRゲームでは感じられない、リアリティに拘ったゲームだからこそ感じられるモノ。空気の動き、草木のざわめき、敵の呼吸。

 背景音としてではなく、本当にそこにあるものとして聞こえるソレを、目を瞑ったカナは視る。

 気配。気の配置を視る。

 自分。現実世界とは違う、電子の肉体だけれど心臓は動いている。

 後ろ。神々しいと感じたぴーちゃんの気配は、そこにいるだけでその存在を周囲に威圧するようなものだ。どこか、課金王の気配に似ている。

 そして、前方。

 現実の生物には有り得ない体躯。

 鷲の頭と翼、体はライオン。身体が獅子そのものであるのなら、ドクドクと脈を響かせる心臓を狙うのは得策ではない。堅牢な肋骨や肩甲骨、胸椎に拳を阻まれるだろう。

 だからといって頭を愚直に狙うのも良くは無い。これが鳩やスズメならその小さい頭蓋ごと砕く、もしくは揺らしてしまえばいいだろうが、相手は鷲だ。

 高速に耐えられる様に進化してきたその頭蓋は、今この場でカナが出せる速度程度では揺らすことすらできないだろう。


 カナのintは、レベルが上がった今でもそこまで高くは無い。

 例えスキルを使って頭蓋に叩き込んだとしても、良い結果になるとは限らない。


 ならばどこを狙うべきか。

 それは獅子の上腕骨同士の間から、鷲の首にかけての部分。無理矢理人に例えるのなら鳩尾。前足こそ頑強な上腕骨に覆われているとはいえ、その部分は筋肉のみ。叩き込むのならそこだ。


 足を開く。腰を落とす。上体を半身に逸らす。

 漸く目を開くカナ。その瞳に映るグリフォンの表情は、どうにも阿呆……何も考えていないように見える。

 頭のいい鷲が鳥頭なわけがないので、気のせいだろう。


「くぇっ?」

「……フッ!」



 小さく呼気を落として踏み込む。まずは翼を叩き折る。その図体でどうやって飛ぶのか、原理がどうなっているのかはわからないが、翼が無ければ飛べない事は先のハルピュイアで証明された。ならば実践あるのみ。

 ようやくカナを敵として、危険であると認めたのか、グリフォンは威嚇するようにその大きな両翼を広げる。成人男性を2人並べてまだ追いつかないほどの大きさだろうか。

 野生動物にならば効く可能性のあるその威嚇は、しかし目の前の敵――カナには悪手だ。

 カナにとっては、好機。


 生物という物は、どの部位にしたって根元という場所が一番弱い。人間はそれが顕著だろう。肩や股関節は外れやすく、首はすぐに負傷する。その根元を集中して鍛えればある程度は肉の鎧により厚くなるが、中の骨が弱いことに変わりはない。

 それはその部分が可動部であるという理由に起因する。

 外れやすくなければ可動域も狭まり、肉の鎧が厚くなればそれが可動の邪魔をする。


 よって、翼を叩き折るのならば狙うのは根元。翼の付け根。

 グリフォンが大きく翼を広げてくれたことで、羽毛に隠された付け根がどこなのかをはっきりと確認できたカナ。


 カナからみて右側――グリフォンの左翼の尺骨を右手で掴む。当然、グリフォンはカナを引きはがそうと暴れるが、カナはそこでスキルを発動させた。心中で剛衝拳と叫ぶと、体から青い光が粒となって放出され、拳に宿った。

 Strの司るステータスは、攻撃力と握力だ。少ないとはいえ、intが換算、加算されたことによりカナの握力が上がる。尺骨と橈骨の隙間に指が入るほどの握力。当然、それを無理矢理引きはがそうとすればグリフォン自身の翼に激痛が走る。


「クェェェエ!!」



 普段感じる事のない痛み。翼を構成する骨を縦に引き裂かれるという痛みは、グリフォンを大人しくさせた。これ以上、その痛みを感じたくないがために。

 それが更なる悪手だと知らずに。


 当然といえばいいのか、案の定というべきか。

 暴れる事を止めたグリフォンを組み敷き、これはラッキーとばかりに翼の付け根――上腕骨と肩甲骨の境に左手を添えるカナ。

 グリフォンがその事実を認識する前に、本来の翼の可動域外、体の前方へとその翼を引っ張った。付け根に添えた左手を少しだけ押して。


「クェェェェエエエエエエ!!」



 バキ、とかボキ、ではない。ゴリッ! という、何かが割れながら(・・・・・)外れる(・・・)という痛々しい音が周囲に響く。

 グリフォンは絶叫を上げる。電子で構成された敵のはずなのに、その表情は鬼気迫り、生命を訴えてきた。


 それを意に介さず(・・・・・・・・)、きわめて冷静にもう片方――右翼を折りにかかるカナ。先程スキルを使ってから1分ほど。まだintは0のままだ。だから、スキルを使っても効果が無い。

 なので他の方法で折る。


 しかしそこはグリフォン、自身の左翼を奪った生物を不味い敵(・・・・)だと判断し、下半身――獅子の力強さを以て地面を蹴った。

 たまらず振り落とされるカナ。握力は戻ってしまっているので、耐えられなかったのだ。


 片翼故に飛ぶことのままならないグリフォンは逃げる事を諦め、カナに向かって突進をする。獅子の機動力と鷲のするどい嘴で貫かれたら――ゲームの仕様上そういうことはないが――ひとたまりもないだろう。

 因って之を迎え撃つ。


 避けきれるほどの距離ではないし、相手の図体も大きい。ひっかけるだけで多大なHPを持っていかれる事だろう。ただ、その軌道は悠に見て取れた。

 やはり動物でしかない。フェイントを混ぜてくるわけでもなく、ただ愚直に突っ込んでくるその軌道ならば、嘴がどの位置に来るのか予想する事が出来た。


 女の身だったら当たっていたかもしれないという程にまでグリフォンの接近を許し、その薄い胸板に嘴が当たる寸前、体を右にひねりながらグリフォンの顎を真上に打ち上げる。

 人間と違い、鳥類の頭蓋骨というものは横に長い。頸椎と繋がっている部分はその横長の頭蓋の端。なら、その反対側の端を打ち上げるとどうなるか。


 簡単だ。てこの原理により、人の頭蓋を打ち上げた時よりも大きく、強く上を向く。

 結果起こることは、強制的な鞭打ち。

 頭蓋と体を繋ぐ首を流れる靭帯や血管が損傷し、グリフォンはカナの左側――右にひねった半身に当たることが出来ずにフラフラと倒れこむ。


 その隙を逃さず右翼を折りにかかるカナ。先程と同じく右翼の尺骨と橈骨の間を掴み、上に持ち上げる。そして狙いを定めて――左足を、根本目がけて踏み抜いた。


「クェエエエエエエエエエ!」



 先程と同じ、ボリっという音。その痛みは慣れる事の出来るものではない。むしろ、むち打ちにより鋭敏になっている神経――そこまでリアルなのかどうかをカナは知らないが――は、痛みを倍増させていることだろう。


 これで完全に飛ぶことのできなくなったグリフォン。

 だがそれ以前に。

 すでに息も絶え絶えという様子。脱臼や骨折がどうHPに影響するのかはわからないが、ほとんど残っていないのだろう。


 このまま殴っていれば倒せるかもしれない。


 そう辿り着いたカナは思った。


 ――それは困る。


 最初を思い出してほしい。

 カナはスキルというものを叫んで、使ってみたかったのだ。

 先程の握力をあげたときはただの応用であって、自分の求めていたロマンとは違う。


 だから、と。


 倒れたかグリフォンから6歩、距離を取るカナ。

 既に2分間のクールタイムは終えている。

 やることは一つ。


「すぅ……はぁ……すぅ……」



 深く深呼吸。右拳を腰だめに構え、左足を踏み込む。

 2歩目で更に弓なりに拳を引き、怒声をあげる。


 3歩目でグリフォンに辿り着き、その顔の直前に左足を踏み入れた。


「おおおおおおおおおおお! 剛・衝・拳ンンンンン!!」



 直上から真下に向かっての叩き込み。

 叫びと共にカナの身体から青い粒子が放出され、右拳に集束する。

 精確な軌道で放たれたその拳は、鳥口骨と鎖骨の間に流れるように落ちて行った。


「ク……ェ……」



 明らかなオーバーキル。

 誰が見てもオーバーキル。

 どこからどうみてもオーバーキルだった。


 光の粒子を残して消えるグリフォン。


 断末魔は、ひどく哀愁の漂う物であった。








「うっわ、えっぐ」



 カナの戦闘を見たぴーちゃんの感想である。


『オウギ・ハルピュイア』 lv.55

他の森にいる種は群れで行動するが、このハルピュイアだけは単独で獲物を狩る。

strに換算して500相当の握力(足)を持ち、それに掴まれると出血の状態異常と共に空へと持ち上げられる。落下ダメージがしっかりあるゲームなので、空中で落とされた場合はしかるべき対処をしないとHPががっつり削られてしまう。


『ハースト・グリフォン』 lv.58

現在見つかっているグリフォン種の中では最大。レベルこそ2番目であるが、その強靭な四肢は多大なる速度と衝撃を生み、その嘴は岩をも貫く。唯一の欠点はAIのゆるさだろうか。

だが、愚直とはシンプルということ。シンプルなものは強いというのは鉄則である。

獅子の堅牢な骨によって体躯が守られている故に、火力の無い職業は苦戦を強いられる。

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