課金王との邂逅
現実でお金を湯水の如く使えない人の妄想
「うわ、なんだあの銀色」
「ん? あぁ、課金王ってプレイヤーだ。廃課金者だぜ」
初心者の街と呼ばれるそこで、二人の男が話している。
片方は、今まさにキャラクターを造りました! という、革アーマーにロングソードという装いの、赤毛の青年。
もう片方は、鉄のプレートアーマーに鉄の槍を持った、青毛の中年だ。
その二人の視線の先にあるのは、大きな白金色の塊。フルプレートアーマーと呼ばれるソレを身に纏うプレイヤーの姿だった。
「課金王ォ? 成金かよ」
「まー最初は俺も邪険にしてたけど、一緒に戦ってみると良いやつなんだよ」
メールを操作しているのか、その場から動かずごてごてしい手だけ動かしている鎧。
往来において、そんな邪魔な存在であるにも関わらず、鎧の前を通り過ぎるフルプレートが気さくに挨拶を投げ掛けていた。
「あれ? でもこのゲームって、装備の課金は無いんじゃなかったか?」
「あぁ、無いぜ。あの鎧はドロップ品だよ。課金王が課金するのは主に回復アイテムだからな」
ようやくメールを捌き切ったのか、顔をあげる鎧。そのまま市場を眺め始めた。
「回復アイテムだけか? 課金アイテム売ってGに換金してたりするんじゃ……」
「ないない。前に一度聞いてみたが、そんなことをしたら相場が崩れかねんだろう? って言ってたわ」
「いやいくつ売る気だったんだよ……」
市場を眺めるだけ眺めた鎧は満足したようで、こちら――待ち合わせならココと呼ばれる噴水前――に歩いてきた。
「こっち来た!? 山m――セイン! どうしよう!」
「リアルネームはご法度だぞ……気を付けてくれよ? どうするもなにも、あいつを待ってたんだから行くに決まってんだろ」
「ちょ、え、は、え!?」
こちらを認識した様子で歩を早める鎧。中年――セインは右手を挙げながら鎧に声をかけた。
「おっす、課金王。悪いな、わざわざ来てもらって」
「全くだ……と、言いたい処だが、今回遅れたのは余の方だからな。相子だぞセイン」
余!? と、想像もしてなかった一人称に息を詰まらせる青年。セインは慣れているのか、特に反応は示さなかった。
「今日はお前に紹介しときたい奴がいてな。実際に顔合わせた方が好きだろ?」
「うむ。よくわかっているな。確かに文面だけの紹介では、余は気に入らん」
ほら、自己紹介自己紹介とセインに脇腹を小突かれて前に出る青年。
「あー、えっと……セインの紹介で始めました、kana0729です。カナって呼んでください」
「ちなみに職業は?」
「え、言うの!? だって不遇職なんでしょ……?」
「礼儀だぜ?」
「う……。職業は、格闘家です」
最後は消え入りそうなか細い声で答えたカナ。課金王が出現する前に、自分の選んだ職が不遇職と言われていると、他ならぬ目の前のセインから散々聞かされていたのだ。
だからわざわざ装備できないロングソードを買って、誤魔化そうとしていたのに。
「ふむ……格闘家とな。あれのどこが不遇職なのか余は判らんが……」
「え?」
「名乗られたのだから、名乗り返さぬわけにはいかぬ! とくと聞け!!
余の名は課金王なり!!」
それはもう大声で。課金王は、高らかに宣言するような名乗りをあげた。
恥ずかしくなってカナは回りを見渡すが、こちらを向いているのは自分と同じ様な装いの初心者か、おーやってるやってるという反応のプレイヤーだけ。
他は慣れているのか、NPCまでもがスルーだった。
「職業は大剣士だ。宜しく頼むぞ、カナ」
「え、あ、うん。よろしく」
その光景を愉しそうに見ていたセインが、二人に声をかけた。
「おう、自己紹介も済んだところで……どっかダンジョンいかねぇ? オススメはアールヴァルの鍾乳洞かエルフィンの大樹な」
「……よくわかんないけど、セインに着いてくよ」
「余も構わん。が……セインよ」
人差し指でチョイチョイとセインを呼ぶ課金王。どこかニヤニヤした表情でセインは課金王に寄った。
「わかっているとは思うが、アールヴァルの鍾乳洞も、エルフィンの大樹も初心者の行くダンジョンではないぞ? 初心者ではなかったのか?」
「いやぁ? 昨日始めたばっかのガチ初心者だぜ。レベルは4だっかな。ちなみにスキルは驚きの0!」
「それは……いや待て、スキル0でレベル4とな……? ほう、成程、セインがわざわざ余に紹介したがるわけだ」
得心、といった様子の課金王。グルリとカナに向き直ると、質問を投げた。
「時にカナよ……昨日から始めて、最初に潜ったダンジョンは何処だった?」
「えっ、最初に潜ったダンジョン? えーと確か……シュネなんとかの雪山だったかな」
「シュネクレーヴェ?」
「そうそれ! 戦い方も全然わかんなくて、スキルの使い方とか知らなくて、ゆきうさぎみたいの一匹倒すだけでHPレッドまでいっちゃったんだ」
ブフッと、耐えきれなかったという様子でセインが吹き出す。
課金王は課金王で、吹き出しはしないものの、頻りに頷いていた。
「ククク……いいだろコイツ! 俺もこのゲーム結構やってるけど、まさか身近にこんな面白い奴がいるとは思ってなかったんだよ。もっと早く誘えば良かったぜ」
「な、なにそれ! 褒めてんの? 貶してんの?」
「セインが言う面白い奴は、最上級の誉め言葉だぞカナ」
愉しくて仕方がないといった様子のセインと、何やらインベントリを漁り始めた課金王。
未だ褒められたのだと信じられないのか、ジト目でカナはセインを見ていた。
「おお、あったあった。カナ、これをやろう。今は要求レベル的に着けられんだろうがな」
「え、あ、ありがとう。……これ、籠手?」
「おー! やっぱり俺の見込んだ通り、課金王からアイテムを賜ったな!」
「余が認めたのだ。こんなにも面白くなりそうな者に、何も与えぬのは余が許さん」
カナはその籠手をインベントリに入れ、詳細を見てみた。
オルキディアの蒼籠手
要求レベル:79
耐久:180/180
攻撃力:2045
防御力:968
スキル
常時回復Lv.4
状態異常持続時間半減
説明
妖精オルキディアの加護を受ける籠手。身に付けている者を癒す効果がある。
また、害為す者を減衰させる。
明らかに高価な装備だった。ちなみにカナが先程買ったロングソードの詳細はこうだ。
ロングソード
要求レベル:1
耐久:12/12
攻撃力:52
防御力:0
スキル
無し
説明
量産品ロングソード。斬ってよし投げてよし。
天と地の差とはこういう物を言うのかと、初めて思い知ったカナ。
「なにもらったんだカナ」
「えーと、オルキディアの蒼籠手ってすっごく高そうなもの……」
「おっほ! ユニークじゃねえか! 流石だぜ課金王!」
「当然だな。余は課金王ぞ」
「本当に貰っていいの?」
「むしろ返されたら怒り狂うな」
「え!? あ、ありがとうございます!」
「冗談だ。だがまぁ、それだけ期待してるということだ。さて、アールヴァルの鍾乳洞に行くぞ」
「あっと、その前に……ほれ、量産品ナックル」
「まさか昨日は素手でスノーラビットを倒したというのか……」
「そのロングソードは仕舞っときな」
「セインが買えって言ったんじゃん……」
「あと口調戻ってるぜ」
「へ? あーっ! なんで早くいってくれなかったの!?」
「ばっかお前、面白いからに決まってんだろ!!」
「なんで怒られたの今……」
課金王を先頭に、わーわーギャーギャーと煩い3人は歩いていく。
向かう先は、アールヴァルの鍾乳洞。
「どうやっていくの?」
「シュネクレーヴェの雪山にはどうやって行ったのだ?」
「え、走ってだけど……」
「ブフッ」
「これを使う」
「石?」
「一度いったことのあるダンジョンにワープできるのだ」
「へぇ! 便利だね」
「ちなみに課金アイテムな」
「あっ」
playername:kana0729
人間 格闘家 lv.4
HP:200
MP:90
str:56
def:11
agi:42
dex:11
int:9
luck:18
スキル
無し
playername:セイン
人間 槍使い lv.122
HP:1200
MP:800
str:331
def:120
agi:200
dex:490
int:80
luck:97
スキル
ランスチャージ:lv12 旋風槍:lv10 投擲槍:lv10 滑空槍:lv9
ランスマスタリ:lv40