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HAPPY WHITE Xmas

作者: 青深

クリスマス・イブのとある街。年中輝くネオンに加わり、目には眩しいイルミネーションがこの街を彩る。きっとサンタクロースを待ち望み、イイ子であろうとする子どもたちが床に就いたであろう時間帯。

 街行く人はカップルばかり。年齢は様々で、初々しい若いカップルや、落ち着いた大人のカップル、恋が合いに変わった後の穏やかな老夫婦など。ただ一つの共通点は、『幸せ』。

 そんなハートで溢れ返ったような街の中で、一人でおしゃれな雑貨屋から出てきた男がいる。

 少し長い髪の下の顔は端正でありながら少しばかり幼さも感じさせる。明るいブラウンのロングコートを風にはためかせ、中と外の温度差に身をすくめ、マフラーを鼻まで引っぱり上げ、ポケットに手を突っ込んだ。

 彼は、幸田聖夜という。春に貧乏学生を卒業し、貧乏社会人になったばかりだ。

 マフラー越しに白い息を吐きながら、こんなことを思う。

 ―――――冬といえばアイツの季節だな、と。

 今時珍しい、ストレートの黒髪と、白い肌。大学を卒業した時から付き合っているカノジョである。

 付き合い始めてから初めてのクリスマス。まだ彼氏らしいことをしてやれていない聖夜は、今日ぐらいは今日こそは、と思っているのだ。

 そもそも、今日のことだって聖夜から誘おうとした。が、タイミングを掴めずにそのまま言われてしまったという始末。根性ねぇなオレ、ゆとり教育の弊害か?情けない、とネガティブモード全開の数日間を過ごしていたりする。

 冷たさを誤魔化すためにポケットの中の手をモゾモゾと動かす。夜9時を過ぎ、気温は零度を下回っているというのに、彼は手袋をしていないのだ。傍から見れば意味不明だが、彼には彼なりの考えがあるらしい。

 手を動かすのにはもう一つ理由がある。

 不安、なのだ。

 聖夜のカノジョの白井雪子は、ケーキ屋で働いており、今日は人手が足りないらしい。休日出勤だから9時過ぎまで待っていてくれと告げられた彼は、一日中いろんな店を回って、店員に恐る恐る相談しながらカノジョへのプレゼントを選んだ。無難なハートのネックレスを選んだのだが、果たして喜んでくれるだろうか。妹や母にでも聞けばよかったのかもしれないけれど、絶対会わせろって言うからな―…と、どうでもいい事をモンモンと考え出すありさま。

 待ち合わせ場所である駅の前に着く。でかすぎててっぺんの星が少し離れないと見えないモミの木の下のベンチに座る。待っているだけでドキドキしていた。心臓を落ち着かせるために、駅前のビルのショウウィンドウの中のミニチュアサンタを数えた。

 どのサンタを数えたか分からなくなってもう一度数えようとすると、

 

 「聖夜!」

 

 後ろから声がかかった。

 「ごめん、待った?」

 「あーいや、そんな待ってはないと思うなあ」

 「何それ」

 寒さのためか、雪子の顔は赤い。

 聖夜は、鞄の中から細長い、かわいらしいラッピングの箱を取り出す。

 「はい。その、クリスマスだから」

 「え、わあ、ありがとう!開けていい?」

 「いいよ」

 子どものようにわくわくしながら箱を開ける雪子を見ながら、彼の心臓は普段の倍くらい動いていそうだった。

 「かわいいー…ありがとね。…なんで手袋してないの?」

 「ああ、それは」

 少し照れたように顔をそらして、ぼそぼそと、

 

 「手えつないだ時に、雪子の温度が分かる…から?」

 

 オレが疑問形でどうする、と思いながら雪子の表情をうかがうと、さっきよりも顔が赤くなっていた。これはさすがに自分の発言のせいだとわかる。だからこそ恥ずかしくなった。

 雪子は両手で顔を覆って,ふうー…と息を吐きながらしゃがんだ。

 「やばい、カッコいい…!!」

 「え!何?」

 「何でもない!」

 勢いよく立ちあがって、雪子も手袋をとって、聖夜の手を握った。彼は心臓が、さらに倍くらい速くなった気分だった。

 「うわっ、すごい冷たいね。しもやけになるよ?」

 「もう平気だよ。雪子の手、すげえ暖かい」

 聖夜はもう一度、冬はやっぱりコイツの季節だ、と思った。

 「あ、雪」

 「ホントだー」

 「ホワイトクリスマスになるかなー、積もるといいなー」

 「えー、積もったら困る…」

 あどけない笑顔。

 まるで、少し触れただけで溶けてしまうはかない夢のような―――――

 ――――――オレの前に舞い降りた奇跡だ、

 と。

読んでくれて、ありがとうございます。

一時間弱で書き上げた軽ーい読み物なので、暇つぶしとかで軽ーく摂取していただけたら光栄かな、と思います。

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