七話
すいません、少し遅れました
最近疲れてパソコンの電源を入れてすらなかったんです(言い訳するな)
「優、お疲れさま。かっこよかったよ」
「お、おう、ありがと。でも次はこう簡単にいかないな、なんせ政輝が相手だし」
控え室に戻る(決勝トーナメントから一人一人に控室が貸し出さされる)と、唯が待っていてくれた。
好きな人が待っててくれるのって、何かこう、グッとくるものがあるな! かっこいいって言われるのは恥ずかしいけど。
昨日の一件以降、俺の本当の能力は学校中に広まった。仕方がないといえば仕方がない。全校生徒の前で使ったようなものだ。『原点』にして『同時発動』が可能な能力者。それで有名にならないわけがない。引っ付いてくる女子の人数も増えた。だけど俺は今、唯と付きあっている。それを聞いた女子はみんな諦めて散らばっていった。こうして、今俺たちは二人でいられるわけだ。
「優、入ってもいいか?」
ノックの音度同時によく知る声が聞こえてきた。時刻は一時四十五分。試合前だが時間はある。唯に確認をとってから、声の主である政輝を部屋に入れた。
「すまんな。試合前、しかも彼女との時間に」
「いいけど。わかってんなら電話とかにしろよ。で、急にどうした? 政輝が何もなしで対戦前に来るなんてことはないだろ?」
「ばれてるか、じゃあ……っと、その前に」
これから話そうというところで政輝はポケットから開閉式携帯より一回り小さい機械を取り出し、側面についているスイッチを押した。
とっさに身構えたが何も来ない。一体に何がしたかったのか。
「おい政輝、いったい何を」
「やっぱあるな、盗聴器。中原さんごめん、少し優を借りる。優、ついてきてくれ」
「お、おう。唯、ごめんな。待っててくれ。たぶんすぐ戻ってくる」
呆けている唯に一声かけて、とりあえず政輝についていく。
政輝は控え室を出て、校舎がある方に向かって早歩きで歩く。俺はそれを状況がわからないままとりあえずついていく。
「おい、政輝。一体どこに行くんだよ。時間かかると決勝間に合わなくなるぞ。話ならその辺でもいいだろ。というかさっきの盗聴器ってなんだよ」
「すまん、もうちょい我慢してくれ。部屋に着いたら全部話す」
「部屋って? どこの部屋だよ」
「生徒会室」
そう言い、政輝はさらにスピードを上げた。
生徒会室に着くと、他学年は試合中だというのに四人ほどの生徒が部屋の前に立っていた。見張り、ということでいいのだろうか?
「尾上です。会長に言われて倉敷を連れてきました」
「話は聞いている。入ってくれ」
腕を見ると風紀委員と書かれていた。
風紀委員は、学内トーナメントで実力がある人だけが入れる機関。生徒会室の護衛、ということはその中でも上位の人なのだろう。
「失礼します、尾上と倉敷です」
政輝と二人、仲に入るなり礼をする。さすがに生徒会室で礼儀を守らないわけにもいかない。
「よく来てくれた。そこにかけてくれ。おい、お茶を用意しろ」
一番奥で一人用のソファに座っている男子生徒が声を出した。周りの人間に指示を出しているし、どうやらあの人が生徒会長らしい。
言われた通り低めのソファに腰をおろし、用意されたお茶を一口いただく。
「試合前にすまない、俺は生徒会長をやっている西宮 秦だ。よろしく」
「あ、はい。倉敷 優です。よろしくお願いします」
そう言って会長、西宮さんと握手をする。どうやら政輝とは面識があるみたいだ。
「さて、とりあえず二人には決勝進出おめでとう、と言っておこう。よく無事に勝ち上がれたものだ」
「ありがとうございます。って、そんなことを言うために呼んだんじゃないろ、秦兄さん」
「え? 兄さん?」
「ああ、優には言ってなかったな。俺と秦兄さんは幼馴染みなんだよ。昔家が隣でな」
「よく面倒を見ていたんだよ。中学で俺が引っ越してしまったのだけど、それまでは割と仲はよかったよ」
人はどこで繋がってるかわからないな……俺と唯も繋がってたし。
会長はお茶を一口飲むと、顔つきを変えて話し出した。
「さて、二人にここまで来てもらったのはちゃんと理由がある。政輝、どこまで話した?」
「何も。ここで秦兄さんが一気に話した方がわかりやすいと思って」
「それもそうか、じゃあ倉敷君……優って呼んでもいいかい? 政輝からずっと優で話を聞いてたから違和感がすごい」
「あ、はい。どうぞ」
政輝、何を話してたんだろう。少し怖い。
「では改めて。優、まずはどうしてここに呼んだか、そこから話そう。……昨日の一件は知ってるね?」
「ルールの威力を超えた攻撃、オーバーアタックによる重症が出たことですね。当事者、というか治した本人ですから知ってます」
「そうだった、君が救ってくれたんだったな。しかしすごいな、『巻き戻し』だけでなく『同時発動』まで……いまだに信じられないよ」
『原点』で『同時発動』が可能だということを証明した歴史的瞬間だったから、会長が信じられないのも無理はない。……『同時発動』も『巻き戻し』も前から使ってたが。
「さて、その時の加害者に話しを聞いたんだが、どうもおかしくてね」
「おかしい、ですか?」
「ああ、言ってることがめちゃくちゃでね。時間をかけて聞いていくとようやくまともに話せた。最初は動揺してたのかと思ったがどうも違う。おそらく操られていたのだろう、何かの能力で」
「人の心を揺さぶる能力……確か生徒の中にもいましたね」
学院の生徒がどんな能力を持っていたかを思い出して、今の能力が数人いたことを頭の中でだが確認する。
「ああ、四名ほどいる。しかし、一人は今年の新入生で、二人はすでに大学の決まっている三年。この三人には操ってもメリットが無い」
「一年はまずランキング戦に慣れて無いだろうし。操るなんて無理だろう。三年はここで問題を起こして大学に響いても面白くない。だとすると……最後の一人の二年か?」
「おそらくは。さすがは政輝、俺の言おうとすることを全部話す。政輝がいると楽できるよ」
「ちゃんと働けよ、秦兄さん。優、ここまでついてきてるか?」
「ああ大丈夫だ。続きをお願いします」
「ああ、これからはノンストップで行くぞ。時間もないしな。二年生の、その生徒は……」
『それでは、トーナメント決勝戦、始めてください』
「試合開始!」
「発動、『反動反射』」
開始の声と同時に全力で前に出る。政輝も同様に、静かに能力名を口にして地面をけった。剣は抜かずにそのまま突っ込む。政輝とぶつかる瞬間、剣を振りぬく。
居合。
抜刀術の一つで、鞘から剣を抜き、戻すまでを一つの動作とする剣術。政輝にも隠していた俺の秘密兵器でもある。
対する政輝の能力は『反動反射』と言い、自分の行動で起こった、自分に返ってくる反動を反射する能力。
ここでは、地面を蹴った際に地面から自分に返ってくるエネルギーを反射して自分の機動力に変換した。
政輝は少し驚いた顔をしながらも移動速度を下げない。
(速いっ! 発動、『時間減速』、対象は政輝……なっ! 速すぎて間に合わない!)
『時間減速』がかかる前に俺の剣と政輝の左のこぶしが衝突した。
政輝は武器にグローブと銃を選択していて、グローブはこぶしを守るために使っている。こうして剣と打ち合えるのはグローブのおかげだ。
お互い全力で振りぬいたが、力が拮抗して動かない。
しかし、政輝には、遅れたが『減速』が掛かっている。そのため、俺の方が少しだけ早く動けた。このままでは埒が明かないと判断し、バックステップで距離をとる。その際に剣で薙いでみるが、反射神経のみで回避された。その時に『減速』は解いた。が、これがミスとなる。政輝は距離が開くと同時に腰から銃(片手でも撃てる小経口のハンドガン)を取り出し、銃口をこちらに向けた。そしてためらいなく引き金を引く。
普通なら反動で少しは後ろに飛ぶはずなのだが、ここでも政輝は『反動反射』を使っていて、銃から伝わるエネルギーを反射している。そのため後ろに飛ばないどころか銃口はこちらを向いたまま。もう一度引き金を引く。
とっさに右へと飛ぶが、二発目の弾が左足に銃弾が当たってしまった。
バランスを崩し、そのまま転がる。すぐに姿勢を立て直そうとするが、左足に力が入りにくい。ゴムとはいえ当たれば殴られるよりも痛い。政輝がその隙を見逃すわけがなかった。最初と同じ速度で近づき、こぶしを振りぬく。
反射的に『加速』を使って何とか回避するが、左足に体重をかけた途端痛みが走りバランスを崩した。追撃が来る。
追加で相手に『減速』をかけようとした瞬間。
観客の方から銃声と悲鳴が上がった。
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