八話
遅くなりました……言い訳はしません、すいませんでした。
ラストです!
「政輝、わかってるな!?」
「もちろん。優も足、大丈夫か?」
「これくらいなら大丈夫だ。最悪『加速』で右足だけでも戦える!」
言葉を交わすと、俺たちは対戦場に入ってきた一般生徒をなるべく傷つけないように気絶させた。政輝はこぶしをみぞおちに、俺は剣を首に当てて気絶させる。
そして観客席のとある人物に『減速』をかける。
「捕まえた! 政輝、後は任せる!」
「了解、絶対捕まえろよ!」
この場を政輝に任せ、観客席入るため会場をでた。一度入り直し、今度は観客席の方へ向かう。入口に生徒が数人武器を持って立っている。
(あれも操られているのか……。仕方ないっ!)
俺はためらいなく簡易魔術――サンダーブラストを放つ。それで前に立っている数名は倒れた。残る2、3名を剣で斬りつけて倒す。
こんなところで時間をかける余裕はない。『加速』を使い、ダッシュで階段を上がり、観客席に入る。入った瞬間、炎弾が前方三方向から飛んできた。魔術は剣では対処できない。だが、『加速』状態であるため回避もたやすい。ちゃんとかわしてから魔術を撃ってきた生徒を確認し、お返しに炎弾を飛ばす。
『減速』で足止めしているとはいえ、動けないわけではない。俺は命中を確認している暇もなく、目的の人物を探す。
(……いたっ!)
目的の人物、二年の初瀬を見つけた。捕まえるために再び走り出す。
「初瀬、能力を止めろ!」
「くっ、なんでお前がここに!」
見つけた瞬間気を抜いてしまい、『減速』を解いてしまった。
しかし、反対側から生徒会役員が来ており、すぐに取り押さえられた。気絶させ、無理やり能力を停止させる。
『心情操作』。これがあいつの能力だった。
「えっと、要するに俺たち二人で互角の試合をしているようにしながら観客に注意を向けろ、ということですか?」
「そう言うことだ。」
生徒会室、まだ試合が始まる前に会長はこのことがわかっていた。
先ほど政輝と呼ばれたのはこのためである。
会長はこの事件が起こることを大方予想していた。相手である初瀬。こいつは現在の生徒会を恨んでおり、なにかしらアクションを起こしてくるだろうと予測されていたのだ。それが、昨日の事件。自分が生徒会に入り、今までの役員に仕返しをしたいがために勝ち上がってきた。そして負けそうになり、八つ当たりでオーバーアタックを行った、ということらしい。
今回、事件が起こった場合風紀委員と生徒会では対処しきれないため、俺たち二人に声がかかったというわけだ。
初瀬が気絶し、『心情操作』が止まった。操られていた生徒も副作用で気絶する。その数はおよそ三百。よく一人で操れたものだ。
先ほどの悲鳴はただ女子生徒が隣の初瀬が手に持っていた拳銃を見て叫んだだけのようだった。それにつられて発砲した、ということらしい。発砲したのはいいが外したらしく、それで被害が少なかったと会長は喜んでいた。
これで誰もが終わった、と思った。
しかし、初瀬は指導室に連れて行かれる瞬間、突然風紀委員の拘束を振り払い、腰から二丁目の拳銃を引き抜き、観客席に向けて発砲した。
誰もが反応できなかった。
仕方なかったと思う。突然気絶してると思った人が動き出したら反応できない。
そして、打たれた観客も。
それが誰であろうと。
大事な人、唯でも。
(なっ! 唯!)
声も出なかった。無情にも引かれた引き金はゴムではない本当の銃弾を放った。
また目の前であの光景が流れるのか?
血を流し、命が削られ、朽ち果てていくのをただ傍観するしかないのか?
昔好きだったあの子が。
記憶のない俺に優しくしてくれたあの子が。
今、俺が一番大切で守りたいと願うあの子が。
また、目の前で消えるのか?
そんなことはさせない。
二度と、そんなことはさせない!
「――ッ! 唯!」
俺は手を伸ばして、それを不可能だと知りながら銃弾に向けて『減速』を放った。
俺の能力は人間にしか効果が無い。
例外など、ない。
それに逆らわず、掛けたはずの『減速』は一瞬で解けた。解けた、というよりは弾かれたという方が正しいが。
でも、俺は諦めなかった。
絶対に守る。
もう誰かが、大切な人が、唯が目の前で傷つくのは嫌だ。
俺は……俺を助けてくれたあの少女を助けるんだ。
絶対に、もう、誰かが傷つき、近しい人間が泣くところなんて見たくない!
その時、信じられないが起こった。
気付けば、俺は唯と銃弾の間に立っていた。
しかし、どれだけたっても銃弾はこちらに来ない。
俺と初瀬の間で宙に止まっている。
何が起こったかわからなかった。
それは奇跡だったと思う。
いつ銃弾が来てもいいように、俺は剣を手に持ち銃弾をはじくように構えた。これで銃弾は誰もいない方向に流れる。
『奇跡』は唐突に終わりを告げた。
俺の予想通り、銃弾は剣に衝撃を与えたあと誰もいない方向にそれた。
周りにいた俺以外全員が騒然とした。
俺は銃弾をはじいた後、『加速』で初瀬に近づき、剣を思いっきり振り下ろして気絶させた。
「さーて、今日も仕事か……。政輝は?」
「俺もだよ。優、今日はさぼるなよ?」
「わ、わかってるって」
校内ランキング戦より一ヵ月。
あの後どうなったかというと。
二年生のみ決勝戦が取り消しになった。理由は俺があの時の『軌跡』――『時間停止』を習得してしまったため。
いまだ誰も使えたことのない『時間停止』。とは言っても今の俺では7秒が限界だが。『時間操作』の能力を持つ人が自分の中にある能力をすべて完全にコントロールできる人のみが使えるものと言われている。だが、『原点』しか『時間操作』はいないし、九割以上で可能な『同時発動』ですらいなかったのだ。確認もできない。このため、『時間停止』は存在しないものと考えられてきた。
それが発動可能な人ができたのだ。今更試合などしなくてもどちらが上かなんて分かっている。
それでも政輝は挑もうとしたので、『時間停止』で背中をとり、剣を当てた状態で解除したら負けを認めてくれた。
その後、俺は生徒会長になった。なりたくなかったのだが、二年のランキング一位が会長になるのがルールだったので仕方なくなることに。
政輝は風紀委員会の委員長に任命された。あいつの実力なら当たり前だろう。
現在、俺と政輝を中心とした新メンバーでの仕事の引き継ぎに忙しい毎日を送っている。
あの時問題を起こした初瀬は、この学校を退学。『開発』だったらしく、能力の剥奪を命令されていた。(『開発』は能力者を止めることができる)
そして俺の彼女は、
「優、週末どこかに遊びに行こう?」
「そうだな、今週末なら引き継ぎもひと段落しそうだし。行こうか」
「うん!」
昔俺を救ってくれた笑顔で、今も俺の隣で笑っている。