六話
予定通りの投稿です
過去の話も終わり……じゃなくて、もーちょっと続きます!
トーナメントも進みますが
これが、俺の唯一の記憶。
この時、『巻き戻し』は暴走していたらしく、中学二年になるまで、毎日記憶を『代償』として払っていた。
今回はそんな失敗はしない。させない。
暴走すれば、あの子との『やくそく』を果たせない。
絶対にコントロールする。そうでなければ……。
俺は二度目となる、『力』を使った。
「『同時発動』、『巻き戻し』、対象は目の前の男子生徒!」
刹那、俺の中学三年以前のすべての記憶は消し飛んだ。
……約束の内容もいきさつも、あの約束以外のすべてを。
覚えているのは、
「またあそぼう!」
この一言と、その時の笑顔だけ。
よかった、なんとか覚えてた……。まだ、思い出せる!
そこで俺の意識は途切れた。
「ありがとう……たすけてくれて、ありがとう!」
「…………君、誰?」
誰って、あの時の女の子じゃないか。
あれ? あの時?
ボクは何を……。
「っ! ……夢、か。しかし、今の、……なんだ?」
頭を書きながらベッドから降りる。
今のが……約束の少女? もちろんだが、俺はあの時なんて覚えていない。夢で見た少女が本当にあの少女かなんてわからない。
昨日の一件から、中三までの記憶が無くなっていることが分かった。
現在、朝の七時十五分。『巻き戻し』を使用した翌日の朝である。
あの後予定を一時間遅らせて予選トーナメントが終了した。
俺がいたグループDの四位以上で無事だったのが俺だけなので、俺が決勝トーナメントに出場決定。他のグループもちゃんと決定し、今日予定通りに決勝トーナメントが行われる。
昨日の一件だが、後から聞いた話では原因は試合前に被害者が加害者に脅しをかけ、不正に勝とうとしたことからだった。その脅しはとても学生のものとは思えないもので、動揺した加害者は誤って能力を発動、直撃といった流れらしい。
どちらが悪いともいえない内容で、被害者(脅した側)は一か月、加害者(脅された側)は三週間の停学が決まった。差が出たのは一応脅さなければ何もなかったということから。
今日は午前で女子の全試合と男子の一回戦を行い、午後から男子の準決勝と決勝である。
時間はあるが、早めに学校に行くことにする。
『みなさん、本日は決勝トーナメントです。午前は女子と男子の一回戦です。今から名前呼ばれた生徒は各指定場所まで移動してください。……』
次々と名前が呼ばれていく。
男子は決勝トーナメントに参加が六名のため一回戦を四人だけ行う。二人シードが生まれるが、これは公平なくじ引き決まる。名前を呼ばれなかったため、どうやら俺はあたりを引いたらしい。
試合開始までゆっくりすることにする。
さすがの女子も観戦に行っていて、俺は一人教室で剣の様子を見ていた時。誰かが教室に入ってきた。剣を机の上に置き、顔を上げた。
「あれ、中原さん? 女子はまだ試合中だろ? 応援はいいの?」
「ちょっと、気になったことがあって。隣いいですか?」
俺がうなずくと控えめに隣に座った。
席に座った中原さんは少しそわそわしてるみたいだった。なにか言い出しにくそうなので俺の方から言ってみる。
「えっと、中原さん? 何か用事?」
話しかけた瞬間、体がビクッッとなって顔が赤くなった。
……なにかはずかしいことでも聞かれるのだろうか? それなら少し嫌なんだが、仕方ない。答えるとしよう。
しかし、中原さんの質問は俺の予想の斜め上を行くものだった。
「『巻き戻し』。昔、使ったことあるよね? 病院の集中治療室で」
「……え? ど、どういうこと?」
なぜ俺が過去に巻き戻しを使ったことがあると思ったのか。場所とかは全く覚えてないが、使ったことだけは覚えている。
今の反応で満足だったのか、中原さんはうなずいた。
「日本国内で『巻き戻し』が使える人なんていなかった。でも、昨日倉敷君は使った。ということは私を救ってくれたのは倉敷君だよ」
「ちょっとまて、どういうことだ?」
「私は倉敷君に助けられてるんだよ。小さいころ、交通事故に遭った時に」
ちょっと待て、交通事故? 助けた? ダメだ、思い出せない。昨日『巻き戻し』を使ったから全然記憶が無い……。いや、まてよ。
「……中原さん、その助けてくれた人と何か約束はした? なんでもいいから」
「う、うん。『また、あそぼう』って……それがどうかした?」
まさか、本当なのか。俺は中原さんを助けたのか? 中原さんが、俺の記憶に唯一あるあの少女なのか? 確かめる方法はないのか……いや、一つだけある。もう一つ覚えているあの笑顔……。
「中原さん、子供の頃の笑顔って、できる?」
「え? う、うーん……難しいと思うけど、やってみるよ」
そう言って、一呼吸入れてから彼女は思いっきり笑って見せた。
俺が記憶に残し続けた、あの笑顔で。
もう一度だけ見たいと願い続けてきた、あの時の笑顔で。
一瞬だけだがその時の記憶が鮮明に頭によぎり、目の前にある笑顔と完全に一致した。
「中原……さん。君は……」
「うん。やっぱりそうだよね。私は分かってたよ、倉敷君があの時の男の子だって。助けてくれたんだって」
そう言って中原さんは目に涙を浮かべて俺に抱きついてきた。
え、ちょっと。感極まるのはいけど、反応に困るんだけど。って、ちょっと、泣いてるし! 俺はどうすれば!?
幸いというべきか、クラスには誰もいないし(おそらく狙ったから当たり前)戻ってくる様子もない。
……せめて、泣きやむまでは。
そう思って背中をさすってあげた。
「グスッ、ごめんね、泣いちゃって」
「いや、気にしなくていいよ。それより、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。……初恋の人に会うことができたし」
「え? 今なんて?」
後半が小さい声で聞き取りにくかったが、今何か初恋って聞こえた気が。
「聞こえてないならいの! 気にしないで! ほんとにごめんね」
ま、まあ本人が気にするなって言うなら流すけど。
待てよ……もしかしてこれって告白のチャンス? 昔言えなかったことをいうチャンスなのか!?
……いやいや。待て、ちょっと待て! それはない!
昔助けた女の子に会えただけでもすごいのに、その上告白って。
というか、こんなムードもへったくれもないとこで告白はない!
「えっと、倉敷君? 顔赤いけど大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。初恋なんて聞こえてないから!」
「え? 嘘!? 聞こえてたんだ……」
「あ、やっべ……」
しまった、焦ってつい口が滑った! というか、あってたんだ……。
あーもー、勢いで行くか? それとも誤って流すか? 早くしないと謝るのは気まずくなる。よし、謝ろう、そうしよう!
そう決めて口を開こうとした瞬間、
「倉敷君、私、小さいころからあなたのことが好きでした!」
「ごめん、口が……って、…………え?」
今、なんて?
好きって言った? 中原さんが? 俺を?
中原さんを見てみると、顔が真っ赤だった。
そうだ、勇気を振り絞って言ってくれたんだ。俺だってちゃんと返さないと。でも……。
「ありがとう中原さん、俺なんかを好きになってくれて。……でも、俺は『巻き戻し』の『代償』でほとんどの記憶を失っているんだ。昔の俺じゃない。それでも、いいか?」
そうだ、俺は変わった。変わってしまった、変わるしかなかったのだ。記憶が無いのだから、中原さんが知っている過去の俺じゃない。俺は、『中原さんを助けた能力者の倉敷 優』じゃなくて、『国立修創学院在籍の能力者倉敷 優』なんだ。中原さんが期待している俺じゃない……と思う。
そう思ったのだが。
「ううん、大丈夫だよ。同じだよ。変わってない、昔も、今も」
「え? それってどういう……」
「相手を気遣うしゃべり方も、その笑顔も、何もかも同じだよ。私を助けてくれたあの時と」
その言葉だけで救われた気がした。
俺は同じ人に二回救われている。うっすらと覚えている、小さいころの記憶。俺はこの女の子、中原 唯さんに救われたんだ。
そして、俺はあの女の子に恋をした。
今、変わらずに目の前にいる女の子に。
「俺も、好きです。昔から、今でも、これからも。俺と、付き合ってください」
やらかしたー!
少し日本語おかしいし!
いきなり言って迷惑じゃなかろうか? 付き合うって早くないか? 嫌われたらどうしよう……。
考えてることが変に乙女っぽい! 自分で思っといてなんだけど、これはない!
こんな自問自答を頭の中でして、答えが返ってくる十秒ほどの間ずっと待っていた。正確には動けなかっただけだが。
でも、答えは簡単だった。
「はい!」
二人でうっすらと涙を流しながら抱き合った。
気持ちを確かめるために。
記憶を確かめるために。
「おっす優……って、ええっ!?」
「よっ、政輝、どうした?」
昼休み、中庭で唯(名前で呼ぶことになった)と昼飯を食べていると政輝が驚いた顔でこっちに向かってきた。驚きすぎだろ、おい。
まあ、昨日まであんまり話したことなかった二人が二人で座ってんだ、驚くよな。
「そこまで驚かなくてもいいだろ」
「いやいや、お前中原さんって結構人気高いんだぞ? まあ、優相手なら男子は諦めるか。優狙いの女子は知らないけど」
「どういう意味だ、なんか怖いんだけど」
人に見られて恥ずかしいのか唯は隣で小さくなってる。うん、かわいい。
政輝は立ちながら缶コーヒーを開け、一口飲んでから俺を睨みながら、真剣な低い声で話し出した。
「あんまり調子に乗ってるとこの先痛い目に遭うぞ。彼女といちゃいちゃしながら勝ち上がれるほど決勝トーナメントは甘くない。つっても残り二戦だけど」
「分かってるさ。……決勝で、な」
そう言ってこぶしを突き出す。俺と政輝が当たるとしたら決勝。それまでは負けないし、決勝も負けない。たとえ政輝だとしても。
笑いながらコツンとこぶしを合わせ、政輝はその場を離れた。
『男子決勝トーナメント第二試合、準決勝、開始してください』
「はじめ!」
教師の声と同時に剣を抜きながら前に出る。相手の武器は槍。いかに間合いに入れるかが勝負のカギとなる。相手も自分の間合いを維持しようと構える。が、
(甘いな! 能力発動、『時間加速』、対象は自身……っ!)
能力を使いダッシュの速度を上げる。間合いに入った瞬間、相手の槍が襲ってくるがこちらはまだ『時間加速』が続いている。瞬時に槍の軌道を確認して予測、それを回避するようにダッシュの方向を微妙に変える。そして『時間加速』を解除した。
完全に回避した槍は豪快に空振りし、俺は相手の懐にもぐりこむことに成功する。そこに右から左への切り払いを入れる。
「ぐっ! 一度下がって状況を……」
「させっかよ! 『時間減速』!」
攻撃を受けてすぐバックステップで下がろうとする相手に、今度は『時間減速』を相手にかける。
このため、キック力が足りずに飛べない。取るはずの距離が取れない。
もう一度接近し、両手で思いっきり右から左へ振り下ろす。
相手は顔をしかめながらも痛みに耐え、何とか踏ん張る。しかし、これも隙であり、ここまで勝ち残ってきた誰もが見逃すわけがない。
(『同時発動』、『時間加速』、対象は自身!)
加速をかけ、一呼吸で左右から二回斬りつける。
さすがにこれには耐えれなかったのか、後ろに二歩ほど下がり、左膝を地につけた。
「勝負あり、この試合、倉敷の勝ち!」
勝利を確認すると、隣で戦闘している政輝の試合を見る。ちょうど終わったらしく、政輝の相手が膝をついた瞬間だった。
決勝の対戦カードが決まった。
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