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③マンネリ


「なんでも願いを叶えるクリスタルというものが巷では流行っているそうですよ」


明け方から尋ねてきて知らぬ間に朝食を用意している賢者がモーニングティーを淹れながら言った。


「私は森の若いインドア美少女魔女っ娘。崖やら砂漠を冒険やら掴もうぜとか山賊王になる!なんてアウトドアはできないわ」

「そうですか」


昔の私が願うならマデェールを越える力だっただろう。

しかし、今は案外この生活を気に入っているし、マデェールより強い存在もいる。

なんでも願いを叶える石など眉唾物には興味がない。


目の前の焼いたシャルレッセンと茹でたアルドヴィエラン。ダブルの肉の細い固まりをフォークでさした。


「あーおいしい」


プリプリでパリパリの肉と油を味わいつつ窓から外を観る。


「もういっそ奴等ごと潰しますか?」


王子達が私の小屋の隣にテントを張って住みはじめた。

いいかげん城へ帰れと言いたいが、彼等がいると嫌がらせの張り紙が家の外観に貼られないのでよしとしよう。


「メルティーナ!!」


金髪で黄色帽子の魔法使いが勢いよくドアを開く。


「お兄ちゃん!!?」


たまに様子をみにきてくれる兄インキーノ。いつもは昼頃にくるのにこんな朝っぱらからいったいなんの用だろう。


「今日は彼女を連れてきた!」


といって、テンション高く黒髪の少女の手を引いた。


「はじめましてこんにちは。インキーノさんとお付き合いさせてもらっているシャーレアです!」


―――なんだか覇道を感じる。


「はじめまして、こんなヘタレ兄のどこがいいのかわからないけど歓迎するわ」


とりあえずはお茶を用意した。


「……で俺とシャーレアはクリスタルを集めたんだ」


噂をすればなんとやら、インキーノの連れてきた彼女は願いを叶える石を探し集めた夢想探検家の一人だった。


偶然というか、もはや神のイタズラだろう。

私のささやかな日常がこれからますます騒がしくなる予感がした。


◆◆


「……おい」


玉座に肘をついてもたれ、頭を右手に乗せた男は退屈そうに茶の入った器を傾け床に流す。


「ときにデアカルバトよ森の魔女とやらは追い出したのか?」


男が上体をおこすと、手からすり抜けた栗色の髪がさらりと背に流れた。

彼の姿に多くの女は見惚れ男は妬む。

まるで神のうつしみとも表される美しい顔の王。

臣下を見下ろし、鋭い目付きをした。


「はいチェルジス陛下!!」


腹の越えた男は王の追求とその眼差しに怯え、配下を呼んだ。


「しゅっ首尾はどうだラグディウス!」


男はひざまずく男を見下し、髭を撫でる。


「……対象の住居に宿をとり、現在は調査中のようにございます」


「そうか、カデバアルト。お前は悪い魔女が森に住んでいると言ったな」

「ははあ……恐れながらわたしめの名はデアカルバトです」


「バデカルアトよ。悪い魔女と断定するならばなぜすぐにとらえてこない?」

「……ええい!!魔女を捕まえろ!!」


「は、すぐにとらえてまいりますバカデアホルゾ様」


◆◆◆


兄と彼女の二人が帰ったので、軽く王子等の相手でもしよう。

テントに近づくと王子がささっと出てきた。


「おい魔女。お前は早く人間を食え」

「は?」


開口一番にこのバカな王子はいきなり何を言い出すのだろう。


「ヴェタルース殿下は現行犯で連行する大義名分がほしいそうです」


ディグラウスは通じる筈の言語なのに王子の言葉足らずの為に通じなかった言葉の通訳をした。


「大義名分なんて言わずに連行すれば?」


正当防衛で城に強制送還するけど。


「そんな美しくない真似はしない!」

「なんか騒がしくなったな」


そこに背中に大剣を背負った男がやってきた。


「あら戦士」

「名前教えたのに呼び方はそのまんまなのか」


知り合いに戦士がこいつしかいないのにいちいち名を呼ぶのは面倒だ。


「というか貴方の名前なんだったかしら、ベリル?」

「それはイトコの名前だな。あいつ女魔王グアナのとこにいったきり帰ってこないんだ」


―――それは、お察しだわ。きっと女魔王に魅了されたのね。


「奇遇ですね。うちの兄も勇者の旅に同行して女魔王グアナのところへいったきりです。おまけにその勇者や僧侶は魔王の娘にほだされる始末で……」


賢者は苦虫を噛み潰したような顔をしている。もしかして賢者の兄の職業はあれなのだろうか?



「それにしても、王子なのにこんなところで野宿なんて父王は何を考えていらっしゃるんです?」


賢者は私が気になって聞こうとしていたことを聞いてくれた。


「現ティーコレット王は叔父だが、別に命令されたわけじゃない。大臣から悪い魔女の話を聞いて独断でお前を城へ連行しにきただけだ」


「なぜ叔父が王に?」


王が崩御したなら必然的に息子の王子が継ぐはずだ。


「父と叔父上は年の離れた異母兄弟でな。父は十年前に先代王譲りの肝臓病で亡くなり俺がまだ小さかったから叔父が王位を継承した。

父の母はここ数年で淘汰された後宮の籠姫だった。叔父上の母は国をも傾けたとされる東の美姫で……」


この王子、敵にベラベラ秘密をしゃべりすぎではないか。


「ところで白魔導師は?」

「あ、すみませ~ん。お腹が空いたのでクッキーいただいてました」


「こらあ!!魔女の焼いた怪しい粉を混ぜた菓子なんてペッしろペッ!!」

「おいしくてやめられないとまらない」


「それヤバイもん入ってるんじゃないですか?」

「気にしすぎ。それはただの小麦粉とか砂糖よ」


◆◆


「ええ!?インキーノちゃん帰っちゃったの!?」

「朝早くにきたのよ」


「インティーナちゃんのほっぺをオカメにしてやろうと思ってたのに……」


インティーナとは兄が魔法で女に変身した姿である。

コスネィルは常に兄をソチラへ引き込むために化粧タイムを狙っているのだが、ことごとく行き違いになる。


「じゃあ私をオカメとやらにして」


オカメというのは東のお面という仮面(マスク)のデザインらしいが、実物を見たことがない。

ぜひこの目で見てみたいと思う。


「じゃあメルティーナ、目をとじて……」


私は言われるままに目をとじる。


「何をしているんですか?」


ディグラウスがあらわれ、私からコスネィルを遠ざけた。


「何ってメルティーナが化粧してほしいっていうから」

「彼女には過度な化粧など必要がないように見えますが」


堅物ディグラウスの褒め言葉に驚きつつ、思わず照れて顔をそらしてしまった。


「お前、無自覚タラシか!」

「やーねムッツリ男は。自分不器用っすから……とかいってちゃっかり美人妻がいるのよね」

「はあ……」


揶揄されたディグラウスはダブル王子に怒るより先にあきれていた。


「でさあ。恋バナでもしない?」


王子一行が夕方になりテントへ帰還した頃、コスネィルが珍しく恋バナとかいいだした。

たんに女装している趣味だと思っていたが、ついに男色家になったのだろうか?


「好きな男とかいないの?」

「こんな人里離れた森に住んでいるのに恋も愛もなにもないと思うわ」


「たとえばあの王子とか頭悪そうだけど顔は悪くないと思うわ」

「そうね顔だけは整っている」


「王子の付き人は融通がきかなそうだけど戦士よりなんか腕が立ちそうよ」

「たしかに戦士は近所の兄ちゃん感があるけど彼は」

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