第二話 王都異変! 紅く染まる河!
ここはテキトー王国の王都テキテキトー。
大国の王都にふさわしく(中略)なのである。
しかしいま、王都の住人は不安に苛まやされていた。
しばらく前より、王都を流れる川が赤く染まってしまったのである。
この川は生活用水の汲み場であり、いろんな廃水をぶちこむ…もとい自然浄化のために利用されている川でもある。
なので上流階級は文字通り王都の上流側に住み、下層階級は下流の方となる。
ちなみに貴族や王族が他人の生活排水を味わいたいと思うことは(特殊なシュミの方以外は)ないので、王都上流に村落を構えることはもちろんのこと、桶一杯水を汲みに行くことすら重罪である。
つまりこの川が赤く染まるということは、あってはならないことであり、文字通りの異変である。
政府は直ちに騎士団を派遣し、帯同した魔術師以外はせっせと魔術で水を生成して納める羽目になった。
中流以下の住民はやむなく真っ赤な水を使うことになり、それはそれは気分が悪くなったそうである。
王都の冒険者達はこぞって事件解決のために上流に向かった。
が、すぐに引き返して、別の町に旅立った。
騎士団が騎馬で駆け抜けて追い越していったというのもあるが、それ以前に水を運べないからであった。
魔術で自分たちのパーティーの必要水分を生み出せるのは少なく、そばの川の水は赤い。
しかも騎士団が出動している以上、無事な水源を見つけても汲むのは難しい。
その水源も王都の川に流れ込む以上、汲んでいる所を見つかりでもしたら即処刑であろう。
こうして事件解決は、騎士団とごく少数の冒険者の手に委ねられたのだ。
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王都の川が赤く染まる少し前。
その上流水源では、謎の一団が集合していた。
滝壺のそばで、冷たい水に足を洗われるのも厭わず、じっと集団のリーダーを見ている。
「諸君、急な集合ご苦労。よく集まってくれた」
「ああ、本当に急だったな。一体何ごとだ?」
それに対して、1人の男が苛立ったように答える。
随分不遜な態度だが、それも彼の装備を見ればうなずけるだろう。
一見地味目でありふれたような装備だが、実は神話級といわれるランクの武器防具ばかりである。
更に腰に吊り下げた消耗品は、最低でも伝説級。
はっきり言って、どこぞの英雄かと問われること間違い無しのいでたちである。
もっとも彼は目立たない。
それは地味目の外見というだけでなく、ここに集った集団がみな、同じような者達であるからだ。
この世界で伝承級の装備1つでも持てば、英雄の領域に片足突っ込んだとまで言われることからすれば、いかに規格外かわかろうものだ。
そして最近大量に出現した、伝説級の装備に身を固めた冒険者達とくらべても、なお果てしない高みにあると言っても過言ではないだろう。
そんな者達に睨まれても、リーダーは平然としていた。
それは彼も、神話級の装備で身を固めていたからではない。
かといって、彼らと隔絶の強さがあるわけでもない。
むしろ1対1なら確実に下位ランクだろう。
しかし彼には、彼らに対する絶対の武器があった。
「不満に思うのも無理は無い。何しろ観測者以外は全て呼び戻したのだからな。しかし、逆に考えられないのかね?」
「!? まさかっ?!」
途端に色めき立つ集団。
彼らはみな、ここに集合させられた意味がわかったのだ。
しかし、内容まではわからない。
「そ、それで? いったいなにがどうなんだ?」
「落ち着け落ち着け。言いたいことは判る。だからもったいぶらずに告げよう。遂に研究班は、投影技術を完成させた」
リーダーが告げた瞬間、爆発的な歓喜が発せられた。
そしてすぐに収まる。すぐに成果を見せろと、ギラギラ目が輝いている。
「ここに集まってもらったのは、言うまでもなく最適な場所だからだ。残念ながら記録装置は未完成だが、情報伝達システムは《伝言》《遠話》の解析と応用で完成だ。遠からず《写実》や《遠視》から作り出せることだろう…と、聞いてないな」
リーダーは苦笑すると、今にも襲いかかりそうな集団に背を向ける。
「では魅せよう。オリジナルマジック《投影》!」
リーダーが手にした水晶から光が発せられると、とたんに一条に収束し、やがて滝に向かって円錐型のそこを向けるような光の帯へと変わる。
そして滝、いや滝壺の水滴からなるミストスクリーンに、映像が映し出される。
その瞬間、集団からおおだのああだのといった、魂の雄叫びが漏れる。
そこに映し出されていたのは、1人の青年であった。
いや、青年だけではない。というか、青年はただの飾りです。
彼らの目線は、みなその周囲に集中している。
もこもこの毛皮。
つややかな毛並み。
ぷにぷにとした肉球。
やわらかながらもピンと張ったヒゲ。
ピクピク動く三角の耳。
変幻自在にうねうねと動く尻尾。
いかな美女も及びつかない曲線を描く背中と腰。
そう、猫である。
ぬこである。
にゃんこである。
そう、彼らは飢えていた。
VRMMOとかいう電脳仮想世界から変なものに異世界に飛ばされ、飢えていたのである。
電脳世界にも猫はいた。いな、猫もどきはいた。
しかしそれは、真のネコラーには我慢出来るものではなかったのである。
いわく、外見を似せただけ。
いな、外見すら酷すぎる。
かわいがれない。
AIショボすぎ。
だからゲームをやり込み、だらけていた。
そんなとき、噂に聞いた。
いわく、課金しまくって外見を整えた。
いわく、レアアイテムを揃えまくって凄まじい強化を施した。
いわく、プレイヤーに許された範囲内のAIプログラミングで、奇跡のコード組立を行った。
いわく、人跡未踏の地で淫蕩にふけっている。(健全年齢ゲームです。伝聞者の接続器をメンテに出してください!)
いわく、ハーレムを築いている。(ぼっちではありません! By とある主人公より)
いわく、いわく、いわく…。
暇を持て余していたカンストプレイヤー達は、気軽な気持ちで探索キャンペーンを自ら立ち上げた。
そしてわりかしあっさりと達成し(カンスト廃人ですし…)、衝撃を受けた。
「「「我らの理想郷はここにあり!!!」」」
その矢先に異世界転移である。
しかもその世界に、猫はいなかった。
猫っぽい動物もいなかった。
猫?といえなくもないモンスターはいた。が、あれを猫と呼ぶのは、この状況をつくり出した神を崇めるに等しい。
つまり「ふざけるな!」
絶望に打ちひしがれそうになった彼らではあったが、救いの天使も一緒に転移していた。
故に彼らは、社会的ジョブチェンジを果たした。
そう、ストーカーに。
そんな彼らが、ビデオカメラとかテレビとかがない彼らが、いま、巨大スクリーンで猫を見ている。
主人である青年によじ登る猫。
頭でタレるぬこ。
肩に乗って尻尾をぴーんと立て、全方位警戒する猫。
理想郷は、ここにあった!
ぶふーっ!!!!!!
そして川は、鼻血で紅く染まった。