バライロウラベニイロガワリ
名前の長ーい毒キノコさんです。
こんにちは、いやそれともこんばんはでしょうか。なかなか微妙な時間ですが、おじゃましますよ。
……いらっしゃいませ。で、どちら様でしょうか。
麓の街の大学で教鞭を取っている者です。今日は少しお話をしたくて参りました。中に入れてもらっても構いませんか?
私を誰だか知っていてそう仰るのなら。
色変薔薇音様ですよね。原種はバライロウラベニイロゴッ……失礼、噛みました。イロガワリ。間違っていたらすみません。
いえ、毒があると知っていていらっしゃる方なら歓迎いたします。どうぞ、こんな山の上で、しかも薔薇位しか無い粗末な家ですが。
とんでもない。事前に連絡もなしに突然押しかけて、話を聞いてもらおうというバカを入れていただくだけでありがたい話です。では、失礼いたします。
ほう……なかなかいい家ですね。外も中も燃える炎のような赤一色だと思っていましたが、内側は青い落ち着いた家具で揃えてるのがまた個性がつよい。それに家 中に漂う薔薇の香りも心地よい。
そう言ってもらえると嬉しいですわ。お茶もお出ししましょうか。
いえ、急に押しかけた身ですし、そこまでしていただくわけには参りません。
遠慮なさらなくともいいのに。まあ、そこまで言うのならやめておきましょう。どうせ毒キノコの淹れたお茶なんて飲めませんよね、そうですわよね……ふふふ。毒でも入れられてたら困りますもの。ごめんなさいね毒キノコで……。
じ、実は山を登ってきてすこし喉が乾いてたんですよ。ご厚意に甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか。
……本当ですか?
ええ、せっかくあなたのような美しい女性にお茶を淹れてもらえるのなら、それを断るのはやはり失礼だとたった今思い直しまして。
美しいなんて……そんなお世辞を言われても。
お世辞ではありませんよ。本心からです。そこらを歩いている人間なんて目じゃない位にあなたは、あなた達は綺麗です。
ふふ、ありがとうございます。そんなにおだてられると照れてしまいますわ。では少し待っていてください。特製のローズティーを淹れてきますから。
……繊細な人だなぁ。
―数分後―
お待たせしました。お菓子でもあればよかったんですけど、丁度切らしておりましたの。申し訳ありません。
いえいえ。とんでもない、これだけでも十分ですよ。いただきます。
……どうです?
美味しいです。こういうお茶に関しては完全に素人なのでどう美味しいとかの説明はできませんが。本当に、美味しい。心が安らぐような。
それだけ言ってもらえれば十分ですわ。ところで、要件をまだ伺っておりませんでした。何の話をしに来られたんですか?
ああ、危うく忘れるところでした。女性の悩みというか、キノコの悩みというか。そんな物ですね。カエンタケ、火群カエンさんのことをご存知ですか?
ええ。彼女がどうか?
去年、彼女に命を助けられまして。それから何度か会ってお礼に誘っているのですが、まだ距離を感じるというか、心から御礼を受け取ってもらえてないというか。最初に比べれば、お礼を受け取ってもらえるだけまだ前進しているのですが。やはり心を開いて受け入れてもらえないと寂しいといいますか、悲しいといいますか。
……事情はわかりました。それで、なぜ私に?
あなたは彼女と同じく、原種は赤い体と致命毒を持っているので。服装こそずいぶんと違いますが何か通じるものもあるのではないかと思い、ここまでやって来ました。慣れない山登りは大変でしたよ。
女性の前で他の女性の話を聞くのは失礼ですよ。教授さん。まあ、そうですね……彼女はああ見えて優しい娘ですから、何度もアプローチをかけていればその内前進しますよ。
優しい娘だというのは一年の付き合いでわかってますよ。見た目がアレなので敬遠されてますけど……それを狙ってのあの恰好なのかもしれませんが。自分が人に触れると、触れた部分が焼けてしまう。人でなくても焦げてしまう。だから、人に触れなくて済むように。間違って人混みに入ってしまっても、向こうの人から避けてもらえるようにという心遣いなのでしょう。
服装に関しては完全に趣味だから、それはありませんわ。
……そうですか、ハハハッ。お恥ずかしい。
まあ、それだけあの子の事が気に入ってらっしゃるということで、今のは聞かなかったことにしてあげましょう。
はい、そのまま忘れて下さい……
ところで、彼女とは最終的にどういう関係まで進みたいと?
できれば友人、といったところですね。それ以上は望みません。私も命は惜しいので。元がかじっただけで重篤な中毒を起こすような猛毒キノコですし、恋人を望んでキスでもしたらどうなるやら。カエンさんもそれは望んでは居ないでしょう。
あの娘が聞いたら喜ぶか悲しむかわかりませんわね。でもまあ、それを聞いて安心しました。命知らずの無謀な方なら、止めて差し上げようと思っていましたの。
それにこう言ってはなんですが、彼女とは服装の趣味があまり合わないので。一緒にいるとどうも、もっと慎みを持った格好をしなさい、と言いたくなるんですよね。でもそんなことを言って嫌われるのも嫌ですし。
では、私にもそう言いますか?
いえ。よく似あっておいでです。それ以上に似合う服はないでしょう。
では嘘でもいいので彼女にもそう言ってあげてください。そうすれば、きっともっと仲がよくなると思いますよ。女性と仲良くなるには、まず褒めることが肝心ですから。
……そうですね。今度彼女と会ったらそう言ってみましょう。今日はありがとうございました。お茶、おいしかったですよ。
ちょっと待ってください。もう一つ、お土産なんてどうかしら。
お土産……葉っぱ?
そう、薔薇の葉。花言葉はあなたの幸福を祈る。この先いい出会いがあるといいですわね。
……葉よりは花の方がうれしかったですね。例え嘘でも。
恋人になってもらうには、あなたは少し色気が足りません。でも落ち着いてていい雰囲気ですから、きっと貴方のことを好きになってくれる人が居るはずですわ。きっと、どこかに。
それは残念。では、今度こそこれで失礼。
ええ、是非また来てください。今度はちゃんと茶菓子も用意してお待ちしてますから。
次回はツチグリさんに出演して貰う予定