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SNOW

作者: 大藪鴻大

 

「ねえ、聞いてる?」

その声で我にかえる。寝ていたわけではないのだろうが、頭がぼんやりする。大きく2、3回瞬きすると焦点があい、目に映る映像がくっきりとした輪郭を帯びてきた。

いつも通る公園の通り。春には桃色の花を咲かせる桜の木々も木の枝をむき出しにし、どこか寂しげだ。そして、目の前をゆっくりと舞い降りる雪。その小さな白い球体は、地面に触れるとあっという間に溶けていった。一面の雪景色とまではいかないが、ところどころ白く染まっているだけでも十分冬だと感じることができる。

「またなにか小難しいこと考えてたんでしょ。」

声をする方を向く。隣に座っていた彼女は、小さな笑みを浮かべていた。呆れているのか、もしくは、もっと別のなにかなのか。俺には判断できなかった。

「悪い。それで、なんの話だった?」

彼女は肩をすくめる。それは、呆れたときにする仕草だ。だが、彼女の顔には、先ほどの小さな笑みが浮かんだままだった。

「雪、きれいだねって。ここらへんじゃ、滅多に見ないからさ。白っていうのがまたいいよね。白って自然界で雪だけじゃん。雪は特別なんだよ。」

そんなことはないだろう。そう反論しようとしたが、他に白いものが思いつかなかったため黙り込む。黙り込んでいると、頭の回路のどこかが刺激されたのか、いつかの疑問が浮かんだ。

「ひとつ、質問してもいいか?」

俺は隣の彼女に尋ねる。疑問が生じると、俺はいつも彼女に尋ねていた。

「いいよ。さて、果たして今回は答えられるのか。」

彼女は座りなおし、身体をわずかにこちらに向ける。その顔は笑顔だ。ちなみに、彼女の回答率はおよそ60%といったところだ。

「愛ってなんだ?」

「よく恥ずかしげもなく聞けるね。それに、それ、私に聞きますか?」

彼女は笑う。少し、表情が強張ったように見えたのは気のせいではないだろう。

「分からないんだ。教えてくれ。」

「君、そろそろ自分で考えてもいいんじゃないかな。」

「人の心とか感情は、いくら考えても分かるものじゃないと言っていただろ。」

そうだけどさ。彼女はそう言って正面を向く。ゆらりゆらりと舞い降りる雪は、地面に溶ける。とても、積もるとは思えない。

「作っちゃえばいいんじゃない?」

「作る?」

「そう。君もなにも感じない人間じゃないんでしょ。ただ、感じたことを人にも自分にも表現することができない。つまりー」

「感情というものがなんだか分からない。」

「そう。だから作ればいいんだよ。自分なりに『これが愛だ』って思う感情を『愛』だと思えばいいじゃん。」

「なるほどな。やってみよう。」

そう言うと、俺は迷うことなくベンチの上に置かれた彼女の手の上に自分の手を重ねた。それが一番妥当で手っ取り早い方法だと思ったからだ。彼女の手がピクリと動いたが、それ以上の動きはなかった。柔らかい体温が手のひらに伝わる。

すると、一粒の雪が重ねた手の甲に舞い降りる。雪に触れると手の甲はヒヤリと冷え、雪はゆっくりと俺のなかに染み込んでいった。雪の冷たさと彼女の体温が染み込み、手の奥でひとつになる。気が引き締まる鋭さと落ち着いた柔らかさが重なる。

そういえば、白と言えば白いウサギがいるだろう。俺は先程の答えを思い付いたが、口から出たのは別の答えだった。

「なるほどな。そういうことにしよう。」

隣に座る彼女は、ただ柔らかい微笑みを浮かべるだけだった。



 初めての方は、初めまして。そうではない方、こんにちは。大藪鴻大です。

 久しぶりに短編を書かせてもらいました。

 あらすじにも書いた通り、この物語は天宮奏さんと依さんの共同企画、『口説かれろ企画』に参加した際に思いつき、書いたものです。私もその企画に参加させてもらっています。色々な方が参加していて、いろいろな口説き文句があるので、ぜひ、そちらの方も読んでみてください!


『口説かれろ企画』

http://ncode.syosetu.com/n4480br/

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― 新着の感想 ―
[一言] 情景描写がとても上手な作品だと思います。 雪の冷たさ、白さがすごく身近に感じられる作品でした。 二人の手が重なる瞬間は幻想的で素敵でした。 セリフ文と地の分の間に一行あけると読みやすくな…
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