1 異世界
目が醒めると、見慣れない部屋に寝かされていた。
「異世界に転移出来たのか………?」
ゆっくりと上体起こし辺りをみる。
傍らには頭が3つある犬が俺のことをじっと見つめていた。
「起きたか少年」
俺は辺りを見回すが、人は見当たらない。
目の前の3つ頭がある犬しかこの部屋には………
「ん?3つ………?は!?頭が3つある犬!?」
俺は血の気が引いていくのを身を以て実感した。
普通はありえないような生き物が目の前に存在しているこの状況で、冷静でいることなんて俺には無理だ。
「騒ぐな少年。この世界ではワシみたいなやつはゴロゴロおるわい。その前にこちらの質問に答えてもらおう。お前は何者だ?どこから来た?」
「お、俺は地球っていう異世界からきた者だ。見ての通り人間だ」
「異世界人か…。俄かに信じがたいが、空が裂け、そこからお前が降ってきたというのを目撃しておるから、信じるしかないのかの…」
「空から?俺は空から降ってきたのか?え、何で俺生きてるんだ?」
「お前はワシのご主人様が魔法で助けてくれたのじゃ。魔法という言葉を少年は知っておるか?」
「魔法?一応聞いたことはあるけど、この世に存在するものなのか?」
「この世界は、人類が魔法を使役できる。血筋によって使える系統は様々だがな。ただし、異世界人のお前が使役できるかは、知らんがな」
この犬が言うことを信じるのなら、この世界は完全な異世界だ。
いや、頭が3つある時点で信じるしかないか。
「そのご主人様というのはどこに?」
「下にいる。ワシについてこい」
部屋の扉を器用に頭で開け、階段を降りていくその姿は、もはやラスボス級の威厳を誇っている。
「ご主人様、少年が起きたので連れてきました」
椅子に座って本を読んでいる10代後半といった好青年が、ここの主人なのだろうか。
しっかしイケメンだな…
「やぁ、身体の方は大丈夫かい?僕はリューシュ・フォン・クライアだ。リューシュと呼んでくれ」
青年は真っ白で細々とした手を俺に差し出してきた。
「初めまして。助けていただきありがとうございます。俺の名は荒澤 紅蓮です」
「紅蓮くんか、宜しくね。今お茶出すから椅子に座って待っといてね」
そういいリューシュはキッチンに向かって、お茶の準備をしに向かった。
俺も言われた通り、椅子に座って部屋を見回した。
上の階もそうだったのだが、電気が通ってない。
もしかしたら、この世界には電気というものが存在していないのかもしれない。
「原始的だなぁ………」
「そんなに古く見える?」
苦笑しながらお茶を渡してくるリューシュ。
「いや、古いとかじゃなくて電気がないんだなと思いまして…」
「電気?高難易度魔法に「電磁波」ってのがあるけどそれかな?」
「んー、間違ってはないのかもしれませんけど…。
部屋を明るくしたり、携帯電話を使うのにも電気がいりますし…」
「携帯電話?」
「あ、いや、こっちの世界の話しです」
「そういや君、異世界人なんだってね。ランサスから聞いたよ」
あの犬はランサスというのか
ってか、頭のどれがランサスなのだろうか…
それとも全部まとめてランサスなのだろうか…
俺は先ほど、ランサスに説明した通りのことをリューシュに話した。
「ふむふむ、わかった。そういうことなら僕とこれから一緒に過ごそうか。これでも前衛魔術師として、この世界を旅してる者だから、僕について来れば、この世界をもっと知ることが出来るよ」
「良いんですか?ありがとうございます」
「そうだね〜、次の旅は一ヶ月後だから君に基本的な魔術訓練をして貰おう。じゃあ、街の外に行くから僕についてきて」
リューシュの家から、街の外に出るまでは暫くかかるらしく、歩きながら魔術について説明を受けた。
魔術者は基本的に2種類に分類される。
攻撃魔法を主とした前衛魔術師。
支援魔法を主とした後衛魔術師。
魔術師以外にも、剣士や弓士など様々な職が存在する。
そして、魔術の中にも更に分類がある。
前衛魔術師は基本、3つの魔術を混ぜ合わせたり、強くしたり、大きくしたりして使う。
水を使う水精魔術。
火を使う火精魔術。
風を使う風精魔術。
昔、これらの魔法は精霊を媒介として発動していたのだが、今は詠唱する呪文の中に精霊を埋め込んだ為、精霊は必要としない。
名前に「精」とあるのは、精霊を媒介していた名残とされているらしい。
いや、精霊埋め込んでるんじゃ…?と疑問に思うかもしれないが、それはリューシュにもわからないらしい。
そうして解説を受けている間に、街の外に到着した。
西に向かえば草原、東に向かえば砂漠。
比較的、草原にポップするモンスターは弱いということから、草原に向かうことになった。
「ここら辺で良いかな。今から紅蓮くんには、実際にモンスターを相手にして戦って貰う。ここにポップするやつらは、基本的に木剣でも倒せる程度のものだ。だから物凄く弱い。だから、初めて魔術を使う君には良い的という訳だ」
「はぁ、なるほど。ちなみに、どんなやつが出てくるんですか?」
「んーとね、君の後ろにもういるよ」
振り向くと猛烈なスピードで突進してくる2m程の猪がこちらに向かって………




